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異世界殺し  作者: Tetsuさん
夜明けの光
125/831

124:夢幻戦士トージョ

視界のほぼ全てが白い、凍てつく白銀の世界。

手足の感覚はもうわからない。


登っているのか、下っているのか。

今、自分が何処を歩いているのかわからない。


「チクショウ、ここは何処なんだよ。」


将来を約束した彼女と、無二の親友だと思っていたアイツ。

3人で過ごす、いつもより少しハードだけど、楽しい冬登山になるはずだった。


小休止で飲んだスープ、あの後から眠気が強くなっていた。


足を滑らせ転落し、意識を失った。

気が付いたときには、誰もいなかった。

下手に動き回らない方が良いと思い、そこでテントを張り2泊した。

助けは来なかった。


荷物を纏め、意を決して下山を始める。

コンパスも紛失し、地図も無い。

勘を頼りに山を下りようとしたが、結果はこのザマだ。

いや、下山を決意したときから、既に思考がおかしくなっていたのか。

あの位置で助けを待っていた方が良かったのでは無いか?

何故他人は俺の思うとおり動かないのか。

考えればカンガエルホド、悪い事ばかりが頭をメグル。


暑い。


熱い。


アツイ。


防寒具を脱いでもまだ暑い。


ふと自分を見下ろせば、下着姿で歩いている事に気付く。


「フフ、なんだコレ?」


下着姿で雪山を歩いている自分に、何だか面白さがこみ上げてくる。

まるデ現実感がナイ。

アツイ。


苦しい。

俺を置いていかないで。




「え?あれ、ここは……?」


目を覚まし、慌てて跳ね起きる。

嫌に生々しい夢だった。

雪山になんか登ったことがないのに、雪の冷たさや寒さを通り越す痛さをしっかりと感じていた。

いや、今は夢の中身を分析している場合じゃない。


思考を現実に引き戻して周囲を見渡すと、目の前には校舎?だろうか。

全ての窓ガラスが板で覆われていたが、コンクリートで出来た規則正しいその建物は、自分が通っていた学校とは違うが、どこかの学校の校舎だった。

足下を見れば、長い時間をかけて踏み固められた固い土で覆われている。


“なぜ学校にいるんだろう”と思うのと同時に、意識を失う直前の事を思い出す。


「そうか……。

捕まって、僕はあの小学校の敷地にいるって言うところか。」


考え事をしているときに、感染者のうめき声が聞こえて身を固くする。


外から見えたときは判らなかったが、この敷地、外側は板で防がれているが、その内側に金網が張ってある。

恐ろしいのは、板と金網の隙間が人1人分あり、その間に感染者が等間隔で鎖に繫がれ、配置されていた。

金網は背が低いので、金網をよじ登って外側の板に上り外に脱出することは出来るが、その途中で絶対に感染者に捕まり噛まれる事になるだろう。


つまりは、このフィールドを作った人間の意図通りに行動しないと脱出はさせて貰えない、と言うことらしい。

そこで自分の装備が気になり、体に目を落とす。


「……は?え?あれ?」


……何も着ていなかった。

いや、靴下と靴はそのままだったが、他の衣服が、ご丁寧にパンツまで剥ぎ取られていた。

そして、目の前には田園さんから貰ったナイフが剥き身で落ちている。

慌ててそれを拾い、周囲を警戒する。

目の前には校舎、今自分が倒れていたのはグラウンドで、そのグラウンドには点々と廃材や焼け焦げて壊れた車が障害物のように置いてある。


「やぁ、勇敢な少年、目が覚めたかい?」


目の前の校舎、その最上階の窓の一部が開いていて、そこから野太い声が聞こえる。

見るとでっぷりと太ったおじさんが木刀を肩に担ぎ、窓枠に手をかけて乗り出し、声を張り上げていた。

声の度に周囲の感染者が騒ぎ出す。

よくみれば、おじさんの横には僕を罠にかけた少女の姿も見える。

彼女も薄らと笑いながら、こちらを見下ろしている。


「今、私の部下が君のお仲間とやらと一緒にいてね。

もうじきこちらに向かってくると連絡があったよ。

だが、君のお仲間に私の部下が一人犠牲になっていてね。」


肩に担いだ木刀を振り下ろす。

ガツン、という音が響き、一瞬だけ周囲が静かになる様に感じる。


「私は非常に悲しい!

苦楽を共にした仲間が、よそ者の手にかかりその貴重な命を落としてしまった!

挙げ句に別のマセたクソガキは、私のマリアに断りも無くベタベタ触ったそうじゃないか!!」


「えぇ、そうよお父様。気持ち悪くてたまらなかったわ。」


少女も同調する。

“おぉ、辛かったねぇマリア”とおじさんが少女の頭を撫でる。

なんだろう?少女は少し不快そうだ。


「本来ならお前等で殺し合いをして貰いたいところだが、お前だけは更に罰を与える必要がある。

よって、お仲間が来るまでの間、罪滅ぼしのゲームを体験してもらう。

……やれ!」


その声が合図だったのだろうか。

ガシャンと校舎の一部が開き、鉄柵から3体の感染者が次々と姿を現す。


僕も立ち上がり、両手でナイフを構える。


「アラ、顔と一緒で可愛いモノが揺れてますわね。」


言われて赤面する。

そうだ、今は全裸だった。

恥ずかしさから片手で股間を押さえながら、片手に持ったナイフで牽制する。


当然、そんな攻撃では、皮膚は切れても倒すまではいかない。

覚悟を決めて構え直そうとすると、少女やおじさんからはやし立てるように煽られる。

校庭の障害物を使い逃げ回るが、段々と息も切れてくる。


「ホラホラ、このままだと追い詰められてしまうぞ!早ぅ足を動かさんかい!」


「アラ、次のイベント時間ですわ。」


少女の声と共に、また鉄格子が開く。

追加の感染者が4体現れる。


「ハハハ、1体でえぇ言うといたのに、4体とはやり過ぎちゃうかぁ!」


「スンマセン、上手く1体だけ取り出すのが難しかったようで。」


仲間の笑い声に、おじさんは“ホナしゃーないな”と笑っている。

この校庭に感染者が7体。

足は遅いが、近付けば数歩は駆け込んでくる。

しかも、さっきまで逃げまわっていて追い込まれている中で、次に逃げ込もうと思った位置から出現されてしまった。


呼吸する息が苦しい。

ナイフを持つ腕が怠い。

普段は道具として何気なく使っていたが、武器として振るうとこんなに重く感じるのかと改めて思う。


「お、もう限界かな?

コレじゃあ、お友達が来るまで間に合わないかなぁ!」


おじさんが(あざけ)る様に笑う。

悔しいがその通りだ。

足も重くて、息が苦しい。


田園さんが捕まるとは考えづらい。

あの人のことだ、上手く撃退して、もう逃げてしまったのだろう。

こんなに時間がたっても来ないのは、きっとそう言うことだ。


自分を嗤う声が遠くに聞こえる。

昔からそうだ。

アイツが彼女に横恋慕していることにも気付けなかった。

俺を殺すために登山に誘ったことも、彼女が俺に睡眠薬入りスープを振る舞ったことも。

あの二人も、俺を嘲笑っていた事だろう。


これだから(・・・・・)人間は(・・・)嫌いなんだ(・・・・・)


人間なんか、皆滅べば良い。

そうしたら、後は雄大な自然が残……。




「なんちゃってガエ・ブルク!!」


纏まらない思考の中で、感染者の大口が見えて“あぁ、噛まれるな”と思った瞬間、感染者の頭にまるでフランケンシュタインの頭のボルトのように、包丁がついた物干し竿が突き抜けた。


「待たせたな東所君!」


あぁ、まさか、そんな。


驚きと共に振り返り、もう一度驚く。


「何で!?」



……壊れた乗用車の屋根の上、そこには覆面姿で、何故か全裸の田園さんともう1人の男性が、堂々とした仁王立ちでポーズを決めていた。

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