157:龍の伝説
むかしむかしあるところに、ちいさな星がありました。
そこに生きる人々は、せまくてくるしいきもちで、いつもいっぱいでした。
あるとき、そらへとびだすちしきを人々はみつけました。
さっそく人々は、せまくてくるしい星をとびだしたのです。
さまざまな大冒険をして、あらたな星を次々にかいたくしていき、ついに人々はしあわせになりました。
人々は5つの国をつくり、へいおんにくらしていました。
しかしあるとき、ロズノワルという国のおうさまが、“せかいはわたしのものだ”といいはじめ、“竜胆”というなまえのつよくておおきな龍をしたがえ、すべての国にこうげきをはじめました。
「こまったぞ、こまったぞ。」
3つの国のおうさまたちは、こまりはて、帝国にそうだんしました。
しょだいアンヌン皇帝は、“みんなでちからをあわせてロズノワルをたおそう、そして龍をふういんしよう”と、みんなにはなし、みんなの力をひとまとめにしました。
こうしてロズノワルのおうさまはたおされ、竜胆という龍も、“わたしはつかれた、ねむりにつこう”といって、ふういんをうけいれたことにより、せかいにへいわがおとずれたのです。
こうして、いちばんかつやくした帝国を神様もおみとめになり、“ロズノワルがいたばしょは、帝国がただしくかんりするように”と、おつげになられました。
ところが、おうこくのおうさまは、それががまんできませんでした。
「ロズノワルのとちは、わたしたちだけのものだ!」
おうこくがわるいこころをもち、正義の帝国にこうげきをはじめたのです。
帝国がもうだめだとおもったそのとき、ふういんされているロズノワルの龍がさいごのちからをふりしぼってひとなきし、おうこくのへいたいさんはどこかにつれさられ、ぶきはすべて竜胆の花にかわってしまいました。
そのご、パパとママのいうことをきかない子には、ロズノワルの龍がやってきて、つれさってしまうのでした。
これをよんでいるみんなは、パパとママのいうことをよくきいて、ロズノワルの龍につれさらわれないようにしましょう。
わるい子は、ロズノワルの龍がやってきて、つれさってしまいますよ。
読んでいた童話の本を閉じる。
結構な量の本を読み漁り、大体の社会情勢は把握出来た。
この世界は凄い。
元の世界の発展した先の、まさしく未来世界だ。
人類が地球に居た頃、火星探索にて“エーテル粒子”を発見したことが、全ての始まりだった。
そこから宇宙開拓が大きく進み、最初は火星への“地球化計画”が進行される。
暫定的な火星政府が樹立し、地球と火星の貿易が活発になった結果、地球対火星という、初の宇宙戦争を経験する事になる。
その戦争が、皮肉にも技術革新を生み、新たな時代を迎えていた。
戦争から得た新技術で、ワープホール航法が発見され、更なる宇宙開拓に進んでいくのだ。
幾つもの星々に人々は移住し、その頃にはもう、地球にあった古い国家の垣根を越えて、今の各国家の基盤となる5人の資産家が宇宙開拓へと進んでいく。
我先へ、時に相手の領土となった惑星を襲いながら、半径200光年の範囲を我が物とした人類。
その頃にはもう、かつての地球は“元母星”と呼ばれており、年号も“新光暦”と呼称されていた。
“元母星”は不可侵の独立保護宙域に指定されており、それを起点に円錐、または円柱形に各国家の支配領域が存在する。
俺のいるアンヌン帝国、多分転生者が居ると思われるダウィフェッド王国、他はシロニア連邦国とアブド連合と、今はその4つの国家が存在するようだ。
昔はこれにロズノワル共和国も存在していたようだが、童話にあったように滅亡している。
ただ童話と違うのは、ロズノワル共和国の技術力の高さが気に食わない帝国が、王国と同盟を組んでロズノワル共和国を滅亡させ、技術を独占しようとした事だろうか。
ついでに、最後には完全なる独占を狙い王国側にも襲いかかり、童話にある通り壊滅させられたのは、実は帝国軍だったと言うところが、何とも皮肉がきいている。
恐らく国土荒廃を食い止めるために、ロズノワル共和国の最後の軍隊が、帝国に一矢報いたと言うところだろうか。
ただ、その事象は帝国内だけで無く、王国でもトラウマになっているようだ。
現に、ほぼ領地を失ったとは言え帝国と王国の境界線、“元母星”から最も遠いところに、今もひっそりとロズノワル領が存在している。
黒薔薇の庭園と呼ばれるそこは、ある種の不可侵宙域として指定されているようだ。
ただ、ロズノワル共和国を滅ぼすために行われた“第一次ロズノワル世界大戦”、と銘打たれたそれと、その後に起きた旧ロズノワル領土をめぐる4か国の戦争“第二次ロズノワル世界大戦”により、結果的に世界は、その文明をかなり後退させてしまったようだ。
研究施設、生産施設、研究者の暗殺等、血みどろの戦争が行われた結果、ワープホール航法技術や宇宙船造船技術、その他の多くの科学技術が衰退し、文明も各惑星で開きが出るような世界になったらしい。
そのため現在はワープホール、並びに宇宙船への攻撃は禁止する条約が各国で締結されている。
現在の戦争形態、武力を用いた争いを行う場合は、大雑把に言えば“惑星内における武力の行使のみ”が許可されている状況のようだ。
また、衛星軌道上からの地表攻撃も禁止されており、とどのつまり、戦争は旧世紀のソレと大差ない様相を呈していた。
旧世紀のソレと違う点としては、戦車や戦闘ヘリの代わりに、武装 人型 機械、俗称でAHMと呼ばれる戦闘用ロボットが活躍している、という所だろうか?
火星改造の際に使われていた作業用の人型 機械、通称でHMと呼ばれていたそれが、後の宇宙開拓において作業用や艦船護衛、その他汎用の兵器としてAHMと呼ばれる様になったらしい。
AHMは10tから100tの、おおよそ10t単位の重量で分類されている。
足裏の大型球形ローラーで、戦車の様に高速移動が出来、陸上制圧能力は高い。
しかもジャンプ機構を備えた機体などもあり、それを使えば三次元的な機動が出来るなど、元の世界の兵器とは一線を画している。
仕様の換装によって宇宙や水中でも使用できて、備え付けられた腕部で人間以上の土木作業もこなせる。
足があるため不整地でも問題なく動け、ジャンプ機構で崖や谷も乗り越える。
元は複雑な地形の火星に対応するための機動力が、突き詰めればこんなにも利便性を発揮するのかと感動すら感じたが、同時にやってることはソレを使って戦争で人殺しという、人類の進歩のしなさも感じられる結果にはなった。
だがまぁ、読み漁った甲斐はあった。
第二次ロズノワル世界大戦で消耗した軍備を増強すべく、帝国は割と強引に兵員補充を行っているようだ。
昨日の広報官らしき女性が“適性があれば目の怪我も問題ない”と言っていたのは、こう言う事も含まれているだろう。
借金の返済もあるし、折角のIDカードだ。
どこかで転生者に会う必要もあるし、まずは受付庁舎とやらに行ってみるか。
色々決めて立ち上がろうとすると、腹の虫が鳴り出す。
そういやここに来てから何も食ってなかった。
マキーナに確認すると、そこそこの所持金はあるらしい。
図書館に設置してある自動販売機で水のボトルを買うと、近場の露店をまわる。
牛串なんて贅沢は言わないが、せめて安全そうな肉でも食いたい所だが……。
見つけてしまった。
何と書いてあるか解らない看板。
“今日のオススメ肉、入ってます”
何の肉だかサッパリわからないメニューボード。
震える声で“こ、この肉は何の肉ですか?”と、陽気なドレッドヘアーのお兄さんに聞いたところ、
「オゥ、ウチはぁ、安全なお肉、使っとりますネン!」
という、要領を得ない返事。
謎肉屋だっ!!
即購入の判断を下す。
回転しながら炙られている肉をナイフで削り落とし、キャベツのような野菜と共に薄いパンで挟み、これでもかと調味料をかけてくれる。
“まるでケバブのような食い物だなぁ”と感じつつ、1口齧る。
噛みしめる度に溢れる肉汁を感じるが、キャベツのような野菜の食感がそのしつこさを打ち消して口の中を爽やかにする。
単調な塩胡椒の効いた肉に、かけられたケチャップのような調味料とマスタードの様な調味料がアクセントとなり、甘味と辛さの交互の刺激で飽きを来させない。
ふと気付けば、手元には包み紙だけが残っていた。
“もう一つ頼もうかな?”という気持ちになったが、ここは我慢して受付庁舎とやらに向かうべきだろう。
名残惜しい気持ちを抑えつつ、腹を満たした俺は受付庁舎に向かうのだった。




