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異世界殺し  作者: Tetsuさん
鋼鉄の光
161/831

160:戦争準備

[オラ“初物(チェリー)”!そんな走りじゃ卒業前に戦争が終わっちまうぞ!!]


地響きをとどろかせ、巨大な人型機械が列をなして荒野を走る。

先任曹長も教習機に乗り、列の側面を併走しながら罵声を飛ばしている。

今罵倒された奴は“顔がソレっぽい”と言う理由だけでそのあだ名を付けられていた気がする。


[どうした単眼(モノアイ)!遅れだしたぞ!!]


先任曹長の罵声が無線機越しに響く。

重心の移動、大地を蹴る力、着地の入り、バランスを取るための両腕の振り、速度。

大分慣れては来たが、今でも油断すれば操縦をミスり、処理情報の多さに脳がパンクしそうになる。


「サー!だ、大丈夫であります、サー!」


[大丈夫ならサッサと追いつけ!!]


仲間に追い付くべく、俺は少しだけ出力を上げる。

本来、アームでこうして走る必要はあまりない。

むしろ、重量級のアームの場合、長時間の走行は関節部分を痛める行為だ。

通常は足裏と(かかと)に仕込まれている大型の金属製ローラーを使い、地上を疾走する。

ただこれはローラーが使用できないことを想定した訓練のため、皆必死にバランスを取りつつ機体を走らせていた。

俺ですらも、両足の筋肉が悲鳴を上げている。

他の奴はもっとしんどく感じているはずだ。


[ようし、ランニングはここまで!

これより折り返し、ローラーダッシュで格納庫に戻ってよし!]


[[[サー!イエッサー!]]]


不思議なもので、半年も一緒にいると同じ返答でも、今は“助かった”という感情が、皆から滲んでいるのが解る。


ただ、これは罠だ。


「皆、待……。」


それを告げる前に、我先にと皆はローラーの回転音を響かせながら加速する。


加速して地上を走り出した途端、オートでの走行移動では気付きにくい、地面の凹凸にローラーが弾み、衝撃を吸収しきれずに次々と転倒を始める。


[貴様等!そんなにローラーを使うのが嫌いか!

ならば転倒した奴は帰りもランニングだ!

他のも助けるんじゃ無いぞ!]


ちょっとだけ、先任曹長もしてやったりの声色をしている。


俺はそんな皆を尻目に、転倒した機体を回避するため、左右に迂回しながらローラーダッシュで安全な道を走る。

要領の良い奴等は、俺の通った道を着いてくる。

少しだけ、なるほどと思う。

オートでは複雑な地形でも機械が選んで安定した場所を踏んでくれる。

ただ、1度通った“走りでは安全な道”をローラーダッシュしようとすると、AIの中では“通るのに問題ない道”と認識してしまっているのでは無いか?

この教習機は古いAIを使っているらしいから、最新のAIではこの問題も解消されているだろう。

だが、先任曹長はこれを教えたかったのでは無いか?

“アイツに勝つにはAIの穴をつけ”

こう言う事だろう。

まだまだ考えが甘い、訓練の意図を常に読まなければ。


[オラどうした太っちょ坊や(ファットボーイ)!足が動かなくなっているぞ!もう走れんのか!]


ローラーダッシュで格納庫前まで来ると、無線機に先任曹長の怒号が響く。

即座にUターンし、足を引きずるようにして走ろうとしている仲間の元に駆けつける。


[貴様!単眼(モノアイ)!手助けする気か!]


「サー!ノー!サー!

友軍機を担いで走るための訓練の許可を頂けますか、サー!」


無線機から、微かに笑う声が聞こえた気がした。


[よし、許可する!]


足を引き摺る仲間の機体の腕を取り、肩を貸す。


[悪ぃ、モノ。]


「良いって事よ。」


機体バランスに気を配りつつ、一緒に走る。

マニュアル操縦にし続けて解ったことだが、マニュアルにするとこう言う応用が簡単に出来る。


これも、オートには無い利点だった。


走り出すと、もう1機の訓練機がローラーダッシュで駆け寄ってくる。

たしかコイツは先任曹長から“ボブおじさん(アンクル・ボブ)”とか呼ばれていた、色黒で眼鏡をかけたインテリだったか。


[モノばっかりに良いところ持ってかれちゃ、たまんねぇからな。]


ファット機の反対の腕を取り、一緒に走り出す。

……コイツ、事も無げにその瞬間だけマニュアルに切り替えやがった。


[オマエを見て俺も勉強したんだ。どうだ、スゲェだろ。]


ボブの自慢げな声が無線機から聞こえる。

あぁ、マジでスゲぇよ、オマエ。


「それなら先に教えてくれよ。」


[模擬戦までの秘密兵器にしときたかったんだ!]


ソレを聞いて、お互い笑う。

それもそうだ、思い上がっちゃいけないな。

俺に出来ると言うことは、他の奴にも出来るって事だ。

これが実戦なら、もっと思いも付かない事も、相手はやって来るかも知れない。

もっと知識が必要だ。

本当に、一分一秒も無駄に出来ない。


翌日、そう思ったのは俺だけでは無かった事を思い知らされる。

いやいや訓練を受け続けた仲間達が皆、昨日の俺とボブに刺激されたのか、座学とトレーニングに必死になるようになっていった。

先任曹長が煽り、皆が必死に課題をこなす。

それは青春の一コマでもあり、人殺しの兵器に順応していく、狂っていく過程なのかも知れなかった。


「よぉし貴様等集まれ!マスかき止め!

今日は良い子にしてる貴様等に素敵なプレゼントがあるぞ!」


先任曹長が台車に何かデカイコンテナを運んでくる。

全員整列して待機していると、コンテナをあけ、無造作に中のモノをそれぞれに放る。


受け取ったモノは、新品のヘルメットだった。

それも普段教習用に使っていたジェットタイプのメットでは無く、顔の正面まで金属で覆われた、フルフェイスとも違う全てが金属製のヘルメットになる。


それが見た目も含めて近いモノを上げるなら、例えば汎用人型決戦兵器の3号機の顔だったり、DEADなSPACEの技術屋が身に付けてるスーツのマスク、或いはタイタンがフォールしてくるパイロットが着けるメット、といった所か。


「それが軍から貴様等に与えられた、生涯使うことになるヘルメットだ。

そのメットにはAIが搭載されていて、アームでの補助・サポート機能、メット自体を自動修復する機能が付いていて、貴様等より遙かにお利口さんだ!

しっかり名前を付けて、生涯可愛がれ!」


歓声と共に皆新しい玩具を買ってもらった子供のように、夢中になって被ると初期設定を始める。


“これで、ロボット戦(ひとごろし)の準備が整っちまったな”と、少しだけ後悔しつつも、メットを被り設定を行う。


このメット自体がナノマシンの塊であり、脳内の神経伝達にダイレクトに繫がるらしく、視界がメットのカメラアイと同期する。

無いはずの右目が、まるで普通に機能しているかのような視界に驚く。


「どうだ単眼(モノアイ)、これを着けている限り、オマエの両眼が使えるかのような視野になるんだ。」


驚きの声が漏れた時に、先任曹長が誇らしげにそう告げる。

なるほど、これもある意味“軍用義眼”という奴なのか。


一応、感謝の意を伝えると、“ウム、ウム。”と、先任曹長は少しだけ嬉しそうだった。



<初めまして、マスター・セーダイ。私はサポートAI、バージョン872です。

名前の設定をお願……。>


野太い男性の声を模した機械音声が止まる。

あれ?と思った瞬間には、ヘルメットから複数の声が聞こえた。


<上位AIに権限を移譲。バージョン872は上位AIの指示に従います。>


<制圧完了しました。

バージョン872はこれより(マキーナ)の管理下に置かれます。>


何してんのマキーナはん!?


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