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交信するおじさん 下

三人のおじさん、最終回です。

 怪しげなおっさんから逃げ出そうとしたが、トゥールを発見されて逃げ出す事に失敗した俺たち。


「もしや、そこに居るのは風の精霊様ではないか!」


 目が血走り、鼻息荒く俺たちに迫ってくるおっさん。ヤバイ、コイツはマジでヤバイ......!


「風の中位精霊様とお見受けする。よろしければお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


 急に丁寧な言葉遣いになったが。それでもこのおっさんが半裸な為、ヤバイ絵面は変わっていない。


「トゥールはトゥールなのです!」


 ビシっと敬礼をしながら自己紹介をするトゥール。大変可愛らしいが、目の前におっさんが居る事で台無しだ。


「トゥール様は、どなたかと契約されているのでしょうか?」


「トゥールはアサギと契約してるです」


 ふわふわと空中を移動し、俺の頭の上に着地するトゥール。何でだか分からないがコイツはこの場所が好きみたいなんだよな。


 トゥールの言葉に、おっさんの視線が俺の方を向く。あーやだな、面倒な匂いがぷんぷんする。今ですらかなり面倒なんだが......


 俺の方を見つめるおっさんが、急な動作で四肢を地面につき、俺に向かって頭を下げる。


「私に、精霊様と契約するご教授を賜りたい......!!」


 あー、やっぱ面倒な感じだわー。










「んで、どうするよ。今回に関しては特に興味も持てないし、付き合う義理は無いと思うんだが......」


「確かに......」


 別にスルーしても問題ないような気がする。フラムもスルーの方向に気持ちが傾いているようだ。


「別にちょっと付き合うくらいなら良いんじゃ無いですか? 私的にも何でこんなにアサギさんがトゥールちゃんから好かれているのか気になりますし」


 ミアはそういう意見か......相変わらずカブ子は我関せずという表情で切り株に腰掛けて酒を飲み始めてるしな。


 まあ少し位なら別にいいか......この半裸のおっさんに付き合うのは気が引けるけど、精霊契約ってのはちょっと興味あるしな。


「まあちょっとだけ手伝うか」


 そんな俺の言葉に、表情を明るくしてこちらを見上げてくるおっさん。いや、ホントにちょっとだけだからな。







「んで、手伝うとは言ったものの何をすれば良いんだ?」


 正直精霊に関しては俺は何も分からない。トゥールだってなんやかんややってる内に何となく着いて来る事になってたし、契約もミアの言う通りになにやら呟いただけだ。


「そうですねー。まずはアサギさんが何故トゥールちゃんに好かれているか、ですよねー。どうですかそこのところは、トゥールちゃん」


「アサギからはとても良い匂いがするですー」


「良い匂い、ですか。アサギさん、一度魔力を放出してもらっても良いですかね?」


 魔力を放出? 魔法を使わずにただ魔力を垂れ流せばいいのか?


 身体の中に流れる魔力を意識する。魔法を使うときであれば、心臓付近の魔力溜りから頭に向かって流れをコントロールする魔力を、毛穴から放出するイメージで出してみる。


 おっと、いつもとは違う感覚だ。なんというか、身体中にアルコールをぶっ掛けたようなスーっとする感覚。これは癖になりそうだ。


「良いですね、出てます出てます。トゥールちゃん、匂いはどうなりましたか?」


「とっても良い匂いがいっぱいするです!」


 俺の周りを飛び回りながら、酒に酔ったような表情でふらふらと漂っているトゥール。ちょっとヤバイ感じがするので一旦魔力の放出を止める。


「やっぱり魔力のようですね。アサギさんの魔力が精霊に好かれる類の何らかの要素を持っているようですね」


 魔力......ねえ。ふらふらと俺の胸ポケットに着地したトゥールを眺めながら、そんな事を考える。


「まあトゥールちゃんが特別って事も考えられますし......ああ、そういえばトゥールちゃん、あちらのおじさんはどうですか?」


「悪い匂いじゃ無いです。でもミアとフラムの方がまだ良い匂いです。カブ子は匂いがしないです」


「可能性はゼロでは無さそうですね」


 そのおっさんはといえば、俺たちが話している間はまたしてもあの大岩の上で瞑想をしている。岩と一体化しているかのように微動だにしない。もうそろそろ解脱とか出来るんじゃ無いか?


「そんで、あのおっさんが精霊と契約するにはまずは精霊が必要なんじゃないのか?」


 そもそもここらには精霊なんて居るのか?


「そこで私ミアちゃんの素晴らしい策の出番ですよ!」


 うわー。自分の事ちゃん付けで呼んだ上に素晴らしいとか言っちゃったよこの子。


 まあミアも恥ずかしかったのか、その長い耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにしている。あまり触れないで置いてやろう。







 ミアの策。俺の魔力を広範囲に放出して精霊をおびき寄せようというものだ。俺は精霊ホイホイか何かかよ。


 とりあえずおっさんが先ほどまで瞑想をしていた大岩の上に立つ。先ほどと同じように全身から魔力を放出していく。


 前回と違うのは、今回は全力で魔力を放出しているという点だ。


 出している自分で分かる。とてつもない魔力が放出され、周囲の景色が歪んでいく。高密度の魔力は視覚できるようになるからな。


 そして、俺の固有技能(ユニークスキル)である風読(カゼヨミ)で、その魔力を広範囲に散らしていく。


 最初の魔人と戦った後に知ったのだが、普通の風魔法で他の魔法を散らすなんて事は出来ないそうだ。俺が出来たのは、この風読(カゼヨミ)があったからこそだ。この技能にはどうやら俺の知らない可能性がまだまだありそうだな。


 垂れ流された魔力が風に乗り、かなり遠くまで飛んでいくのを感じる。


 ある程度拡散されたのを確認し、魔力の放出をやめ、待つ。


 ――待つ。


 ――――待つ。


 ――――――――待つ。


 何も起きないな。フラムとトゥールに関しては直ぐに飽きてあっちむいてホイを始めやがった。


 俺を見ているのは、仁王立ちでこちらを見ているおっさんと、うわやっちまったみたいな顔をしているミアだけだ。


 暫く何も起きない時間が続いた。そろそろ止めようかと思ったそのころ、何処からか羽が羽ばたく音が聞こえ始めた。


 それも一つだけじゃない、二つ、三つ、四つ......無数の羽ばたく音が、四方八方から響いてくる。


「なんだ~?」


「良いにおいだね~」


「何だ何だ~?」


 物凄い数の妖精たちが集まってきた。周りは見渡す限り妖精だらけ、一部なんか光の玉みたいなのも集まってきているが。


「これは微精霊といって、最下級の精霊ですね。自我を持たない妖精の卵のようなものでしょうか。それにしても凄いですね。これならアサギさんこの商売で食べていけますよ」


 そんなよく分からない商売をするつもりは無い。それにしても、凄い数だ。瞬く間に囲まれて、周りが妖精でいっぱいになった。


 妖精たちは皆少女か少年の姿をしている。髪の色はまちまちだが、全体的には緑が多いか?


「ねえねえどうしたの~」


「私と契約しようよ~」


「ずるい! わたしも~」


 一斉に契約契約と、妖精達からの契約コールが始まってしまう。これは収拾がつきそうにないか......?


 そんな中、トゥールが飛び込んできて、魔法で一斉に周りの妖精たちを吹き飛ばした。おいおいやりすぎじゃないか?


「アサギはトゥールと契約しているのです!」


 うん、その気持ちは嬉しいけど、とりあえず俺の頭の上に立って言うのはやめようか。


「はいはーい! この中に居る皆の中で、このおじさんと契約してくれる子は居ませんか?」


 ミアのその言葉に、トゥールに気圧されて黙っていた精霊達がまたしてもざわざわし始める。


「ええ~、このおじさんと~?」


「無いわ~」


「良い匂いの人と契約できないなら帰る~」


 うーん、中々そんな物好きは精霊の中にはいないようだな。


「アタシ、契約してもイイわよ」


 訂正、一人だけ居たらしい。


 妖精の群れの中を掻き分けて、俺たちの前へと躍り出てきたのは、赤い赤い妖精の少女......少女?


 少女といえば少女、なのだが......まあ包み隠さずに言おう。とてもブサイクだ。


 まあ一言で言うと、八十パーセントくらいはゴリラだ。ゴリラが服を着て歩いているといっても過言では無い。


 一歩、前に出るおっさん。その表情は険しい。


 まあ流石にこれは......と妖精の少女に対して失礼な事を考えていた俺の前で、突然おっさんは膝をつくと、涙を流し始めた。


「このような私と......契約して頂けるのでしょうか......?」


「まあ、あの少年の匂いに釣られては来たけど、若いのはタイプじゃないのよ。アンタみたいなのの方が幾分マシだわ」


 なんか酷い言われようだな。まあ俺も人のこと言えたことじゃないけど。


「おお、感謝いたします......精霊様......」


 まあ良い感じにまとまったし良いのか......?













 おっさんがゴリラと契約している間、俺は昔の事を思い出していた。


 まあ昔と言ってもそこまで昔じゃ無い。俺が大学一年生、まだ学校に通っていた頃の事だ。


 俺の大学はクラス制だったのだが、そのクラスの男の中に一人、人生で彼女ができた事が無いがために、彼女作りに必死だった奴が居た。


 その男はクラスの綺麗どころに片っ端から声をかけ、片っ端から玉砕していった。そして最後に告白したクラスで一番のブサイクにOKを貰い、初めて彼女が出来たと喜んだ。


 しかし、喜んでいたのは最初だけ。


 彼女が出来たとは言っても相手はクラス一のブサイク。彼はもっと可愛い彼女が欲しいと、その彼女をフって新しい女を探し始めた。


 しかし、そんな男に目を向ける女など居ない。何よりその彼女はクラスだけでなく学年中の女生徒から慕われるイイ女だったらしい。


 そんな訳で、彼はその後彼女を作ることは出来ず、女生徒達から白い目を向けられながらキャンパスライフを送る事になったのであった。



 いや、別にあのおっさんがそうなると思ってるわけでは無い。そうならないようにと願ってはいるが。












 おっさんと妖精の少女に見送られ、俺たちはトロスヴァイケへの道を走る。そういや最後におっさんの名前を聞いたが、あの変態はギルガメッシュという名前だそうだ。


 それから丸一日後、俺たちはようやくトロスヴァイケに到着する事になる。


 まあその町で、俺たちは勇者ソーマ一行に出会い、とある騒動に巻き込まれる事になるのだが、それはまた先の話。



===三章予告===


アサギ「ロン、一万六千だ。フフフ、何を驚いている? お前が当たるはずが無いと思っていた牌が当たった事か? それともお前の()た俺の手牌と俺の開いた手牌が違う事か? それとも......」



「俺の予言した未来が当たった事か?」



次回、賭博黙示録アサギ。乞うご期待。


 注:予告と本編は違う展開になる可能性がございます、ご容赦下さい。



次回更新は、三日後くらいになる予定です。その前に新作をアップするかも知れません。全て未定ですが笑

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