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異世界殺し  作者: Tetsuさん
鋼鉄の光
193/831

192:開戦直前

-帝国軍の皆は、無事?N-3ラジオ、始めるわね。この番組はリリィ・シラユリが……。


[流石にリリィちゃんも元気ねぇな。]


「そりゃあ、昨日の今日だからな。」


移動中の強襲艇の中で、いつものラジオをボブと聞いていた。

厭戦放送のDJ、リリィ・シラユリも元気が無い。

その放送で、昨日の戦闘における王国軍側の被害を詳しく知る。

どうやら昨日のエーテル粒子砲で、グートルーネ将軍対策に来ていたガヘイン将軍は戦死したらしい。

無理も無い。

あのエーテル粒子砲の直撃を受けて、生きている人間はいないだろう。

戦場に配置していた2個大隊全て、戦略的な意味では無く、文字通りの意味で“全滅”したとのことだ。


-……と、これにより、我が王国軍は惑星N-3を撤退する事が決定致しました。

また、王国は今回シン・スワリから男爵位を剥奪、“A級戦争犯罪人”として指定致します。

また、この放送も一旦本日限りになりまして、次の放送は未定となります。

ゴメンね、帝国の皆。

でも、あなた方の強さは他でもない、私達が知っています。

だから、……だからここは皆様にお任せします。

どうか、ガヘイン将軍や皆の(かたき)を取ってくれると嬉しいな。

また、もし生存者がいたら、もうこの星での戦争は終わったと、声をかけてあげて下さい。

……お願いします。

さて、それでは、今も戦い続ける帝国の皆の為に、私から愛を込めてこの曲を。

曲名は……。-


[……あの、タゾノ隊長、この放送は厭戦放送では?]


俺の小隊員から注意を受ける。

まるで最初の俺のようだと、聞こえないように笑う。


[オイオイ、ロクでもない小隊長が居やがるな?

ソイツが俺と同期な癖に昇進が俺より早かったりすると、ますます許せんくなるよなぁ?]


「ハッハッハ、全く悪い奴もいたもんだな。

だがハルトマン軍曹、こういう時、意外と敵側の方が正確な情報を持っているかもしれんぞ?」


ボブが“やれやれ”とため息をつく音が聞こえる。

俺の小隊員として配属されたハルトマン軍曹も、“は、はぁ……。”と、納得のいっていない生返事だった。


[各員、レクリエーションは終わりだ。

これより先はコールサインで呼べ。

俺の小隊は“ウィザード31”小隊。

データに表示されているように311から314までだ。]


アルベリヒ中尉の連絡を受け、俺も小隊コールサインを入力する。


「よぅし、なら俺達は“ウィザード33”小隊だ。

ナンバーは331から334となる。

ハルトマン喜べ、お前は332だ。」


[タゾノ小隊長、アルベリヒ中尉の小隊が“31”なら、我々は“32”では?]


ハルトマン軍曹の疑問に思う声を聞きながら、俺とボブは笑う。


「ハルトマン、32は永久欠番だ。」


[そうだ、ちょっとした都合でな。

さて、俺等は34だ。

俺が341で、お前等は342から344だからな。

表示されているナンバーで以後通信を行え。

良いな。]


ボブの言葉を締めくくりに、小隊員達が“了解”の回答をする。


[到着5分前!!]


強襲艇のパイロットからの通信が入り、俺達は各種チェックを始める。

モニターの左下に、小隊員のAHM状況を表示しておくのも忘れない。

展開区域に近付いているからか、ある種の緊張が走っているのが解る。


[しかしモノ、本当にあの砲台は撃ってこないのかね?

ただでさえ戦力が落ちてる所で、アレに狙われたらひとたまりもねぇぜ?]


そんな空気を察したのか、ボブがいつもの調子で話しかけてくる。

こういう時にはありがたい存在だ。


「コールサインで呼べっつったばかりだろうが。

まぁ、タリエシン少将の話を信じるなら、大丈夫なんじゃねぇのか?」


今回戦場に出る全ての機体には、タリエシン少将から送られてきた正体不明のデータをインストールしてある。

マキーナに調べさせたが、システムに影響を及ぼすようなデータでは無いらしい。

言うなれば、“何かに向けての識別信号”らしいと言うことだ。

これがあれば惑星粉砕砲(バルムンク)はこちらを撃てない、ついでに言うならあの砲台はまだ完全稼働しておらず、叩くなら今と言うことで急遽今回の作戦が発令された。

昨日の王国軍との戦闘の余波はこちらの前線基地にも及んでおり、各中隊でそこそこ負傷者が出たことにより、本来1個大隊+1個中隊の戦力だったはずが、最終的には合計で1個大隊程度まで落ちていた。


「それに、今更四の五の言ってても始まらんだろうさ。

俺達は投入された戦場で、ベストを尽くすだけだろう?」


[ハハッ、それもそうか。]


丁度そこで“目標地点到達!”と言う強襲艇パイロットの号令がかかり、俺達は開いた側面の扉から次々とローラーダッシュで降りていく。

俺も強襲艇から機体を降ろすと、ローラーダッシュのまま前進を始める。

遺跡側も、準備万端のようだ。

蓮か先に、無数の白い防衛機が展開されているのがわかる。


[何か、メチャクチャ数いねぇか?]


[噂では王国軍と帝国軍から抜け出したパイロットが合流しているらしいとの事だが、それでもこんなには居ないと思うがな。

大半はAI機だろう。]


ボブのぼやきに、アルベリヒ中尉が今朝の作戦会議で聞いたであろう情報を教えてくれる。


「小隊各員、聞いての通りだ。

大半はAI機だが、中には肉入り当たりクジが混じっているビックリ箱だ。

気を抜かず、落ち着いて対処しろ。」


[[[了解。]]]


配属された人員は、ハルトマン軍曹もそうだが、全員が実戦未経験の素人だった。

俺達もそんなに実戦経験が豊富なわけでは無いが、それでも多少の死線はくぐっている。

そう言う意味では、配属された新人にはあまり期待はしていなかった。


[ロズノワル独立自治区を名乗るテロリストよ、私は帝国軍フルデペシェ領中将、N地区方面軍総司令官、グートルーネ・フルデペシェである。

諸君等は数多くの国際戦争法規に違反した行為が確認されている。

また、その遺跡はフルデペシェ家の管理する私財であり、諸君等は不法に占拠している状態にある。

大人しく投降せよ。

投降すれば、諸君等を法の下に処罰すると約束しよう。]


まぁ、投降は無いだろうなとは思う。

ただ、この呼びかけで“こちらに正義がある”と世間に知らしめる必要性はあるだろう。


[こちらはロズノワル独立自治区代表、サラ・ロズノワルである。

我等は既に国家である。

我等の領土に土足で踏み入る者を赦しはしない。

また、当遺跡の駆動キーであるニーベルンゲン・リングは他ならぬフルデペシェ家から譲渡された物である。

つまらぬ言いがかりは止めて頂きたい。

これ以上接近するならば、敵対行為とみなして我等も対応する。]


[あい解った。

ならば実力にて奪還するだけだ。

……全軍、突撃せよ。

我に続け!]


グートルーネ将軍の言葉を合図に、全ての機体が雄叫びと共に最大戦速に加速する。


地獄の釜の、その蓋が開く音がした。

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