7 ステータス、ギルド、おっさん
続いて5話の投稿です。
追記:ところどころ改行が入って見にくかったので修正しました。ご迷惑をおかけしました。
煙草を買って店に帰ると、メッサーが死にそうな顔で仕込みをして居た。流石に可哀想だったので手伝うことにした。すまない。
あれからまた十日が経過した。もう既に半月以上この店に居候している計算になるな。メッサーもずいぶんと良い料理をするようになってきた。
「メッサー。そろそろ従業員を雇う時だ。」
出汁の仕込みをしながら、包丁を研いでいるメッサーに声をかける。
「従業員...ですか?」
「ああ。そろそろ俺も旅に出ようと思ってな。」
メッサーの動きが止まる。そのままグリンと首だけをこちらに回してこっちを見てくる。なんだかホラーじみた動きだな。
「何でですか師匠!もっと一緒にこの店に居てください!」
メッサーが涙目になりながらすがりついてくる。やめろ近い近い近い!
「いやだってせっかく異世界に来たんだ。世界中を回って見たいと思うのが普通だろう?」
せっかくカブ子もいることだしな。
「...でも...!」
「それに此処はお前の店だ。お前が守っていく店なんだ。そこにいつまでも俺が居座ってちゃお前はいつまでたっても一人前の店主になれないだろう。」
「...師匠...!」
感激したように目を潤ませてこちらを見てくるメッサー。とはいえいろいろ
とこちらにも事情があるのだが。何でこんなことを急に言いだしたのかというと、昨日エイラと蒼真が飲みに来た時の話による。
「そういえばアザミさんって最近こっちに来たんですよね?」
「ん?まあそうだな。」
蒼真はあれからちょくちょくこの店に来る様になった。例のグランドドラゴン捜索が難航しているらしく、この街から動けない状態らしい。
「それなら冒険者登録はまだして無いんですか?」
「冒険者登録?なんだそりゃ?」
蒼真の説明によると、異世界からの転移者は、まずは冒険者ギルドで冒険者登録をするのが鉄板らしい。そうしないと、身分を証明するものが何も無い為、何をするにも不便だからだそうだ。
「それに冒険者登録すれば、自分のステータスを確認できる様になりますよ。」
何それ、めっちゃ面白そうなんだけど。この世界ステータスとかあるんだ。
「因みに僕のステータスはこんな感じです。ステータス!」
指で四角形を作って叫び出した蒼真。 言うや否や、その指の中に半透明のプレートが出て来た。なになに...?
名前:ソーマ=カブラギ
年齢:14
職業:勇者
階位:32
技能
剣術lv4
盾術lv3
体術lv3
魔法技能
光魔法lv3
火魔法lv2
回復魔法lv3
特殊技能
自動回復lv2
経験補正
無限収納
固有技能
道示す第六感
乾坤一擲
「因みに単語の所を押すとその説明が見られますよ。」
「なんと、そんな便利機能まで!」
「こんなに興奮しているアサギさんは初めて見ますね。」
「基本的にクールを装っているんですが、実は中身は子供なんですよ、マスタ
ーは。」
ミアとカブ子が何か言っているが、ステータスプレートに夢中な俺は何も聞こえない。とりあえずよくわからない単語を見てみよう。
職業:その人物の魂に刻まれた転職。行動により変化する場合がある。
勇者:世界を救う為女神の願いに応えた者。
職業恩恵(全ステータスに補正、経験補正、才能の開花)
職業制約(同一種族の殺害禁止)
階位:その人物の経験の累積値。魔物の討伐や修練により上昇し、各種ステータスに反映される。
なるほどな、職業にもメリットデメリットがある...と。こいつは最初から決まってるんだな。階位ってのは所謂レベルか。
「同一種族の殺害禁止ってのはこの世界じゃ厳しくないか?向こうから襲って来る場合もあるだろうに。」
「そうですね...確かにその制約に困らされた事も何度かありますね。ただ女神様曰く勇者が戦争の道具にならない様に必要な措置らしいです。」
へえ、勇者も大変だな。あとは...技能とか魔法技能はいいな。見りゃ分かる。
あとは固有技能ってやつか。何かカッチョいい名前がついてるな。
固有技能:その人物の魂に刻まれた技能。生まれた時点で所有する場合と、神授により後から所有する場合がある。それぞれが固有の強力な能力を持つ。
道示す第六感:生来の技能。己の求める物、場所に対する無意識下の誘導。
乾坤一擲:神授の技能。魔力や体力全てを捧げ、一撃に乗せる勇者の技能。
「へぇ、何か格好いい単語が並んでるな。勇者らしいと言うか何と言うか...というかこの道示す第六感ってのは何の役に立つんだ?生来の能力って事は生まれながらにして持ってるって事だろ?」
「そうですね。昔から感が良いとは良く言われました。落とした財布とかが直ぐ見つかったり...アサギさんに会えたのも案外これのおかげかもしれませんね。」
笑いながら話す蒼真だが、何か地味な能力だな。
「そういやこんなの会って直ぐの俺に見せちまって大丈夫なのか?こういうのって秘密にしといた方が良いんじゃ無いのか?」
「大丈夫です!アサギさんは僕の心のアニキですから!」
何かこないだからやけに慕われてるんだよな。薄っぺらい事しか言ってないと思うんだが。まあ悪い気分じゃ無いから良いけど。
ああ、隣でエイラが眉間を抑えている。蒼真も何だかんだ楽観的と言うか考え無しと言うか...苦労人だな、エイラは。
そんな感じで、ステータスという言葉につられた俺は、次の日に冒険者ギルドに来ていた。
冒険者ギルド。ゲームやアニメじゃ一番最初に訪れる場所だな。柄の悪いのに絡まれたりするのがお約束だ。御誂え向きに後ろにミアとカブ子っていう見た目は美少女の二人を連れてるしな。
西部劇に出て来る様な両開きの扉を開けて中に入る。思っていたよりも中はずっと綺麗だ。
物語みたいにたむろしているやつも居ないし、酒場があるわけでも無いな。よく考えたら仕事を探す場所だもんな、ここ。
案内嬢の言葉に従い、登録用のカウンターに赴く。ここはテンプレどうり美人のお姉さんがカウンター嬢勤めていた。
「あのー、登録お願いしたいんですけど。」
「はい、冒険者登録ですね。三名様全員が登録されますか?」
「いや、私は既に登録しているので大丈夫です。」
ミアは既に登録しているらしい。じゃあ俺とカブ子の二人か。
「それでは此方の解析版に手をかざして下さい。はい、それでは良いと言うまで動かさないで下さいね。」
なんかヒエログリフ見たいのが書かれた石版が出て来た。手をかざすと、青い光が文字を照らし、無秩序に文字が光っては消えを繰り返す。なんだかとってもファンタジーって感じだな。
「はい、もう良いですよ。それではステータスプレートを確認してみて下さい。」
昨日蒼真がやって居たみたいに、両手で四角を作りステータス、と唱える。
名前:アサギ=ミシマ
年齢:21
職業:風来人
階位:26
戦闘技能
弓術lv6 回避lv3
棒術lv5 投擲lv2
体術lv5
魔法技能
風魔法lv1
生活技能
料理lv7
操縦lv5
特殊技能
無し
固有技能
風読
天賦の才
お、思ったよりも強いな。一応向こうの世界でも色々とやってたからな。
「おー、アサギさん結構強いじゃないですか。それに固有技能が二つもありますよ!」
ミアの言う結構がどの程度かは分からないが、そこそこの能力はありそうだ。詳しく見ていこう。
蒼真のステータスプレートにやったように、単語の所をタッチしていく。よく分からんのは職業と固有技能だな。
風来人:風と共に渡る人。風のようにとどまる事なく世界を旅する。その動きが因果に干渉する可能性を秘めている。
職業恩恵:固有技能風読の付与。風魔法適正。
職業制約:定住の禁止。
ちょっとまった。見逃せない項目が最後にあるぞ。風来人という職業に関しては詳しく調べて更に訳がわからなくなったが、最後の定住の禁止ってのは何だ。
「なあ、職業制約ってのは破るとどうなるんだ?」
隣で俺のステータスを覗き込んで居たミアに質問してみる。
「無職になりますね。」
「無職?」
「文字どうり職なしですね。制約を破ると職業欄が空白になります。新しい職業を得るにはそれ相応の経験が必要となります。例を挙げると、料理屋の下働きを五年ほどやってやっと料理人の職業につけた、という話があります。」
「俺の制約、定住の禁止なんだけど。」
「あー、なるほど、この風来人ってのは旅人系統の職業なんですね。初めて見ましたが。基本的に家を借りたり住所を持つ、又は一箇所に長期間とどまるとアウトらしいですよ。」
「長期間ってどのくらいだ?もうこの街に1ヶ月近くいるけどやばく無いか。」
「アサギさんなら無職でもやっていけそうですけどね。だいたい半年くらいらしいですよ。まだまだ大丈夫です。」
ほっとした。開始早々無職は勘弁したいからな。それにしてもミアは物知りだな。少し見直したわ。言わないけど。
あと気になるのは固有技能か。
風読:風を読み、自由に操る風来人の技能。天候予測、気配察知などを含む。
天賦の才:才能に溢れた者。習熟速度上昇。経験補正。
どちらも割かし強力なスキルだ。眺めていると、カブ子が隣から口を出してきた。
「さすがマスター、昔から天才と騒がれて居ただけはありますねぇ。」
「まあ確かに物覚えは良かったな。」
昔から人より何かの習得は早かった。そのせいで直ぐに飽きて長続きしなかったけども。
そういや先ほどから受付のお姉さんが一言見発しないな。どうやら受付の方にもステータスが表示されているらしく、それを読んでいるようだ。
「あのー、もしかして何処かの騎士団か傭兵団などに所属されている方ですか?」
「いや、特にそのような事は無いが。」
よくわからん質問に俺が首を傾げていると、横からミアが耳打ちしてきた。
「在野の人間としてはかなり強いですからねー。戦闘を生業としてる人だと思ったんじゃないですか?」
「あーなるほど、そういう事ね。」
もやっとした顔をしている受付嬢に、転移者だという事を説明する。転移者がそこまで珍しく無い事はメッサーの反応で学んだ。
受付嬢も納得したようで、カブ子の登録に取り掛かってくれた。そういやこいつ人じゃねえけど大丈夫なのか?
そんな俺の不安をよそに、解析版は不備なく光り出した。何回見ても不思議な光景だな。
そんでカブ子のステータスこんな感じだ。
名前:カブ子
職業:旅人(隠蔽=付喪神)
年齢:20
階位:10
戦闘技能
剣術lv5
高速機動lv2
魔法技能
地魔法lv1
光魔法lv1
生活技能
料理lv5
特殊技能
継続戦闘lv4
自動修復lv4
固有技能
機械ニ宿ル神(隠蔽)
最後だけ突っ込みどころがすごいぞ。どうなってんだこれ。
機械ニ宿ル神:機械に宿った神の権能。機械、魔道具等の支配、操作を司る。(追記:この技能で怪しい所が隠蔽出来そうだったので急いで隠蔽しました、マスターには見えるようにしておきますbyカブ子)
なるほどね、この解析版も魔道具だから操作したって事か。自由かよ。
職業と固有技能を隠蔽した事で、カブ子のステータスは一見普通になったので、受付嬢から何か突っ込まれる事は無く、無難に登録が終了した。
そんなこんなでそこそこ平和に登録が終了した訳だが、次の手続きが割と厄介なことになった。
冒険者のシステムがよく分からんので、受付嬢に説明を乞う事にしたのだが...
「よう、新人か。なかなか歯ごたえのありそうなステータスをしてるじゃねえか、おい、こいつらの試験は俺が担当するぜ。」
何だか厄介そうなおっさんに絡まれてしまったのであった。
そろそろバトルとかしそうですね。