169:初めての実戦
[投下高度到達!!投下180秒前!]
オペレーターの声が無線機から響くと、ファルケの足下の床がスライドし、左右胴体に繫がるハーネスだけでぶら下がった状態になる。
[いよいよ生本番だな。]
「その言い方だと、チェリーのことを笑えねぇぞ。」
外気を受けて揺れるファルケの中で、バカ話をしながら機体チェックをする。
あの聖女の事があったから何か仕込まれているかと思ったが、予想に反してシステムはオールグリーンの表示がでている。
マキーナに確認させても同様の所を見ると、機体そのものは何も問題ない。
良い感じだ。
[……3、2、1、投下!!]
機体のハーネスが外され、浮遊感がコクピットを包む。
[このタマヒュンの感じ、最高だな!]
「全くだ。」
姿勢制御、着地用バーニア点火。
忙しく作業しながら、風景を確認する。
<11時方向に敵影。外見的特徴から王国軍50tクラス力天使級AHM“アイリス”の砲戦仕様3機、データに無い形式不明機1機。>
「ウチのAIが教えてくれた。11時の方向、敵影4。
砲戦仕様の力天使級3機に不明1機だ。」
機体の遙か前方、左斜め前の丘陵からローラーダッシュの土煙だろうか。
4つの何かがこちらに近付いているのが見えた。
4つの中でも、3つは王国軍標準塗装のサンドブラウンだが、一番前の“unknown”と注意表示されている機体は真っ白な機体だと認識できる。
あの不明機が、多分“白の貴公子”とやらだろう。
専用機なのか、他の機体より一回り大きい。
[相変わらず目が良いな、お前のAI。あれか?お前に1つしか無いからか?]
「気を付けろよ、内1機は型式不明のパーソナルカラー。
多分“白の貴公子”サマのご来店だぞ。」
ボブの奴がブラックユーモアを返すが、それほど余裕は無い事を教えてやる。
ボブが“マジかよ”とぼやく声が聞こえるが、今はそれに返す時間も惜しい。
「マキーナ、奴等の通信を傍受できないか?」
<傍受完了。理解しがたいですが、暗号化通信ですら無いようです。>
マキーナ先生に叱られるとは、アイツらも油断しすぎだな。
繋げると、若い男女の会話が飛び込んでくる。
[敵アーム降下、全部ファルケね!
2機は標準型だけど、残りの2機はどっちも大きな盾持ってるよ!]
[帝国の奴等、シンが怖くて防御対策でもしてきたのかしら?]
[よし、いつも通り俺が突撃する!皆はバックアップ頼むぞ!]
[あ、ずるーい!アタシもぶっ壊したいー!]
頭が痛くなる会話だ。
男1人に女3人の、ハーレム部隊か。
[何だ今の?アイツらの無線傍受したのか?]
ボブの訝しげな声に笑う。
そりゃそうか、戦場のど真ん中でお花畑な会話が聞こえてきたら、まぁそうなるわな。
「傍受どころか、オープン回線だ。
まぁ良いさ、舐めてくれるならそれに乗っかろうぜ。」
着地と同時に、俺とボブ機は左右に散開する。
AI機は2機とも固めて、先に着陸した輸送車両を守るように着地させる。
大型の盾を持っているのは、実はAI機だ。
だが、見慣れないその装備をしているファルケを、アイツらは人間が入っていると勘違いしてるらしい。
とりあえずはAI機には移動を始めた輸送車両を守るように移動させる。
コイツらは指示を出さないと、自由に動き出しちゃうからな。
今回の作戦、2機固まっていてくれた方が都合が良い。
更にはAI機に、突撃してくる白い機体に照準を合わせさせ、背部に追加装備させた2門の大型バルカン砲で牽制射撃だけをさせる。
敵の白い機体は、標準型でないAIファルケを警戒し、左手のライフルを乱射しながら右手で大剣を構え、勢い良く突撃してくる。
「おっと、まだ接近される訳にはイカンのよね。」
もう少し余裕を無くして貰わないとな。
俺はAI機のような回避行動を取りながら、さり気なくオートカノンを白い機体に数発撃ち込む。
[うわ!体勢がっ!一旦立て直す!]
[ちょっとケイ!何やってるのよ!シンに弾が向かってるじゃない!]
[わ、私はそんなつもりじゃ……。]
[そう言うアルスルだって、位置取り悪いんじゃ無いの~?]
ハハハ、賑やかで結構ですな。
だが、何の状況も理解出来んだろ、それじゃ。
俺とボブは致命にならない様にコントロールしながら、AIの様な動きで回避行動を主体にしながら、遠巻き且つ敵全体に向けて右腕のオートカノンと左腕のバルカン砲を撃ち込む。
砲戦仕様のアイリスの内の1機に、良い感じにバルカン砲が刺さる。
「こちらモノ、状況報告。
敵不明機、左肩装甲剥離、他損傷あれど健在。
アイリスA、背部砲身破壊。
こちら、装甲6割健在、消費、バルカンとカノン約半数。
報告終了。」
[こちらボブ、状況報告。
アイリスB放置により健在、アイリスC残弾恐らくライフルのみ。
こちら、装甲7割健在。消費、同。
報告終了。]
俺とボブで、淡々と状況を確認しあう。
敵4機の内の2機が、俺達を押さえ込もうと砲撃し始めたら回避行動に専念する。
残りの砲撃機の支援を受けて、またもや白の貴公子が飛び込もうとする。
だがその砲撃は全てAI機の大型盾に防がれ、お返しのバルカン砲の乱射で、白の貴公子は突撃のタイミングを無くす。
その立ち往生している隙に、俺達がこっそり白の貴公子に弾を撃ち込む。
[グォッ!?]
[このままじゃマズいよ!]
[奴等の基地に近付き過ぎてる!]
[どうする、シン!?]
……それにしても、無駄な会話ばかりだな。
こちらの状況を、コイツらは何一つ伝えていない。
自分達でジワジワと状況を悪化させ続けている。
これなら奥の手を使うまでも無く、コイツらを撃退出来そうだな。
<警告。不明機から高出力反応。>
マキーナからの警告が聞こえた瞬間、白の貴公子の機体が一気に赤熱化したかのように、赤い光を放つ。
左右胴体の廃熱口からは、恐ろしい勢いで熱が吐き出されている。
[このままじゃラチがあかない!
カリバーのG.O.Dシステムを使う!援護してくれ!]
[ちょっと、アタシもう弾が!!]
赤熱化した不明機が大剣を両手に持ち駆け出すと、俺達のローラーダッシュよりも早く加速し、AI機に向かう。
AI機2機の内1機が、横なぎで盾ごと斬り倒される瞬間、俺達側は、それこそAIですら誰も反応できなかった。
だが、2機目を唐竹割りにすべく両手で持った大剣を振り上げたとき、何とか俺のコマンドか間に合った。
「ファルケ4、シールドパージ!ホールド実行!」
AI機はシールドを捨てると、腹部に仕込んだミサイルの予備弾倉をジャラつかせながら、振りかぶっていた不明機に抱きつく。
「行くぞボブ!」
[「全弾発射!」]
俺とボブの2機で、9連短距離ミサイル、オートカノン、左腕部バルカンを一斉発射する。
機体の側面や背面に、奴等の仲間からの弾を喰らいまくるが、削っておいた効果が出ており、簡単には致命弾を貰わずに済んでいる。
これくらいなら、ここでアレを落とせる対価として安い代償だ。
[シンーッ!!]
不明機を中心に一斉に起きる爆炎。
それと同時に、右腕のオートカノンに奴等の弾が命中してしまい、爆発で俺の機体は激しく転倒する。
転がり、激しい振動が起きる機体の中でも、俺は勝利を確信する。
[やったか!?]
あ、馬鹿ボブお前、ここでそう言うフラグは……。
[クゥ……、カリバーの警告が遅ければ、俺はやられていたのか……。
しかし!仲間ごと撃つとは、卑怯だぞ帝国軍!!]
爆炎の中から、ズタズタになりながらも、足を引きずるように奴の機体が歩いてくる。
真っ白な装甲は見る影も無くボロボロで、左腕は根元から無い。
ただあの瞬間で、右腕の大剣を盾代わりにして防いだのか、右半身は比較的無事だ。
その代わり大剣を持っていた右手は、手首から下が無くなっている。
頭部も左半分が無くなっており、王国軍機特有のツインアイも片目になっている。
オイオイオイ、アレで落とせねぇとか、どんな化け物機体だよ。
「ボブ、まだ行けるか?」
[さっきの弾で脚部損傷だ。
歩けねぇが、固定砲台くらいにはなるぜ。]
それじゃ集中砲火で死ぬだろうが。
かく言う俺の機体も、ボロボロだ。
右腕のオートカノンはさっきの被弾でぶっ壊れているし、左腕部バルカンは倒れた衝撃で銃身が折れた。
肩のミサイルは空っぽで、無事なのは両胴の小型バルカンと片手斧くらいか。
左手で片手斧を抜きながら、機体を起き上がらせる。
<増援が間に合いました。>
マキーナの声が聞こえた瞬間、付近に砲弾が着弾する。
後方のカメラには、恐らく前線基地所属の能天使級AHM“タウベ”が、肩のキャノン砲から煙を吐きつつ、こちらにローラーダッシュしている姿が映る。
[ヤバいよ、シン、脱出しよう!]
[ここは退きましょう!]
[掴んだ!行くよ!]
[クソッ!卑劣な帝国軍め!次はこうは行かないぞ!!]
喧しい彼等は、最後まで喧しく去って行った。
とは言え、初戦を何とか生き残ることが出来た。
[やれやれ、まさか“前線で見ると頼りない”と噂の40tクラス能天使級が、こんなに頼もしく見えるとはな。]
俺とボブは安堵のため息をつきながら、合流する味方部隊に救助されるのだった。




