第38話 セバスチャン再びです。
「セバスチャン様がまた来ておりますが」
と、一週間してまた屋敷を訪ねてきた。
俺の答えはもう決まっている。
事は大事、人間兵器がどこへ行くか?と言う事なのだから。
だが、俺は。
セバスチャンと再び応接室で対面すると、
「回復が順調のようですね。お顔の色が良く艶やかだ」
と、当たり障りのない挨拶をいただいたが、俺は今日の用向きの話を始める。
「あの、イバラッキー王国軍最高司令官大将軍は辞退いたします」
セバスチャンは目を見開きのけぞり驚いていた。
「なななななななんと、お待ちくだされ勇者様」
「いえ、待ちません。熟慮した結果なので」
「せめて理由をお聞かせ下さい」
「理由は単純明快。俺は軍のトップとして誰かを指揮するには相応しくないからです。大将軍ともなれば、配下に命令をしないとなりません。しかし、知っての通り私には記憶がない。そうなれば、他国との関係や歴史、どこの国が友好的に動いて、どこの国は敵対する。そういった物は、今、教えられても身につく物ではありません。長年の経験が必要。しかし、俺にはその経験が抜け落ちている」
と、言うとアリエッタがお茶を運んできてくれたので、お互い一飲みして落ち着く。
「正論ですね。しかし、では、シェルリー王女の事はいかがなさるのですか?」
「それは問題なんですよね。シェルリー王女はこんな俺でも好いていてくれている訳なんでしょ?でも、俺にはその好きと言う感情も湧いてこないし、シェルリー王女一回だけチラッと顔を合わせただけなんで、なんとも言い様がなく」
病院でちょっと見ただけのシェルリー王女、それが好きか嫌いかと言われても・・・・・・。
「お断りになると?」
「一端白紙に戻してはいただけないでしょうか?」
「困りましたな。いや、そうなると、王国の軍人でもなければ、王女の夫婚約者でもない。そうなると、今出している給与も払う必要もなくなる。いや~困りましたな」
ん?ん?ん?
と、アリエッタを見ると
「今、生活費は王国から支払われております」
と、
「え?そうなの?なに俺って王国の軍人扱い?」
「はい、王国軍対魔王隊司令官です。今は、療養中と言うことで療養費が給与として支払われております」
うわ、このセバスチャン、紳士に見えてなかなかの駆け引きカード持っているんじゃん。
「断ると無職?」
「はい、無職です」
「他の国が俺を雇うとなると?」
「やはり軍のトップです」
・・・・・・詰んだ。
記憶がない俺が無一文になって外で稼ぐとか考えられない。
「大丈夫です。御主人様の生活費くらい私が娼婦になってでも稼いで見せます」
「うっ、それはやめて」
異世界転生紐男生活・・・・・・、そんなみっともない物語の主人公は嫌だ。
なにより、この二ヶ月近く献身的に24時間看護をしてきてくれたアリエッタにそんな仕打ちは嫌だ。
「ううううう、どうしよう・・・・・・軍のトップになって判断を誤ったら戦争で幾人も・・・・・・」
と、考えると、セバスチャンはポンッと手を叩き
「ならば、こういたしましょう」
と、代案を提案してきた。




