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異世界殺し  作者: Tetsuさん
夜明けの光
123/831

122:東所道中記

「やってみろ。」


田園さんから言われた言葉が頭に響く。

そんな事は無いのだろうけど、少しだけ突き放された気がした。

少しだけ、田園さんなら来てくれると、その力をアテにしていた自分がいたからか。


「……そんな事は無い。」


自分に言い聞かせる。

そうだ、田園さんはナイフを渡してくれたじゃないか。

隠し持っている事すら知らなかった。

田園さんは色々先を考えているから、きっとこのナイフも最後の切り札として隠していたんだろう。


それを預けてくれたんだ。

ならそれは、“僕なら出来る”と信じてくれたからのはず。

だったら、僕に出来ることをやろう。

この先の小学校を調べて、困っている人がいたら助けるんだ。


大通りを走っていると、ふと右を見たときに地下鉄入口が水没しているのを見かける。

確か田園さんが言っていた。

“東京の地下鉄は土の中と言うより水の中を走っている”と。


あの日本中がパニックになった日から、確か3日目には電気が止まっていたと思う。

地下水を排水するポンプを動かすにも、電気は必要だ。

そして排水できなくなった地下鉄の末路は、きっとコレなのだろう。

生臭い水の臭いに顔をしかめながら、先を急ぐ。


古びた自転車屋の手前を曲がる。

曲がるとすぐに、地面のアスファルトに「スクールゾーン」と書いてあるのが見える。

その先を見れば、誰かがバリケードを作ったのだろうか?

学校のフェンスに沿って板が貼られているのが見える。


道の端をゆっくりと歩きながら近づく。

小学校や中学校は、侵入しようとする不審者対策でフェンスが張り巡らされている。

感染者から身を守るにはもってこいの場所だろう。

ただ、そこを悪意ある集団が占拠した場合、今回の様に危険な城塞に早変わりしてしまったようだ。


とりあえず、先ほど地図を見た限りでは小学校の向かいに公園があるはずだ。

そこで身を隠しつつ、一旦状況を観察、確認しよう。

やみくもに突入してもいい結果にはならない。

きっと田園さんなら、そうするはずだ。


公園にたどり着くと、姿勢を低くしてトイレの裏側に。

更に奥にあるアスレチックのような遊具の、螺旋の様にねじ曲がったすべり台の裏側へ移動する。


この位置なら小学校が見えるかと思ったが、殆どバリケードの板で視界を塞がれているので、中の様子は見えない。


「まいったな……。双眼鏡でもあれば、校舎の上の方は確認できたかも知れないのに。」


やっぱりもっと周りを調べて、色々集めてから来る方が良かったかな?


いや、今言っても仕方ない。

田園さんだって、“今あるモノで何とかするしか無い”ってよく言っているじゃないか。


“他に最強の手札は沢山あるかも知れん。だが、今俺にある手札はこれだけだ。なら、ソレを最強と思わなければ、やってられないだろう?”なんて、笑いながら話していたっけ。


落ち着くために、手持ちの装備を改める。

スリングライフルのゴムを確かめる。

張りは充分、まだまだ威力はある。

それに、田園さんは気付いてないけど僕だって自力で弾を装填できるようになっている。

もう2発きりの武器じゃ無い。

ナイフを取り出して、刃こぼれが無いか確認する。

これが僕の手札だ。


よし、と思い、立ち上がりかけたところで、フラフラと歩いてくる女の子を見つけた。


“感染者か?”と思ったけど、どうやら違うみたいだ。

青い顔をして、ワンピースのお腹辺りから真っ赤な液体がしみ出している。


「だ、大丈夫!?」


慌てて物陰から飛び出す。

女の子は最初ビックリしていたが、僕が感染者でないと気付くとフラフラとこちらに近寄ってきた。


「お、お願い……助けて。」


スリングライフルを肩にかけなおし、すぐに駆け寄る。

すぐに手当てをしなければ!


「だ、大丈夫!?歩けるかい?

少し行ったところに救急道具があるから、そこまで行けば手当てできるよ!」


駆け寄り、様子を伺う。

かなり辛そうだ。

女の子は、“もう歩けない”と小さく呟くとその場にしゃがみ込む。


「わ、わかった。僕がおぶっていくから!さぁ乗って!」


しゃがみ込みながら背中を向けて、おぶる体勢をとる。


女の子の体重が背中にかかるのを感じながら、両手を回して足の下にいれる。

その時、少女が苦しそうにしながらも話しかけてくれた。


「あ、貴方は、……一人で、ここに来たの?」


「いや、仲間がもう一人いるんだ!

その人なら色々と知ってるから、君の手当ても出来るかも知れないんだ!

すぐそこのコンビニだから、そこまで急ぐよ!!」


次の瞬間、“あらそう”という言葉と共に、首筋に固いモノが当てられる。


「何をし……アグッ!!」


首筋から全身に電気が走り、まるで目から火花が散ったように感じながら、全身に力が入らなくなり、そのまま倒れる。

倒れた痛みすら感じない。

何か、遠い世界のことのように感じていた。


「ウフフ、アナタは優しくてお馬鹿さんね。」


女の子はニマリと笑うと、後から姿を現した男達に何かを命令している。


「……だ、騙した……な……。」


「アラ、まだ意識があるのね。アナタ元気で良いわ、楽しめそう。」


手に持つ長細くて黒い箱の先端から、電気がバチバチと放電している。

アレを押し当てられたのだと理解する。


「コイツの仲間はもう1人いるらしいわ。

アナタ方はソイツを捕まえてきて頂戴。

久々にゲームが見られるわよ、楽しみね?」


歪む視界で、頬をつり上げ笑う悪魔が見えた。

もう一度あの黒い箱を押しつけられ、完全に意識を失う。

意識を失う直前、田園さんとのやり取りを思い出していた。

結局、田園さんの言うとおりだった。

悔しさで、頭が煮えたぎるような感情になっていた。




「お嬢、このガキどうするんですか?」


長ドスを持った男が疲れたように少女に聞く。

少女は年齢にあわない悪辣な笑みを浮かべると、別の男に倒れている少年を運ぶように伝える。


この事を答える気は無いらしい。

馬鹿にされてるように感じ、尚も質問しようとした彼を、他の男達が止める。


「……よせ、オヤジの娘さんに歯向かっても、良いことねぇぞ。」


「でも、またアレを見せられるんスよね?

俺もううんざりッスよ。」


“お前ノリ悪いな”

“俺は見てて楽しいけどな”

“今度はあのガキと仲間との殺し合いかな?それとも防衛戦かな?”


そんな事を周りの男達は言いあい、彼を放置して歩き出す。

長ドスを持った男は、少女にも男達にも、全てに不満な顔をしながら、地面にツバを吐く。


「……お前等、全員死ねよ。」


それでも、この場から抜けて生きられるほどの自信も無ければ、反抗して自分がトップを取れるほど強くはない事も自覚していた。


結局何もしないまま、ただあの胸くそ悪い“ゲーム”を見せられるのが俺の人生かとゲンナリしつつ、誰にも聞こえないように悪態を付きながら後を追うのだった。

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