表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの虹の向こう側へ【改稿版】  作者: 宙埜ハルカ
第一章:出会い編
12/85

【十二】長い帰省

 それからも俺達は小さな思い出を積み重ねながら、穏やかな日々を過ごしていた。

 三度目のクリスマスは平日で、彼女のいるK市の隣の町まで会いに行った。 

 お正月は一緒に初詣に行き、三度目のバレンタインも平日だったから、直前の週末にスキーまでは行けないからと俺達の始まりの雪山へ再び行った。冷たい雪も溶かしてしまいそうに、俺達の心は温かかった。


 俺は夏に教員採用試験が控えているので、二月一杯でアルバイトを辞めることにした。そして、三月の初めから三週間程実家へ帰ることにしたんだ。それは、いろいろなことが重なって、とても長い帰省となった。

 今まではアルバイトがあるから、長期の休みでも長く帰ることが出来なかった。だから、この機会にと高校の時の友人達とスキーに行く約束をし、クラブの仲間たちとも集まる約束をした。それから、今年教育実習をお願いする予定の母校を訪ねるつもりだった。

 彼女の方も三月の半ばは仕事で帰れないと言うので、最初の予定よりも長くなってしまったんだ。

 二月の最終の週末、俺達はしばらく会えないからと、彼女は金曜日の夜から泊りに来てくれた。いつもと変わらぬ二人の距離。いつもと変わらぬ彼女の笑顔。抱きしめると彼女は嬉しそうにほほ笑んだんだ。


 俺は予定通り三月の始めから帰省した。いつも正月やGW、お盆に二、三日ぐらいなら帰省していたが、今回のように長い帰省は大学へ入ってからは初めてだった。

 今回の帰省で一番の楽しみは、去年の四月に結婚した兄夫婦の二月の始めに生まれた赤ちゃんに逢えること。三月の始めに義姉も実家から戻ると言うので、時期を合わせたのだった。

 赤ちゃんは女の子で、こんなに可愛い赤ちゃんを見るのは初めてだと思う程、可愛かった。これって、叔父バカなのかな?

 名前は葵で、守谷家の漢字一字の名前の伝統は守られているらしい。

 俺が美緒と選んだお祝いの子供服を渡すと、義姉は「慧君も美緒ちゃんも、センス良いねぇ」と喜んでくれた。


 翌週には計画通り、高校時代の仲間達と三泊四日の平日スキーに出かけた。スキーといっても俺以外はボードだけどな。毎年、ボードやらないのかと聞かれるけど、もう少しスキーを極めたいと思っている。

 平日に長期でスキーに行けるのも大学生の特権で、けれど三年の今の時期は就活の一番忙しい時期らしく、来られない奴もいた。

「慧の彼女、年上だって? 高校の時も年上と付き合っていたよな」

「俺は年下がいいな」

「おまえ、選んでいられるのかよ」

「うるさい! リア充」

 スキー場のロッジの夜は、ワイワイと宴会状態で、久しぶりに羽目をはずして騒いだ。

 親友と言える綾瀬にだけは彼女とのことを最初から話をしていたので、皆とは違う目線で「彼女と上手くいっているのか?」と聞いて来た。俺はニヤリと笑うと「ああ、バッチリ」と返した。

 こうして離れていても不安を感じない程の絆は結べていると思う。


 バレンタインの直前に行った雪山で、俺は彼女に言ったんだ。

 「今は学生だけど、絶対教師になるから、これからもこうやってずっと一緒にいてほしい」

 彼女は少し驚いた顔をした後、優しく微笑んで頷いてくれた。これって、プロポーズになるのかな?

 それから俺達は二人で一緒にいる幸せを実感し、同じ未来を夢見て語り合った。

 だから、三週間程会えなくても不安も疑いもなく、繋がっていることを素直に信じられたんだ。


 彼女に、昼間撮った雪山の写真を写メールした。

 俺達はお互いの性格ゆえか、あまり電話やメールを頻繁にやり取りしない。帰省してから電話したのは、最初の日とスキーに行く前日で、メールも兄の赤ちゃんの写メールと今回の写メールのみだった。

 彼女からは写メールを送ると必ず返事が返ってくるけど、彼女の方からは写メールがたまに来るぐらいで、電話も余程用事がない限りかかって来ない。そのことに少し不満は感じるものの、俺の方もマメに連絡取るタイプじゃないので、お互い様なのかもしれない。

 その上、彼女は携帯を鞄へ入れたまま忘れきっていることも多い。何度電話を書けても出ない時は、マナーモードにしたまま、鞄の中に忘れられている。眠る前にやっと携帯の存在を思い出して、メールが返ってきたりするんだ。


 今回の帰省は三週間の予定だったけれど、三週間目の週末に彼女は甥の子守りがあるからと言うので、俺はもう一週間実家にいる事にした。

 その週末は彼女のお姉さん夫婦の結婚記念日らしく、二人のデートのために甥っ子との留守番を申し出たらしい。

 お姉さん夫婦の結婚記念日だったその夜、俺は彼女に何度か電話をしたが、また携帯の存在を忘れられているのか出なかった。

 お姉さん達のデートの話に夢中になって、携帯のことを忘れているんだろう。俺は苦笑するとメールすることにした。

 『何度も電話をしたけど、忙しいみたいだね。美緒のことだから、携帯の存在自体忘れているんだろ? そんな調子で俺のことまで忘れないでくれよ。来週の週末までには帰るから、来週末は会おう。また連絡するよ』

 このメールに気付くのも、いつになることやら。

 俺は返事を待つことなく、眠りに着いたのだった。

 翌日の朝、携帯のランプが点滅し、メールの着信を知らせていた。

『慧、何度も電話貰っていたのに、ごめんなさい。実はお義兄さんが急に海外転勤が決まって、今その準備の手伝いで忙しいの。月曜日も休みを取って手伝う予定なので、電話できないと思う。また連絡します』

 送信時間は、夜中の二時だった。俺はそのメールの内容に驚いた。

 えっ? 海外転勤? 急にって、急過ぎるだろ? そんなに急に海外転勤なんて言われるものなのか?

 それに結婚記念日のデートは? 

 転勤が急に決まってデートの予定も流れてしまったのか。

 それにしても、サラリーマンは大変だな。海外って、どこへ行くんだろう?

 それに、美緒と来週末には会えるんだろうか?

 このメールには明日の月曜日まで手伝うってあるから、週末は大丈夫だろう。

 美緒も大変だなと思いながらも、そのうちに連絡が来るだろうと、俺は大して気にも留めなかった。

 実家滞在が一週間延びたおかげで、母親からしっかりこき使われた。義姉は赤ちゃんの世話があるので、買い物などは俺の係りになった。

 急なお使いを頼まれ、車を出しているより自転車の方が早いと、俺は高校の時の自転車で家を出た。もうすっかり春めいている。家の近くの桜並木を通った時、膨らんで先がピンク色になった蕾を見つけた。自転車に乗ったまま足を地面に着けて止まると、携帯でピンクに膨らんだ蕾をカメラ機能で切り撮った。

『実家の近くの桜並木の桜の蕾も膨らんで来たよ。桜が咲いたら、一緒に見に行こう』

 彼女に写メールを送ると、胸に暖かいものが込み上げてきた。

 早く美緒に逢いたいな。


 そして俺は木曜日の夜に自分の部屋へ帰って来た。週末に彼女が来るだろうから、一ヶ月近く締め切っていた部屋の掃除をするため、週末より一日早く帰って来た。

 帰ってすぐに彼女に電話をしたが、出なかった。また携帯の存在を忘れているな。俺は仕方なく帰ってきたことをメールで知らせた。

 彼女からメールは又夜中で、翌日の朝メールの着信に気付いた。

『慧、電話やメールを貰っていたのに返事が遅くなってごめんね。明日の夜はそちらへ行けないけど、土曜日の午前中、芝生公園の駐車場で逢わない? 暖かくなってきたから、たまには公園で待ち合わせしたいので、よろしくお願いします』

 芝生公園で待ち合わせ?

 あの公園も桜の木の多いところだから、ちらほら咲き始めているかもしれない。

 この前あんな写メールを送ったから、桜を見に行きたいということだろうか?

『美緒、明日のこと、了解。芝生公園の桜が気になったのか? たまには公園で待ち合わせもいいかもな。一か月ぶりだから、早く逢いたいよ』

 そのメールに返事は来なかった。

 俺は頭の隅で妙な違和感を覚えたけれど、気にしないことにした。

 彼女とこんなに逢わなかったのは、彼女の就職試験の時以来だ。だから、公園で逢おうなんて言ったのかもしれない。

 あの時みたいに、久々に逢うことが気恥かしくて、どこか照れてしまうからだろうか?

 自然の中で逢う方が、気恥かしさが紛れるとか。

 俺は、彼女の公園での待ち合わせを指定した気持ちをあれこれと想像しながら、彼女と逢える嬉しさに包まれて眠りに着いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ