201:決闘
[これ以上は装甲のない輸送艇では近付けません。ウィザード中隊、この位置から出撃して下さい。]
[聞いての通りだ、各機出撃!]
補給しながらの移動で1時間ほど進むと、俺達は輸送艇から各自で出撃する。
あの後アルベリヒ中尉から作戦の概要を聞いたが、事前にマキーナに見せて貰った戦況から俺が予想した作戦の内容と、大差はなかった。
側面から強襲、そしてグートルーネ将軍達を救助するのが今回のミッションだ。
[チェッ、輸送艇の奴等、もう少し近寄ってくれても良いでしょうに。]
「ぼやくなよウィザード332、たどり着いた途端にレーザー喰らって全員お陀仏、なんて事にはなりたくねぇだろう?」
輸送艇のパイロットが言ったとおりだが、強襲艇と違い輸送艇には装甲らしい装甲は無い。
主戦場に強引に突入する強襲艇では無いのだから当然と言えば当然だろう。
もし輸送艇で主戦場に乗り込もうものなら、途端に蜂の巣にされて、中の俺達も含めて全員爆発して終わりだ。
むしろ強襲艇と違って、装備換装が対応出来る輸送艇が来てくれたことの方が、今この瞬間は有難い。
アルベリヒ中尉のカーズウァは、左腕を大型バルカン砲からボブ機のオートカノンに腕ごと換装していた。
砲身は折れ曲がっていたが、この輸送艇に予備があったのは幸いだった。
その他防御重視でシールド等を持たせていた機体も、通常装備に変更する。
ローラーダッシュが壊れていた334号機も、ボブ機から部品を抜き取り、応急修理を済ませていた。
敵の包囲網を破り、撤退を支援するこの作戦において、一番重視されるのは機動力に他ならない。
流石に重装型やローラーダッシュが使えないのは論外だったから、来たのが輸送艇で良かった。
[各機、目の前の丘を越えれば敵軍の背面に出る。
1機でも多く撃破し、グートルーネ将軍を救い出すぞ!]
アルベリヒ中尉の通信に、全機が“了解”を返し、そして丘を越える。
俺も丘を越える勢いを利用し、ジャンプジェットに点火する。
「見えた!正面に1個中隊!」
敵中隊はグートルーネ将軍を包囲し攻撃することに気を取られすぎていたのか、俺達に対して完全に背を向けていた。
それであれば、戦闘は一瞬だ。
ウィザード中隊全機からの砲撃を受けて、敵機体は次々と爆炎を上げる。
俺も上空から、討ち漏らした敵機体を狙い撃った結果、あっという間に敵中隊を殲滅し、味方主力部隊のいる戦場に突入する事が出来た。
[各機突撃!閣下をお救いするぞ!!]
[[[「了解っ!!」]]]
側面から現れた俺達に、優位だと認識していた敵部隊は混乱してくれたようだ。
横腹を見せている敵機体が、次々と撃ち抜かれていく。
[ヌハハハハッ!!
どうしたどうした雑兵共!!
我輩はここであるぞ!!]
威勢の良い声とは裏腹に、目視できたグートルーネ将軍のハルピュイナドラーは既に満身創痍だ。
美しい双翼の様だった両肩の荷電粒子砲は、片方が根本から吹き飛んでおり、もう片方も砲身がおかしな方向に曲がってしまっている。
それでも、敵から奪ったと思われるミドルソードと、ハルピュイナドラーに元から装備されている大型片手斧をそれぞれの手に構え、二刀流で敵機体を薙ぎ払っている。
傷付きながらも二刀を振るうその姿は、まさに猛者であり、狂戦士のようであった。
[こちらウィザード中隊!
グートルーネ将軍、今の内に脱出を!!]
[おぉ、よくぞ参った勇士よ!
だが、我輩よりも我が部下の救助を先に頼む!]
見れば親衛隊の機体は全てボロボロになっており、数機が脚部をやられているのか、担がれながら歩行移動で退却している。
[31、33小隊、ラインを張れ!
34小隊は親衛隊機の撤退支援だ!
300m後ろに回収艇が待機してる!
そこまで連れて行くぞ!!]
アルベリヒ中尉が素早く指示を出す。
この日の戦いで、小隊のヒヨッコ共も急成長しているようだ。
全員が“了解”の回答を行うと即座に展開、自分達に今出来ることを始める。
[ヌハハハハ!!見事、見事!!]
グートルーネ将軍が上機嫌にまた1機、ヴェルグンデを叩き潰す。
[そこまでだ!でやぁぁぁ!!]
白いAHMが大剣を振りかぶり、ハルピュイナドラーに突撃してくる。
ハルピュイナドラーは両手の武器を十字に構え、その切り落としをガッシリと受け止める。
[フム、戦争犯罪人にしては、中々に良い太刀筋をしておる。]
[黙れ!悪の帝国が!
サラの元には行かせない!
ここを通りたければ、俺との決闘に勝ってからにして貰おうか!]
グートルーネ将軍の助太刀に入ろうとするが、白馬鹿の仲間に阻まれて迂闊には近付けない。
焦る気持ちとは別に、白馬鹿の乗るAHMが気になっていた。
「マキーナ、あの機体は何だ?
何となく俺の機体と似てないか?」
若干ダメージを負ってはいるが、両肩には9連装短距離ミサイルが2門ずつ装備されており、両腕の下腕部に、先が尖っていて平たい、言うなればミドルソードの刃部分が見える。
俺の機体にある三重ブレードと同じように、展開して使うものでは無いのか?
大剣を振り回している機体の背面には、ジャンプジェットも見える。
<機体照合、データ有り。
アレはGE社の70tクラスAHM、“静謐なる豹”と推測されます。>
ボブなら、もう少し何かを知っていたかも知れない。
だが俺には、あの機体がどう言う出自なのか知識は無い。
ただ、アレは俺の機体と類似した機体だと言うことは肌で感じていた。
なればこそ、相当にヤバい。
“対格上”を想定するあの機体に、満身創痍のハルピュイナドラーは圧倒的に分が悪い。
[我等を悪と断罪するか、小僧!
面白い!その決闘、受けて立とうぞ!]
グートルーネ将軍はそれを知ってか知らずか、決闘を受けてしまう。
こうなっては仕方が無い。
俺達に出来ることは、流れ弾が行かないように戦場をずらすことだけだ。
「ウィザード332、援護しろ!
ぶっ飛べ!荘厳なる虎!」
ジャンプジェットを水平方向に点火し、最高速で白馬鹿の仲間に迫る。
<ダイレクトフルサポート、開始。>
敵の火器予測線が、次々に視界に浮かぶ。
吐きそうになる程の頭痛に耐えながら、両腕のオートカノンとバルカン砲を乱射する。
[嘘!?コイツ、シンと同じ技を!?]
[避けてアルスル!演習と同じよ!]
仲間にこれと同じ事が出来る奴がいるなら、対策も取れるか。
追い詰めてはいるが、敵部隊の動きが想像より遅く、戦場を引き剥がせずにいる。
普通はこの高機動で掻き回されれば嫌がって戦場を移すモンだが、コイツらに常識は通じないのか?
[ええい!ちょこまか動いて!]
[落ち着いて!もうすぐ高機動も終わるわ!]
やはりやり過ごして、ブーストの終わり際を狙う気だろう。
だが、こちらとてそれくらい予測済みだ。
[ウィザード331、S-5地点にスモーク弾を撃ちます!]
「やってくれ!」
スモーク弾が撃ち込まれた辺りに移動し、ブーストの終わり際を隠す。
停止した瞬間にサイドステップをかけて、停止の硬直を無理矢理ずらす。
急にかかる横Gに呼吸が詰まり、咽せながら血を吐く。
一瞬ヘルメットの内側が赤く染まるが、すぐに吸収・洗浄が始まり、パイロットスーツの外側へと排出される。
[えっ!?手応えが無いよ!!]
[やるわね……、煙幕で見えなくして、機動を変えたか……。]
[でもそれなら、予定通りよ!!]
相変わらずの筒抜けの会話だが、体にかかっている負担よりも、その発言に言いようのない不安を覚える。
通常のローラーダッシュで煙幕を抜けたとき、その不安が的中したことを俺は知るのだった。




