194:ぶつかり合い
異変は第3波で起きる。
[こちら333、オートカノンに被弾!]
[こちら334、ローラー部損傷!ダッシュ出来ません!!]
「落ち着け334!障害物を使いながら後退しろ!
真っ直ぐ逃げるんじゃねぇぞ!」
先程まで単騎の突撃を繰り返していた敵機が、唐突に射撃戦を主体に戦い始める。
[ウィザード331、アイツら何か変だな?]
「あぁ、まるで突然乗り手が一斉に変わったみたいだな。」
ただ、混戦の中でも近接距離に近付くと、容赦なく先程までのような大振りの突撃攻撃が飛んでくる。
[乗り手が変わった、と言うより奴等の小隊内の戦闘パターンを学習していて、今まさに最適化しているのかも知れんな。
……しかし、一斉にそんな事が出来る技術が、奴等にはあるのか?]
アルベリヒ中尉が突撃してきたAI機を叩き伏せながら、疑問を口にする。
“まさか”と言おうとアルベリヒ中尉機を見たとき、機体左肩が赤く光っているのが見える。
何だろう、ちょっと羨ましいかも知れないと思ってしまった。
「アルベリヒ中尉、その左肩は?」
[何?……ウォッ!?]
空気を切り裂く音と共に、強烈に光る可視光線が大気を燃やしながら突き進み、アルベリヒ中尉機の左肩を溶かしながら貫通する。
その後高熱がエーテル液に伝達し、小さな爆発が起きていた。
[ヤバい!レーザーだ!
全員、動きを止めるな!!]
<警告、レーザー照射されています。>
ボブが怒鳴る声とマキーナの警告を受けて、俺も機体をサイドステップさせて照射位置をずらすと、すぐにローラーダッシュで移動する。
ギリギリで間に合ったのか、また空気を切り裂く音と共に進む可視光線が、俺の機体の右肩を掠めるように抜けていった。
[全員、AHMの装甲はレーザーでも一定時間照射しきらないと破壊できないようになってる。
照射が始まればすぐに機体からアラートが鳴るから、ウィザード331がやったようにその照射位置をずらせ。
照射の最後、大気を燃やしながら進んでくるあの可視光線までに避けられなければ、小隊長みたいにダメージが入っちまうぞ!]
「説明ありがとよ、AHMマニア。」
ボブからは“俺は命の恩人様だ、後で奢れよ”といつもの調子が返ってくる。
通常、レーザー光は目に見えない。
だがAHMに搭載されているレーザー兵器は、エーテル粒子によって高出力・安定化されているらしく、照射時にエーテル粒子も微量ながら放出されてる。
その為、破壊力が発生する時間まで照射を続けると、放出されたエーテル粒子自身や大気を燃やしながら突き進むため、さながら人間の目にも見える光線となって着弾する様に見えるらしい。
余談だが、これは宇宙空間でもほぼ同様で、高熱化したエーテル粒子が可視光線として認識できるらしい。
しかも、何なら宇宙空間の方が大気などの遮る物が少ないため、可視光線となったエーテル粒子が始めから連なって見え、さながら銃口から伸びる光の線となるらしい。
だからなのか、実は宇宙空間の方がよく見える分、回避は楽だとのことだ。
そんな事をボブから教わりながら、俺を狙った敵機体を見る。
何処にそんな装備が付いてるのかと凝視すれば、腰部両脇に付いている砲身のような物がこちらを向き、かなりの熱を持っているのか、砲身回りから陽炎のような大気の揺らぎが見える。
なるほど、腰の砲身がレーザー兵器だったわけだ。
マガジンも無ければ求弾ベルトも付いていないからブースターの類いかとも思ったが、どうやら違ったようだ。
確かにエネルギー兵器なら実弾と違い、あの位置に付いていて可動式だったとしても、リロードに問題が発生することは無いもんな。
「マジかよ、アイツら全部の機体に標準装備してやがるのか。」
こりゃ確かに遺跡の発掘が盛んに行われるはずだ。
あんなモンが見つかるってんなら、誰だって欲しくなる。
[ただまぁ、ネタがわかれば“狙いが正確で弾速がかなり早いオートカノン”みたいなもんだ。全機、今の注意を意識して戦えよ!]
アルベリヒ中尉が左腕を緊急切り離しをしながら、俺達に檄を飛ばす。
中々に無茶を言ってくるが、それでも対応するしか方法は無い。
「残弾も装甲も厳しくなってきたが、やるしかねぇよなぁ。」
地上をちょこまかと逃げ回りながら戦っていてもラチがあかない。
折角空が飛べるなら、三次元の戦い方をしてみるのも一興か。
「ジェット点火!」
ローラーダッシュで助走し、ジャンプジェットを点火させて空を飛ぶ。
飛行する、と言うよりは、飛び上がってジャンプ出来る最大距離までの範囲内で一定距離を進み、着地するというイメージが近いだろうか。
それでも、シートに押しつけられる重力と、その後の浮遊感はたまらない。
「イカンイカン、浸ってる場合じゃねぇやな。」
空を進む俺をAI機はまだ認識できていないのか、狙われること無く撃ち放題だ。
右手のオートカノンで次々と狙い撃ち、重なっているところは左手のバルカン砲で薙ぎ払う。
浮遊感が終わり、着地の衝撃に内臓の負荷を感じつつ、着地を狙われないようにすぐさまローラーダッシュで駆け抜ける。
一拍遅れて着地位置に火線が集中する中、右手の武器をオートカノンからミドルソードに持ち替え、撫で斬りにしながら敵中を抜ける。
[ウィザード331、いい手だ。
こっちはお前のソレを主軸に考えるか。]
アルベリヒ中尉が無茶ぶりを思い付いたように口走りながら、俺に銃口を向ける敵AI機を次々と撃破してくれる。
[良いっすねぇ。1人だけ新しい機体貰ったんだから、そうしましょそうしましょ。]
あの時、このティーゲルを組み上げるのは1機しか出来なかった。
ボブはこの事実を若干根に持っているのだ。
ケツの穴の小せぇ奴め。
「馬鹿言え!これ結構神経と弾使うんだぞ!
しかももう対応されかかってるし、次はやべぇに決まってんだろ!」
そう言いながらも、もう一度ジャンプ攻撃を行う。
今度も先程と同じように撃ち放題撃ちまくり、少なくとも5機は爆発させた。
最初のジャンプ攻撃と合わせれば、もう1個中隊分は屠っている。
ただ、2回目のジャンプ攻撃では、何機かはじっとこちらを見つめていた。
恐らく、対処法を考え始めている。
[敵は何機いるんだよ!?]
ボブが愚痴るのも解る。
波状攻撃され続ければ、流石に弾が持たない。
俺達が本気で残弾を心配し始めた頃、波状攻撃が収まる。
見れば、敵AI機がゆっくりと後退していくのが見える。
[何だ?アイツら引き上げ始めてるぞ?
これはチャンス到来か?]
ボブもそう言ってはいるが、本心では無いだろう。
もう俺達には殆ど弾は残ってない。
このまま剣と斧を手に突っ込んでも、あのレーザー兵器で蜂の巣が関の山だ。
[ウィザード331、友軍の信号弾です。]
ハルトマンの通信で上空を見上げると、恐らくグートルーネ将軍の部隊が居る辺りの戦場から、上空へ複数の赤い信号弾が上がるのが見える。
[撤退信号だな。
よし、全機追撃は無しだ。
一旦撤退して、補給を行うぞ。]
アルベリヒ中尉が疲れたように息を吐き出しながら、方針を決定する。
何か向こうの戦場がヤバいという通信は受けていない。
恐らくは単純に、両軍本日の戦闘限界に達した、と言うところだろうか。
俺達は全員“了解”の返答を返しながら、どこかホッとした様子で回収艇を待つのだった。




