196:魔術師中隊の戦い
[ウィザード331、ほ、本当にこんな装備で大丈夫なんですか?]
昨日の戦いでローラーダッシュをやられた334号機が泣き言を漏らす。
まぁ、整備兵に無理を言ってかなりの重装備に仕上げたから、不安は不安だろう。
「安心しろ。
恐らく、お前がこの戦場で一番安全な場所にいる。
それよりも、ちゃんと言ったとおりに順番に撃てよ?」
[りょ、了解です。]
そんなやり取りをしていると、強襲艇のパイロットから通信が入る。
[目標地点到達!幸運を!]
「全機展開!レッツロール!!」
次々と強襲艇からローラーダッシュで展開すると、最後に333号機が強襲艇から飛び出し、ローラーダッシュの代わりにガチャガチャと走り出す。
[ウィザード331、これ結構きついんですが!!]
「ハッハッハ、訓練時代を思い出すだろう?
よし、まずは1発だ。
ウィザード334、やれ。」
観念した334は、“了解”の声と共に背中の垂直ミサイルを1発発射する。
敵部隊も同じように強襲艇から散開し、砲撃陣形を取っている。
その垂直ミサイルはスルスルと予定通りの軌道を描き、俺達の部隊と敵部隊の丁度中間地点に落ちる。
地面に着弾したそれは、小さな爆発と薄いもやのような煙が広がっていく。
「ウィザード311!今です!!」
[了解した。
各機、俺の射線上には出るんじゃ無いぞ!!]
左腕がそのままバルカン砲、いや最早巨大ガトリングガンになっているカーズウァが右腕でそれを支えると、“ヴヴヴ……”という鈍い轟音と共に80mm砲弾を手当たり次第に撒き散らす。
[いやはや、シャレにならねぇ威力だわな、これ。]
ボブが呟くのも解る。
砲弾のソレと同じサイズの弾丸が雨あられと敵機へと降り注ぎ、敵部隊の第1波を完膚なきまでに引き裂いていた。
思わず感心していると、その後ろから無数の光線がこちらに飛ぶ。
ただ、その光線は先程の垂直ミサイルが着弾した辺りで霧散する。
「よし、想定通りの効果は出てるな。
ウィザード334、そろそろ効力が落ちる。
次弾発射だ。」
[了解。]
334号機から放たれた垂直ミサイルはまた同じ軌道を通り、フィールドに着弾すると靄のような煙を周囲に拡散する。
[そろそろ実弾兵器も射程距離に入る。
312、313、頼んだぞ。]
アルベリヒ中尉が小隊員を前に出す。
ウィザード312と313号機には大型シールドを装備させている。
想定通り敵部隊からのオートカノンが飛んでくるが、2機ともしっかりと盾でアルベリヒ中尉機への弾を防いでいる。
その後ろで弾薬補給機を兼ねた314号機がリロードを終えれば、またアルベリヒ中尉のカーズウァが弾を撒き散らす。
これが昨日武器リストを見ていて、思い付いた作戦だ。
カーズウァに大型バルカン砲を積むのは良いが、機動力が完全に殺されてしまっていた。
ましてやバルカン砲のため、弾薬の消費が激しすぎる。
ただ、その火力は魅力的だ。
このバルカン砲、5秒浴びれば大抵の機体はズタズタになる程の、暴力的な火力だ。
俺の小隊員もローラー部をやられているから、昨日のような機動力を生かした戦い方は出来ない。
機動力を捨てて火力と装甲に全振りしたいが、ビーム兵器の前では、多少の増装なぞ無駄でしかない。
以前見たような、あのエーテルシールドのような物があればビーム兵器は防げる。
個人的な理想を言うなら、エーテルシールドを展開しその後ろから大型バルカン砲を撃ち込めれば、俺のやりたい戦い方が完成する。
“エーテルシールドに変わる物は何か無いか?”
そんな事を考えながら、さてどうした物かと武器リストを眺めていたその時、グートルーネ将軍が持ってきた兵器リストに“ソレ”を見つける。
まるでこう言う事を想定していたのか、“レーザー撹乱ミサイル”が大量に持ち込まれていた。
レーザー撹乱ミサイルは補助兵器であり、着弾した地点から半径3~400mに拡散し、レーザーを霧散させてしまう効果を発揮する。
この煙は割と効果が強く、大口径のレーザー砲ですら完全に無効化出来る。
しかも無風状態なら4~5分はその場で効果を発揮するため、対レーザー兵器としてはこれ以上無い、最高のカウンター兵器と言える。
親衛隊機に補助的に積載させていたが、それでもまだ残数に余裕があった。
そこで、足が遅いが火力は上がったアルベリヒ中尉のカーズウァを軸にしたこの作戦を、提案していたのだ。
アルベリヒ中尉の小隊員は補充と実弾からの防衛にさき、俺の小隊の334号機はビーム撹乱ミサイルのみを積載する。
ビーム撹乱の範囲を回り込んで回避しようとする敵機は、ボブの小隊と俺の残りの小隊員達で阻止するという、基本はアルベリヒ中尉機の火力に頼る作戦だ。
だが、効果はあった。
相手のビーム兵器を無効化出来たお陰で、こちらはかなり優位に戦えている。
このまま右翼側の俺達が前に進軍出来れば、正面のグートルーネ将軍部隊とやり合っている敵部隊を側面から叩ける。
[弾寄越せ!!]
[ウィザード311、これでカンバンです!!]
進撃自体は上手く行っている。
だが、予想より敵の数が多い。
[クソッ!補給はまだか!?]
[ウィザード331!こちらももうそろそろ弾が尽きそうです!]
ボブ達の小隊も弾薬が無くなりつつあり、要の334号機のビーム撹乱ミサイルも無くなりつつある。
俺としてもかなり焦っていた。
予定ではもっと早く補給が届く筈だった。
だが、急激に情報量が拡大化しており、俺達の要請が届いていないか、後回しになっているようだった。
こういう時は大抵、ヤバい事が起きた時だ。
とは言え、こちらもジワジワと状況が悪くなる。
もう既に、1個大隊近くの敵を相手にしているはずだ。
死を祓う霧の都ではずっと機体を生産し続けていたらしいが、それでも正面の主力部隊を相手にして、更に右翼側の俺達にここまでの数をぶつけられるとは、想定を超えていた。
そして、今現在の悪化した状況の原因とも言える情報が飛び込んでくる。
[左翼側の我が軍が壊滅したと連絡あり!
グートルーネ隊の側面に敵部隊が現れたと!]
クソッ!俺達がやろうとしたことを相手にやられるとは!
左翼側の我が軍は、確か俺達の後にフクロウの巣に駐留していた、元々帝国領首都に配備されていた部隊だったはずだ。
アイツらレーザー兵器の脅威を軽く見積もっていたから、多分そのツケを払わされたってところか。
どおりで補給艇が来ないはずだ。
殆どの船は、左翼側の救援に回ってしまっていたわけだ。
だがそんな事に納得している場合じゃ無い。
このままだと、俺達もレーザー兵器への対抗策が無くなる。
物量の前に弾も尽きようかというその時、1台の回収艇が猛スピードでこちらに近付いてくる。
[ウィザード中隊!皆生きてる!?
約束通り、弾持ってきたわよ!!]
中隊から歓声が上がる。
地獄に仏とはまさしくこの事か。
昨日の回収艇のパイロットが、約束通り戦場のど真ん中を突っ切って補給を持ってきてくれていた。
「33小隊!女神のご到着だ!
周辺の残骸でも何でも良い!
積み上げて土嚢代わりにしろ!野戦陣地作れ!!」
[34小隊もだ!
ここは俺と331だけで良い!急げよ!]
ボブと2人、並び立つと敵残存部隊を睨む。
そういや初めての実戦以来の二人旅だ。
不思議と悲観的な感情は無く、俺は安心感と自信に満ちていた。




