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異世界殺し  作者: Tetsuさん
銀の槍
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11:ランス・プロー

本町(もとまち) 府中(みやじゅ)は幼い頃に両親を亡くしていた。

両親がどんな人物であったか、記憶に残っていなかった。

施設に預けられればまだ穏やかな少年時代が過ごせたかも知れないが、“世間体が悪い”という、彼のことを何一つ考えない独善的な親族会議の結論により、彼は親族間をたらい回しにされることになった。


どの親戚でも冷遇され、時にいない存在として扱われ、時に虐待を受けながら、自分を押し殺し、目立たぬよう生きる少年時代を過ごした。

彼のクラスメイトだった者達も、皆が皆“アイツはいるかいないかわからないくらい、いつも教室で本を読んでいた印象しかない”とまるで口裏を合わせたかのように評するほどだった。

“世間体が悪いから”と高校までは行かせてもらったが、彼の心は既に、脱け殻の様な存在になっていた。


“高校までは行かせたのだから”と、卒業と共に親族の家から追い出され、アルバイトをしながら一人暮らしで日々食いつなぐだけの人生だった。


“何のために生きているのだろう”


彼がそう考える様になったのも無理はない。

空虚な、あまりにも空虚な日々を過ごしていたある日、それは起きた。


コンビニでのバイト帰り。

その日の夕食の材料を求めに近所の商店街を歩いていると、少し先で悲鳴が聞こえた。


ナイフを振り回しながら、すれ違う人達を斬りつけながら、口から泡を吹き出し、正気とは思えない男がこちらに駆けてくる。


逃げようと振り返ったとき、そこに赤ん坊を抱えた女性が、腰を抜かして座り込んだ瞬間を見た。


慌てて夫とおぼしき男性が駆け寄って奥さんを立ち上がらせようとしているが、次の瞬間にはあの暴漢に刺されてしまうだろう。


赤子だけは守り通そうと、赤子に覆い被さる妻、その二人を守ろうと覆い被さる夫。


“この赤ん坊も、俺のようになるんだろうか”

そう思ったとき、体は自然に動いていた。

走り来る暴漢と夫婦の間に立ち、ナイフを腹に受けていた。


「……なかなか痛いね、これ。」


冷静なその反応に暴漢は逆上し、奇声をあげながら彼の事をめった刺しにし、手首を切り落とし喉を裂いた。


だが、そうして夢中で刃物を突き刺している間に警察官が集まり、ナイフを振り回していた暴漢は逮捕された。


重軽傷者十数名、死者一名。

黄昏時の平和な商店街でおきた、衝撃的な通り魔事件としてお茶の間を一時騒がせ、そしてすぐに風化した事件だった。


次に府中(みやじゅ)が目を覚ました時、青空と真っ白な大地が広がる空間に、ポツンと立っていた。


「お若いの、あちらで大変な苦労をなされたようじゃのう。」


振り返ると、白い布を纏い、仙人のような杖を持った老人がそこにいた。


(え?仙人みたいな老人だったんですか?)

(そういやアンタの時は子供だって言ってたな。何でなんだろうな?)


「アンタ、神様か何かか?」


「いかにも。

今世のお主があまりにも不憫でのう、生まれ変わりには、少しオマケを付けてやろうと思ってな。

さて、次の生には何を望む?」


府中(みやじゅ)は考え、そして“自分は抑圧されてやりたいことも出来なかった。次の人生で望めるのなら、もっと色々と冒険や研究や、人の役に立って皆から喜ばれるような、そんな人生が送りたい”と願ったのだ。


老人はその願いを嬉しそうに聞き、そして叶えると約束してくれた。


府中(みやじゅ)だった魂よ。

お主は今までとは違う世界に、英雄として生まれ変わる。

お主のステータスは、誰よりも高いモノに、また、これは追加のオマケじゃが、後に必勝の武器“ガエ・ブルグ”を授けよう。

だが、まずは今の魂を修復するが良い。

それが済んだら、転生をしてやろう。」


言われて体を見ると、暴漢に襲われたまま、体中のあちこちが切り裂かれ、右手も切り落とされていた。

その時に彼は、地面を滑るように移動する女性の天使に案内され、地下のカプセルで肉体を修復したらしい。


そうして修復の終わった彼は、地球と似ているが剣と魔法が支配する世界で人間として、片田舎のプロー伯爵家長男、ランス・プローとして転生したのだった。


転生したランスは、物心ついたときには既に前世の記憶を思い出していた。

だからこそ尚のこと、自分を愛してくれた両親を、彼もまた心から愛した。

そして両親の役に立ちたいと、幼いうちから魔法の勉強に励み、剣術も磨いていった。

ただ、前世の影響からか短剣には忌避感があり、専ら習うのは長剣や長柄の武器が主流となっていた。


また、前世で読書から得た知識と、こちらの世界での魔法を組み合わせ、10歳になる頃には様々な魔道具を発明し、王立魔道学院という組織からも、一目置かれるようになっていた。


15歳、この世界では一人前と言われる歳になる頃には、歴史上数人しかいないSSSランクの冒険者になり、人間族の最大国家の王との謁見も果たしていた。

そして王から魔族の侵攻を聞かされ、魔王を打ち倒すために“勇者”として戦うことを人々の前で誓約し、長く険しい戦いの日々を送ることとなる。


当時この惑星には5つの大陸があった。

北を上とした一枚の地図として見たときに、中央の一番大きな大陸は魔族の、右上の険しい山脈が多い大陸はドワーフ族、右下の大森林が存在する大陸はエルフ族、左下のやや狭いが肥沃な草原を持つ大陸は獣人族、左上の痩せた土地が続く大陸が人間族の支配地域だった。

元々は一つの大陸であり、4種族が平和に暮らしていたが、ある日空から訪れた魔族によって、大陸は5つに分断され各種族はそれぞれ端に追いやられた、という歴史なのだそうだ。

魔族を撃退し、大陸を取り戻すことは全ての種族の悲願だったらしい。


ランスの力により人々には希望の光が灯った。

ランスは襲い来る魔族を次々と撃退し、追いやられた各種族と同盟を結ぶ。

情報戦に疎かったこの世界の人間達に、彼の前世の知識を活用し開発した通信魔道具で各地の部隊と連携し、彼が18歳の誕生日を迎えた日、全種族による魔族への一斉反攻作戦を行った。


戦いは3ヶ月にも及び、遂に魔王の主力である四天王を撃破した彼は、魔王の城にて伝説の神話級武器“ガエ・ブルグ”を手に入れ、その槍を使い、“外からの攻撃は一切ダメージにならない”という怖ろしい特性を持った魔王を倒すことに、遂に成功したのだ。


それによって魔族は全て消滅し、全種族の悲願であった、中央大陸を魔族の手から取り戻す、という目標を達成したのだった。


戦後、中央大陸をどの種族が支配するかは議論になったが、ランスを王とし、各種族の代表の娘達と婚姻を結ぶことにより、かつての伝説であった、“全ての種族が幸せに暮らす大陸”を実現させたのであった。



そう、ここまでであれば、どれほど幸せな結末だっただろうか。

余計なアフターストーリー、残酷な現実が始まろうとしていた。

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