6 それぞれの休日
ちょっとした小話です。
それぞれの休日 アサギ編
「あー、うん。よく寝た。」
蒼真達との飲み会の翌日の朝。二日酔いはしないタイプの俺は、昼前に目を覚ました。何か夢を見ていた気がするが。
何だかスッキリとしないまま、枕元のスツールに手を伸ばし、いつもの習慣で煙草とジッポを取り出す。そして、その時を悟った。
「遂に...煙草が無くなった...」
昨日の飲み会では結構の本数を吸っていたからな。とはいえこの世界に来てから十日間。よく持った方だ。
という訳で、二日酔いに悩まされるメッサーに仕込みの類を全てぶん投げ、代わりになる物を探しに来た。メッサーは恨みつらみを垂れ流していたが、昨日の後始末を全部俺がやったことにして言いくるめておいた。
まあ実際はカブ子がほとんど片していたのだが。
全く起きてくる気配の無いミアとカブ子は放って置いて、一人で商店街の方へと足を伸ばしてみる。
あっちへふらふら、こっちへふらふらと通りをうろついてみるが、煙草の類を扱っているような店はなかなか見つからない。メッサー曰く、煙草を吸う人間はこの世界でもそこそこいるようなので、どこかにあるとは思うのだが。
そんな風に考え事をしながら、少し人通りの少ないエリアに足を伸ばしていると、ふとある店が目に留まった。
「なんだ...雑貨屋...か?」
古い店だ。店構えは日本の駄菓子屋とかに近いか。何か惹かれる物があったので、入ってみることにした。
店の中は雑多な感じだ。この辺は日本の煙草屋に似てるかもな。壁にはぎっちりと箱が積まれている。
店内を見て回ってみる。ほとんどが何かの雑貨のような物だ。俺が見ても何に使うのか分からないな。
「何かお探しかい?」
「おわっ!」
人が居たのか。全く気づかなかった。カウンターにさっきまでは居なかった、婆さんが腰掛けていた。
「人の顔を見て驚くなんて失礼な坊主だね。まあいいさね。何か探しものかい?」
「あ、ああ。すまない。煙草を探しに来たんだけども、どこにも売って無くてな。なんとなくこの店ならありそうな気がしたんだが。」
婆さんは俺の顔を一瞬じっと見ると、顎を杓って店の奥へと歩いていった。これは、ついて来いってことだよな?
婆さんについて店の奥へと向かう。お、こっちの奥も店の中だったのか。
「今時珍しいね。若いのに煙草だなんて。」
おっと、日本と同じ言葉をこっちでも言われるとは。
「この辺が煙草だね。今あるのはパイプか葉巻だが...」
紙巻はないのか。パイプはどこぞの名探偵が吸ってるようなやつ、葉巻はマフィアの首領とかが吸ってるイメージだ。
とりあえず婆さんに試させてもらって、パイプを買うことにした。
ちなみに金の出所は、昨日エイラが置いてった金だ。メッサーたちはエイラが来たことを知らないので、俺とカブ子の懐に入れさせて貰った。
パイプの本体と、葉を数種類包んでもらう。
「ところで坊主、あんた、転移者だねえ。」
...!?なんだ、そんな会話した記憶は無いぞ?
「ああ、別にいいさね。ただ、あんたは普通の転移者とは違う気がするねえ。」
「他の転移者を見たことがあるのか?」
「ああ、長く生きてると色々あるさね。転移者ってのは変な奴が多いが、あんたは今までのとは違う気がするねえ。とても愛されてる。風...いや...まあなんでもないさね。まあ老人の世迷言さ、聞き流しといで。」
なんだ。よく分からない婆さんだな。
「まあいいさね。また来な。」
それだけ言うと、婆さんは奥へと戻ってしまった。まあ俺も戻るか。
ミア&カブ子
目が覚めたのは、昼過ぎの事でした。どうも寝過ごしてしまったようです。
隣を見ると、ミア様がいびきをかきながら気持ちよさそうに寝ていますね。起こすのは忍びないです。
まあ起こしますけども。
ここに来てから、ミア様とは同室で過ごしていますが、ミア様は放っておくと何時までも寝ていますからね。という訳で、耳元でクラクションを鳴らしましょう。
私の手元で、プァーというクラクションが鳴り響きます。人間形態でもスーパーカブとしての機能は使えますからね。
「ふぁっ!!」
ミア様が辺りをきょろきょろとしています。仕草といい見た目といい、とても可愛らしい方です。
「おはようございます、ミア様。よく眠られて居たようですね。」
「おはよう、ございますカブ子さん。」
挨拶をすると同時に、ミア様のお腹からぎゅるるというお腹の音がなりました。女の子らしからぬ盛大な音でしたね。
ミア様もなれたもので、恥ずかしがる事は無いようです。マスターのいう通り、欠食エルフという言葉が良く似合いますね。
少し遅い朝ごはんにしようと、一階の店舗の部分に下りてみると、メッサーさんが客席で灰になっていました。話を聞く限り、マスターはどこかへ出かけてしまったようで、一人で仕込みをしているようです。邪魔しては申し訳ないので外で食べるとしましょうか。
ミア様と一緒に、街中へと繰り出して来ました。この街は流通都市というだけあって、どこも賑わっていますね。
商人や旅人等も多く行きかうため、それを目当てに露天も沢山ありますね。
ミア様があちらこちらで買い食いをしています。おっと、お酒を出している店も有りますね。
幸い昨日エイラ様が置いていったお金の内半分を頂いているので、手持ちには余裕があります。ためらわずに買ってしまいましょう。
「ところでミア様、ミア様は旅の途中なんですよね?」
「?ええ、まあ。とはいえ目的の無い旅なので、しばらくはアサギさんについていこうかなと思っていますよ。まあこのままアサギさんが定住してしまうとお別れになってしまいますが...」
「まあそれは無いと思いますよ。」
「え?」
「まあ良いではないですか。さあ、あっちに良い感じの焼き鳥がありますよ。とてもこのお酒に合いそうな匂いがしますね。」
「え、ああそうですね。あっちに行って見ましょうか。」
そのまま私たちは食べ歩き、飲み歩きを続けるのでした。