1 アサギ、異世界に降り立った天才
第三章開始です。
タイトルはこんな感じですが、一話を通してミア視点になります。
「んじゃまあ、俺はカジノに行って来るから、皆はその辺で遊んでてくれ」
「あ、アタシも行ってみたい」
「よし、行くぞフラム」
賭博都市トロスヴァイケにようやくたどり着いた矢先の事でした。アサギさんはそう言い残して、フラムちゃんと共にカジノへと旅立っていきました。
残された私とカブ子さん、それからトゥールちゃんは、言葉も無くその場に立ち尽くしています。正に風のような素早さで飛んで行ってしまいました。
「行ってしまいましたねー。アサギさんってそんなにギャンブルが好きだったんですか?」
「マスターは根っからのギャンブラーですからね。高校生の時からパチスロに競馬、賭け麻雀等色々やっていましたよ」
「まあアサギさんの財布には金貨5枚しか入っていませんから、大負けしても大した金額にはならないからいいとしますか......」
アサギさんはお金には無頓着なので、マルセルで得たお金もほとんどギルドに置いてきてしまいましたから。一応クラリスからある程度まとまった額は預かっていますが、それは現状私が持っている状態です。
「それにしても、どうしましょうか......その辺で遊んでいてくれ、と言われましてもー」
「トゥールは甘いものが食べたいですー」
「そうですねー。とりあえずそこらのカフェで休憩でもしますか。ここまで来るのに疲れましたしね」
「ミアさん、それならあの店に入りましょう。どうやら地域モノの果実酒があるようです」
って早っ! そういえばベルケーアでも真っ先に食事処トキワを見つけていましたね。
「そうですね、あそこにしましょうか」
兎にも角にも、無事トロスヴァイケにたどりつく事が出来ました。この街ではゆっくりと過ごしたいですね。
ベルケーア、マルセルと立て続けに魔人と戦って来ましたから。
......アサギさんってそういう星の元に生まれて来てるんですかねー。
私の願いは、どうやら届く事は無かったようです。
カブ子さんの選んだ店で、軽く軽食などを注文した後、三人で会話をしながら料理が届くのを待ちます。
「そういえば、トゥールちゃんはアサギさんと一緒に行かなくて良かったんですか?」
「カブ子からカジノはうるさいって聞きましたー。トゥールはうるさいのは嫌いですー」
ああ、そういう事だったんですね。いつもアサギさんと一緒に居るトゥールちゃんがついて行かなかったので、少し不思議に思っていたんですよね。
そんな事を話しながら待って居ると、ようやく頼んだ料理が届き始めました。
「......ミアさん、これが軽い軽食ですか?」
私の目の前には、この店の一番人気だというケーキが鎮座しています。これくらいなら全然軽食の内でしょう?
「普通の人は軽食でホールケーキは食べないと思いますが......まあそこはミアさん、という事でしょうか」
トゥールちゃん用に小さいスプーンを貰って、トゥールちゃんの分を取り分けます。
私も早速一口頂いてみましょう。
「んー。美味しいですね。この酸味のある赤い果実がアクセントになってますね」
「酸っぱいですー」
口をすぼめて全身で酸っぱさを表現しているトゥールちゃん。なんでしょう、抱きしめたくなるような可愛らしさですね。
カブ子さんはといえば、この赤い果実で作ったお酒をちびちびとやっています。カブ子さんは最初見たときには無表情な人だと持っていましたが、最近やっとその表情の変化が読み取れるようになって来ました。
アレはたぶん、気に入っているようですね。
ケーキを食べ進めて行きますが、なんだか物足りないような気がしますね。美味しいといえば美味しいのですが、アサギさんの作る料理を食べなれたせいでしょうか。
カジノにいるアサギさんの事を思い出します。そういえば......
「カブ子さん、アサギさんってギャンブルは強いんですか?」
「ええ、めちゃくちゃ強いですよ。特に運の要素がわりと低い麻雀やカジノゲームなどはめっぽう強いですね。ただ本人は運の要素が強いゲームの方が好きなようですが」
「何でですか? 勝てた方が楽しいじゃないですか」
「本人曰く、『勝ってばかりじゃつまらない。ギャンブルは負ける前提だからこそ勝った時に脳汁がぶしゃーっとでるんだよ』との事です」
脳汁がなんなのかは全く分かりませんが、本当にあの人はズレているというかなんというか......
そんな会話をしながらケーキを食べて居ると、聞いた事あるような声で、後ろから声をかけられました。
「あれ? 皆さんこんな所で何をしてるんですか?」
小柄な身体に、優しそうな顔の黒髪の少年。ああ、勇者ソーマさんですね。
「みなさんお久しぶりです。ベルケーア以来ですね」
たまたま居合わせたソーマ君と、一緒についてきていた女神シュヴィア様と一緒に席を囲む運びとなりました。
......ちょっと気まずいですね。ソーマ君とはほとんどアサギさんが会話をしていたので、実際あんまり話した事が無いんですよね。カブ子さんは我関せずですし、トゥールちゃんはお腹いっぱいになったら寝てしまいましたし。
「そういえばアサギさんは一緒じゃないんですか?」
「ああ、アサギさんならカジノに行きましたよ。この町に来てものの数分で駆け出していきましたねー」
「ああ、そういう事だったんですね」
「ソーマ君達はどうしてこの町に?」
「それがですね......色々込み入った事情がありまして......」
うへえ、早速面倒ごとの匂いですね。アサギさんが居なくてもこういうことは起きるんですね。
どうやら勇者パーティーは、この町の先に住む炎王様に助力を仰ぐためにこちらへ来ていたようです。
炎王様というのは、この世界に四柱存在する最高位精霊様の内の一柱です。他には風王様、地王様、水王様がいらっしゃいます。
全ての精霊は、この四柱のどなたかの眷属にあたります。トゥールちゃんは風王様の眷属ですね。まあトゥールちゃんに関しては何か大きな秘密があるようですが。
そんな最高精霊様の一柱である炎王様に協力を取り付ける事が出来れば、それは世界の炎の精霊全ての協力が期待できます。中々に強力な力になるのでしょう。
「それで炎王様にお話をしにきたのですが......どうも炎王様の娘さんが人間に誘拐されてしまったようでして、ええ、大変お怒りでして......」
それでどうやら、王子様がその怒りに巻き込まれて怪我を負ってしまったと。
そして調べていくうちに、その炎王様の娘さんを誘拐したのがこの町の裏組織らしいというところまで突き止めたらしいですね、エイラさんが。
「今度はその裏組織のところまで行き、娘さんを返すように交渉したのですが......」
どうもその組織の親玉が出した条件が、金貨3千枚と娘さんを掛けての勝負だったようです。
「まあ何とか金貨を集めて、勝負を挑んだのですが、健闘の甲斐なく負けてしまいまして、もう一度お金を集めようにも......」
そうですね。一度負けてしまっていますから。難しいでしょうね。
「それで途方に暮れているところで、ミアさん達を見かけまして......アサギさんなら何とかしてくれるんじゃないかと」
相変わらずこの少年はアサギさんに対して絶対的な信頼感を持っているようですねー。まあ確かに、アサギさんならあっさり何とかしてしまいそうな気もしますが。
「それじゃあ早速アサギさんに会いに行きましょうか。今ならまだカジノに居るでしょう」
そんなこんなで、結局私たちもカジノに行くことになってしまいました。
カジノに入ると、アサギさんの金色と黒の二色の髪が目に飛び込んで来ました。意外とあっさり見つかりましたね。
「おーミアじゃん! 見ろよこれ、すげーだろ!」
アサギさんの後ろを指差しながら、大はしゃぎでそういうフラムちゃん。
指差す先を見てみれば、そこにはカジノで使うチップがうずたかく山のように積まれています。
「凄いですね......これいくらくらいあるんですか?」
「これ全部で金貨千枚位あるんだぜ!」
金貨千枚......! あの人金貨五枚位しか持ってなかったですよね? それが何でこの短時間で二百倍に膨れあがってるんでしょうか?
「これな、ルーレットっていうらしいんだけど、アサギの奴一回も外してねーんだよ。気づいたらこんなに増えちまってた。アサギマジですげー」
ルーレット、ですか。回る台に小さなボールを投げ入れて、何処に入るのかを当てるゲームですね。
アサギさんはそんな私たちの存在に気づいていないようです。どれだけ集中しているんでしょうか?
そのアサギさんが、チップの山を前にズイっと出しました。まさか......金貨千枚を全て一括で掛けているんでしょうか?ディーラーの方が青ざめているのが見て取れます。
ボールがルーレットを回り、ゆっくりと一箇所に収まっていきます。そこに書かれているのは赤い文字の二十五。
アサギさんが掛けていたのは、25から36の数字。つまり......
ディーラーが、青ざめながらアサギさんの勝利を告げます。
「アサギさん。これで勝ち額はどれくらいになるんでしょうか......?」
「ん? ああ、ミアか。これの倍率が三倍だから、全部で三千枚ちょっとだな」
その言葉に、私とソーマ君が顔を合わせました。
ああこの人は、どれだけ上手く世界を渡っていくのでしょうか。
少々投稿の間が開いてしまいました。本日から三章開始です。
すいません、もう一方の連載が予想以上に伸びていまして、しばらくそちらの方を頑張ろうと思います。
八月中には、次話を上げられると思います。楽しみにして下さる方には申し訳ない限りです(8/21)




