152:デスゲーム開始
「……これ、デモンストレーションなんですか?
ええと、あなたを何と呼べば良いですかね?」
皆が騒然となり、悲鳴が飛び交う。
そんな中で、突然人が変わったように落ち着いたサラリーマンさんが質問をしている。
いや、ホスト風ギャル男が死んだ瞬間は皆と同じように驚いていたが、メンタルが強いのか少し考え込んだ後、すぐに落ち着きを取り戻した様に見えた。
<あぁ、僕は今回のゲームを取り仕切るゲームマスター、そうだねぇ、気軽に“GM”って言ってもらって良いよ~ん。ハハッ!>
GMを名乗る兎キャラは、そう言うと爽やかに笑う。
何となく、兎で良かったと思う。
鼠なら危険な予感がしたからだ。
<あ、それと今のはデモンストレーションで死んで貰っただけだからねぇ~。
そんなに気紛れでスイッチは押さないから、安心して良いよ~ん。>
兎のGMはそう言うと満足そうに俺達を見渡す。
「こ、こんな事をして、オマエの目的は何だ!
こんな事、世間が黙ってはいないぞ!」
何だ?何でそんなにアッサリしているんだ。
人を一人殺しておいて、何が安心して良いよ、だ。
俺は思わず画面の兎に怒鳴っていた。
そうだ、こんな残酷な事をしておいて、世間が黙っている筈が無い。
記憶には無くとも、俺の両親やここに居る人達の関係者だって黙っては居ないはずだ。
<ん~、そうだねぇ、世間ねぇ~。
……じゃあ、これが今も世間に放映されているとしたら、君達はどう思うかなぁ~?>
その発言で、先程まで怯え騒いでいた皆が沈黙してしまう。
それはそうだ。
こんな不条理なことが、国家公認で実施されているのだ。
それはつまり、ここからの救助は実質的に不可能と知らしめられた様な物だ。
「あ、そう言うの先に言っちゃう系なんだ。」
サラリーマンさんだけは、場にそぐわないノンビリした口調でそう呟いてた。
<さぁ、君達は選ばれた勇者です。
頑張って皆で協力するも良し、自分が生き残るために他者を蹴落としても良し!
楽しいゲームが、始まるよぉ~ん!>
モニターがまた上に上がり、天井にピッタリとはまり黒い線となる。
すると、正面の扉が音も無く開く。
これは、次の部屋に行けと言うことなのだろう。
サラリーマンさんが先に次の部屋に行き、皆に安全を伝えてくれた。
ここに居ても始まらない。
俺達は、次の部屋に移動した。
「ねぇ、あなた、何か覚えていることは無いの?」
移動しながら、長い黒髪の女の子に声をかけられる。
見た目は俺と同じ様な年齢、多分高校生位だろうか?
「いや、何も解らないんだ。……君はどうだ?」
“私もよ”と短く返されると、沈黙が流れる。
歳が近そうだからだろうか、もう1人の坊主頭の学生服の男も、そっとこちらに話しかけてくる。
「そっちの2人もか。
やっぱり皆、記憶が無い状態なんだな。」
言っている言葉の意味が引っかかり、何か知っているのか訪ねる。
「あぁ、ボンヤリとなんだが、俺にはこの風景の記憶があるんだ。
気を付けろよ。
あまり仲良くし過ぎると、後々困ることになるかも知れんぞ。」
その言葉の意味を考えながら、俺達も部屋に入る。
茶髪で色黒の、いかにもギャルギャルしいお姉さんは最後まで入ることを拒んでいたが、首輪の音声が鳴り出すと慌ててこちらの部屋に来ていた。
部屋に入ると音が止まったところを見ると、指定された部屋には移動をしないといけないようだ。
部屋に入ると、モニターには問題文が表示されている。
[1+1=?]
と書かれた文字が見え、その下には答えの選択肢らしき物が並ぶ。
1.2
2.(□の中に+の記号が描かれている)
3.11
4.1+1=?
その下には、“正解と思う扉へGO!”とだけ書いてある。
「何だぁ?ここの奴等は、俺達が算数も出来ねぇと思ってやがるのか?」
「ま、待って欲しいでござる。これ、ただの算術問題とも書いてないでござる。
もしかしたら引っかけで、とんちとかクイズとか、そういう方かも知れませんぞ。」
鳶服のオッサンが呆れているが、太っちょのオタク氏がそれを諫める。
確かに、問題文には、“正解と思う扉へGO!”としか書いておらず、解き方に関してはどうしろとも書いてない。
皆の意見が分かれる。
ただの算術ではないのか?
発想クイズ的なモノでは無いのか?
黒髪の女の子や鳶服の男性、坊主頭の彼は算術問題側で、オタク氏とギャルの女性はクイズ側のようだ。
ただ、俺としてはこれはオタク氏の言うとおり、ただの算術問題ではない気がしていた。
坊主頭の彼も同じ意見だ。
なので、実際は4番の「1+1=?」が正解では無いか?と、疑っていた。
これなら、例えばこのゲームに参加させられた人間がこの足し算が出来なくても問題を解くことが出来る。
黒髪の女の子も賛同してくれた。
結局、俺達学生服の3人は4番、オタク氏と茶髪ギャルは2番、鳶服のオッサンは1番で意見が割れる。
皆の意見が纏まらず、“なら別々の部屋に入るか”と言う結論になりかかったときに、サラリーマンさんが口を開いた。
「あー、GM、聞こえてますか?」
<聞こえているよ~ん。僕に正解を聞いても無駄だよ~ん。>
音声だけではあるが、まぁ、想像通りの回答に、皆が“何してるんだこのオッサン”という目を向ける。
その目を気にせず、サラリーマンさんは続ける。
「この問題、算術なのかとんちなのか同形状認識なのか、見方によっては全てが正解のようなんですが?」
何を言っているのか。
当たり前だろう。
そうして俺達の意見を割れされ、引き裂こうとしているのではないのか?
「こういう場合、プレイヤーが袋小路に落ちないようにGMが誘導してやらないと、ゲームとして成立しないと思うんですよね。
これあなた他のゲームなら、クソGMと罵られても文句言えないと思うんですが。
これ、問題を設定されたそちらの落ち度ですよね?」
堂々と発言するその姿に、一同は驚き、慌ててサラリーマンさんを止めに入る。
GMの機嫌を損ねて、巻き添えになって首輪を爆破されたらたまらない。
だが、そう止める俺達に対し、サラリーマンさんはどこ吹く風とばかりに冷静だ。
<へぇ、口答えするんだ?じゃあ君も爆破しちゃおうかなぁ~?>
案の定、俺達の想像通りの回答がスピーカーから流れる。
皆が慌ててサラリーマンさんから離れる。
それでも、サラリーマンさんは譲らなかった。
「ゲームをやって、正解なら生存、不正解なら死亡。
理不尽だがルールがあるから解る。
先のホストみたいな男性、あれもデモンストレーションと言うことであれば、まぁ選ばれてしまった彼は不幸だが、ギリギリ理解は出来る。
でも、こちらが確認したい疑問点を口答えと捉えて殺しちゃうなら、それはもうゲームという枠組みから逸脱してるでしょう。」
<……何が言いたいんだい?>
スピーカー越しでも、GMが不機嫌になるのが解る。
いつサラリーマンさんの首輪が起動するのか、俺達はハラハラしながら部屋の隅に蹲りながら見守る。
「だから、ルールがあるならルールを守れ、ルールに不備が有るなら是正しろ、でなきゃさっさと全員殺せ、と言ってるんです。
だって、あなたの気分次第で殺せるなら、このゲームやる意味ないでしょ?
意味あるものにしたいんだったら、問題に不備があるんだから是正しなさいよ。」
しばらくの沈黙の後、スピーカーからまたGMの声が流れる。
<い、良いでしょう。……問題不備と言うことで、ヒントをお伝えします。
“この問題は、目に映るモノだけが真実”です。>
口調が変わるくらい動揺しているのがわかるが、皆それを聞いて、俺達が言っていた4番が正解だと気付く。
全員、4番の扉を押し次の部屋へと進んだ。




