174:強襲作戦
-ハーイ、帝国の皆、元気してる?今日もN-3ラジオ、始まるわよ!
この番組は、私、リリィ……-
「ボブ、今は行軍中だぜ?」
小隊内通信に、ボブ機からのラジオ音声が流れる。
[硬いこと言いなさんな、セーダイちゃん。]
チャーリー曹長は、むしろ聞きたい派だ。
俺はため息と共に、隊長の発言を待つ。
[……まぁ、ほどほどにな。]
やれやれ、まぁ、これくらいしか娯楽が無いことも確かだ。
俺も観念して、ラジオに耳を傾ける。
-先日はまたもや、セーダイ・タゾノ軍曹とボブ・エンフィールド軍曹が大活躍だったようで、帝国首都で謎のAHMに生身で挑み、勝つという快挙を成し遂げました!
お二人とも、おめでとー!-
[やった!遂に俺も名前を呼ばれたぜ!]
ボブの喜びようが無線機から流れる。
ホント、コイツは脳天気だなぁ。
-あの正体不明のAHM、王国の関与を疑う声も出ておりますが、王国は無・関・係、ですので!
その証拠に、王国でも昨晩、慣熟訓練中だったシン・スワリ男爵を狙ったテロ行為が発生しました。
強襲してきた敵60tクラスAHM小隊を、たった1機で全て跡形も無く撃墜しています。
大丈夫、きっとタゾノ軍曹も、ファルケに乗っていれば同じ事が出来ますよね!-
[何だよモノ、お前だけ扱い違くねぇか?]
拗ねたように絡んでくるボブの通信に“うるせぇ”と返す。
50tクラスのファルケ単独で、60tクラス4機を相手にして壊滅させるとか、出来るわけねぇだろそんな事。
“ウチは出来るけどお前の所は出来ないよな”という煽りに使うなら、もっとマシな比較をしろよ。
……いやいや、熱くなるところはそこじゃない。
それよりも今はあの正体不明のAHMが何者なのか、王国で何か把握してないかの方が気になる。
-……という、どちらも正体不明のAHMを使っており、両犯行とも“ロズノワル独立同盟”という組織から声明が出ているようです。
王国領統治政府はこの組織をテロ組織と認定し、厳しく対処に当たるという発表をしております。
……ねぇ、何で皆戦争するのかな?
ここは元々ロズノワル共和国の土地だったけど、今は王国の管理下に置かれていて、領民に苦しい思いはさせていないと自負しています。
いつか皆が平和に暮らせる日が来れば良いなって、リリィは思っています。
では、今回のテロ行為により亡くなられた帝国、王国両国民に哀悼の意を表して、時代を超えて語り継がれているこの1曲をお送りします。曲名は、“素晴らしきこの世界”……-
[さて、もうじき目標地点に到着する。レクリエーションは終わりだ。
以降はコールサインで呼べ。
我々はウィザード中隊第3小隊として設定されている為、今後小隊名は“ウィザード3小隊”と呼称すること。
各員の割り振りだが、俺は“ウィザード31”、チャーリーは“ウィザード32”、セーダイが“ウィザード33”でボブは“ウィザード34”だ。]
小隊長の声で現実に戻る。
今回の俺達は、帝国と王国の主力部隊がぶつかり合っている所を、側面から強襲する役割だ。
俺達の基地から真っ直ぐ王国領側に向かうと、小高い丘レベルではあるが、小さな山脈がある。
その山を超えると王国領の前線基地があるのだが、今回はその山脈の制圧が主目的だ。
その山を押さえれば、王国の前線基地は攻撃し放題になる。
その為、今回は主力の第1中隊と俺達第2中隊の1、2小隊が前線を支えて、王国軍とぶつかり合っている所を、俺達第3小隊が側面から攻撃をかける手筈になっている。
俺達のファルケは垂直ミサイルを外して電子欺瞞装備に換装している。
チャーリー曹長のタウベには始めからソレが装備されている様で、武装は左肩の中型オートカノンと右腕部のバルカン砲に、左腕部の5連式長距離ミサイルと、いつも通りだ。
[前方に敵性発砲光を確認。全機、準備は良いな?]
小隊長のアルベリヒ少尉は、帝国軍の主天使級60tクラス、“カーズウァ”に搭乗している。
この中で唯一の“両手持ちAHM”だ。
右手には手持ち式の中型バルカン砲を持ち、右肩に中型オートカノン、左肩に9連装短距離ミサイル、左手にシールドを装備している。
左腰には俺達と同じ片手斧を装備している。
通常はそれにもう一つ、9連装短距離ミサイルか5連装長距離ミサイルのどちらかを装備しているが、今回はその分の装備を電子欺瞞装備に変更している。
俺達は森の中を、極力木を踏み倒さない様に気を付けながら移動していた。
[各員、今一度作戦を伝える。
シールド持ちのウィザード31が中央、右翼をウィザード33、左翼をウィザード34、後方支援をウィザード32の、トライアングル・ワンのフォーメーションで突撃する。
各自、仲間の背中を守りながら相手の横腹を食い破るぞ。味方の弾には当たるなよ。]
[[「了解!」]]
まぁ、隊長はそう言うが、各種ミサイルは勿論、オートカノンの弾に至るまで敵味方識別信号は搭載されている。
もし仮に味方に誤射したとしても、命中直前で自壊するように設定されている。
もちろん荷電粒子砲の様な実弾では無い武器もあるが、それらはそもそも味方が射線に入ると引き金が引けないか、中断される様になっている。
とは言え、自壊時の爆発等でカメラアイやセンサー類のような、装甲ではない脆い部品は多少のダメージを受ける。
結局の所、味方の攻撃には当たらない様にする、と言うのが一番ではあるだろう。
[ウィザード33、遅れるなよ!突撃ィ!!]
隊長の激を受けて、ペダルを踏み込む。
山の斜面をローラーダッシュで駆け下りる。
木々を避けながら、オートカノンの狙撃照準を起動する。
(下り速度、風速から推定して……今!!)
オートカノンから放たれた一撃は、正面への射撃に夢中になりすぎていて、こちらに反応し切れていなかった1機の敵アイリスの頭部に突き刺さる。
少し遅れて小さな爆発が起き、頭部を失った敵アイリスが膝をつくのが見える。
予想通り、中の人間にもダメージが通った様だな。
[良い腕だ、ウィザード33。]
[オイオイ、俺より先に撃たれたのは初めてだぜ。]
チャーリー曹長機は砲撃支援重視のため、普通の機体よりロックオンの距離が長い。
だが、俺のようにマニュアル撃ちをする奴には、最早ロックオンは関係ない。
武器の最大射程距離が、そのまま有効射程距離だ。
「一番槍は頂きましたよ!」
軽口を叩きつつ、ローラーダッシュで機体を左右に大きく振りながら、追加のオートカノンを連射する。
2機目の敵アイリスの左腕部オートカノンを飛ばしたが、そこで上半身の旋回が追い付いたらしく、残った右腕部のバルカン砲を乱射してくる。
「この距離で致命弾が当たるかよ!」
数発機体に命中はするが、所詮はデタラメに撃っているだけだ。
生身なら1発で致命傷でも、AHMはそうでは無い。
[ホイッと、ナイス陽動だウィザード33。]
ウィザード32の長距離ミサイルを2発まともに食らい、敵アイリスは爆炎を上げて転倒する。
[俺も活躍しないとなぁ!]
ウィザード31がそのシールドで敵の攻撃を引きつけている間に、ウィザード34が敵アイリスの側面からオートカノンと9連短距離ミサイルを叩き込む。
まともに全弾を受けた敵アイリスは上半身が爆発四散し、残された脚部だけが数歩虚しく歩き、そして轟音をあげて地面に転倒していた。
混乱し始めた敵の陣地に、ファルケの両肩に設置された小型バルカン砲を乱射し、面制圧をする。
迫撃砲陣地、人、戦車。
何もかもが細切れになっていくその戦場で、俺は唯々、強すぎる力に恐怖を感じていた。




