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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の剣
15/805

14:ある意味初めての異世界

転送された先は、森の中だった。


早速持ち物をチェックしたが、マキーナの紋章が彫り込まれた名刺入れだったモノもしっかりあった。


少し驚いたのは、それ以外は前の世界に転移した時と同じ状態だったことだ。

通勤鞄の中には、前の世界で止血に使って血塗れだったタオルも、使う前の綺麗さに戻っていた。

胸ポケットに入っている煙草も、前の世界で彼と俺とで一本ずつ吸ったはずなのだが、元の本数に戻っていた。


(持ち物は入る前の状態に復元されるっぽいな。)


そう考えると、そこに割り込みをかけているマキーナはあの“自称神様”が想定していない持ち物、ということになるかも知れない。

これには何らかの意味があるはずだ。


そんなことを思いながら周囲を見渡していたが、木と草しか目に付かない。

少し歩くかと数歩進んだ先に、日の光が差し込む開けた空間を見つけ、ここよりは落ち着けるかな?と思い、草木をかき分けそちらに移動する。


スーツ姿で森をかき分けて進むその姿は、(はた)から見るとかなりの不審者だろう。

かといってマキーナを着るのは、もっと不審人物に見えかねない。


どうしたもんかと悩みつつ、まぁあそこで煙草でも吸ってから考えるかぁ、とノンビリ近付くと、何故開けていたのか理由がわかった。


「襲われた……?のかなぁ?」


見た目の作りが高級そうで、4人、詰めれば6人位が乗れそうな馬車が、車輪が破壊されて横転していた。


周囲には汚い身なりの雑多な装備の男達が十数人、同じ革の鎧で統一された装備の男達が数人、血塗れで倒れていた。


少し調べたが、誰も生きてはいなかった。


(汚い格好の方が盗賊的な奴等で、革鎧側は護衛的な立場なのかな?)


ナンマンダブナンマンダブと適当に手を合わせると、早速使えそうな物は無いか所持品を漁る。

良心は咎めるが、この世界の持ち物は本当に何も持っていない。

先立つものが無ければ世界に溶け込めない。

死体漁りのような真似でもしなければ、マジで強盗か追い剥ぎでもしなければならないと考えていたのだから、これは渡りに舟だった。


懐の所持品を次々と漁り、銀貨と銅貨、それと小さな板状の銅板っぽいものをそれなりに回収する。

液体の入った小瓶に丸薬、草の包みに入った干し肉が幾つか。


装備も良さげな剣を一本拝借し、馬車の中にあった野営道具一式が入ったリュックとやや汚れたマントも拝借。


ついでに革鎧も拝借しようと思ったが、何やら紋章の様なものが入っていたので、足が付きそうだからと止める。


<スキャン、取得物品二害虫等ノ存在ナシ>


突然マキーナが起動して焦ったが、そう言えばそうだ。

ノミやダニが付いてる可能性を失念していた。


草をかき分けている最中に服に付いていないかと心配になり、慌てて全身をスキャンしてもらったが、何か付いていると言うことは無さそうだった。


(そういう世界観なのかな?)


ならば優しい世界観と言うことだ。

少し安心しつつ、馬車が来たであろう方向に向かうと、道らしきものにも遭遇した。


轍が急速に曲がり、先程の場所まで続く跡が残っていた。


(向こうからあっちへ行こうとした最中に襲われ、道を外れてさっきの所に追い込まれた?かな?)


なら轍の残っていない方に行けば、彼等が行こうとした村か町があるだろうと当たりを付けて、マントを羽織り歩き出す。


(前回のが異例で、普通はこうだよなぁ)


などと場違いな事を考えながら、この異世界を歩き出した。




体感的に2~3時間は歩いただろうかというところで、簡単な木の柵で囲われた村っぽい、人が住んでいそうな建物群が見えた。

どの家も藁葺き屋根の様な作りで、ファンタジーな田舎感がよくわかった。


村の入り口とおぼしきところに掘っ立て小屋があり、窓から老人がこちらを見ていた。


「おや、この辺鄙な村にまた旅人とは。

最近は何か変わったことがあったんですかのう?」


何故か言葉がわかることに安堵を覚えながら、たまたま通りがかった風を装い、先の質問の意味を聞いてみた。

なんでも、数日前にも俺と同じ様な黒髪の、まるで騎士様の様な格好をした若い男が、フードを被っていたが美人で高貴そうな女性と、この村に来たらしい。

その際たまたま村に凶暴な熊の魔獣が出たが、騎士様がアッサリ倒したこと。

そして村を救ってくれたと言うことで歓待しようとしたが、先を急ぐと言うことで、村長の娘が馬車を出して二人を都に送っていったこと。

見るからに何か訳ありそうだったと、この老人から聞き出す事が出来た。


(騎士みたいな若い男と、高貴そうな女性ねぇ……。)


「で、あんたさんは何でこの村に来たんだ?」


この質問を予想していた俺は、道中考えていたカバーストーリーを話すことにした。


「いやぁ、そんな物語みたいな場面、見たかったですねぇ。

いえね、私はさる北方地を治める貴族様にお仕えしていた者でして。

その地はまぁ、割と平和な場所なんですが、とにかく何も無いんですよ。

少し前に男の子がお生まれになられたんですが、その子が物心つくと冒険譚に興味を持ちましてね。

とにかく何も無い土地ですから、旦那様のお話もすぐに尽きちまいまして。

“誰ぞ、各地を巡り冒険譚を集めてまいれ”と申されたからもう大変。

物怖じせず人と話せ、読み書きが出来る人間となると、お屋敷でもそんなに居ないんですわ。

私ゃ若い頃から住み込みで記録係やってましてね。

記録に間違いがあったら旦那様でも誰でも捕まえて、その場で討論始めるような性格だったんで、“お前丁度良かろう”と。

ほんの少し体の良い厄介払いみたいな物で、僅かな路銀と荷物でほっぽり出されちゃいましてね。

苦労してたんですわ。」


ざっとこういう筋書きを話すと、老人は“それは難儀でしたなぁ”と笑いながらも、俺の話を信じてくれたようだ。

ここまでの相手の表情を見ていて、今までの人生経験から、“この老人は当たりかも知れん”と踏んでいた。


“性根は善性、話し好き、さほど困ってはいなさそうだが、娯楽に飢えている”


何となくそう定義して、追加で宿になりそうな場所と、食事が取れそうな場所を聞いた。

すぐ先によく行く飯屋が有り、昔はそこが宿屋だったことを聞けた。


「あぁ、そうだ。

先程申しましたとおり、恥ずかしながら私ゃお屋敷で住み込みの記録係でして。

外で買い物するときもお屋敷のお給金から天引きされてまして、物の相場やお金があんまりわかってなくてですね。

良ければ一献やりながら、その辺教えて貰えればありがたいんですが。」


ついでにこの世界の貨幣価値を確認できないかと思い、対価を見せつつお願いしてみた。

案の定、タダ酒の後押しも働いてか、笑いながら“うむ、教えて進ぜよう”と大仰な身振りで約束してくれた。


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