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異世界殺し  作者: Tetsuさん
夜明けの光
112/831

111:スナイプ スコープ

「バイクって、凄い楽なんですね!」


東所君が俺の後ろで上機嫌になっていた。

今は、例の交番付近に置いておいたスクーターに乗り、至る所で黒焦げになっているくるまを避けながら走っているところだ。


スクーターの荷台にリュックをくくり付け、その上に東所君を座らせて俺にしがみつかせている。

原付に過積載して二人乗りとか、こんな状況で無ければ1発で捕まるだろうな。

一応、二人ともヘルメットはしている。

ノーヘルでも構わなかったが、これを探してくれた隊員さんが、ヘルメットも2つ見つけてきてくれていた。

“別にいいのに”と言うと、“ただでさえ二人乗りを黙認するのです。せめて最低限の安全確保はお願いします”とピシャリと返されてしまい、何も言えずに受け取っていた。


「今は何処に向かってるんですか?」


走るスクーターの音もそれなりで、感染者が振り向いてはいるが、移動速度が速い分、追いかけられずに済んでいた。


「基地で地図を見ていたが、この先の小石川の辺りにドームがあるだろう?

あの辺も元々は避難所だったみたいだからね、何か物資が無いかと探したいんだ。」


「……あぁ、田園さん、それは冗談でしたか?

小石川じゃ無くて大石川ですよ。」


あ、そうですか。

地理は合ってるのに微妙に地名が違うから、おじさん解らんねん。


「何でも言い、とにかくその辺目指してるよ。」


後ろの東所君から“フフッ”と微かな笑い声が聞こえる。

いやちゃうねん、間違いを指摘されて不貞腐れた訳じゃ無いねん。

本当にどうでも良いと思ってるんやて。


……まぁ、経験上それをムキになって否定しても、ますます深みにハマるだけだ。


飯田橋駅の辺りを越えると、感染者の数が少し増える。

暫く進むとT字路の様なところにぶつかり、この辺で派手に事故ったのか車が大量にぶつかっており、速度を落としながら慎重に間を抜ける。

どうでも良いが、左手に見える建物が何だかおしゃれだ。

ただ、ガラス向こうに何とかでご返済~みたいなことが書いてあるから、金融屋さんのビルか何かだろうか。


<警告、この先正面11時方向、狙われています。>


外堀通りを感染者と事故った車に注意しながら移動していると、久々にマキーナから警告がきた。


道路の先に目をやると、左に入る細道の先の建物、その辺上層階辺りで反射する光があった。


(スコープか!?)


咄嗟に右手で腰のメイスを抜き取り、光の場所と俺の頭を結ぶ線上にメイスの先端を差し込む。


“ガキュン”と言う金属同士がぶつかった音と、火薬の破裂音。

咄嗟にバイクを左に切って加速。


「東所君、あれに突っ込む!舌噛むなよ!」


「わ!?わ!?わ!?」


東所君の返事を待たずに俺は、先程のおしゃれだと感じたビルの割れたガラス扉に、スクーターを突っ込ませていた。


クソッ!一難去ってまた一難かよ。




「あいててて……。

もう、田園さん、何があったんですか?」


「スマンな東所君、今はそれどころじゃ無さそうだ。」


突っ込んだ先のビル、大分(だいぶ)数はいなくなっていたらしいが、それでもパッと見ただけで6体の感染者がこちらに近付いていた。


すぐさま、一番近くの感染者の頭をメイスでぶっ叩く。

東所君も慌てて背負っていたスリングライフルを構える。


「東所君、無理に頭を狙うな。

腰や膝を狙えば倒れる。

当てやすいところを狙え。」


とは言え2発だけだ。

あまり期待は出来ない。

左前に構え、拳は握らない。

右手のメイスは肩に担ぎ、感染者の出方を見る。

右に1、正面2、左に2……いや、今東所君が1体頭を打ち抜いたから残り1か。


右足で踏み込み、右の1体にメイスを叩き込む。

正面の2体が近付いて来るのに合わせ、左手で1体の首を掴み、もう1体の顔にメイスを突き刺す。

左手で掴んだ感染者が、その両手で俺の左腕を掴み返してくる。

中々に凄い握力だが、格闘漫画にあるような腕を握りつぶす“握擊”の様な威力、とまではいかないようだ。

メイスを引き抜き、掴んでいる感染者の頭めがけて振り下ろす。

“グシャ”と音がして、想像よりも簡単に頭が潰れる。


何だろう?耐久力はそこまででも無いのか?

筋力の強さと耐久力の低さが、妙にアンバランスな存在だ。

そんな事を考えながら左腕に巻き付いた感染者を引き剥がしていたら、最後の1体の事が疎かになっていた。


“あのスローな動きなら、まだ余裕はある”と思っていたところ、予想外の速さで近付いてきたのだ。


(やべぇ、“個体差”か!?)


完全ゼロ距離。

噛まれるなら手甲に噛みつかせないと。

そう思い左腕を上げかけたときに、感染者のこめかみが撃ち抜かれる。


「よ、よかったぁ……。」


ヘナヘナと座り込む東所君の姿が写る。

助かった。

まさか守らねばと思っていた東所君に助けられるとは。

まだまだ俺も未熟だなぁ。


「すまない、助かったよ東所君。」


「まだ来るようですが、どうしますか?」


バイクで突っ込んだ時の騒音を聞きつけて、入口側に彼等がゾロゾロと集まってきていた。


「全滅狙いでもいいが、暴れても腹が減るだけだな。」


スリングを引きながら入口を見る。

ゾロゾロと数が増えていく。

今ならまだなぎ倒して進むことも出来るが、あそこから出ようとすれば狙撃される。


食い物と水を探しながら上の階に行くのも良いか?

しかし下が埋め尽くされると、脱出自体が困難になる。


「仕方ない。スクーターの荷物を回収して、脱出しよう。」


東所君が手早くスクーターのリュックとテント道具を取り外す。

俺も近くに落ちているガラス片等を投げつけて感染者の数を減らして時間を稼ぐ。


「準備完了です。」


そのかけ声で時間稼ぎを止め、荷物を回収する。

時間稼ぎしながら周辺を見ていたが、ビル裏に従業員通用口がありそうだった。

なら、ここで派手にやらかしても問題ないな。


スクーターの燃料タンクから蓋を外し、中のガソリンをこぼす。

近くの棒と布を合わせて簡単な松明を作る。


そしてスクーターのクラクションスイッチを、ビニールテープで手早く巻いて、鳴らしっぱなしにする。


「わわ、何やってるんですか田園さん!」


「裏口までダッシュだ東所君!」


従業員通用口に向かいながら松明に火を付ける。

振り返れば、けたたましいクラクションの音で、更に付近の感染者が寄ってきている。


「お前等、しっかり消費してくれ。」


スクーターの辺りに松明を投げ込む。

ちゃんとガソリン溜まりに落下してくれたようだ。

クラクションに反応して押しくらまんじゅうの様になっているところに、気化したガソリンと共に一気に燃え広がってくれた。


これで詰んであった物資は抜き取り済み、スクーターは使い物にならなくなる、中のガソリンも抜き取れない、と、狙撃してきたヤツには何一つ旨みを残さない結果にしてやった。

結果だけ見れば、相手は無駄に弾1発消費しただけだ。

ただまぁ、今後もこの地域を目指すと同じ様なことが起きるなら、東所君とも相談次第だが排除も視野に入れよう。


多分入口のボヤ騒ぎで感染者が殺到し、狙撃してきたヤツもそっちに目を奪われているらしい。

従業員通用口から素早く抜け出すと、スナイパーの射線に入らないように、ちょっと戻った近くのオフィスタワーに侵入する。

下の階過ぎるとまた音で感染者が近付いてくるだろうから、ある程度上の階を目指す。

さて、体制立て直しだ。

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