168:初任務と頼れる相棒
「総員傾注!」
夕食後、今回増員として補充予定のパイロット達が集められ、席に座らせられる。
宇宙船の艦長と補佐から直々に、今後の予定の話をしてくれるようだ。
宇宙船はその名の通り宇宙を航行するための船なので、ここから降下船という船に乗り込み、地上へと向かう。
降下船と言っても、完全に地上まで降りるわけじゃ無い。
降下船で目標近くまで行き、そこから物資等が投下される。
降下船までは基本攻撃されないが、投下された瞬間から、それ等は攻撃可能対象となる。
惑星N-3の地形は、何と言ったらいいか。
紙に簡単な地図を書くとしたら、左上と右下にそれぞれ大きな四角を書いて、中心の、2つの四角が交わりそうな位置に少し小さな四角を書いて全ての四角を土色で塗りつぶす、そんな書き方が1番分かりやすい地形だろうか。
その塗りつぶした左上の大きな四角が帝国領で、右下の四角が王国領、中央の小さめの四角が主戦場となり、それぞれの軍の前線基地がある。
小さめの四角と言っても、恐らくは元の世界で言うならオーストラリアくらいの大きさはあるだろうか。
大きめの四角は北米大陸以上はあるのでは無いだろうか?
一応、その他細かい島が大陸の周囲には存在するが、簡単に書くならそんな地形だ。
その、帝国領側の大きめの四角の中心に、この星の統括政府や本陣、城下町等が発展している。
降下船は幾つかに分かれるらしく、例の教皇と聖女は、まずは帝国領統括政府に降りるらしい。
その他各地基地へとパイロット達も補給物資と共に分かれて降りるらしいが、この中央にある小さな四角、いわゆる最前線へ降ろすパイロットを、まずは志願で募ると言うことだ。
帝国は人的資源が乏しい。
そのため、補充兵を失うよりかはと、前回は護衛に無人機のAHMを護衛としてつけ、後は前線基地の兵士に任せて物資を投下したところ、王国の部隊に見事妨害、略奪されてしまったらしい。
今回の物資が届かなければ前線基地の物資不足が深刻化し、王国への攻勢がまた伸びるどころか前線の維持すら危険なレベルらしく、苦渋の決断としてパイロットを付けようか、と言う話が出たらしい。
ただ、襲われる確率は高いため、志願者が出なければ前回同様、無人機で対応しようと考えているとのことだ。
「帝国としては、貴重な人材をむざむざ失うくらいなら、最終的には大量の物資を投下し、一部が届けば良いかとも考え始めたものている。
危険な任務であり特別手当はその分多く支払われるが、今回の任務を拒否したとして諸君等に罰則は無い。
さて、ここまでの話を前提とした上で、志願する者はいるか。」
「「自分が、志願致します!」」
立ち上がり、そう言ったところで誰かとハモったのが解った。
そちらを見ると、何とボブの奴が俺と一緒に立ち上がっているのが見えた。
っつーかお前、一緒の船だったのかよ。
「先の話を聞いて、尚行ってくれるんだな?」
宇宙船の艦長が改めて意志の確認を行うが、俺達の決意は変わらない。
「そうか、助かる。
……では、2名以外は解散とする。各自、指示があるまで待機せよ。」
皆がガタガタと席を立つ中、ボブに近寄り拳を合わせる。
「何だよ、モノもこの船乗ってたのかよ。」
「そりゃこっちの台詞だ。
っつーか良いのかよ?いきなり死ぬかも知れねぇんだぞ?」
ボブは眼鏡を人差し指で持ち上げながら、訓練生時代のようにニヤリと笑う。
「学校に行くには、学費が必要だからな。
今のうちから稼げるときに稼いでおかねぇとよ。」
「カッコつけんなよ、エセインテリ。」
笑い合いながらも、艦長から今後の話は真面目に聞く。
今回はフル武装のファルケで補給物資と共に降下、自動機動で前線基地に向かう物資運搬車を護衛すれば良いようだ。
AI機も2機ほど出してくれるとのことだが、あまり戦力としては期待しない様にと、注意を受ける。
艦長との打合せも終わり、ボブと共に格納庫の自機に向かう。
「とは言え、2人だけってのは確かにマズいな。
どうせ相手は4機1小隊だろうしな。
モノ、お前さっきから端末とにらめっこしてるが、なんかいい手あるのか?」
俺は手元の端末でAI機の設定をあれこれイジっていた。
そんな俺を見かねたのか、ボブは近くの自販機でカップのオレンジジュースを買って来てくれた。
「なぁボブ、このAI機さ、こんな感じでいっそ割り切っちまう装備に換えられないかな?」
「ブフォっ!!」
端末に設定したAIの装備を見せた途端、ボブが口に含んだオレンジジュースを吹き出す。
“汚えなぁ”と俺が怒るも、悪びれた様子はない。
「お前、相変わらず馬鹿だなぁ。
何考えたらこんな馬鹿装備を思い付くんだよ。
……待ってろ、この船で知り合いになった整備士のオヤジさんに、ちょっと相談してくる。」
俺の考えたAI機の装備。
それは貴重なAHMを使い捨てにする、普通はやっちゃいけない方法ではあるだろう。
ただ、AI機は余りにも“使えない”のだ。
どうせ“最悪撃墜されても仕方ない”と考えているなら、始めから有効活用させて貰う方が良い。
ボブは俺の端末をひったくると、若い衆に檄を飛ばしている整備士長に駆け寄り、何かを交渉している。
整備士長は最初呆れていたが、ボブと俺を交互に見た後、また若い衆に先程までとは違う指示を飛ばしていた。
「よし、OK貰ったぞ。」
ボブが満面の笑みでこちらに戻ってきて、俺に端末を返す。
俺の思いつきをアッサリ形にしやがって。
やるじゃねぇか。
「よし、命知らずのガキ共の為だ!時間がねぇぞ!
お前等、気張れよ!」
整備士達の動きがより早くなる。
その姿に感動を覚えながら、俺はコクピットに向かう。
言った以上は、成果を出さねぇとな。
[ファーストドロップ、開始!]
ファルケのコクピットに固定されながら、降下船の順番待ちをしていると、いよいよ降下が始まったようだ。
第一陣は、昨日会ったあの聖女様達の降下だ。
専用の超大型降下船と、護衛の降下船が十数隻だ。
[おーおー、金持ち聖女サマは違いますのぅ。]
傍受されにくい個人通信回線で、ボブの愚痴が聞こえる。
「止めとけよボブ。最近じゃ、個人通信回線を傍受する技術もあるらしいぞ。」
[怖いねぇ。……怖いと言えばよ、あの超大型降下船の中に、何かすっげえモノがあるらしいぜ?]
“誰から聞いたんだよ、そんな噂”と聞いてみると、整備兵の間でもっぱらの噂になってるとのことだ。
何でも教団は専属の整備兵まで連れてきているらしく、どんなモノかは解らないが“その人数からかなり大がかりなモノに違いない”と言うのが、整備兵間での噂話だと言うことだ。
「大がかりねぇ……。なんだろな?陸上戦艦とか持ってきたのかな?」
[んな馬鹿いるか。]
“そうだよなぁ”と返す。
仮に陸上戦艦を作るにしても、この星で作った方が安くて効率的だろう。
“偉い人の考えることは解らんね”と話していると、遂に俺達の順番となる。
[ラストドロップ、開始!]
宇宙船から飛び立ち、惑星N-3へと降下船が落ちていく。
空気との摩擦で機体表面を真っ赤に燃やすその姿は、この戦争で命を落とした者達の人魂か、或いは待ち人帰らずと聞いた者達の血涙か。
俺はそんな事を思いながら、これからの戦場に思いをはせるのだった。




