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8 戦いと魔法と今後の話

予約投稿なる物を試してみました。


話の展開や誤字などを修正(8/5)

 冒険者とは、所謂何でも屋に近い職業だ。掃除や配達、物探しなどの街中の仕事から、護衛や魔物の駆除なども行う。

 当然戦闘する事も多く、危険も多いため、危険度の高い依頼を受けるためにはそれ相応のランクが必要になる。


 冒険者に付けられるランクはEからAまでの5段階、駆け出しはEから始まり、街中での依頼を受けながらギルドで戦闘のための講習を受ける。

 当然ながら、もともと戦闘の為のイロハを学んでいる者もいるため、開始のランクを決めるために職員による戦闘の試験が行われるらしい。


 なんの因果か、たまたま俺らが登録していた所にギルドマスターが出勤してきて、俺らのステータスを覗き込み、自分が試験をすると言い出してしまった。








 そう、このおっさん、ギルドマスターらしいのだ。


 ギルドの裏手の練習場に連れて来られた俺たちは、おっさんことギルドマスターと話していた。


「自己紹介がまだだったな。俺がここのギルドマスターのエヴァンスだ。見てのとうりドワーフだな。気軽にエヴァさんとでも呼んでくれ。」


 ドワーフってのはずんぐりむっくりのイメージだったが、このおっさんは2m近くあるな。目の前に立たれると威圧感がすごい。


「ああ、どうも、俺はアサギ。よろしく頼む」


「カブ子です」


「ミアです」


 後の二人は口数少なめだ。まあこの怖そうなおっさん相手だしな。カブ子はいつも通りか。


「おう、よろしくな。それで、今らお前達の実力を図る。とは言っても戦うのはアサギ、お前だけだけどな」


「ん? ミアは登録済みだからいいとして、カブ子は戦わなくても良いのか?」


「ああ、そっちの嬢ちゃんは階位も低い。いくら剣術の心得があると言っても流石に俺の相手にはならねえだろう。他に相手してやれる職員も今日はいねえからな」


「手加減してくれれば良いんじゃ無いのか?」


「いやーあの、だな」


 ん?どうした、何か不都合があるのか? ボリボリと頭を掻いて言い澱むおっさん。


「いや、俺は手加減ってやつが苦手でな、獲物もこいつだし怪我させないとは限らねえからな。女に怪我させるのは忍びねえ」


「おい、俺は良いのかよ」


「男は知らねえ。怪我したら唾でも付けとけ」


 おいおい。


「まあどちらにせよパーティーで受けられる依頼はその中で一番高いランクの奴に依存する。お前さんのランクが高けりゃ外で討伐も出来るさ」


「ん? パーティーってのは」


「なんだ? 受付で説明を受けなかったか?」


 受ける前にアンタに連れて来られたからな。奥に立つ受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げている。どこにでも苦労人ってのは居るもんだな。


 おっさんの説明によると、複数名で依頼を受ける場合、パーティーなるものを組むらしい。組んでおくと報酬が自動で分割されたり、色々と便利だそうだ。


 因みにミアのランクはE、実際冒険者として活動した事は殆ど無いらしい。


「よし、説明もした事だしそろそろやるか、お前の戦闘技能で目立ってんのは......弓術と棒術か。弓じゃ強さが分かりづらいから棒術だな。そこの訓練用の武器の中から好きなもんを選んでくれ。」


 やたら戦いたがるなこの人は。まあ俺の実力がこの世界で何処まで通じるのか知るためにも、戦ってみるのも良いかもしれない。









 エヴァンス(おっさん)に促されて、訓練用の武器の入ってる木箱を覗いてみる。刃を潰された剣やら槍やらが無造作にぶち込まれてるな。

 

 めぼしい物を探すが、俺の使える武器が無い。棒術とは言ったものの、俺が得意とする武器はこういった普通の棒じゃ無いんだよな。


「あの、この中には俺が使える武器が無いんだが」


「あん?棒術で使う鉄棒やら何やらがあるだろう?」


「いやー、棒術は棒術だけどこういう棒を使うような武術じゃないんだわ」


 けげんそうなおっさん。まあ何を言ってるか分からんわな。


「なんだ? 特殊な奴なら俺が作ってやろうか?」


「作る? どうやって?」


 今から作ってたら日が暮れちまうぞ。今日中に登録は終わらせたいんだけども。


「ああ、俺の魔法適正は地属性だからな、鉄製でよければささっと作ってやるぞ」


 まじかよ、便利だな。魔法って凄いわ。


 というわけで、作って欲しい形をおっさんに伝える。


「なるほど、見た事無い武器だがまあ良いだろう。材料は......この鉄棒でいいか」


 そういうと、おっさんは武器の山から鉄棒を取り出し、何やらつぶやき始めた。


「万物流転の力を行使する。再構成(リクリエイション)!」


 おっさんの手と鉄棒が光に包まれる。光が流動的に形を変え、収まった時には俺のオーダーした武器が出来上がっていた。


「よし、こんなもんだな。特別な機能はねえが強度だけはお墨付きだぜ」


 出来上がった物をカツンカツンとぶつけ合わせ、こちらへと披露してくれるおっさん。

 

 おっさんが持っているのは、二振りの警棒ほどの長さの鉄棒から、垂直に取っ手がついた物。



 そうトンファーである。








 俺の技能欄にあった棒術とは、おそらくこれの事だろう。他に棒を使った武術とか知らないしな。


 旋棍(トンファー)は沖縄に伝わる武術だ。ウチの爺さんが何故かこの武器を好んで使っていて、小さい頃から俺もよく訓練していた。攻防一体の武器で、もともと剣術に対抗するためのものなので今の状況にも合っている。


 とはいえ相手は大振りの両手剣、受け止めるのは無理だけどな。


 武器も出来上がり、おっさんと向かい合う。この世界での戦闘はこれで二度目になるが、まだまだ自分の状態が把握仕切れていない。


 前回戦った時に思ったが、どうもこの世界に来てからというもの、身体が軽いと言うか、何となく自分が強くなったような感じがする。ファンタジー補正というやつだろうか?


 まあ今は自分の現状を確かめながらやるしか無いか。







「よし、準備はいいな。では、行くぞ!」


 言うやいなや、おっさんが両手剣を構えて向かって来る。つうか早い!人間の出来る動きじゃ無え!


 とはいえ目で追えない早さでは無い。とっさにトンファーを構え、半身になり振り下ろされる大剣に対して左のトンファーを合わせる。

 

 まともに受け止めるのは不可能なので、剣を受け流す方向に合わせる。それでも左手に受けた衝撃は相当のものだ。


 追撃を受けるのは御免なので、咄嗟にバックステップで距離を取る。トンファーは超近接の武器だが、いかんせん立て直さないといけない。


「ほう、この一撃を受け流すか。流石は高レベルの戦闘技能持ちだ。」


「いやいや、やっとこさだっての。それより今の受け損ねてたら大怪我だぞ」


「男なら唾でも付けときゃ治るだろう。ゴタゴタ言うな、ほら行くぞ!」


 理不尽極まりない言葉と共に、また迫って来る。今度は不意を突かれず、逆にこちらも向かって行く。先ずはあの一撃を凌ぎ、こちらのペースに持っていかなければ。


 ぶおん、という音と共に、大剣が凄まじいスピードで迫る。ただ先程とほぼ同じ軌道だ。こちらを試しているのだろうか。


 俺は先程と同じ様に左のトンファーで受ける。凄まじい衝撃に左手が痺れるが、構わず懐に潜り込む。


 この大剣では超至近距離ではまともな攻撃は繰り出せない。一度距離を取るか、剣を捨てて格闘に移行するかの二択、おっさんは距離を取ることを選択し、バックステップで下がる。


 だが俺は勢いのまま距離を詰め、鳩尾に右のトンファーによる打突を繰り出す。


「おらぁっ!」


 急所への一撃に、エヴァさんに大きな隙が生まれた。追撃を仕掛けたいがいかんせん左手が痺れていて使えない。そのまま足払いを繰り出し、バランスが崩れた所で、右のトンファーを回転させ、勢いを付けて脇腹へ打ち込む!


 俺の攻撃を受けるままのおっさんだったが、右手に持った剣を力任せに横薙ぎに振り抜く。おいこんな大剣片手で振るうとかどんな馬鹿力だ!


 身を屈めて回避するが、その間にエヴァさんが体勢を立て直して距離をとってしまった。


「おいおいやるじゃねえか。新人相手にここまで打ち込まれたのは久しぶりだぜ」


「とかいいながらピンピンしてるじゃないか。結構いいダメージ入ったと思ったんだがなあ......どんだけタフな身体してるんだか」


「この程度じゃまだまだかすり傷だぜ。それにしてもすげえ体捌きだな。魔法も無しにここまで俺と張り合うなんてな」


「そりゃどうも」


 少し考えた風のおっさんだったが、腰だめに構えていた大剣を腰溜に構え直し、此方に相対する。


「それじゃあこっからは俺も魔法を使うからな。死ぬ気で凌げよ。大地の力を我に、地脈の力(アース・エンチャント)


 なんだ今の? おっさんの足元からなんかぶわっとしたのが立ち上って吸い込まれてったぞ。なんかぞわっとする感じ、これが魔力って奴か?


 考えている暇も無く、先ほどと同じように切りかかってくる、がさっきより明らかに早い! 踏み込んだ足元が爆発し、一足で彼我の距離がゼロになる。くそっ、さっきのは強化魔法的なやつだったってことか!


 どうにか反応はしたが、受け流すところまではいかない。腕をクロスさせて受けるが、受けきれずに大きく吹飛ばされる。踏鞴を踏んでいると、すぐにおっさんの追撃が迫る。くそ、完全にぶちのめす気できてやがる。


 両腕は痺れて使い物にならない。立ち上がって回避、いや間に合わない、土壇場でする事じゃねえが魔法くらいしか打破する方法が思いつかない!


 思い出せ、さっきの感覚。さっきのが魔力って奴なら、それが俺の体にも流れてるって事だ。魔法適正はあるようだし、無いって事は無いだろう。


 大剣の一撃が迫るその刹那。目を閉じて自分の体の中に集中する。魔力、魔力...これか?

 

 今まで感じたことの無い感覚が自分の中にあるのを感じる。それを知覚した瞬間、何かが繋がったような感覚が体から脳内に走る。これなら......いける!



 時間にしてコンマ数秒、目の前には大剣の一撃。とにかくこの一撃を凌げる魔法だ!


「風よ!暴嵐の突撃ストーム・ファランクス!!」


 詠唱が勝手に頭の中を走った。


 俺の前方から発生した風が、圧縮されてエヴァさんに迫る。たかが風、されど風。圧縮された暴風が大剣を吹き飛ばし、勢いそのままにおっさんに直撃する。吹飛ばすまでは行かないまでも踏鞴を踏ませることに成功した。その間に態勢を立て直し、距離をとる。


「はあ!? お前魔法も使えるのかよ! それになんだ今の詠唱は! そんな短い詠唱でこんな威力だなんて馬鹿げてるだろ!」


「あいにく今のが俺の初魔法だ。詠唱に関しては知らん」


 少し余裕が出来たな。ふと後ろを見てみれば、観戦していたカブ子とミアが何かを話している。


「カブ子さん。なんでアサギさんが魔法を使ってるんですかねー」


「まあああいう人ですから。見よう見まねでやったら出来ちゃった。という感じでは無いでしょうか。伊達に天才じゃないですね。」


「ええー。見よう見まねって...普通魔力を知覚し、自らの魔力を脳内と回路でつなげるまででも少なくとも数ヶ月はかかります。そこから詠唱を発言させて魔法という形にするのにまた時間がかかるはずなんですが......」


「それはまあ......あの人に関してはそういうものだと思っておくのが賢明です」


 何かミアが驚いた顔をしているが、言葉は聞こえないな。

 

 意識が少しそれたが、おっさんはこちらの様子を見ている。また風弾での奇襲を警戒しているのだろう。魔法の感覚は掴んだ。現状の自分の身体能力とのすり合わせも済んだ、さあ反撃と行こうか。


 頭の中でプランを組み立てる。トンファーと風魔法、それから体術。今使えるカードはそれだけだ。


 立ち上がり、おっさんを見据える。大きな剣を腰だめに構える姿は、一部の隙もないように見える。おっさんのテリトリーは中距離、大して俺は超至近距離。まずはどうにかしてもぐりこむことだな、そうしてしまえば後はなんとでもなる。


 魔法のイメージを固めながら、少しずつ距離をつめる。彼我の距離は10メートル。おっさんなら一歩で攻撃範囲までつめてくる。よし、いくぞ!


「風よ!」


 突風が俺の背中から吹きつけ、俺の体を飛ばす。風の力を借りて、一気に距離をつめる。


 おっさんも直ぐに反応し、飛び出した俺を迎撃するために横薙ぎに剣を振るう。


「風よ!」


 再び魔法を行使。今度は下から吹き上げる突風が俺の体を打ち上げる。風に乗り、高速で振るわれる剣を回避する。足元をすごい勢いで剣が通り過ぎていく。よし、うまく回避できた上にうまく頭上に回りこんだ。


 剣を振るった状態から上方への攻撃に移行するのは困難だ。そのまま反応が遅れたおっさんの脳天に、握りを緩めて回転させ、遠心力を加えたトンファーを思い切り振るう。


 ガツン、といい音がして、トンファーが直撃し、おっさんが崩れ落ちる。そして俺も、空中からの着地に失敗し、腰をしたたか打ちつけて動けなくなる。なんともみっともないな。




 大の男が二人して崩れ落ちている状況を見て、ようやく終わったのかとミアとカブ子、それから見学していた受付嬢が駆け寄ってくる。


「いやーアサギさん。すごい戦いでしたねー。見入っちゃいましたよ。」


 ミアの声に答えようとするが、だめだ、声を出す気力もねえ。


「あー、両腕と腰の打撲に初めての魔法での魔力酔いですねー。打撲は回復魔法でなんとかしますが魔力酔いは一日くらい気持ち悪いままですからねー。」


 そういいながら、もにょもにょと呪文を詠唱し、俺の腕や腰に手を当てていくミア。おお、痛みが嘘みたいに取れていく。


 ミアの治療を受けていると、受付嬢が話しかけてきた。


「あの、ギルマスが気絶してしまっているので、ランクの決定とギルド証の受け渡しが明日以降になってしまうのですが...」


 ちらちらと、大の字で伸びているエヴァさんを見ながら、遠慮がちにこちらを伺ってくる。まあ仕方ないな。なんとか痛みも取れて話せるようになってきたので、明日にまた来る旨を伝える。


「それにしても凄いですね。あのギルマスに勝ってしまうなんて。一応あれでも現役のときは鉄腕のエヴァンスという二つ名でバリバリ言わせていたAランク冒険者だったんですよ」


 まじでか、あのおっさんそんな凄いやつだったのか。


「まあ不意をついただけだからな。まあ次やっても勝つだろうけど」


 もう遅れをとることは無いだろう。伊達にジジイの地獄のシゴキを潜り抜けて来てないからな。


「いやはや、凄いですね。これならCランクからのスタートになると思います。頑張って下さいね」


 そんな受付嬢の言葉に見送られ、ふらつく体を抑え、食事処トキワへと帰るのであった。









「とまあそんなわけで、俺が定住できないことが発覚し、魔力酔いでここで寝ているわけだ」


 時は食事処トキワでメッサーと会話していた時に戻る。俺は客席の椅子を並べて横になりながら、テーブルの対面に腰掛けたこいつに旅に出る旨を伝えていた。


「そ、そんな事があったんですか。それにしてもアサギさんって戦っても強いんですね。びっくりしました」


「まあ向こうでも修練は積んできたからな」


 それにしても、向こうにいたときよりも格段に動けていた。異世界補正というやつか、ステータスの恩恵かはわからないが、向こうなら人外とされるような動きが簡単にできるようになっていた。


「そんなわけで、今後はギルドで少しづつ依頼を受けて、冒険者稼業もならしていこうと思う。それで、だ」


 一呼吸おいて、今後必要なことを話す。


「従業員を雇おう」

読んででいただきありがとうございます。

今後の投稿予定ですが、第一章の流通都市ベルケーア編が終わるまではなるべく毎日投稿したいと思います。現状ストックが二章途中なので、二章からは週2くらいで投稿できたらなあと思います。

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