18:後を追う
かまどの出来損ないみたいなモノを作り、火をおこし湯を沸かす。
“焚き火ってのは、何だか心安らぐな”
“ディスカバリーな番組を見ておいて良かった”
等と言った感想も浮かんだが、若干強引に野営を勧めてきたこの人物のことを何も知らないと思い、改めて自己紹介しておく。
「へぇ、セーダイさんか、俺はさっきも言ったが鉄一等級の冒険者で、ブルータスという。
世界のあちこちを放浪しながら、たまにはこうやって日銭稼ぎで冒険者やってる。」
放浪者、という単語に反応した俺は、何か情報収集出来ないものかと、例のカバーストーリーを端折って説明しつつ、これから向かう王都の情報を聞いてみた。
「アンタも大変だなぁ。
しかしその話からすると、アンタも北のプロー伯爵家の人間か?
何人か屋敷から出立したと聞いたが、あの噂本当だったんだなぁ。」
ドキッとした。
嘘から出た実というべきか。
あの時そうじゃないかなと思ってたけど、ランスさん家ホントにそんなことやってたんだ。
って言うかランスさん家あるんだ?
「あぁ、それと冒険者は石から始まり銅、鉄、銀、金とあってな、石はいわゆる新人で、実績を積んで昇格すると銅三等級になる。
各階級で一~三等級まであって、鉄で一人前、銀で上位、金は王家に認められた超上位みたいなもんだな。
まぁつい最近、ポッと出の奴が金一等級の冒険者に認定されて、王都はお祭り騒ぎになってるよ。」
相づちを打ちつつ、何となく脳内で、石が新入社員で、銅が一般、鉄がベテランから主任・課長補佐位で、銀が課長から部長補佐、金が役員とか重役的みたいなもんかな?と変換する。
だとすると、鉄一等級のこの男は、課長間近の大ベテランということだ。
「左様でしたか。いや、そうとは知らず失礼いたしました。」
「いや、良いって良いって。知らなきゃわからん話だしな。」
そう言いながらも彼はどこか誇らしげだった。
わかって貰えたことで気分が少し上がったのか、先程の王都で話題の冒険者関連についても詳しく教えてくれた。
なんでも、最近魔王が復活して、魔族の侵攻があちこちで活発化しているらしく、エルフ族の大陸が攻められているらしい。
劣勢のエルフ族は、彼等が守り続けている秘宝の鍵を王女に持たせ、この国に助けを求めてきたらしい。
エルフ族の王女を出迎えるとあって騎士団が迎えに行くことになったのだが、魔族と内通していた大臣の手により、騎士は最小限にさせられ、道中何度も襲撃を受けたらしい。
そしていよいよ護衛の人数が心許なくなってきた時、あの山道で山賊の襲撃を受けたとのことだ。
あわや壊滅というところで、物凄い力を持ち、凄い装備の見知らぬ男性に助けられ、何とか王都にたどり着いたらしい。
王都でも悪い大臣の手先からの襲撃を受けたが、やはりその男に襲撃を阻まれ、王の命も助けられたとのことだ。
その強さにいたく感動し、爵位を受け取らなかった彼は、勇者として金一等級の冒険者に任命された、とのことだ。
今は彼の願いもあり、王立魔道学院に特待生として入学しているらしい。
その一連の出来事の最中、事件に巻き込まれたあの村の村長の娘も不思議な力に覚醒し、勇者の彼を助けた事から、一緒に魔道学院に入学する事になったらしい。
その為、村から持ってきた荷馬車を返すため、ブルータス氏は依頼を受けてここまで来ていたらしい。
焚き火に枯れ枝を入れながらその話を聞いていて、そんなド派手な行動をとっている男が、この世界の転生者だろうと推測していた。
案の定、その男の名前はこの世界では珍しい、“アタル・キタミヤ”と言う名前らしい。
キタミヤ家、などという貴族家は大陸に存在しておらず、出自がミステリアスな若者、として、噂になっているのだとか。
まぁ、何となくそれっぽい、と言うのが感想か。
運悪く死んで、神様から凄い力を貰って転生、右も左もわからぬ内に小汚い男達に襲われている綺麗なお姫様。
そりゃあ流れで助けるよなぁ。
んで立ち寄った村で村娘にも気に入られ、しかもその子にも都合良く眠っていた不思議な力、が覚醒して“そばにいる理由”が出来たって感じかなぁ。
しかしそんな凄い力を持っているなら、その何とか学院に入らなくても良いのでは?と疑問に思ったが、“まだまだ素晴らしいアイデアを教えてもらいたい”“この世界の常識を知って欲しい”“魔王を退治するに当たり、そこで有力な仲間を見つけて欲しい”と、様々な思惑が有り、しかも彼が希望したことから、約1年間の学院滞在を王直々に依頼したらしい。
それにより、アタル・キタミヤは“いずれ魔王を倒す者=勇者”と、世間に認知されたとのことだ。
勇者誕生に城下町は沸き、今はお祭り騒ぎとのことだった。
話を聞き終えて、俺は困っていた。
“何故ここに転移した?”
と言う疑問だ。
別段あの神とやらに逆らっているとは思えないし、ランスの時のように終わってしまっている世界という訳では無い。
ニアミスではあるが、むしろ彼の世界はこれから始まっていく様に思える。
可能性としては、アタルの人格に問題があって、世界を破綻させようという意志がある、とか、彼以外に何か問題が発生しているのか、とか。
そして一番考えたくない可能性は、“生まれたばかりで、世界の力が消費されていないから、今ならアタルを殺せば大量にエネルギーを入手できるから”だろうか。
あの神ならやりかねない。
そしてそれをやらなきゃ俺は帰れない。
「おっと、やっぱりおいでなすったな。」
物思いにふけっていた俺は、突然言われたその言葉に顔を上げる。
見ればブルータスは立ち上がりながら右手で剣を抜き、左手に火の付いていない松明を持っていた。
「来たって、何がです?」
「良くないモノだよ。」
左手の松明を俺に放ると、また新しい松明を掴み、今度はそれに火を付ける。
「その松明はくれてやる。悪いが馬と俺の後ろに敵が回り込まないように牽制してくれ。」
松明を焚き火に突っ込み、火を移して掲げる。
その姿が見える頃には腐臭も感じ取れた。
両手を突き出してこちらに向かってくる腐乱死体と、腹から出た臓物を引きずりながら近付いてくる、腐った狼だった。
「マジかよ、ファンタジー最悪だ。」
俺は剣をかまえながらも、率直な感想を漏らしていた。