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異世界殺し  作者: Tetsuさん
鋼鉄の光
205/832

204:戦乙女計画

[戦う事すら出来ず、無念の内に散ったガヘイン将軍に哀悼を。]


宙に浮かぶその機体が右腕を上げると、何処からともなく砲声が聞こえ、5機のAHMが彼の機体の左脇に整列して姿を現す。


[戦場にて、名誉の戦死を遂げたグートルーネ将軍に敬意を。]


上げた右腕を水平に動かせば、またも砲声と共に、今度は右脇に6機のAHMが姿を現す。


各機体の外観、サイズ、色はそれぞれ違い、部隊としての統一感は無い。


だが、右肩にある白い猫のエンブレムと、左肩にあるナンバリングのタトゥーの存在が、彼等を同一の部隊たらしめていた。


[現れましたね白猫、いえ、ロズノワルの龍。

私こそが正当な後継者であるサラ・ロズノワル。

私に従いなさい。]


一般回線でサラ姫が彼等に命令するも、彼等の反応は冷淡だ。

ただ黙るだけではなく、幾人もの冷笑が無線機から聞こえる。

その内に、暗緑色がベースカラーで、所々に暗い赤が塗装されているAHMが少しだけ前に進み出る。


[笑わせるなよ人形。

あまり俺達を舐めない方が良い。]


無線機から聞き覚えのある声が聞こえる。

これはクロガネ氏か。

だが、会った時のひょうきんな様子はなく、その声は唯々冷たく、鋭い。

彼がそのまま続ける。


[“戦乙女計画ブリュンヒルデ・プロジェクト”。

シロニアから資金と技術供与を受けたフリード教の、ロズノワルに眠る遺跡を荒らすため、遺跡の生体認証(セキュリティ)を突破するための人体複製(クローン)計画。

開発総責任者はミーメ・ファーフだったか。]


[なっ、何故それを……!?]


クロガネ氏の問いに、要塞側から甲高いオッサンの声が、動揺を隠しもせずにそう叫ぶ声が、無線機から聞こえる。

聞き覚えのある声だ。

多分ミーメ・ファーフ教皇だろう。


言葉通りの意味で捉えるならば、つまりはこう言うことなのだろう。

あのサラ・ロズノワルは、恐らくロズノワル家ゆかりの者の細胞から作り出された、遺跡を起動するために人工的に造られた複製体(クローン)なのだ。

それならば、死を祓う霧の都(ニーベルハイム)を苦も無く起動できたことも理解できる。


[憐れな人形よ。

我等が従うは、ロズノワルの系譜のみに有らず。]


水平に右腕をかざしていた古龍エンシェント・ドラゴンは、肘から先を上に向ける。


それを合図に、白猫の機体が武器を構える。


[各員、これよりここは白猫の集会場である。

目標、“天剣”惑星破砕砲(バルムンク)

……天剣を叩き折れ。]


[[[[応っ!!]]]]


最後に右腕が突き出されると、それを合図に11本の光が解き放たれる。

11本の光は大地に着陸すると、真っ直ぐに惑星破砕砲(バルムンク)に向かう。


見れば両脚を変型させ、戦車のようなキャタピラタイプに変える機体もある。

あれはきっとゴリさんの機体だろうな。


[グギギギ……、こうなれば!

来い!ブリュンヒルデ!!]


[痛っ!止め……。]


無線機からはミーメ教皇の叫びとサラ姫の悲鳴が聞こえ、それきり沈黙する。


[チャンスよ!全軍、突撃なさい!]


タリエシン少将の号令と共に、俺達も突撃を開始する。

遺跡側の戦力も、俺達だけで無く白猫側にも裂かなければならなくなってしまい、戦線に若干の薄さが見える。


無人機を撃破しながら白猫達の方をチラと見れば、彼等は有人機も無人機も構わず、次々と立ち塞がる敵を撃破していっていた。


見たことも無いレーザー砲が遺跡側の機体を貫き、眩い輝きを放つ実体の無い剣が易々とAHMを斬り裂いていた。

これを見れば確かに、昔の基準で言う“戦闘用AHM”と“作業用AHM”には、天と地ほどの差があるのが俺でも解る。

俺達があんなに苦戦していた遺跡側のAHMが、まるで相手にならない。

彼等から見れば、それは案山子かかしを斬り裂いているのと何も変わらないだろう。


きっとボブがいたら、大興奮だったはずだ。


だが俺にはアレが何なのかは知らないし、目を引かれる事も無い。

ただこれだけは感じる。


きっとあの転生者は、この状況を面白く感じてはいない。

“自分が最強だ”という思いがある中で、この圧倒的な力を見せつけられれば、きっとそれを奪いたくなるはずだ。


俺が狙うはその1点のみ。


[邪魔だ!どけ!]


見ぃつけた。


案の定、帝国の機体を蹴散らして白猫達の元へ向かおうとする白い機体がいる。

シン・スワリの搭乗するカスタム機、静謐なる豹トランクィル・パンター


昨日の戦いの後、マキーナのデータを見て把握していた。

あのAHMは、当時帝国の荘厳なる虎(グラン・ティーゲル)の特攻戦術に頭を悩ませていた王国が、フォッケティーガー社のライバル企業であるゼネラルエレクトロニクス社に、“同重量クラスでの対抗機の製造”を依頼した事から生まれた機体らしい。


ゼネラルエレクトロニクス社は、戦場での鹵獲、産業スパイ等、ありとあらゆる手段を駆使して荘厳なる虎(グラン・ティーゲル)の機体データを入手・検討した。


結果として見えた、“接近戦に至るまでの射撃戦での対抗手段”と“接近戦における両腕の三重ブレードへの対抗手段”、そして“高機動戦闘に対抗する機動”という対策を盛り込んだ機体、それが静謐なる豹トランクィル・パンターなのだ。


射撃戦の脅威である、9連装短距離ミサイル4門を防ぐ為に、腹部に拡散式のアンチミサイルレーザー砲を積載。

三重ブレードの強度面での脆弱性を見抜き、対策として両腕に伸縮式で肉厚のブレードを積載。

そして高機動戦闘にはこちらも高機動戦闘で対抗するため、背部に技術力の面からジャンプには向かないが、高機動戦闘には問題の無いジェットブースターを搭載していた。


だが、結果としてそれらが高コスト化と重量の増加に繋がり、目標であった60tクラスではなく、70tクラスになってしまうという、本末転倒な機体になっていた。


とは言え、その性能は目を見張る物が有り、王国においてはめざましい活躍を成し遂げた者へ送る、使用者に合わせたカスタマイズを施す高性能機、という立ち位置のAHMとの事だ。


俺のAHMへの完全メタみたいな機体だが、それでも相手があの白馬鹿なら戦い様はあるはずだ。


「マキーナ、ジャンプジェットは何回連続で起動できる?」


<システム上は3連続までの使用が可能です。

しかし、人体へかかる負荷を考慮すると、連続した使用はお勧めできません。>


まぁそうだろう。

1回使っただけでも、相当な負担を感じる。

アレはマキーナのサポートの影響かとも思っていたが、そうでは無い。

むしろ、マキーナのサポートがあるからこそ、あの程度で済んでいるのだ。


「オススメできないだけなら、使用にゃ問題ねぇな。」


<セーダイ、危険なことには変わりありません。>


電子音声のマキーナから、咎めるような口調を感じる。

感情を感じるなんて、中々長い付き合いになってきたもんだ。

その事を愉快に感じながらも、意志は変わらない。


「危険は覚悟しなきゃだろう?

なら、愉しまなくちゃな。

……パーティやろうぜ、マキーナ。」


<……承知しました。

この場合私は、1955年と’88年のドジャースの話をした方が良いですか?>


一瞬何の事だか解らなかったが、すぐに気付く。

マキーナも中々ジョークのセンスが上がったモンだ。


「おいおい、俺のシャツにはベースボールの文字は入ってないぜ?」


<ええ、言ってみただけです。>


俺は薄く笑うと、ブースターを点火する。

あの転生者をぶん殴るために。

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