剣打つおじさん 上
本日三話目になります。
空飛ぶおじさんこと、ラインハルトと別れてから、数時間が経過した。草原を走り続け、トロスヴァイケへの道を進んでいく。
今回はひたすら世界樹を背にして真っ直ぐ進んでいる。あと半日も走れば街道が見えてくるだろう。
「とまあ順調に進んできているハズなんだが......なんか見覚えのある光景じゃないか?」
カブ子を止め、前方を見据える。
「なんか小屋が建ってますねー」
「でもラインハルトの家とはちょっと違うぜ」
「かといってスルーするのも気が引けるな。何となく面白そうな事が転がってる気がしないか?」
「するなー」
「しますねー」
という訳で、俺たちはまたしても道草を食うことにしたのである。
「ちーっす。誰か居るかー?」
ノックもせずにガチャリとドアを開け、中に入っていく安定の物怖じしないフラム。というかそれただの失礼だからな。
その内フラムに一般常識を教えなくてはいけないかなと思いながらも、中からフラムが出てくるのを待つ。
「いねー見てえだ」
まあ何となく分かっていた事だが。
というのも、小屋に併設されているもう一つの小屋から、先ほどから絶えず何かを打つようなカーンカーンという音が響いているからだ。
「んじゃあっちに行ってみるか」
特攻隊長フラムについて、俺たちも裏手の小屋に回る。
「そういやさっき入った家、凄かったぜ。中にぎっしり剣が詰まってた」
剣か......となるとこの音は......
「ちーっす、こんちわー」
バタン、と乱暴にドアを開けて中に入るフラムに続いて中に入ると、中は案の定鍛冶場だった。
「うわっ、暑っ!」
確かに暑い。炉には火が入り、正に今、鉄を打っている最中のようだ。
中にいるのはまたしてもおっさん。禿げ上がって毛の一本も残っていない頭に、鍛え上げられた肉体。上半身裸で鉄を打つその姿はまるで鬼神のようだ。
流石に鉄を打っている最中に話かけるのは憚られるので、一旦外に出て待機することにする。
「ふー。あそこに居ると外が涼しく感じますねー」
まあ外も暑いんだけどな。あの中に比べりゃマシか。汗でじっとりと濡れていた服が、一瞬でびしょびしょになったな。セーラー服を着ているミアがかなり際どいことになっている。
とりあえず風魔法で風を吹かすか。とはいえ生暖かい風しか流れてこないが。
外で待つこと数分。ようやく金床を叩く音が止んだ。そこから更に数分。ドアがガチャリと開き、禿頭のおっさんが姿を現す。
「なんだお前らは」
「いや済まない。こんな所に家があったから気になってな」
「そうか。茶くらいなら出そう、こっちへ来い」
怖そうな見た目とは引き換えに意外と優しそうなおっさんだな。そんなおっさんについて、最初に見つけた小屋のほうに入る。
フラムの言っていた通り、小屋の中は剣で溢れている。試しに一つ手にとって見ると、中々の業物だ。この世界の店で投げ売りされているような、叩ききることを主軸に置いた鈍い剣ではなく、薄く鋭い刃の剣だ。
「俺の名前はヴァルフリート。冒険者を引退して今はここで剣なぞ打っとる。こんな所に住んでいると人に会うことも滅多に無くてな。歓迎するぞ」
なんだか一回聞いたような自己紹介だな。
俺たちも自己紹介をし、旅の途中である事を伝える。
「ところで、何でこんな所で鍛冶師なんてやってるんだ? これだけの業物が打てるなら街で商売してもやっていけるんじゃ無いか?」
少なくとも少し見る目のある冒険者なら直ぐに食いつくと思うが。
「別に金を稼ぐ為にやってるわけじゃ無え。コイツは唯の趣味だ」
なんだ。冒険者を引退した後に僻地でスローライフを送りながら趣味に生きるのが流行ってるのか?
「マスター。ここらが丁度いい頃合かと思いますが」
「ん? ああ、刀の件か」
すっかり忘れてたわ。そういやこいつの剣術は刀を使うものだったな。今まで店売りの適当な剣だったからな。
「お前ら、いまカタナっつったか?」
「ん? ああ、言ったが?」
「お前、カタナの作り方が分かるってえのか?」
ずずず、っと距離を詰めてくるおっさん。近いし顔が怖え。
「あ、ああ。一応知識としては知ってるが......」
「教えてくれ」
急に頭を下げて微動だにしなくなったおっさん。上げ頭がキラリと光を放つ。
「頭を下げるのは辞めてくれ。俺も知識としては知っているが実際に打ったことは無い。作れるかどうかはアンタ次第だ」
「おお! よし、それなら早速作るとしよう!」
そうして俺は、このおっさんの刀造りに付き合うことになった。カブ子だけがひたすらわくわくしているな。いつも通り無表情だが。
刀の作り方。ちょっと中二病に掛かったことのある青少年なら一度はその製法をW○kiで調べたことがあるだろう。拗らせた事のある奴なら、実際に工房に見学に行ったことがあるかもしれない。
ちなみに俺は工房まで行った。片道7時間をかけ、他県の工房まで足を運んだ。
そのため何となく作り方は覚えている。
まず刀、日本刀を作り上げるためには、玉鋼という特殊な鋼が必要になる。鋼は含まれる炭素が少ない鉄のことで、通常の鉄よりも強靭で、延性を持ち成形が容易になる。
玉鋼は確かその中でも含まれる炭素が一パーセントくらいのものだったかな。詳しい数値は覚えていないが。それと通常の鋼よりも酸素を多く含み、より伸びやすくなるんだった気がする。
「炭素に酸素......か。難しい事はよく分からないが、その成分、という奴が大事になってくるのか」
「刀ってのは折れず、曲がらず、よく切れるってのが必須だからな。そのために必要なのがこの玉鋼だ。普通の製法で作ってたら何年も修行しなきゃならないが......アンタ、鍛冶なんてやってるってことは地魔法は使えるだろ?」
「ああもちろんだ」
「その地魔法で玉鋼を作る。問題は成分分析なんだが、そこはカブ子が何とかしてくれるみたいだ」
「なんだ、そこの姉ちゃんは鑑定持ちか?」
カブ子の固有技能である機械ニ宿ル神。今まで全く使い道の無かったこの技能が、階位の上昇に伴いパワーアップしていたらしい。
機械ニ宿ル神:機械に宿った神の権能。機械、魔道具等の支配、操作を司る。機械や魔道具を構成する材質の完全把握を含むnew
都合よく成分を分析することのできる技能になっていた。まあ機械に使われる物だけなので、鉄とかそういった鉱物ばかりになってくるだろう。魔道具に使われる魔石とかの解析も出来そうだな。
「まあそんな所だ。まずはこの玉鋼を作る。俺は地属性魔法に関しては門外漢だから、あとは何とか頑張ってくれ」
そんな感じで、丸投げした。
ハイペース投稿が続きます。いかんせん感想もらえるとその上がったテンションで一気に書いちゃうんですよね。ほぼノーストックなので、いつまで毎日投稿ができるかわかりませんが、頑張ります。
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