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異世界殺し  作者: Tetsuさん
鋼鉄の光
198/831

197:踊る虎

[おや、これはこれはモノさん、奇遇ですな。]


個人通信でボブが通信してくる。

同じく個人通信回線で固定すると、話に乗ってやる。


「やぁやぁこれはこれはボブさん、奇遇ですな。

何処へ行くんだい?」


[なぁに、ちとピクニックでね。

どうだい兄弟?一緒に行かねぇか?]


“ソイツは良いな”と言いながら、グラン・ティーゲルの両手に持たせていたカノンやバルカンを、両腰に懸架する。


[何だモノ、お前奥の手は切らないんじゃ無かったのかよ?]


「馬鹿オメェ、今もうそんな事言っていられねぇ状況だベ。」


“ヤダヤダ、これだから余裕のない貧乏人は”とボブは笑うが、“お前それ、この間の飲み代俺に返してから言えよ”、と俺も笑って返す。


ウィザード331(タゾノ隊長)、最後の撹乱ミサイルです!]


334号機からの通信が入り、また戦場の中央に着弾する。

だが、中隊が塹壕作りと補給をしているのが解っているのか、敵部隊は一気に距離を詰めに来ていた。


[良い仲間だよな。]


何気ない空気を装いながら、ボブが呟く。


「あぁ、死なせたくねぇな。」


ブースター角度を水平に。

ブースターの噴射口が熱を持ち、機体が前に出ようとするのを押さえ込む。

両腕に付いている三重ブレードを展開する。


準備を終え、意を決して点火スイッチに指をかける。

そこで、ふと思い付いてボブに声をかける。


「倒し損ねた奴、頼まぁな。」


[オーケイ、解ってるって。

派手に踊ってきな。]


どうやら蛇足だったようだ。

その言葉に少し笑うと、点火スイッチを押す。

瞬間、グラン・ティーゲルの背部ブースターが極大光を放つ。


「ぶっ飛べ、荘厳なる虎(グラン・ティーゲル)。」


全身にかかる重力で、体内の血液が一瞬後ろに持って行かれる。

視界がホワイトアウトしかけるが、すぐにパイロットスーツが体を圧迫し、血流を元に戻す。


<ダイレクトフルサポート、実施します。>


マキーナのサポートで、右眼はすぐにカメラアイの映像を映す。

ご丁寧に、射撃予測線も表示してくれるが、中々頭がパンクしそうな情報量だ。


「何たらから、光が逆流するってなぁ!!」


吐きそうになる情報の洪水を意志の力で押さえ込み、機体を走らせる。


この瞬間、機体と俺が一体化する。


両手を広げ、手甲から伸びる三重ブレードで通り過ぎざまに敵機の首を刈り取る。


1つ、2つ。


即座にローラーダッシュで強引にターンし、ビームの線を躱す。

撃ってきた奴の首をまた刈り取る。

ローラーダッシュでまた強引に旋回し、次の獲物へ。

右肩に大型のレーザー砲を積んだ機体が見える。

あれが噂のヴェルグンデか。

レーザー砲に光が宿るが、それが撃ち出されるよりも早く胴体にブレードを突き刺す。


[……死にたくな……]


接触した際に中のパイロットの声が一瞬聞こえたが、爆発で最後まで聞き取ることは出来なかった。


まだグラン・ティーゲルは止まらない。


突き刺した勢いを殺さぬよう、刺したブレードを軸に回転しながら走り抜け、また次の機体に。

左腕のオートカノンを構えようとしているフロスヒルデの首を刈り取り、その奥のヴェルグンデへ。

だが、既にそのヴェルグンデは肩の大型レーザーに光が宿っている。


「味方ごと撃つ気か!」


とは言え確かに所詮はAI機、まぁ俺でも同じ事はするかと思いながら、間に合わなくてもヴェルグンデに向かう。


刺し違いになるかと覚悟しながら三重ブレードを突き出すと、大型レーザー砲が撃ち出される前にボブの射撃が命中し、肩のつけ根で小さな爆発が起きてくれた。


[うわ!うわ!来ないでく……]


脇腹から肩に向かうように、斜め下から胴体にブレードを突き刺して、肩のレーザー砲が破壊されたヴェルグンデを沈黙させる。


ここで、ジャンプジェットによる突撃が終わり、機体が勢いを無くす。


まだ数機のフロスヒルデが残っているが、それらの射撃から身を守るように、突き刺したままのヴェルグンデを盾に。

左手のブレードを収納すると、腰に保持していたバルカン砲を抜き取り、ヴェルグンデを盾にしたまま銃身だけを向けて、フロスヒルデにばら撒く。


[おっと、こっちも忘れちゃ困るぜ?]


俺に向かって火線を集中しようとした次の瞬間、ボブのファルケから集中砲火をくらい、残ったフロスヒルデも次々と沈黙していった。


<ダイレクトフルサポート、終了します。>


頭痛のような情報の波がおさまり、視界が元に戻っていく。

口元に鉄の味を感じて、ヘルメットのフェイス部分を開けると、鼻血が流れていたようだ。

適当な布とグローブで擦って血を拭うと、またフェイス部分を閉める。

結構な負担はかかったが、何とか急場は凌いだ。


[中々凄ぇな、その技。

俺の機体にもそんなの欲しいぜ。]


「止めとけよ、お前じゃ頭が破裂しちまうぜ?」


俺とボブは雑談しながらも周囲を警戒する。

流石に連中もストックが無くなりつつあるのか、本当に増援が来ていないようだった。



[ご苦労だった331、341。

こちら補給が完了した。

今度はお前等の番だ。]


[ハイハイ、それじゃあ有難~く、残飯でも頂きましょうかね。]


「バカおめぇ、こんなご時世、食えるだけマシってモンだぜ?」


アルベリヒ中尉の通信をキッカケに、補給を終えた中隊メンバーが周囲に展開する。

俺達も馬鹿な話をしながら、急いで簡易陣地に機体を滑りこませると、各種補給を受ける為に整備兵に連絡する。


「損傷箇所のデータ送る!応急手当出来るなら頼む!」


[こっちもだ!ファルケの弾が殆ど空っぽだから、頼むぜ!]


整備兵達もレースのピットイン作業のような速さで機体に手を入れていく。

マガジンに弾薬を流し込み、傷付いた装甲板に応急手当を施していく。


「331さん、ご飯だよ!」


コクピットハッチが開き、食糧の入った紙包みが渡される。


「おぉ、女神直々とは有難いね。」


渡してくれたのはあの男気溢れる通信をしていた回収艇(ピックアッパー)の女性パイロットだ。



「女神だなんてよせやい、アタシはローラ、ローラ・レイ曹長よ。

ヨロシクね、撃墜王さん。」


「そいつはどーも、……って、今は俺が撃墜王になったのか?」


“何だよ?見てないのかい?”と言われて、ランキングデータを参照する。


AHM戦においてパイロットのやる気を起こさせるシステムなのだろうか、“撃破ランキング”と言うものがリアルタイムに更新されている。

その名も“帝国戦闘データバンク”。

ちょっと間違うと危ない名前になりそうなのであまり触れなかったが、N-3ランキングを見ると確かに、俺が撃墜王としてトップに表示されていた。


「嬉しくないランキングだな。

ありがとうローラ曹長、このゴミよろしくね。」


紙包みに入っていたホットドッグを水と一緒に流し込むと、ゴミとなった紙包みを渡す。


「あいよ!

まぁ頑張んなよ、生きて帰れば“ご当地エース”の称号くらいは貰えるかもね。」


「何ともまぁ、いらねぇ称号だな。」


コクピットハッチが閉じられながら、お互い笑う。

機体の状態を確認、弾の補充も終わっている。


[高速で接近するAHM小隊有り!

これは帝国の……うわっ!?]


さて小隊メンバーに合流するかと機体を動かした矢先、ボブの所の344号機が爆発する。

下半身が数歩歩くと、上半身を失ったことに気付いたように立ち止まり、そして転倒していた。


あの喰らい方だと、多分即死だろう。


初の被害者に、中隊の空気が凍る。

嫌な感覚を覚えた俺は、進軍してくる敵小隊に向かうのだった。

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