127:紆余曲折
昨日泊まった民家まで戻り、対策を考える。
「これさ、いっそこっちの17号の方に迂回して進んで、埼玉入るのはどうかね?」
「良いんじゃないッスかね?
今日走ってるときに解りましたけど、橋のたもとから橋の中まで、多分ギッシリ埋まってるッス。
あの数相手にすんのは、ちょっと骨折れそうッスよ。」
地図を見ながらアレコレ考えていると、東所君が調理を終えて食事を持ってきてくれる。
「でも、あそこにやたらと集まっているって事は、その先とかで何かが起きてるって事なんじゃないですか?」
言われて悩む。
確かに、奴等が集まっていると言うことは、直近でそれなりに騒ぎがあった、と言う証拠だ。
「どうなんスかね?
ここって近くに河口駅があるし、車で東京から往来するための大動脈でもあるッスからね。
たまたま人が増えて、群れ集っているって可能性だって、否定できないッスよ。」
そうなんだよなぁ。
結局、コレ実は何の意味もないトレインだった、っていう可能性も否定できないんだよなぁ。
「でもでも、ホラ、この地図見てると、この先には河口警察署がありますよ。
まだ頑張ってる人がいて、持ちこたえていたりしてるのだとしたら、助けた方が良いと思いませんか!」
また始まった。
東所君の正義感が強いのは良いことだが、どうも実力を過信している?というか、何だろう。
……まるで“命を捨てに行っている”と思える様な行動が目立つ。
それでいながらも毎度運良く切り抜けているのは、この世界の転生主人公だからか。
そこまで考えが至り、ようやく自分の頭の中で何かが繫がる。
そうだ、運が良すぎるのだ。
俺が行くまで持ちこたえていた防衛省と言い、スナイパーに狙われてダメにした足回りの代わりに、直ぐに手に入った電動スクーター。
助けなきゃと行った小学校では、スリングライフルは失ったが、命と防具は無事だ。
オマケに移動の足がランクルにパワーアップしてる。
だとすると、今彼が口走ったこの先の警察署とやらには、“彼の望む武器”があるのだろうか。
ならば、見極める必要があるかも知れん。
“彼は”運が良い。
ただ、何の代償も無しに運が良いだけなのか?
防衛省では、一部の隊員が犠牲になった。
あのスナイパーの時は、たまたま逃げ延びていた俺達と同じ背格好の親子が犠牲になった。
小学校では、東所君と離れた俺が狙われた。
……ふと、考える。
“もしも俺がいなかったら”と。
防衛省では、あの機械オタクの青年が好意的だった。
もしかしたら、“自分の武器がどれくらい使えるのか見てみたい”とかの理由で、東所君についてきたのでは無いか?
彼と話していたときに知ったが、彼はアニメに詳しかった。
俺のリュックに付いていた天空戦記修羅の缶バッチは、彼を仲間に引き込むために、何かの折に東所君が入手するアイテムだったのでは?
スナイパーの時は、俺がそのルートを通らなかったからなのか味方が解らないが、小学校での時は間違いなく、この松阪君が味方になった可能性は高い。
つまり、俺がいなくとも東所君“だけ”はここまで来れた可能性は高い。
小学校の時に俺が狙われたアレは、“脇役の退場シーン”だったのではないか。
主人公・東所君を生かすために、周囲の脇役が犠牲になり姿を消していく物語。
……ゾンビ映画だと、大抵主人公とヒロイン以外は死ぬからな。
これがあの神の調整なら、これが世界の必然なら、無性に挑戦したくなってくる。
良いだろう、お前等が“心に従え”、つまり東所君の心のままに歩ませろと言うなら、やってやろうじゃねぇか。
俺はハッピーエンド厨なんだ。
アメリカ映画のように、この先に生き延びられたのか死ぬのか解らない終わりにしてたまるか。
主人公の周りの良い奴等が、次々と犠牲になる話にしてたまるか。
随分と長く考えていたからか、2人が不安そうに俺を見ていた。
俺は改めて2人を見渡すと、決断を下す。
「面白くなってきた。
この橋を越えて、河口警察署とやらに行こう。
今日は早く寝ろ。
明日は早朝からこの辺りを調べまくって、ちょっと物資をかき集めるぞ。」
頭にハテナマークを浮かべる2人を放置して、サッサと寝る。
色々と入り用だ。
翌朝、俺は単独で動いていた。
東所君と松阪君には、車で近くのガソリンスタンドに向かって貰った。
確かすぐ近くに“災害時給油可能サービスステーション”があったはずだ。
あそこなら電気が止まっても給油ポンプで手動給油が可能なはずだ。
ついでに、もしジェリ缶やポリタンクがあれば回収して貰い、最大限ガソリンを回収して貰うようお願いしていた。
ついでに空瓶があればそれも、とお願いしたところ、松阪君はすぐに狙いが解ったようで“やる気ッスね?”とニヤリと笑うと、車の荷台を片付けてはじめていた。
2人には物干し竿にナイフを付けた手槍を渡しつつ、普通のナイフも幾つか渡す。
東所君には、松阪君の警備と、手空きなら布きれの回収をお願いする。
暗くなる前にまたここで合流する事で、一旦別れる。
多分これで、危険が発生するとしたら俺の方だろう。
「マキーナ、何か情報は手に入ったか?」
久々にマキーナに声をかける。
<近隣国にて軽度の放射能汚染が観測されたようです。ただ幸いにして、日本にまでは到達しなかったようです。>
これも主人公の力か。
だが、世界情勢が少しわかる。
ヨーロッパ方面は人道的な対応をとり続けてしまったらしく、このゾンビパニックが拡大し続けているらしい。
米国は政府陰謀論が根強く、政府への抗議デモが各地で起こり、ゾンビパニックは更に拡大。
一部地域では完全に生存者が確認出来なくなり、遂に自国に対して核を使用したらしい。
日本から見て上の大陸では、運悪く長雨とゾンビパニックのダブルパンチによりダムの決壊も起こり、新たな大河や湖が発生するレベルでの水害に襲われ、水と腐敗で国内は大混乱中らしい。
その上の大国は完全に国境線を封鎖、北上する難民を身分を問わず攻撃して感染拡大を防いでいるが、国内は疲弊とゾンビパニックで、同じく無茶苦茶になっているらしい。
他の国も似たようなモノではあるが、噂では現在丁度冬になっていた赤道から向こうの国々で、辛うじて感染を押さえ込んでいる、というまだマシな情報もあった。
<以上が、現在までで確認できた世界の情報です。
やはり勢大の想像通り、元々が人体である以上季候による凍結が有効と推定されます。>
なるほどねぇ、ただ、北極や南極じゃ、人間は生きていくことが出来ないからなぁ。
この国だって、今のままじゃ冬を越せないだろう。
多分想像するに、この冬がターニングポイントだ。
この冬を乗り越えられる食料と装備を整えることが、ある意味でのクリア条件に近付くんだろうな。
「解った。引き続き頼む。」
<承知しました。最後にもう1つ。
勢大、この家の倉庫に高圧洗浄機と業務用バッテリーがあります。>
1番のお目当てを見つけてくれるとは。
やっぱりお前が俺の1番の相棒だ。
「サンキュー、相棒!」
マキーナが見つけてくれたモノも含め、更に必要なものを探すため、俺は慎重に歩を進めた。




