193:開戦
「小隊各機、突撃開始!
教本通りだ!味方の背中はカバーしろよ!」
[[[了解!]]]
目の前に展開しこちらに突撃してくる敵部隊、その1機にオートカノンをお見舞いする。
普通のAI機なら、大抵はこれを回避しようと横に動き、機体重量のせいでその後硬直が発生する。
そこをもう1発撃ち込めば、殆どの場合カタが付く。
「何!?」
ソレで仕留めたら“人形との戦いは味気ない物だな”とか、何処かのスペシャルズの最高指揮官さん的な決めゼリフを言おうと思っていた俺は、それが甘かったと知らされる。
敵機体は“回避”ではなく“機体に掠らせて弾を逸らす”方法で、ダメージを最小限に抑えて突撃のスピードを殺さずに突進してくる。
敵機体は右手で剣を取り出し、そのままの速度で上段から振り下ろしを狙ってくる。
「……この戦い方……?」
グラン・ティーゲルに新たに取り付けられた腕部三重ブレードで受け流しつつ、すり抜けざまの敵機の脇腹にオートカノンを2発撃ち込む。
敵機はすり抜けながら爆発炎上し、膝から崩れ落ちていった。
[こりゃあ、ただのAIって訳じゃ無さそうだな。]
「あぁ、あの白馬鹿の戦い方だな、これ。」
俺もボブも感じた違和感の正体、目標に対して攻撃を受け流しつつ突撃する妙に人間くさい部分と、ソレが外れた時のAIならではの無警戒で単調な動き。
多分コイツらは、あのシン・スワリとかいう転生者の戦い方をインストールされているのだろう。
それでも、普通のAI機よりも遙かに強く、凶悪になっている。
[うわ!うわ!しょ、小隊長~!!]
振り返るとウィザード334機が転倒し、そこにAI機が群がるように剣を振り上げ突進していく。
「しまっ……!?」
刹那、空気を切り裂く高い音が響き、二筋の光がAI機の群れを突き抜ける。
光の通り道には文字通り“何も無くなり”、数瞬の後に大穴があいたAI機達は“思い出した”様に、それぞれ爆発しだす。
射線の元には、熱せられた両肩の砲身から大量の蒸気を吹き出している、大型のAHMがそこにいた。
[ガッハッハ!!
人形との戦いは味気ない物だのぅ!!]
あっ、クソッ、先に言われた!
[各員、所詮は決められた行動しか出来ず、咄嗟の判断が出来ぬ機械であるぞ!
落ち着いて対処せよ!]
グートルーネ将軍の声かけで、士気がまた元に戻る。
実際はただのAI機のように楽ではない事は、ここにいる全員が理解している。
ましてやそのこと自体、グートルーネ将軍自身もよく解っているだろう。
だからと言って、ソレを口に出せば士気が落ちる。
機械と人間であれば、先に疲弊するのは間違いなく人間の、それも精神面だ。
あれ位の物言いをしなければ、それが早まるだけだと知っているグートルーネ将軍は頼もしい。
[やっぱすげぇな、あれがフルデペシェ家の秘蔵AHM、智天使級80tクラス、“ハルピュイナドラー”の必殺兵器、2連式荷電粒子砲だぜ。]
ボブが感慨深げに話しているが、スクリーンショットを連打しながら撮っている音が聞こえる。
80tクラスは中々お目にかかれないからな、まぁ気持ちはわからんでも無い。
実は光線兵器自体は、どのクラスでも積載することが出来る。
また、80tクラスにもなると出力や積載能力にも余裕があるため、複数あるいは大型の光線兵器を搭載している事が多い。
ただ、一般的な修理技術の低下や部品の希少性から、大戦以前の整備工場を持っている貴族機などでなければ、最近では殆ど見なくなった、と言うところらしい。
グートルーネ将軍の乗機、“ハルピュイナドラー”は両肩に大型の荷電粒子砲を1門ずつ装備しており、その同時2連砲撃を防ぐには耐光線兵器用コーティングやエーテルシールドが必須ではあるが、どちらも光線兵器と同じくらい戦場では見かけない。
つまり、この戦場はほぼハルピュイナドラーの独壇場とも言えるだろう。
王国のガヘイン将軍なら何か対策を持ち込んでいたかも知れないが、コイツらにソレは無い筈だ。
「見とれるのも良いが、ちゃんと敵も見ろよ?
第2波のお出ましだぜ。」
炎と煙を上げる残骸を通り抜け、また奴等の機体が現れる。
「あらよっと。」
オートカノンから放たれた2発の弾丸は、狙い違わず先頭を走るAI機の頭部に突き刺さり、小さな爆発と共に膝から崩れ落ちる。
「ウィザード332、援護しろ。
あの頭無くした機体、回収するぞ!
陸上回収艇、誰でも良い、こっち来られるか!?」
敵の武装が解らない。
相手のAI機は、見たところ右手の片手剣と左腕が肘から下がオートカノンになっている王国軍機と似ているが、右肩にもオートカノンらしき物を積載していたり、左肩には長距離ミサイルの様な物も見えるなど、王国軍機と同一ではない感じもする。
ついでに左右の腰にも何か砲身のような物があり、油断が出来ないでいた。
頭は大抵センサー類が詰まっているだけだろうから、首から下が無事なアレは、格好の研究材料になると踏んだのだ。
[り、了解!皆、小隊長を援護だ!]
ハルトマン軍曹は拙いながらも小隊員に声をかけ、敵残骸と俺の機体を守るように布陣する。
[小隊長!早くして下さいよ!]
「わぁーってる!!」
両手の銃を腰の保持機構でロックすると、空いた両腕で残骸を引きずり起こし、陸上回収艇を待つ。
程なくして、戦地のど真ん中を突っ切る1隻の陸上回収艇が現れた。
敵陣地側からこちらに来たところを見ると、現状最も最前線にいるグートルーネ将軍の部隊から、戻るついでにこちらに寄ってくれたらしい。
とはいえ、中々に豪胆な奴だ。
[はいよ!おまっとさん!!
こんな戦場ど真ん中に呼びつけたのは誰!?
とっとと乗せて頂戴な!]
回収艇のパイロットは中々威勢の良いお嬢さんのようだ。
“今やってるよ!”とこちらも威勢良く返し、コンテナ内に残骸を押し込む。
[ウィザード331、抜けられました!]
敵AI機が1機、突進スピードで抜刀しながらこちらに向かってくるのが、後部モニターに映る。
向かう位置関係からして、俺、と言うよりはこの回収艇に向かっている。
“補給艦らしき物を優先して叩く”
基本設定なのか、あの白馬鹿の戦術なのか。
どちらにしてもイヤらしい戦い方だ。
AI機と回収艇の間に、旋回しつつ割り込むように機体を滑らせる。
「なぁめるなぁ!!」
両腕の三重ブレードを展開、振り下ろされる大剣を右甲の三重ブレードで俺の機体の外側へ受け流しつつ、左甲の三重ブレードを、格闘技でいうフック、鈎突きの要領で敵AI機の空いている腹部に突き刺す。
手応えあり、だ。
極端に動きの悪くなったAI機は、それでも剣を振り上げこちらを狙う。
「しつこい客は嫌われるぜ?」
右手の三重ブレードを受け流しから引き戻し、首のつけ根に向けて突き刺す。
ただ、突き刺すどころか突き抜けてしまい、敵AI機は綺麗に首を切断されてしまっていた。
普通のAI機ならまだ襲ってくるが、コイツはその動きを停止していた。
“遺跡の無人機は、コクピットじゃ無くて頭の方が弱点なのかな?”と、チラと思ったが、今は検証している暇は無さそうだ。
動かなくなったのを確認し、左の三重ブレードもAI機から引き抜くと、元通りブレードを収納する。
このグラン・ティーゲル、接近戦こそが真価と言わんばかりに、やたらとパワーがある。
以前ゴリさんから教わったコイツの運用法を含めて考えると、確かに自身より大型でも“喰っちまう”ことは出来そうだ。
「ちょうどいいオマケだ、ポーター、コイツも頼む。」
結果として中々状態の良い頭部も手に入ったので、拾い上げるとコンテナに押し込み、終了の連絡をする。
「あいよ、頼まれた!
次は弾持ってきてやるから、ソレまで死ぬんじゃ無いよ!」
来たときと同じように、陸上回収艇のパイロットは威勢良く去って行った。




