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5 勇者

第5話です。なかなかファンタジーしませんねえ

 そんなこんなで三日後、みっちりとメッサーに料理を仕込み、何とかものになる様にはした。というわけで、今日から食事処トキワの再開だ。


 とはいえメッサー一人では不安なので、俺も厨房に立っている。一応給仕としてミアとカブ子が立っているが、正直初日からそこまで繁盛するとは思っていない。まあ遊ばせておくのも何だし、といった感じだ。


「それじゃ開店だ。気合い入れろよ、メッサー」


「はい、師匠!」


 なぜかメッサーからは師匠と呼ばれる様になった。まあ良いけど。


 ガラガラと音を立てて、木戸を開けて開店の準備をして行く。

 

 ......驚いたな


「おうメッサー、今日から再開だってな! 早速食べに来たぞ」


 外の光と共に見えてきたのは驚くべきことに列をなす人達だった。


 列の先頭に居たのはトルマとマルク。初日に鰻を食べたおっさん二人組みだった。


 他にも見知った顔がちらほらと。


 実はメッサーの修行中の三日間。トルマとマルクのおっさんみたいに匂いにつられて様子を見に来た常連がちらほらと居たのだ。


 その人達は二人の様に鰻に魅了され、今日という日を心待ちにして居た様だ。嬉しいじゃないの。


「いらっしゃいませ! お好きな席へどうぞ!」


 列をなして居た人々で、店内はたちまち一杯になった。ミアとカブ子がすかさず注文を受けに行く。


「鰻重二丁と骨せんべい入ります!」


「鰻丼三丁! かけそば二丁!」


 注文が飛び交う。慌てて鰻を焼き始めるメッサー。今日は鰻をメッサーに任せて、他のオーダーを俺がさばいて行く予定だ。


 そばを茹でながら、客の会話にも耳を傾けて行く。


「いやー今日が楽しみだったんだよな」


「そういやあんなエルフの給仕なんてどこから雇って来たんだ?」


 とはおっさん二人組みの会話。おっさんよ、そのエルフはあんた達の隣で鰻を貪っていたエルフだ。


 そんな感じで好スタートを切った食事処トキワの再スタートだったが、常連が帰ってからはちらほらと匂いに誘われた客が来たくらいで、そこまで大繁盛した訳ではない。


 まあ初日からそんな事になるとはもちろん思って居ないが。


 ただメッサーは久々の盛況に思いの外はしゃいでしまい、今は客席のカウンターでダウンしている。俺は今もセコセコと締め作業をしているというのに。あとでネチネチ責めてやろう。


 その後も徐々にではあるが客足は増えて行き、店の売り上げが黒字で安定し始めた頃、とある珍客が現れた。


 食事処トキワは、大通りから一本入った裏路地沿いに居を構えている。隣の建物との間には小規模な庭があり(俺たちが最初に鰻を焼いた所だな)、裏手はさらに細い路地になっている。


 そこは殆ど人も通る事も無く、非常に落ち着ける空間なので、ディナータイムが過ぎ客足が疎らになった頃にそこで一服するのが俺のルーティーンになって居た。


 そんなある日、煙草を吸いながらボケーっと中を見つめて居たのだが、不意に人影が目に付いた。


 黒髪黒目、あからさまに日本の中学生といった風情。着ている服はこちらの世界のものではあるが、中二病を拗らせた中学生のコスプレにしか見えない。


 とまあ明らかに厄介ごとの匂いだったが、店の売り上げが右肩上がりで非常に気分が良かった俺は、そいつに声をかけてみる事にした。


「どうした少年、こんな所に何か様か?」


 少年は俺が此処にいる事に気付いて居なかった様で、あからさまにビクついて居た。よく見ればかなり上等な服を着ている。貴族か何かだろうか。


「こんな裏路地に何か用か?」


「い、いえ、良い匂いがしたのでなんと無く......」


 なるほど、こいつも匂いにつられた一人か。


「その匂いならこの店だ。食って行くか?」


「あ、あの、お金を持ってなくて......」


 とは言いながらも、先程からこいつの腹の音が鳴り止まない。よっぽど腹が減っているらしい。


 なんだこいつは。訳ありか?


 とはいえ面白そうな匂いがする。こういうカンはよく当たる。


「金は良い。俺のおごりだ。何か食っていけ」


 少年はまた少しどもりながら遠慮しようとしたが、空腹には勝てなかった様で、大人しく俺に付いてきた。


 表に回るのは面倒だったので、裏口から少年を連れて入る。中を見ると、どうやら客は誰も居ないので夜飯にしているらしい。


「メッサー、客だ。とはいっても料理は俺が出すからそのまま飯食ってて良いぞ」


 口いっぱいにモノを詰め込んで居たメッサーがこちらを向き、俺の後ろにいる少年をちらりと見て、もう一度飯に取り掛かろうとして、二度見した。


「っふぇ、ひゅうひゃふぁまひゃないふえふか!」


「だから飲み込んでから喋れ! ミアじゃ無いんだから!」


 ミアがこちらに批難の眼差しを向けるが、それでも手を休めない辺り、そんな目をする権利はない。


「ごくん。勇者様じゃ無いですかその人! なんで勇者様が裏口から入ってくるんですか?」


「何? お前勇者だったの?」


「は、はい。一応勇者やらせてもらってる鏑木蒼真(かぶらぎそうま)と言います」


「まあ良いや、取り敢えずそこ座ってろ。今適当に作ってやるから」


 蒼真少年をテーブルに座らせ、裏に置いてあった前掛けを装備する。


「なんですか師匠その薄い反応! 勇者様ですよ! 勇者様!」


 メッサーが何か興奮してるな。


 取り敢えず調理に取り掛かりながらメッサーの説明を聞く。


 大層長い説明をしてくれたが要約すると、勇者ってのは二十年に一度、各地で活性化する魔物や、魔族なるものと戦う為に異世界から召喚される存在だそうだ。この世界にとっては無くてはならない存在らしい。


 なんでそんな大層な存在がこんな路地裏に迷い込んできて、一文無しなのかは全くわからんが。


 とにかくさっさと飯を作ってこいつの話を聞くとしようか。


「ほら出来たぞ。心して食え」


 十分程度で調理を終え、テーブルに戻る。どうもメッサーは蒼真の扱いに困っている様でおろおろとしている。


 ミアとカブ子はいつも通り、我関せずといった模様で食事と酒に夢中の様だ。

 恐縮している蒼真の前に丼をドンと置く。今回作ったのはひつまぶしだ。


 鰻丼と薬味、出汁の三点で完成するこの料理。今までこの店では出して居なかったのだが、まあ忘れて居ただけで出そうと思えば出すことが出来た。ふと思い出したので今作って見た。


「ほら、腹減ってるんだろ、食って良いぞ」


 ひつまぶしに心を奪われた蒼真少年は、文字どおりかぶりつく様な勢いで食べ始めた。


「師匠。これは何という料理なのですか?」


「これはひつまぶしっつう料理だ。今回は出汁の方に肝吸いを使って見た。今度暇があったら教えてや。」


「わたしも食べたいです!」


「そんな事もあろうかとミアの分も作っといたぞ。っつうかお前どんだけ食べてるんだ。もう五人前くらい食べてないか?」


「鰻は別腹ですよ!」


 まるで鰻がスイーツかのようだ。それにしても限度があると思うが。一体あの量がどこに入ってるんだか。


 隣でがっつく蒼真少年は、ひつまぶしの食べ方が分かっている様で、半分くらい食べてから薬味を入れ、少し残して出汁をかけてずずずっと流し込んで居た。


 薬味にはもみのりとわさび、刻んだネギと炒りごまを用意して置いた。わさびは苦手なのか入れてない見たいだけどな。


「ごちそうさまでした......ふう。久しぶりにこんな美味しい料理を食べました......というか完全に日本食じゃ無いですかこれ!」


 遅延ツッコミか。食べてから突っ込むとかこいつセンスあるな。


「まあ俺も日本人だしな。」


「え? 本当ですか?」


「確かにマスターは金髪ですし、お祖母様からの覚醒遺伝で西洋人っぽい感じもありますからねぇ。」


 カブ子、説明サンクス。


 そう、今まで説明して来なかったが、俺の見た目は純日本人じゃ無い。髪は脱色して金髪だし、ばあさんが外国人だった影響か目の色も黒じゃない。結構外国人と勘違いされるんだよな。まあそれを承知で染めてるんだけど。


「そういや自己紹介して無かったな。俺はアサギ。三嶋亜沙祁(ミシマアサギ)だ。多分お前と同じ日本から来た転移者ってやつだ。このさっきからひたすら食べてる貧乳黒エルフがミア。そっちで酒飲んでるのがカブ子、スーパーカブが人化した奴だ。んでこっちがメッサー、ここの店主だ」


「え、え? ツッコミどころが多すぎて処理しきれ無いんですが......アサギさんが店主じゃ無いんですか?」


 一番気になったのがそこか。


「ああ、俺はただのアドバイザーだ。店主はこいつ」


「アサギさんは僕の師匠ですから、実質アサギさんの店と言っても過言じゃ無いですよ!」


 過言だわ。


「それにスーパーカブが人化って......スーパーカブってあの新聞配達の人とかが乗ってるバイクですよね......?」


「そう。そのスーパーカブだ。俺もよく分からんが一緒に転移して気づいたらこんな感じになってた」


「なんか...とんでも無いですね......それにそっちの方って世界樹の森の守り人じゃ無いですか?」


「そうですよ。今はただの旅人ですけどねー」


「おいそれは俺も初耳だぞ」


「あれ、言ってませんでしたっけ?」


「ただの欠食エルフだと思ってたわ」


「失礼ですねー。一応これでもエンシェントエルフの末裔なんですよ。ほら見てくださいこの銀髪をー」


 ミア曰く、肌が白くて銀髪なのがエルフで、肌が褐色で金髪なのがダークエルフらしい。エンシェントエルフは褐色銀髪。それとは別に白肌金髪のハイエルフってのもいるらしい。ややこしいな。


「それで、勇者のお前がなんで無一文でこんな所をふらふらしてるんだ?」


「ええと......それが、ですね」


 先ほどとは違い影の差した表情で、蒼真は語り出した。







 勇者、鏑木蒼真が召喚されたのは、中学の授業中のことであった。


 中学三年生の彼は、毎度の事のように居眠りを敢行して居た。担当する教諭も、既に諦めたようで起こす事も無かった。


 気持ちの良い夢の中で、蒼真は女神と出会う。


 異世界に行き、勇者として世界を救ってくれという女神の話に、蒼真は直ぐに頷いた。


 夢の中の事、そう思って居た蒼真。どうせ夢なのだから、と思って居た。実際に召喚されて見るまでは。


 あれよあれよと話は進み、王城に召喚されててしまった。徐々に覚醒していく頭で、蒼真は気づく。


(あれ、夢じゃ無い......ガチのやつじゃ無いのこれ......!?)


 夢だと思って居た蒼真は呆然とした。空想するのと実際に体験するのは話が違う。呆然とした蒼真を置いてけぼりにして話は進んでいく。


 勇者の旅の同行者は三人。


 一人は近衛騎士団の副団長エイラ。女性にして圧倒的な剣技によって若くして近衛副団長にまで上り詰めた女傑。


 二人目は第一王子であり、国最高峰の魔法使いであるグレイハルト=フォン=コルモラント。自ら志願しての同行であり、反対する周囲を黙らせて来た。


 三人目は蒼真を異世界から召喚した本人である女神シュヴィア。どうも彼女はかなりの自由人らしく、蒼真にくっついてこの世界に降りて来たらしい。降りてくるときに殆どの力を失ったが、その治癒能力は一流の為、今回の旅でもヒーラーとして活躍が見込まれた。


 そんな感じで、バランスの良いパーティーが気付けば出来上がり、あれよあれよと旅が始まった。


 始めは良かった。召喚勇者の特典で、かなり強力な力を与えられ、優秀なパーティーに恵まれた蒼真は、各地の魔物を討伐していった。


 町に立ち寄れば、勇者として歓迎され、領主に招かれては連日もてなされる。


 そんな日々が続き、普通の男なら調子に乗りそうなところだが、蒼真は違った。


 この鏑木蒼真という男。超のつくほどの小物気質なのだった。


 自分の力では無い。与えられた力で戦い、ちやほやされる事に罪悪感を覚える。それはそれは面倒臭い性格をしているのだ。


 日々繰り返す勇者としての日々、周りからの羨望と期待。


 ついにそれに耐えられなくなった蒼真は、勇者をもてなす領主館でのパーティーから逃げ出して、この店にたどりついた。





 とまあこいつの話を聞いてみたが......





「めんどくせえなお前」


 はっきり言うことにした。


「うっ」


 胸を押さえて呻く蒼真。最近の中学生ってこんなもんなのか? 異世界召喚なんてされたら俺TUEEEEっつって調子に乗りそうなもんだけどな。


 とりあえずこいつはあれだな。考えすぎだな。


 厨房に入り、戸棚からある物を取り出す。


「まあ飲め。俺のとっておきだ」


 蒼真の前にグラスを置き、一升瓶からとくとくと注ぐ。


「これってお酒ですか......? 僕はまだ未成年で......」


「見りゃわかるわ。細かいことにこだわんなって。ここは異世界なんだ。飲酒に関する法律なんてものは無いしな」


 戸惑ってる蒼真に対して俺は続ける。


「悩んで考えて、訳わかんなくなって逃げ出して来たんだろう。そう言うときは酒でも飲んで頭空っぽにしちまえ。たまにはそう言う息抜きも人生必要だぞ」


「そう言うもん、ですかね......?」


「そう言うもんだ。難しい事考えてたって楽しく無えだろ。今日はパーッとやって明日からの事は明日から考えようぜ」


「そう、そうですね。明日からの事は明日考える......そう言うのも良いのかもしれませんね」


 俺のダメ人間理論が詰まった人生相談だったが、少なからず蒼真の心に響いたようで、目の前に置かれたグラスを煽ると、一気に飲み干した。


 それけっこう高い奴だから、もうちょっと大事に呑んでくれると助かる。








 そうして宴会が始まった。そういやこの店でこう言うぱーっとした事をやるのは初めてかも知れないな。


 入口の看板を準備中に変え、料理と酒を用意する。厨房に立っていると、店の前でおっさん二人組がうろうろしているのが見えたので、店の中に入るよう手招きする。


 ついでにメッサーには妹のミーシャを呼びに行かせた。


 ミーシャは時々店の様子を見に来ている。俺の事も少しは認めた様で、初めの様な刺々しい様子も無くなった。


 おっさん二人とミーシャは勇者である蒼真の存在に驚いていたが、メッサーの「アサギさんが拾って来ました。」という言葉で納得していた。解せぬ。


 夜も更けて、皆酒も回って来た。ミアは酒には弱い様で、早々にぶっ潰れて長椅子に横になって寝ている。


 何よりも、蒼真が泣き上戸なのが面白い。





「それでですね! 僕は行きたく無いのにパーティーに毎回出させられるんですよ! あんな堅苦しいのは苦手だし、料理も食べた気がしないんですよ!」


「おーそうかそうかそれは大変だな。」


 訂正するわ。面白いじゃなくて面倒くさい、だ。


 酔っ払いの絡みは流すに限る。


「そもそも僕は夢だと思ったから女神様に頷いたんです。まさか本当にこんな事になるなんて思ってなかったんです......」


「うんうん。」


 お、これはさっきカブ子が作ってた筑前煮か、なかなかいい味じゃないか。


「僕なんて中学でもぼっちだったし何やってもダメな奴なのに......勇者なんてできる訳無いじゃ無いですか......」


「ほらほらネガティブになるな。もっと飲め。」


 差し出されたグラスを煽り、酒を一気飲みする蒼真。ちょっと飲ませすぎか?


 そんな感じでいろんな愚痴を零す蒼真。なんか最後の方は女騎士のケツがエロいとか女神様のうなじがエロいとかそう言うやつが多かったな。色々と溜まってるみたいだな。


 さらに夜も更け、俺とカブ子以外の全員がついに酔いつぶれた。俺も結構酔ってるしな。おっさん二人を壁際に放り出し、蒼真は椅子に寝かせておこう。メッサーも床でいいな。


 カブ子はまだ飲みたい様だったが、グラスを取り上げて片付けを手伝わせる。「そんな無体な......」とか言っているが、お前一人で他の奴らが飲んだ量と同じくらい飲んでるからな?


 二人でセコセコ片付けを進めていた時、不意に店の扉が開いた。


「すまないが、勇者様が此処に来なかったか?」


 店に入って来たのは、燃える様な赤い髪の女。蒼真の言っていたエイラとか言う女騎士の特徴と一致するな。とすると、蒼真を探して連れ戻しに来た感じか。


「勇者ならそこで爆睡中だ。どうする? 連れて帰るか?」


 蒼真を見て、少し俯き考えた様子の女騎士だったが、顔を上げると


「いや、こんなに気持ちよく寝ている所動かすのは忍びない。このところあまり寝れていなかった様だからな」


 なんだ、すげえ良いやつじゃ無いかこの女騎士。


「すまない、自己紹介が遅れた。私はエイラ。エイラ=ファロスと言う。そこの勇者様のパーティーの一員として旅に同行している」


「ああ、俺はアサギだ。今は此処で雇われ料理人をやってる」


「雇われ......? 貴方が店主では無いのか......?」


「ああ、俺はこの店の立て直しを手伝ってるだけの雇われだ」


「ふむ、貴方は料理人なのか」


「いや、俺は蒼真と同じ異世界人だ。なんの因果かこんな所で料理を作ってるけどな。というか何だ、立ち話もなんだし座ってくれ」


「ああ、すまないな。迷惑をかけているのはこちらなのに」


 礼儀正しいし良いやつじゃねえか。俺はエイラに席に座る様に促し、戸棚から新しい酒を取り出した。


「ワインで良かったか? 俺も少し飲み足りねえし付き合ってくれよ」


「そうか、すまない。いただこう」


「マスター。私にも下さい」


 ぬっと調理場の奥から顔を出したカブ子にもついでやり、エイラにカブ子を紹介する。


 三人でカチンとグラスを合わせてワインを飲む。酒屋で適当に見繕って来たものだから期待していなかったが、なかなか良い。


「アザミ殿、礼を言わせて頂きた。」


「ん? なんの事だ?」


 なんかしたっけ俺?


「ソーマ殿の事だ。この所勇者としての行動に縛られて息苦しそうにしていた。こんなに安らかに寝ているソーマ殿を見るのは久しぶりだ」


 散々愚痴っていたからな。


「さっきまで散々愚痴ってたぞ。領主とのパーティーが苦手だとかなんとか」


 「ああ、今日も行く前に渋っていたな......」


 言葉を切り、渋い顔をするエイラ。


「とはいえ各地の領主には各方面で協力して貰っているからな。勇者であるソーマ殿が出席せざるを得ない場合も多くてな......」


 こいつも苦労しているみたいだな。


「まあたまにはぱーっと発散させてやれ。こいつもまだガキなんだ。俺らの世界じゃ働けもしない年齢なんだからな」


「ああ、心得た」


 それからちびちびとワインを飲みながら、とりとめの無い雑談を交わした。


「そういや他のメンバーはどうしてるんだ?」


「ああ。王子はパーティで飲みすぎて潰れている。女神様も先ほどまで一緒にソーマ殿を探しておいでだったのだが、探索の魔法を使い疲れて眠ってしまった」


 探索の魔法ってのはその名の通り探したいものを探す魔法らしい。それを手掛かりにエイラは此処まで来たそうだ。


「女神様は良いけど......王子は何やってんだか」


「王子様はな......悪い方では無いのだが、何というか行動に思慮が欠けているというか、何というかだな...」


 有り体に言ってバカなのか。


「そういえば結構長いことこの町に滞在してるんじゃないのか? この町には何しに来たんだ?」


 俺がこの町に来てから十日くらいで、その前から居たみたいだし。


「ああ、そもそもこの街にはグランドドラゴン討伐の為に寄ったのだ」


 グランドドラゴン。その名の通り空を飛ばないドラゴン。地龍ってやつか。飛ばない分その体は大きく、胆力が凄まじいらしい。


「そのグランドドラゴンなんだが最初に発見された所から姿を消して居てな。その捜索に時間を取られているのだ」


「なる程な」


 それにしてもエイラは話も端的で分かりやすいし、頭も良い。つい話が弾むな。


 その後も俺の世界の話やエイラ達の今までの冒険の話を聞いているうちに、辺りが明るくなり始めた。


「ん......」


 蒼真が起き始めた様だ。結構長く話して居たな。


「そろそろお暇しよう。改めて世話になった。ありがとう」


 まだ寝ぼけている蒼真を連れてエイラは帰って行った。酒代として幾らか置いて行ったが、明らかに多い金額だった。本当に出来る奴だなあいつは。


 カブ子のおかげで粗方片付いたし、俺も一眠りしようかな。雑魚寝しているこいつらは放っておこう。


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