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異世界殺し  作者: Tetsuさん
鋼鉄の光
192/831

191:無力感

-人々よ、見よ!そして刮目せよ!

我等は世界を変える力を手に入れた!

改めて、我等はロズノワル独立自治区を宣言する者なり!

帝国、王国は双方この惑星から撤退せよ。

この星は、今よりロズノワル独立自治領首都である。

かつてのロズノワル領を、これから返却して頂く。

フルデペシェ家、プロー家にはチャンスを与えます。

もう一度ロズノワルの元に着くか、それともまた裏切るか。

決断しなさい!-


そして、画像は先程の攻撃のシーンを、ワザワザ奴等の艦首から見た映像で流してくれる。

その攻撃を見るに、高度に圧縮されたエーテル粒子を放出するエネルギー兵器だろうと推測がたつ。


「無茶苦茶しやがるな。」


「だか、この力を見せつけられちゃ抵抗も難しくねぇか?

にしてもフルデペシェ家とプロー家とか、一体何の話なんだろうな?」


俺の呟きに、ボブが疲れたように座りながら返す。

そのボブの疑問は、アルベリヒ中尉がヘルメットのバイザーを開き、彼にしては珍しく煙草に火を付けながら答える。


「フルデペシェ家とプロー家は、元々ロズノワル家の傘下にいた一族だな。

第1次ロズノワル大戦は、両家とも“ロズノワル家がいなければ、自分達がこの領域を支配出来る”と思い込み、その心の隙を帝国と王国両方に(そそのか)されて始めた戦争でもあるんだ。」


随分と古い話だ。

だがなるほど、前々から“1つの国家”が滅びるには、随分早いな、とは思っていた。

実際は滅亡したわけでは無く、ロズノワル家だけを潰して、残りの二家が分割しそれぞれ帝国と王国に吸収合併されたわけか。


今生きている両家の人間で、その当時の出来事を知っているのは、果たして何人いることやら。


ただ今回の戦い、プロー家は直接関与介入してきていない。

今回の帝国の用兵、グートルーネ将軍に対しても“対グートルーネ”として名高いガヘイン将軍を投入している。

多分、このままプロー家は前に出てくることはないだろう。


-この放送はまだ繫がっているのか?

なら俺にも言わせてくれ。-


ん?


画面のサラ姫の視線がカメラから別の所に向き、そして本当に一瞬だけ厳しい表情をするが、すぐに穏やかな表情になるとカメラ前から姿を消す。

次に映ったのは、何度か王国側のニュースで見たことのある、あの男だった。


-初めまして、知ってる人は居るかも知れないけど、俺は王国で“白の男爵(ホワイト・バロン)”と言われていた、シン・スワリだ。

俺は、この世界で言うところの“元母星(ジ・アース)”と言う星しかなかった時代、その時代から転生してきた。-


“突然何言うんだ、この馬鹿”という気持ちでいっぱいになる。

近くにいるなら間違いなく、“あー、今そう言うのいいから”と言っていただろう。


-皆に説明したけど、ソレを信じてくれたのは小隊の仲間と、サラだけだった。

そう言う意味でも、サラは他人の言葉を軽く扱わない公正な人だと信頼している。

話はズレたけど、その時代の俺から見ると、帝国も王国も、独裁政権は良くないと思うんだ。

皆が自由に発言出来て、皆で決めることが出来る民主主義の世の中で育ったから、よりそう思うんだ。

オレは、彼女の理想とする世界を実現させたい。

だから俺はこちら側に着く。

王国の皆、今までありがとう。

でも、これ以上邪魔するなら攻撃しなくちゃいけない。

だから頼む!この星から撤退してくれ!

……スマン、言いたかったのはこれだけだ。-


……開いた口が塞がらない、とは、この事だろう。

もう、どこからツッコんでいいのかサッパリわからない。

ボブもアルベリヒ中尉も、俺と同じ様な顔をしている。


先程のサラ姫の演説で止めておくべきだったろう。

サラ姫もそれが解っていたから、厳しい表情をしたんだろうなと思わず同情してしまう。


命が簡単に吹き飛ぶ戦場で、こんなにも、本当にこんなにも薄っぺらい言葉を聞く事になるとは思わなかった。


独裁は良くない?

民主主義は良い?

国家と体制を勉強してから言え。

社会とは、その時々に合った統治機構が存在する。

確かにシロニアの様な社会主義や帝国の様な独裁制、王国の様な貴族主義には、簡単に腐敗を引き起こす脆い面があるだろう。

アブド連合は合議制を採用しているから、ギリギリ民主主義に近いか?くらいだ。

それだって、合議にあたり権力を集中させようとする者が出れば、今のアブド連合そのものの様に、不安定な情勢になってしまうだろう。


それに実際には、民主主義にも限界点は存在する。

民意に従い目先の利益を追わなければならず、長~超長期の計画等には弱い側面がある。

そう言う意味でも、全ての統治方法、主義や思想には意味がある。

短絡的にそれらに良い悪いを付けるのは、それこそ間違っているだろう。


何故今この体制になっているのか、過去の民主主義がどうなったから今がこうなっているのか、せめて何がどうなって今があるのかを考えてからモノを言え。


しかも、王国の爵位持ちの分際で、目の前で文字通り蒸発した王国軍の人間達の死を(いた)む訳でも無く、こっちの方が良いからこっちに着く?

お前んちの掲げる貴族主義の基本、“ノブレスオブリージュ”って知ってるか?


というか、国家への帰属精神の無い傭兵だって、金払っている間は裏切らねぇぞ?


何もかもが、余りにも酷い演説だった。

だが、そんな酷い演説の感想を俺が言う前に、画面が切り替わる。


また奴等の艦首からの映像だった。

映像では、王国の陸上戦艦が、船首部分に白旗と赤の十字マークを掲げて、砲撃のあった地点に近付いている。

この時代にもまだ赤十字のマークがあったのかという思いと、負傷者救助だろうその船の、いや王国の対応に感心する。


だが、その映像は後ろの音声をカットしていなかったのか、奴等の会話がしっかりと聞こえていた。


-サラ姫、アレは王国軍がよく使う手の1つ、病院船と見せかけて工作員をこちらに仕向ける算段ですぞ。-


その台詞を聞きながら、“馬鹿野郎、この状況でそんなわけ無いだろう”という気持ちが湧いてくる。

仮にそう言う手があったにせよ、今この瞬間、こんな真っ昼間にやるわけ無いだろう。


-アラ、そうですか。

では、あの船も撃墜しなさい。-


「お、おい、マジかよ……。」


ボブが青ざめながら呟く。

俺は急いでティーゲルのコクピットに駆け込み、無線のチャンネル周波数を一般救援回線に合わせる。

このチャンネルなら、王国軍でも気付く筈だ。

その準備をしている最中も、端末から奴等の音声が聞こえてくる。


-そんな!アレは救命船のフラッグを立てているじゃ無いか!-


-フォッフォッ、白の男爵(ホワイト・バロン)殿もまだお若いですな。

かつて第2次ロズノワル大戦の終盤、王国軍はこういう手を使って、帝国軍に先に攻撃をさせた様に見せたんですよ。-


-そ、そうなのか……。-


何丸め込まれてやがる!

そんなはず無いだろう!

俺は無線電波を最大出力にして、王国軍に呼びかける。


「こちら帝国軍フルデペシェ領所属、第3機甲連隊第1大隊第2中隊第2小隊長のセーダイ・タゾノ准尉だ!

遺跡に接近中の王国軍陸上戦艦、お前等狙われているぞ!

すぐに後退しろ!」


緊急通信をしたのは俺だけでは無かった。

次々と緊急通信が入る。


[こちら同所属中隊長のアルベリヒ中尉だ!

急げ!回頭しろ!]


[こちら帝国軍N-3司令、タリエシン少将よ。

遺跡に接近中の王国軍、私の部下の言う通りよ!

すぐにお逃げなさい!]


事ここに居たり、最早敵も味方も無い。

帝国軍の誰もが、あらゆる手段で王国軍の救命艇に対して回避を呼びかける。


だが、結果は無情だった。


-あの戦艦を撃ち落としなさい。-


その言葉の直後、先程より弱いとは言え、激しい光の奔流、そして轟音。


ティーゲルのカメラアイが遮光モードになり、そして解除された時には、また新しいキノコ状の雲がそこには立ちのぼっていた。


-悪には鉄槌を。ロズノワルの民に安寧を。

そして世に平穏のあらんことを。-


映像が途切れる。


気付けば、涙が流れていた。


何に涙を流しているのかは、俺には解らなかった。

ただ、腹の奥にずしりと、鉛のように重い無力感があった。

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