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異世界殺し  作者: Tetsuさん
鋼鉄の光
168/831

167:その目に映る姿

「おぉお、スゲェ、マジで宇宙旅行だ。」


パイロット候補生として訓練を受けた首都星を離れ、赴任先である惑星N-3に向かうため、俺は宇宙船の中にいた。

どんな科学技術か解らないが、移動中は防護板が解放され、窓からは宇宙空間が眺め放題だ。

中にいる人間用にか、展望用の部屋まである。

漆黒の闇の中に、輝く無数の星。

大抵の奴は見慣れているらしくすぐに寝床に戻っていったが、俺はその部屋で飽きる事無く外の景色を眺め続けていた。

しかも、やはり宇宙と言えばこの無重力だ。


靴の裏に磁石が仕込まれており普通に歩くことは出来るが、両足を離せばあっという間に宙に浮く。


子供の頃に戻ったように、飽きもせずに浮いたり着地したり、勢い余って“無重力における格闘技術”などを研究しだしたときに、やっと入口の人影に気付く。

控えめだが、それでも一般市民や俺達軍人が着る服とは違う、白いワンピースの様なドレスを来た少女。

スカートの裾は何か特殊な仕様なのか浮かび上がることは無く、重力のある地上と同じ様な膨らみと下がり方をしていた。


「あ、これは失礼致しました。」


服装からして貴族かそれに類する身分の女性だろう。

慌てて敬礼するも、彼女はクスクスと無邪気に笑っていた。


「ごめんなさい、覗き見るつもりは無かったんですが、貴方が何か真剣に踊り出してしまったから、ちょっと声をかけづらくなってしまって。」


うわ、格闘技術の研究してるところをバッチリ見られとるわ。

“お恥ずかしいところを、失礼しました!”と、改めて敬礼すると、彼女はまた“気にしてませんよ”と笑うのだった。


「あぁ、自己紹介が遅れました。

私はこの船に便乗させて頂いております、サラ・ロズノワルと申します。」


その自己紹介で思い出す。

確か、今回の定期便には何とか言う教皇とこのサラ姫様が、これから行く惑星で慰労を行うとかって言う注意が出ていた。

そのせいか、通常よりも護衛艦の数も多くなっているという話だ。

国家条約で宇宙船を襲うのは禁じられているが、国家の枠組みに無い相手にはそれは通用しない。

広大な宇宙国家と言うのは、それだけ隙も多い。

宇宙海賊もやはりいるらしく、その為にも護衛艦は必要なのだ。


「あ、失礼しました。自分はセーダイ・タゾノと申します。」


再度敬礼しながら、ちょっと珍しいモノを見た気持ちになる。

いくつもの異世界を渡り歩き、何となく毎回見聞きする名前がある。

王国や帝国の名前は微妙なところだが、キルッフやキンデリック、転生者の隣によくいるアルスルやオルウェンという名前などが、それに該当するだろう。

今までの体験からの推測ではあるが、この毎回見かける名前こそは、あの“神を自称する少年”の手によってベースとなる世界から、転生者に都合の良い存在に作り替えた時に設置される、ある種の指定キャラクターなのではないか、と考えていた。


ただ、多くの転生者が“過去にやったゲームで~”だったり、“過去に見たアニメで~”という話を聞くと、この世界が改変しているのか、転生者の記憶が改変されているのか、或いはその両方なのか?

それの判断はまだ出来ないでいた。


複数の転生者から聞いた幾つかの作品、“マーブの木物語”や“俺達恋の特攻野郎”、はたまた“マジカル☆フィギュアラバーズ”等々を、俺は殆ど知らない。

いや、“俺達恋の特攻野郎”は知っていたが、改めて考えてみると、あんな名前の登場人物だったろうか?という疑問が残り続けていた。

殆どの世界で“同じ世界観・同じ名前の人物”が出ているのだが、それを転生者達は“自分の世界にあった作品”と認識していた。

昔、誰かから“ベースとなった世界を複製し、転生者の要望に添うように作り替える”と教わった気がする。

だとすると、ちゃんとここまで進化した“マスターデータ”の様な世界が存在していて、転生者の要望に合わせた時代を切り取り、転生者の記憶と共に少し加工しているだけ、と言うことだろうか?


話は逸れたが、その中において“サラ・ロズノワル”というキャラクターも、やはりある程度の世界では時々見かける名前だ。

その役どころは“悪女”とか“ワガママ姫様”だったり“お転婆お嬢様”みたいな活発なキャラクターとしての役回りで、大抵の世界では固定されていた。


何時ぞやの世界で、転生者がサラ・ロズノワル本人になっているときは別だったが、大抵の世界では役回りや性格は似たような存在であり、こんなお淑やかな性格ではなかった筈だ。


「貴方がタゾノさんでしたか。お噂は聞いておりますよ?

何でも今年の首都星候補生で、ナンバーワンだったとか。凄いですわね。」


そう言ってにこやかに笑う顔にも、違和感を感じる。

まぁ、たまたま違う役どころなのかも知れないし、もしかしたらベースとなっている世界にもロズノワル家というのは存在していて、本来のサラ姫様はこういう性格をしているのかも知れない。

俺が気にしすぎなのか。

……それでも、酷く気になる。


「あの、いや、えっと。」


言いよどむ俺に、サラ姫様は“どうかなされました?”と小首を傾げる。

マキーナが修復している、この右目の影響だろうか?

先程からこの少女の表情が二重に見えているのだ。

ここまで気になるなら、いっそ聞いてしまえば良い。

俺は意を決する。


「あの、何故貴女は泣いている(・・・・・)のですか?」


瞬間、突き刺すような殺意がブワリと吹き上がり、俺の全身を粉々に切り裂く幻覚を見る。

思わず飛び退り、構えを取ってしまっていた。


左の肉眼には氷の彫像のように無表情のサラ姫が映るが、右目に映るのは憤怒?怯え?憎悪?

そんな表情が複数映り、ぐちゃぐちゃだ。


「私が泣いている?何故そのようなことを?」


氷の彫像がその言葉を吐いた瞬間、全ての感情がスッと消え、元のにこやかな表情に戻る。

殺意は無くなり、最初の時のようなボンヤリとした空気が周囲に広がる。


「ふふふ、おかしな人ですね。

それでは私は用事がございますので、これにて失礼致しますわ。

基地では皆様の前で歌を歌わせて頂くので、是非お聞きにいらして下さいね。……約束ですよ。」


そう言うと、展望室を出て行った。

俺は構えたまま、声も出せずに固まってしまっていた。

強ばった体から力を抜き構えをとくと、一気に嫌な汗が噴き出す。


久々に味わった。

腕力では俺の方が強いだろう。


だがあの一瞬、確実に殺されたと思うほどの殺意だった。

この帝国では、彼女は“救国の聖女”と呼ばれている。

だが肝心の聖女は、心にあれ程の真っ黒な闇を抱えているのか。


「マキーナ、俺の右目に何してるんだ?」


<修復コマンドを実行中です。

パイロットとして機体にリンクしていない状態では、私の能力がオーバーフローを起こしている可能性はあります。>


先程の目に映ったモノ、あれは多分マキーナの影響だろう。

気になってマキーナに聞いてみたが、やはり想像通りだった。


「オーバーフローって、つまりはどういうことだよ?」


<ワタシの見えているモノが、勢大にも見えてしまっている、と言うことです。>


何とまぁ。

言わんとしていることは詳しくは解らないが、体験した感じでは“その人間が感じていることをそのまま視ている”と言うところか?

或いはその人間の“本質”に当たる何かを見ているか、か。

違うかも知れないが、多分はそんな感じなのだろう。


「まいったねぇ……。」


星々が瞬く展望室で、俺は一人ため息をつくのだった。




「ブリュンヒルデ、いや、サラ姫よ、例の候補生とは接触出来たか?」


宇宙船の中にある貴賓室。

宇宙を航行する船にはあまり似つかわしくない、高級な木をふんだんに使った室内で、天蓋付きのベッドに寛ぐ蛙のような男は、自分の股間に顔を埋める、白いワンピース姿の少女にそう声をかける。


「はい、接触しましたが、非常に勘の鋭い、気持ちの悪いガキでした。」


自分への奉仕を中断し、無表情にそう返す少女を満足げに眺める。


「フォッフォッフォッ。お前にそう言われるとは、何とも見込みの無い男だの。

ともあれ、我等の理想を実現するためには、手駒として持っておく必要がある。

引き続き接点を持ちなさい。」


男が指示すると、少女は白いワンピースを脱ぎ捨て、全裸になる。

その姿を満足げに眺めた男は、ベッドに横になる。


「あのような気持ち悪い男が優秀とはとても信じられませんが、帝国も王国も潰し合い、殺し合ってくれる駒になるなら、喜んでこの身を捧げますよ。」


「フム、聖女としてその言葉遣いは頂けないな。

どれ、いつもの様にお前に愛を教育してやろう。」


ベッドに横たわる男に、言われたとおりに跨がる。



「……つまらない。」



少女の呟きは、快感に酔い痴れる男には届かない。

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