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異世界殺し  作者: Tetsuさん
銀の槍
13/805

12:継承

それから10年、それなりに平和な時代は続いた。

新たな魔王を呼び出そうとした邪教団との戦いや、魔王に抑圧されていた竜族との戦いもあったが、世界は概ね平和だった。


最初に発生した異変は、周辺4大陸の崩壊だった。


海辺沿いに急速に砂漠化し、ゆっくりと崩れるように海に沈んでいったのだ。

エルフ族の大森林も、獣人族の大平原も、ドワーフ族の鉱山も、人間族の土地も、全てが砂漠化し、海に沈んでいった。


各種族は中央大陸に逃げ延びた。

だが中央大陸でも同じ事が起きた。

北側から崩壊していき、中央北部にあったランスの城の目前にまで迫った。


ランスは必死になって、この崩壊を止める方法を調べた。

旧魔王城を改築して住んでいたものの、手つかずとなっている城内には魔族が残した文献も多数眠っていた。

そこに何かヒントがあるのではと考えたのだ。


だが人々は城に迫っていた崩壊を恐れ、南へと移動した。

人心は荒み、“勇者が魔族を壊滅したからだ”と囁く者まであらわれた。

その状況を利用し更に悪化させたのは、他でもない人間族だった。

他種族を言葉巧みに騙し、敵意の全てを統治者であるランスへ向ける。

そうして束ねた4種族の残存する戦力で、ランス反乱軍を形成、ランス城へ進軍を始めた。


ランスは怒り、ガエ・ブルグを駆使し獅子奮迅の活躍をし、反乱軍を文字通り全滅させた。

全滅させたその日、城に戻ったランスを待っていたものは、塩の結晶と化した4人の妻達だった。


その後ランスは知る。

自身の能力もガエ・ブルグも、“世界からエネルギーを吸い上げ、そのエネルギーを変換して超常的な力を発揮していた”事を。

そして皮肉なことに、魔族こそが全種族で唯一、世界へエネルギーを還元することが出来るのだ。


魔王を倒してはいけなかった。

また、人々の噂も、何の理屈も根拠もないものではあったが、結果としては真実だったのだ。


その事実を知っても尚、ランスは諦めなかった。

“ならば、魔王と同じ事が出来ないか?”

研究過程で、幾つかの試作品は出来ていた。

意志持つ鎧“マキーナ”もその一つだ。

あの時、転生前に受けた極小の機械の集まりで出来た液体、あれは自分の体から零れ続けていた生体エネルギーを回収し、修復に当てていたことを理解していた。

であればあれで体を覆い、自身のエネルギー吸収能力を表面で反転させ、鎧の内部で循環・蓄積させる。

そうすれば、これ以上の吸収は治まるはず。

結果は見事自分の吸収能力は止まり、循環・蓄積させたエネルギーの副産物として、肉体の修復能力やその他の環境適応能力が備わったが、そこまでだった。

ガエ・ブルグには何をしても駄目だった。

槍に対しての封印の魔道具を作成中、制作者であるあの神のいる空間の座標らしきものも見つけた。

何度か直談判するために空間移動を試みたが、ランスの存在は拒絶されているのか、移動は出来なかった。


そうこうしていたら、何もかも無くなっていた。

気付けば大陸の南側が一気に崩れ落ち、城から逃げ出していた人々と一緒に無くなった。

次に空が、海が無くなり、城とそれを支える僅かな地面しか無くなっていた。

もう世界には彼を除き生きている存在は無く、残されたエネルギーも殆ど無かった。

マキーナに使った微小な機械で城に膜を張り、進行を遅らせるだけで精一杯だった。

それでも槍の影響で、徐々に崩れて失われていった。


そこまでに至る過程において、自分のことを悪と断罪し、正義のために倒すと言って顕れた者達が何度も現れた。


そのことごとくを打ち倒し、周りの全てがなくなり、存在するものが城だけになってからは、あの神にそそのかされたのか、転生者の刺客まで顕れた。

たまに、本当に迷い子の転生者も顕れたが、それは空間移動の魔道具で送り返した。


それらの行為は世界の崩壊を更に加速させるものであり、もしかしたらそれこそがあの神の狙いかも知れなかったが、本当に何も知らず神の手駒にされた転生者を、不憫に思ってしまった。

だから何も知らずにここに来た人間とわかれば、それが世界の寿命を縮める行為だったとしても、送り返さざるを得なかった。


そこまでされれば流石に、あの神はとうの昔に自分を見捨てていたのだと理解した。

いや、この状況で後どれだけもがけるのか、楽しんでいるふしすら感じられた。

だが、また誰かに理不尽に殺されるのだけは嫌だと、戦い続けた。

飲まず食わずであっても、今まで吸収したエネルギーと、そしてまだ吸収し続けている槍が、彼を生かし続けた。


そして、いよいよ玉座の間しか無くなり、“そろそろ終わりか”と考えていた矢先、また転生者が顕れた。

ソイツは今までの刺客とは違い、どこか困ったようだった。

ダメ押しの迷い人かとも思ったが、ソイツは確かに自分は刺客だと言った。


その不思議な刺客こそ、田園勢大だった。





「何ともまぁ……、やりきれなさ過ぎて、何とも言えないですな。」


「そうでもないさ、少なくとも転生後は、それなりに刺激的な人生を歩めたさ。

……最後は最悪だったがね。」


話を聞き終えた俺は、率直な感想を漏らした。

話を終えたランスは、今まで誰にも打ち明けられなかった真実を話せたからか、少しスッキリした顔をしていた。


いくつもの疑問もあるし、いくつもの思うことがあった。

ただ、今それらをアレコレ聞くのは違う気がして、シンプルな質問にした。


「ランスさんは、この後どうされたいですか?」


僅かの沈黙。


「アンタそれ聞いちゃう?そりゃあ俺だってまだ色々やりたいなとか思ってたり、あ、アンタみたいに他の世界に行って、可愛い女の子とイチャイチャするってのも……。」


その言葉は酷く軽かった。

心にも無いことを言っているのは、俺で無くても気付けただろう。

だからただ黙って、彼の言葉を待つ。


彼は背を向け、何かをこらえる様に俯いていた。

地面に落ちる、一粒の水滴。


「……なぁ勢大さん、俺を殺したら、そのエネルギーはこの世界に還元してくれないかな?」


「承知した。

任せてもらおうか。」


是非も無い。

例えあの自称神様がちょっかいを出してきたとしても、絶対に責任もって死守してやる。

その覚悟と共に即答すると、ランスは少年のような笑顔を見せた。


「アンタ、今世の俺の親父に似てるな。」


「俺のモットーは“歳は40代でも心は10代”だ。

老けこむには、まだ若すぎる。」


お互い顔を見合わせて笑った。

絶望が凝縮されきった様な空間で、それでも俺達は笑い合っていた。

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