交信するおじさん 上
三人目のおじさんです。
「おああああああああああ!」
剣打つおじさんこと、ヴァルフリートの家を発ってから半日後、俺たちが今何をしているかといえば、魔物の大群に追われていた。
「おいアサギ! 追いつかれるぞ!」
フラムに言われるが、これ以上はスピードが出せない! 何せ今もアクセルは全開なのだから。
「おいカブ子! もっとスピード出せ無えのか!」
「原付に何を求めているんですか。サイドカーをつけて四十キロ出てるだけで上々ですよ」
んな事言ったってこのままじゃ追いつかれるっての!
ミラーから後ろを見てみれば、有に五百は下らない数の魔物が俺たちを追って来ている。何で時速四十で振り切れないんだこいつらは! これだからファンタジーは!
「ってうおおおおお!」
今正に上っていた丘の先が軽い崖のようになっていたようで、カブ子ごと俺たちは宙を舞う。
――浮遊感
――衝撃。
「うおっ」
「うぇっ!」
ミアが汚い声を出したな。というか今の衝撃はやばかったぞ。カブ子は大丈夫か?
「意外と大丈夫ですね。駆動系にも問題ありません」
さすが世界のスーパーカブ。
「おいアサギ! あいつら追ってきてるぞ!」
おいおいマジかよ!
急いでカブ子のギアを下げてアクセルをぶん回す。軽くウィリーしながら急発進し、そのまま加速をしていく。
「というか何であいつらここまで追ってきてるんだよおおおおお!」
「アサギさんが森のボスをノリで倒しちゃったからじゃないですかあああああ!」
「お前が夜の間に保存食を全部食ったから森に食料を採りに行かなきゃ行けなくなったんだろうがああ!」
「だってお腹が空いてたんだからしょうが無いじゃないですかああああ!」
「うるせえどっちもどっちだよおおおお!」
叫びながらもどうにか振り切ろうと必死に走るが、如何せんこのスピードじゃ振り切れない。
「ミア、魔法!」
「分かりました!」
そのまま俺のポケットにしがみついていたトゥールをつまみ、フラムに渡す。
「フラム、しっかりトゥールを抑えてろ! トゥール! でかいの一発おみまいしてやれ!」
「です!」
ミアとトゥールが魔法の準備を始める。その間にもどうにか蛇行運転で少しでも距離を離したかったが、いかんせんサイドカーがあるせいでハンドルが切りにくい!
「行きます! 大地の怒り!!」
「やるです! 暴風王の咆哮!!」
マルセルの城壁で見た二つの魔法が魔物の群れに向かって放たれる。あの時の様に周囲から音が消え、その一瞬後に爆音と共に着弾する。
衝撃波が魔物を吹き飛ばし、そのまま俺たちの元へと到達する。
「こうなるから魔法は嫌だったんだよおおおおおおお!」
「あああああああああ!」
俺とフラムの絶叫と共に、俺たちはハリウッド映画のごとく衝撃波に吹き飛ばされた。
「おーい、お前ら大丈夫かー」
カブ子から投げ出せれ、皆思い思いの格好で地面に横たわっていた。
「なんとか生きてますー」
「トゥールは確保したぜー」
「ですー」
皆何とか無事の様だな。
「カブ子ー。大破してないかー?」
「塗装はところどころ剥がれましたがなんとか無事です。もっと丁重に扱って頂きたいと抗議します」
「すまん」
なにはともあれ、全員無事のようで何よりだ。
「それにしても、だいぶ道から逸れちまったな」
せっかく街道までたどり着いたのに、またしてもトロスヴァイケから遠ざかってしまったようだ。
魔物を撒くためにだいぶ適当に走ったからか、よく分からないところまできてしまった......ようだ......?
おっと、疲れているのだろうか。なにか変なものを見たような気がするぞ。
もう一度、右側へと振り返る。......やっぱり居る。
「なあ、お前ら」
未だに地面に横たわったままの面々に声をかける。
「あっちを見てみろ」
「なんですか一体。もう少し休んでから......あ」
俺たちの目の前、開けた場所にある大きな岩。その上。
全裸で瞑想するおじさんが鎮座していた。
最近出会う奴がことごとく濃い気がするな。
「なあ、あれってふれたほうが良いのか?」
「完全に変質者ですよアレ。スルーした方が懸命ですよ」
「でもトロスヴァイケへの道を知ってるかも知れないぜ」
「でもアレに道を聞くのはなぁ......」
流石にアレは直視できないのか、目をそらしながらひそひそ話だ。
「そこの少女達よ、聞こえているぞ」
うわー、向こうから話し掛けてきたぞ。さてと、どうするか......
「おっさんは全裸で何してんだ?」
フラム、お前凄いよ。心から尊敬してるわ。
フラムに話しかけられたおっさんが、座禅を解き大岩の上から降りてくる。ああ、座禅を組んでいた時は半分くらいは影になっていたアレが解き放たれてしまった。
「私は精霊と交信していたのだ」
あーまたこりゃまた面倒なおっさんに出会っちまったぞ。なんだ? この辺ではそういうのが流行っているのか?
とりあえずおっさんに代えのシャツを手渡し、腰に巻くように促す。全裸のおっさんという怪物が、半裸のおっさんという人間に進化した。やはり人間は衣をまとっていないと人間では無いのだ。
「あー、精霊と交信ってのは一体何のことなんだ?」
「その通りの意味だ。私は肌を大気に晒す事で自然と一体化し、スピリチュアルな存在である精霊との交信を試みていたのだよ」
ああ、駄目だ。今回のおっさんは言葉が通じないみたいだ。
「ミア、なんの事か分かるか?」
「恐らく精霊との契約を試みていたのではないでしょうか? 確かに大気に肌を晒す事で精霊と通じやすくなります。世界樹の森で行われる精霊との契約の儀でも、肌布一枚で契約に臨むのが良いとされていますが......」
おお、さすがミア。あの謎言語を翻訳するとは。
「ですが基本的に精霊は世界樹の森にしか生息していません。こんな所で契約を試みてもそもそも回りに精霊がいないのでは意味が無い、つまりあそこに居るのはただの露出狂という事になりますね」
「少女よ、その認識は間違っているぞ。世界樹の森以外にもはぐれの精霊は存在する。そもそもエルフ以外は世界樹の森に入れないのでな。一般人ではこうしてそれ以外の場所で試みるしかないのだよ」
なるほどな。この露出狂は精霊と契約したい変態という訳か。
「それに!」
変なポーズをとりあの大岩を指差すおっさん。おい激しい動きをすると腰布がはだけて見えるから辞めてくれ。
「ここは私の長年の研究で、最も精霊が出現する可能性が高いのだ!」
出現する確立が高いのは変態だと思うが。出現率百パーセントだろ。
まあこのおっさんがここで何をしているのかは分かった。それではお暇しようか。
「じゃ、じゃあ俺たちは行くから、頑張ってな」
そういい、そそくさと逃げようとする俺たち、だが現実はそう甘くは無かった。
「もしや! そこにいらっしゃるのは風の精霊様ではないか!」
ちくしょうばれた! トゥールの存在に気づかれたようだ。せっかくこのまま逃げ切れそうだと思っていたのに。
こりゃあまた、面倒そうな事に巻き込まれる気しかしないぞ。
はい、最後に登場したのは全裸のおっさんでした。こいつが一番ヤバイ。
次でおっさん編ラストです。
その後は賭博都市編に入るのですが、このままだと終始賭博する章になってしまいそうですが、それでもいいのか不安で仕方がありません。