195:状況整理
「急げっ!まず先にフレームの確認だ!
無事なら装甲の付け替えと弾薬の補充!
フレームやられてたらとりあえず応急修理して、後回しだ!
時間が無いぞ!」
機体をハンガーに固定してコクピットから出ると、整備兵達の戦いが始まる。
俺も装甲板には幾つかダメージを負っていたがそこまででは無い。
俺達の中隊だと、1番被害が大きいのが俺の小隊のローラーダッシュ部が破損した機体だろう。
その次が、左腕を肩から失ったアルベリヒ中尉の機体くらいか。
「おぅモノ、何か俺達パイロットは全員、すぐにブリーフィングルームに集合だってよ。」
ボブが水の入ったボトルを俺に投げて寄越す。
“別に怒られるようなことはしてないはずだよなぁ”と雑談混じりに全員で向かうと、どうやら俺達の中隊が一番最後だったようで、既に全員がそこに揃っている。
ただ何となく、座っている面子を見回せば、1割近くの人間がそこにいない事に気付いてしまう。
……少しだけ、疲れが心に回る。
「全員揃ったわね。
それでは、今回の戦闘で得られた情報を共有しておくわ。」
タリエシン少将が手元の端末を操作すると、敵機体の画像がスクリーンに表示される。
少将はレーザーポインターを片手に、ソレの解説をしてくれるようだ。
俺達が戦っていた機体、恐らくはあの酒場で聞いたところの“遺跡の作業用AHM”に該当する機体だが、総じて60tクラスだったらしい。
当時の型番でRMW-65、機体名称は“フロスヒルデ”というらしい。
今回は出てこなかったが、データベース上にはこれの上位機種に当たる70tクラスのAHM、RMW-75“ヴェルグンデ”という機体がいる。
また更に重量不明だが、最終防衛用としてRXA-80“ヴォークリンデ”という機体もいるらしい。
あの時クロガネ氏は“50~60tクラスしかいない”と言っていたが、どうもヴェルグンデは大戦末期、戦力が不足しだした残存部隊が後付けで生産ラインを作った、言ってみれば急造品のようだ。
それでも、現在の俺達から見れば十分な脅威だ。
ここまで聞いて、何となく思う。
今日の戦い、恐らく全てAI機だった。
向こうには寝返ったAHMパイロットも複数いる。
ましてや主戦場の方にも白馬鹿は現れなかったと聞く。
なら、奴等が何をしているか。
多分答えが今の情報なのだろう。
奴等は今、揃って機種転換訓練の真っ最中というわけだ。
やれやれ、アイツらはやはり戦いのルールを知らない軍隊モドキだ。
昔のTRPGでも言われていただろうに。
“悪いメックの後に良いメックを出すのはマナー違反”だ。
ともあれ、そんな事を言ってもいられない。
今俺達に出来るのは、相手の情報を頭に叩き込むのと、整備兵達を信じるだけだ。
「ここまでが機体の概要よ。
それと、今回敵機体を鹵獲したウィザード中隊のお陰で、敵AI機に関しても幾つか解ったことがあるわ。
あの機体、言ってみれば“端末”で、恐らくはあの空中要塞からの指示を頭部のセンサーで受け取っていると見られるわ。
その為、突然乗り手が変わった様に皆が感じたのも、更新された戦闘プログラムを受け取ったから、と、思われるわ。」
逆に言えば、頭を潰せば簡単に無力化出来る、とタリエシン少将は続けたが、パイロット達には微妙な空気が広がる。
激しく動き回る戦場において、頭部を狙うのは結構厳しい。
ましてや大抵のパイロットはオートの照準を使っている。
オートで頭を狙おうとすると狙撃モードに入ってしまい、機体が動きを止めてしまうし、視界が極端に狭くなる。
ドンパチやってるど真ん中で、そんな豪胆な事を実行出来る奴はほぼいないだろう。
「諸君、無理して狙わなくても大丈夫である!
俺もイチイチそんなところは狙えん!
いつも通り戦い、相手の動きが鈍くなったところで頭を潰せば良い!」
壇上ではなく、俺達と同じようにパイプ椅子に座り、スクリーンを一番前で見ていたグートルーネ将軍が、よく通る声で怒鳴る。
その言葉で、周囲が何となくホッとした空気になるのが解る。
前線に出ているからこそ解る事だろう。
良い将軍だなと、改めて思う。
その後も敵の武装に関して話があり、ブリーフィングはそこまでとなった。
特筆すべき話としては、フロスヒルデは腰部に2門のレーザー兵器があるが、機体特性上、そこまで連射は出来ないらしい。
また、ヴェルグンデはそれにプラスして肩に大型のレーザー兵器を1門積載しており、グートルーネ将軍の機体ほどでは無いが、破壊力と貫通力に優れているとのことだ。
「何かアレだな、奴等の機体かっぱらって俺の愛機にしたいな。」
「確かに。あのビーム兵器は弾切れが無さそうだから、そう意味では魅力的だな。」
シャワーを浴びてからの夕食時、ボブとの下らない雑談に花を咲かせていると、アルベリヒ中尉も俺達の近くに座る。
そのまま何となく、明日の作戦に話が流れていっていた。
「なぁモノ、結局お前の空中戦法、もうやべぇってのか?」
「そうだな。
最後にはこちらを凝視している機体が何機かいた。
アレはAI機が観測してるだけじゃなくて、多分奥にいた奴等も見ていたんだと思う。
今日は“わからん殺し”が出来たが、多分明日は対策されてるとみた方が良いだろうと思うぜ。」
ボブも頭を抱える。
今日の戦闘、AI機しか出してこなかったと言うことは、こちらの手の内を探っていた筈だ。
とは言えあの物量、こちらもあまり手の内を隠しておくわけにはいかなかった。
明日にはもっと最適化されたAIと、転換訓練が終わった肉入りも出てくるだろう。
「そう言えばセーダイ、お前はあの機体で何か秘策みたいなモノを受けてるんじゃ無かったのか?」
アルベリヒ中尉がコーヒーを飲みながらそう訪ねてくるが、俺は微妙な表情で返す。
確かにその通りではあるが、どちらかというとあの技が真価を発揮するのは、単騎相手の決戦用と言っても良い。
一定の効果はあるだろうが、あまり集団戦で乱発はしたくなかった。
「ううむ、ならば割と手詰まりに近いか。」
その時、整備兵の一人がアルベリヒ中尉に近付く。
「……あのぅ、アルベリヒ中尉はこちらにいらっしゃいますか?」
「俺だ。何かあったか?」
オドオドとした様子の若い整備兵が、アルベリヒ中尉に何かの図面が表示された端末を手渡すと、承認のサインを求めてきた。
何となく近くに居た俺はソレを覗き見すると、中々に豪快な改造案がそこに表示されていた。
「ハハッ、切り離した左腕に変わって、大型のバルカン砲を取り付けるんですか。
これ、確実に歩く的になっちゃいそうですね。」
大型バルカン砲は対AHM用と言うよりは、陸上戦艦等を相手にするために作られた武器と言っていい。
ちょっとズレた話にはなるが、中型のオートカノンの口径は、ちょうど100mmサイズだ。
小型オートカノンの口径は80mmで、あまり見ないが大型のオートカノンの口径は180mmサイズと、オートカノンはそのサイズによって大、中、小のサイズ分けが存在する。
それに対してバルカン砲は、小型バルカン砲と中型バルカン砲の口径は、実は同じ50mmサイズである。
単純に、連射するための砲身が小型バルカン砲は3門の砲身を回転させており、中型バルカン砲は6門の砲身を回転させて発射するため、連射能力に違いがあり、総ダメージ量が底上げされているとイメージして貰えれば良い。
ところがこの大型バルカン砲、何故か口径が80mmなのだ。
つまり言ってみれば、小型オートカノンの砲弾を求弾ベルトで繋ぎ、バルカン砲で撒き散らすという、かなり強力な兵器となっている。
ただし、砲弾サイズの弾を発射するため、発射機構の耐久力は上げざるを得なかった。
その為に発射機構は大型化し、それこそ強襲用のAHMにでも無ければ搭載できない重量とサイズになってしまった兵器でもあるのだ。
「……しかし、現状これしか無いからなぁ。」
“何か良い対策は無いものか”とアルベリヒ中尉はぼやきながらも、受け取ったデータを自分の端末に移すと、元の端末にサインをして若い整備兵に返す。
「モノ、何か思いつけよ。」
「お前なぁ、無茶ぶりにしても……。」
そう言いながらも、手元の武器リストを見ながらふと思い付くことがあった。
「“初見殺し”には丁度良いかもなぁ……。」
グートルーネ将軍が持ってきたという武器リストに、珍しい物を見つけていた。




