205:シン・スワリ
「やっと会えたな!転生者ァ!!」
挨拶代わりに左腕の三重ブレードをパンターに叩き込むが、すんでの所で大剣により防がれる。
だが、こちらに機体を向けさせることは成功した。
[お、お前!!タゾノか!?]
驚き戸惑うパンターに、有無を言わせず至近距離からオートカノンを乱射する。
だが、これも恐ろしい反応速度と共に、大剣を盾にして躱される。
「……あんな動き、人間に出来るのか?」
<あの機体だけ、彼等の軍隊のネットワークから外れています。
恐らく、独自のAIを搭載していると思われます。>
思わず出た呟きに、マキーナ先生が答えをくれる。
なるほど、これが奴の手品の種か。
[タゾノ、お前も転生者なんだろう!?
お前もアレか?
“鋼鉄戦記ウォー・オブ・アーム”を見ていたクチか!?]
ここに来て転生者の言うことが解らないが、恐らく前世で見ていたアニメから何かだろうか?
やれやれ、やっぱりアニメ世界に転生できたと思っているタイプか。
「いや、そんな番組は知らんね。
ついでに言えば、俺は転生者じゃない。
言ってみりゃ俺は、“異邦人”でね。」
もう一度オートカノンをぶち込もうとしたが、素早く横薙ぎに振られた大剣で砲身と求弾機構を真っ二つにされる。
素早くオートカノンを投げ捨てて爆発から距離を取り、右腕の三重ブレードを展開しつつ、左腕の三重ブレードを収納してバルカン砲を取り出す。
[嘘をつけ!
その機体は物語の主人公、キルッフ・マアツゾークのライバル、ボブ・エンフィールドが乗っていた機体だ!
俺がキルッフの代わりにこの機体に乗ったから、お前はボブを押しやってそれに乗ったんだろう!?
パンターとティーゲルは、この時代ではほぼ最高峰の機体だからな!!]
おうおう、早口でよく喋る。
だがまぁ、なるほどねぇ。
お前のせいでキルッフ死んどるがな。
……いや、俺も人のことは言えねぇか。
しかし、本来はボブがライバルだったのか。
確かに、アイツ良い腕してたからな。
なら、アイツに恥ずかしくないように、この機体を使わなきゃな。
[それよりも、アイツらだ!
アイツらは2クール目のラスボスとして出てくる、白猫小隊じゃねぇか!
何でこの瞬間に出て来る!
番組ではこんなシーンは無かったし、2クール目の時だって、もっと平凡な、ガタのきてる機体に乗っていた筈だぞ!]
「何でもアニメの通りに行くかよ。」
しゃべり続ける転生者の声が煩わしくなった俺は思わず悪態をつくが、それでも語りは終わらない。
何でも奴の話を聞くと、この世界は彼が前世でハマっていたアニメ、“鋼鉄戦記ウォー・オブ・アーム”の世界だそうだ。
その物語では、このロズノワル独立自治区の設立までが、第一期の内容だったらしい。
エメリキ人だったキルッフが、王国で一般のAHM乗りからのし上がり、様々な人々と出会い、兵士として成長していく中で王国の体勢に疑問を持ち、そんな時にスラムで襲われかかっていたサラ・ロズノワルを助けたことから縁を持ち、彼女と過ごす内に、よりこの世界に疑問を持つようになったらしい。
そしてクローンという真実を彼女から聞き、その苦悩を受け止めながら、この惑星N-3の遺跡の存在を教わり、それでも皆で新しい国家を構築しようと戦う物語だったようだ。
そのキルッフやサラ姫の人間的な苦悩に共感が集まり、第二期では新ロズノワル独立自治区VS旧ロズノワル共和国という構図で、物語が展開されるらしい。
白猫の彼等はその時に出て来る敵役で、旧式でボロボロの装備の割に、何度負けてもしつこく挑んでくる、ちょっと愉快な、それでいて少し狂った戦争好きのキャラ達、として描かれていたらしい。
あの時の、酒場での一幕を思い出す。
狂気の片鱗はあった。
だが、俺には彼等が、そこまで堕ちた存在には見えなかった。
今もそうだ。
恐らくはこの転生者の影響で、何かが書き換わってしまったのだろう。
“バタフライ・エフェクト”
ブラジルで羽ばたく蝶が起こす風が、テキサスに行き着く頃にはハリケーンとなる。
日本風に言うなら風が吹けば桶屋が儲かる、という事象だろうか。
或いはレイブラッドベリ風なら、過去に戻った主人公が蝶を殺して、未来世界を崩壊させる物語の現象だろうか。
大きな出来事に至る背景には、そのずっと前に小さな出来事が起きている。
ならばこの転生者の存在は、良くも悪くもこの世界に影響が、書き換えという事象が発生してしまっているのだろう。
<セーダイ、ブーストが終わります。>
あちらも同じように機動力が落ちてきている。
さぁ、ここから我慢比べと行こうか。
「マキーナ、2発目だ。」
リミッターを解除し、2回目のブースター点火を行う。
[なにぃ!?お前、それは自殺行為だぞ!!]
まさか転生者君から心配されるとは思っていなかったな。
1回目のブースト終わりに発生する硬直を、2回目のブーストで打ち消し、加速する。
鈍器で頭を殴られたような激痛を感じ、むせた拍子にヘルメットの内側に血が飛び散る。
ナノマシンがすぐさま綺麗にしてくれるのは有難い。
その内血で見えなくなるかと心配だったんだ。
パンターの硬直終わり際に、左腕のバルカン砲を斉射し、右腕の三重ブレードを打ち落とすように膝に突き立てる。
「お前の機動力、貰ったぁ!!」
[グッ!クソッ!!
ここでは使いたくなかったが仕方が無い!!
エクスカリバー!“G.O.Dシステム”、リンクだ!]
<G.O.Dシステム、スタンバイ>
電子音声と共に奴のパンターが赤い光を放ち、こちらの機動を上回る加速を見せる。
破損した膝も、何かよくわからない結晶化が発生して問題なく動いている。
「クソッ!なんだそれ!?」
[驚いたか!!これがこの世界最高峰のAI、カリバーンの進化、その名も“エクスカリバー”だ!!]
本来は、キルッフが王国領旧ロズノワル区域の遺跡で発見したロストテクノロジー、それをコイツはアニメの知識で知っていたため、主人公より先に遺跡を荒らして入手していたらしい。
「……だってよ、マキーナ。」
<彼がそう言うならそうなのでしょう。
恐らくは“彼の中だけでは”ですが。>
マキーナは意外に負けず嫌いだ。
何とも人間くさいAIだなと思いながら、加速したパンターの攻撃を躱す。
攻撃予測線などいらない。
人を模した機械なら、その可動域は想像できる。
「お前、それを入手できなかったキルッフの末路は知っているのか?」
[あぁ!?そんなモン知るかよ!!
俺の前には1度も姿を現さなかったんだ!
それにキルッフは冒険家だ、きっと他の遺跡を発掘して、平凡に暮らしているだろうさ!!]
キルッフがどうやって遺跡の存在を知ったのかは知らないが、それなりに金がかかっているはずだ。
そう思い、何となくピースがハマる。
エメリキ人のキルッフが、周囲を見返すために金策し、足りない分は借りてでも集めて挑んだ遺跡。
結果少しは金になったが知れないが、本命のAIは手に入らなかった。
失意のまま逃げるように王国を去り、逃げ延びた帝国ではその差別からまともな職にもありつけず、そしてあそこで倒れ、酸性の雨にうたれていた訳か。
「俺はさ、お前をこの世界に送り込んだ奴の“悪意”を取り除いてる。
今この瞬間も、お前があの存在に少しだけ騙されていることを伝えてさ、そんでそれを修正したらこの世界から立ち去ろうとしていたんだ。」
[はぁ!?何を言ってやがる!!
お前は、あの神と敵対するのか!?
なら、お前はやっぱり悪なんだな!!]
人の話を聞かない奴だ。
2度目のブースト機動が終わりかけている。
俺は、3度目のブースト機動を行うべく、スイッチに指をかける。
<セーダイ、これ以上はダメです。
私でも抑えきれなくなります。>
俺は点火スイッチを押した。




