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第二話:「未来へ」

書く時間取れたので久しぶりに更新しようと思います。

 気がつくと、俺は水たまりの前にいた。

目の前には高い塀に囲まれた水たまりがあり……。明らかに先ほど女神イシスと出会った場所だった。

ただ、目の前の水たまりは虹色に輝いてはいなかった。空も、雲一つない晴天だった。


しかし、目の前の水たまりには女神イシスが(たたず)んでおり、俺を見据えてにっこりと笑った。


「ほれ、ついたぞ」


 俺はその言葉を聞き、驚いてズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、アンロックさせる。

日付は6月18日午前10時。俺が彼女と初めて会った時から1日経過していた。


「ほら、未来にきているだろう?」


 彼女は満足そうな表情で俺を見据えた。


「……本当に未来なんですか?」


 なんとも信じがたい状況に、俺は彼女に再度確認をした。

それを見て、彼女は訝しげな表情になる。


「だからそうだと言っているだろう。しばらく経てば勝手に今までいた時代に戻るから、さっさと競艇とやらを見てくるが良い」


 疑う俺にイライラしたのか、有無を言わさない口調で話を始めた。


「じゃあ、(わらわ)は忙しいのでな。これにて失礼するぞ」


「あ、ちょっと待って……」


俺が言葉を発するのを待たずに、彼女はするすると水たまりの中に吸い込まれていった。


「なんなんだよ一体……」


俺はため息を吐くと、軒下に置かれていた俺の荷物を拾い上げ、水たまりを後にした。


「……とりあえず競艇場に行ってみるか」


 信じられない気持ちもあったが、本当に未来に来ているのならこれを利用する手はない。

せっかくなので、競艇場に行ってみることにした。





 駅に向かい、電車に乗り込み1時間。俺は競艇場の前にいた。

昨日とは違い大勢の人が競艇場に入場していく。

俺はどきまきしつつ、100円硬貨を競艇場の入場口にいれ、入場した。

そして俺は入口の出走表を1枚取り、驚愕した。


「まじか……。G1グランプリじゃん」


 G1グランプリとは、各レースを勝ち抜いた高レベルなレーサーのみが出艇する大会だ。

つまり、高校野球でいう甲子園みたいな物だ。

上手い人しか出艇しないため、見ごたえ十分なレースをみることができる。


俺は「G1グランプリ一日目」という出走表の記載にドキドキしつつ、唸った。


「本当に未来に来たのか……」


 そう、このG1グランプリはイシスに出会う翌日に開催される予定だった物だ。

俺はこの状況に驚きつつも、足取り軽やかに席へと向かった。




 コース目の前にある外の自由席――いつも通りの定位置に俺は腰かけると、出走表とにらめっこを始める。

買う舟券の種類は、いつも通りの3連単だ。舟券の中では一番高いオッズとなることが多く、高配当を望める賭け方だ。


「6号艇に上手い葛西選手。3号艇の秋山選手はモーターの二連勝率が40%越え。1号艇は堅実な山本選手……」


 ぶつぶつとしゃべりながら考えるが、出走者全員が上手いため、正直狙い目がわからない。

こういう時は、各舟のコース取りと当日の調子が一番重要だろう。俺はそう思うと、目の前で始まる展示航走に注目した。


 1秒を刻む軽快な音を横耳に挟みつつ、各舟が展示航走をスタートさせる。

軽やかなモーターの音を鳴り響かせ、舟がタイミングを見計らうようにスタートラインを通過した。


「……2号艇が調子よさそうだな。1号艇は出遅れているな……」


 水しぶきをあげながら俺の目の前を通過していく舟を見つつ、俺は思案する。

競艇のスタートは各舟がスタートライン前で事前に加速を始め、ラインを超えないように走る。

つまり、スタートのタイミングでそのラインに一番近い人が舟と環境を一番把握している人……調子が良い人といえる。俺はそれをこの展示航走で確認したのだ。


 そして重要なターンマーク。俺は各舟の仕上がり具合を慎重に確認する。


「5号艇が……バタついている? 後は普通か……」


 5号艇は、波に逆らえなかったのか舟頭を上下に揺らしながら走行をしていた。

 このような走り方になってしまうと、プロペラからの推進力がきっちりと舟に伝わらなくなってしまい、抵抗が増大してしまう。つまり、あまり良い仕上がりとは言えないだろう。


 各舟がコースを2周した後、お待ちかねの投票タイムが始まる。

俺は展示タイムを確認しながら投票する番号を思案する。


「展示タイムが一番早いのは3号艇……。1号艇は2番目のスピード……。なるほどね」


 考えた結果、1着が1号艇と3号艇。2着が1号艇と3号艇と2号艇。3着が1号艇と3号艇と2号艇と6号艇のフォーメーション買いをした。これならば8組み合わせとなり、800円の賭け金となる。

 ただ、俺はオッズが高そうな3-2-6に1000円をかけた。当たれば大勝になるわけだ。

結果今回のレースでは、1700円を使った。


 なお、競艇は基本的に1号艇からインコースを陣取り、6号艇がアウトコースを走ることになる。

アウトコースが不利なので、1号艇が一番有利となる。そのため、並な仕上がりの1号艇を頭にして購入してみた。


 俺はマークシートには先ほどの組み合わせを記載し、券売機で購入をする。

そして、自分の席へと戻り、各番号のオッズを確認した。

 

 「3-2-6が50倍で一番高いオッズだな……。こいつに1000円を投入しているから、50倍が的中すれば5万円の払い戻しがある計算だ」


 俺は満足した気持ちでオッズを確かめていると、投票締め切り時刻となり会場がざわめき始めた。


「……やっぱりG1グランプリは興奮するよな」


 会場の盛り上がりにそんな感想を抱いていると、ファンファーレが鳴り舟がスタートライン後方に陣取り始めた。


その時、俺は違和感を持つ。


「……あれ。まさか、2号艇が一番インコースにいる?」


そのまさかだった。2号艇が先にスタート地点に到着し、陣取ってしまったようだった。


「ちょっと、展示航走と順番違うじゃん……」


 本番の出走順は基本的に展示航走と変わらない。イレギュラーな状況に俺は不満を呟いていると、1秒を刻む軽快な音を刻みながら各舟が出走した。

出走順は、2-1-3-4-5-6。2号艇と1号艇が逆になっただけだった。


そして一番大事な第一ターンマーク。俺は祈るように3号艇を注視する。


「3-2-6! 3-2-6! 3-2-6! 三号艇まくれ!」


 しかし現実はそう甘くはない。

3号艇がまくろうと加速し、進路を阻まれた1号艇は水しぶきを上げつつ他舟と交錯する。そんな最中、隙間をするすると抜け、アウトコースの()()が先頭に躍り出た。


「……は?」


 俺は驚愕して第一ターンマーク後の舟たちを凝視する。現状は6-3-1。先頭は6号艇だった。


「まじか……」


 競艇は大体第一ターンマークで順位が決まってしまう。この後は各舟共に小競り合いを起こしつつも、順位を変えることなく。3周を走り切りゴールインをした。


「6-3-1。オッズ高そうだな……」


 俺は放送を聞き入る。


『ただいまのレース。3連単6-3-1。5万8600円……』


「いきなり万舟券かよ……」


 オッズは586倍。つまり、100円賭けるだけで5万8000円へと化けたのだ。


「はあ……」


 いきなりの万舟券を逃したことと、予想した番号が外れたことが重なり、俺は気落ちした。

しかし、すぐに俺は気持ちを奮い立たせる。


「まだ11レースあるもんな。落ち着いていこう」


俺は出走表を開くと、第二レースに参加するレーサー達を凝視し始めた。



――ちなみに、その後も散々な結果だった。


 G1グランプリだけあって、皆が上手い。つまり、予想が非常に難しいのだ。

午後4時頃、12レースが終盤に差し掛かった後、俺は悟りを開いていた。


「当たらない。当たらない。当たらない」


うわ言のようにつぶやきながら、俺は最後のレースを見入っていた。


最後のレースの走行順は3-4-6。3-6-4は買っていたのだが、それは買っていなかった……。


暫くたち、各レーサーがゴールインし、順位が表示される。そして、いつも通り会場に放送が流れた。


『ただいまのレース 3連単、3-4-6。 1万6000円……』


本日5度目の万舟券を聞き、俺は気落ちする。


「はあ……」


 俺は大きくため息をはき、出走表を眺めた。そこには各レースでの賭け金と、順位、当てた金額が記載されていた。

 当たったレースは順当だった第七レースだけだった。オッズは10倍で、1000円しか配当がなかった。


 俺は出走表をたたむと、鞄の中にしまい込む。


「さてと……」


 俺は鞄を持ったまま席を立つ。

すると、急に目の前の視界がぐるぐると周り始めた。


「へ?」


 視界が暗転し、意識がぼうっとする。

なんだか、全てが許されたような幸せな気持ちとなり……。




 気づいたら俺は水たまりの前にいた。

目の前には高い塀に囲まれた水たまりがあり……。目の前には虹色に輝く水たまりがあった。

 雲が多い空は若干オレンジ色に輝いており、夕暮れを想像させた。


ただ、目の前にはイシスはいない。光輝く水たまりがあるだけだった。


 俺は驚きつつも、ポケットにしまってあるスマートフォンを取り出し、アンロックする。

表示されている日時は、6月17日午後5時半。俺が初めてイシスにあった時と同じ時刻だった。


「……夢だったのか?」


 俺はぼうっとした気分で手に持ったバックを開く。


「……まじか」


 そこには先ほどまでメモしていた出走表が入っていた。

日付は明日の日付。間違いはなかった。


 俺は大事な物をしまうかのように、出走表を鞄の奥深くにしまい込むと、水たまりを再度見た。


「あれ?」


 俺は驚きと共に、水たまりを凝視する。

その水たまりは夕焼けを反射させ、オレンジ色に輝くだけだった。


「……なんだったのだろう?」


 俺は首をかしげると、鞄を持ち家路へと着く。

明日はG1グランプリ。朝早くに起きて競艇場へと向かわなければいけない。


 しかし、俺は先ほどまでの記憶により、わくわくしていた。


「まさか、この出走表の記載通りに賭けたら全勝ちとかね……?」


 俺の心は跳ねる。明日への期待によって。

競艇の専門用語ばっかですみません。

文中で説明しきれなかった内容を記載します。


「まくり」

決まり手の一つ。

アウトコースの舟がインコースの舟を抜く1つの技。

インコースにいる舟の外側をターンして抜く。


「差し」

決まり手の一つ。

アウトコースの舟がインコースの舟を抜く1つの技。

インコースにいる舟の内側をターンして抜く。


「逃げ」

決まり手の一つ。

インコース(1コース)の舟が他の舟を振り切りそのままゴールすること。


「オッズ」

投票券の倍率のこと。

オッズ100倍なら、100円の舟券を買えば10000円の払い戻しがある。


「万舟券」

通称万舟。

オッズ100倍を超えた舟券の総称。


「展示航走」

レース前にレーサー達が予想の参考のために一度皆の前で走ること。



その他分からない内容、または間違いがあれば感想に連絡ください。

(私も競艇ビギナーですので……)

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