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空飛ぶおじさん 下

空飛ぶおじさん、最終回です。


 朝になった。天気は快晴、程よく風も吹いている。絶好のフライト日和だ。


 懸念されていたパイロットであるおっさんの二日酔いも、ミアの回復魔法で誤魔化した。なんでも一定時間体調不良を誤魔化す魔法があるらしい。


「よし、各部の動作確認終了だ。あとはおっさんを詰め込んで飛ばすだけだな」


「マスター。その言葉だけ聞いてるとおじさんを捨てに行く感じになりますよ」


 なんで俺がそんなヤクザみたいなことをせにゃならん。


 俺が点検作業を済ませている間に、顔を洗ったおっさんが小屋の中から出てきた。


「すまねえな。最後の点検を坊主任せにしちまった」


「別にいいさ、それよりも調子は大丈夫か?」


「ああ、エルフの嬢ちゃんの魔法が効いてるわい」


 ぐいぐいと身体を捻り、調子は上々である事を示してくるおっさん。気分も良くなって来たようで、意気揚々とパイロット用のシートに乗り込む。


「それじゃあ飛行試験、開始するぞ。おっさん、魔法の準備を始めてくれ」


 おっさんの魔力が高まり、魔法の準備が整っていく。この飛行機は木造。ファンタジー感溢れる謎素材を色んな箇所に使ってはいるが、それでも脆いものは脆い。慎重に作業をしなくてはならない。


「風力接続管、一番から四番までを半分空けてくれ」


 おっさんの居るコクピットから、魔法による風が管を通り伝わる。その風を多数のパイプによって、プロペラ他各所の動力に伝える。


 半分ほど開かれた各パイプから風が噴出し、プロペラが徐々に回転していく。


「おっさん、出力を上げてくれ!」


 パイプから出る風の勢いが上昇し、プロペラが勢いよく回り始める。


「五番から八番まで、全接続管を全開!」


 すべてのパイプが開放され、魔力による風が勢いよく噴出する。辺り一体に凄まじい風が吹き、各々の服がばさばさとはためいている。


 飛行機の機体が前に進み始める。その速さは徐々に勢いを増し、その進むスピードが上がっていくごとに徐々に、徐々に飛行機の機体が地面から離れていく。


 前輪が完全に宙に浮き、続いて後輪が浮かび上がる。そして完全に、我らが飛行機は完全に空中に浮かび上がった。


 態勢は安定している。風もそれほど強くない。これなら問題なく行けるだろう。


 雲ひとつ無い青空に、おっさんを乗せた木造飛行機が飛び上がっていく。

ある一定の距離まで達すると、その機体がさらに安定する。どうやら揚力は足りているようだ。


 木造飛行機は、縦横無尽とは言えないまでも、ある程度空を自由に飛びまわっている。


「マジで飛んでるよ、すげー」


 相変わらず語彙力の足りていないフラムの感想がぽつんと響く。実際に飛ばせて見ると、やはりなんともいえぬ感慨深さがあるな。


「すごいですねー」


 心なしかトゥールの声も魂が抜けてしまっているかのようだ。ミアに関してはぽかんと宙を見つめる人形になっているし、カブ子はいつも通り無表情だが、あれは少し感動しているときの顔だ。


 もう一度空を見上げる。


 朝日に照らされた木造飛行機が、そんな筈は無いのに光を受けてキラキラと輝いているように見えた。









 


 空を飛ぶおじさんとなったラインハルト。それにしても中々下りてこないな。もう5分以上飛んでいるぞ。


 っと、そんな事を考えていたら、急に高度を下げ始めた。って!あれ墜落してないか!?


 急いで木造飛行機が落ちようとしている場所へと向かう。おいおい空を飛んだおじさんはそのままお星様になりました、なんてオチはカンベンだぞ。


 ふらふらと制御を失った機体が地面へと向かう。


 ――――爆発


 いや実際にはしていないのだが、それぐらいの衝撃音を響かせて、おっさんを乗せた木造飛行機は墜落した。


「ラインハルトさん!」


 ミアが駆け寄る。後に続き、俺たちも急いで墜落場所に向かう。おっさんは大丈夫か!?


 最初に駆け寄ったミアが、呆然と立ち尽くしている。回復魔法をかけることも無く、ただただ立ち尽くしている。


「おい、ミア......」


 振り返ったミアが、見てはいけなかったようなものを見てしまったような顔で此方を見ている。


 そのミアを押しのけて、おっさんがどうなってしまったのかを確認する。


 そして、俺は見てしまった。







 ――飛行機の残骸の中で、おっさんがゲーゲー吐いているのを。











「いやーすまなかったな。フライトの途中で嬢ちゃんの魔法が切れちまった見たいでな。二日酔いが急に来たのと、ふわっとした浮遊感で吐き気が止まらんくなっちまったわい」


 ガハハと笑うおっさんだが、此方は全員無表情だ。心配して損した気分だ。


「それにしてもあそこから落ちて無傷って、どんな身体してるんだよ」


「まあワシは元タンクじゃからな!」


 そういうもんなのか。


 まあ何でも良いや。


「それにしても、空を飛ぶというのは気持ちの良いものじゃのう......あのまま空に上っていけるのでは無いかと思ったわい」


 俺たちはそのまま星になったんじゃないかと心配したけどな。


 すがすがしい表情を浮かべるおっさん。吐いて気持ちよくなったのか、空を飛んで気持ちよくなったのかは知らないが、まあ本人が満足しているならいいか。


「これでワシは空を飛んだ最初の人類じゃな!」


 空に拳を突き上げ、感慨に浸るおっさん。


 とそんな時、鳥が羽ばたくような音が後ろからした。


「ラインハルトさん、配達ですー」


 翼を羽ばたかせ、ラインハルトに手紙を届けに来た青年に、おっさんが固まる。


 そういや、この世界獣人とかいるファンタジーな世界でしたね。











「じゃあ世話になったな」


「それはこっちの台詞じゃ。お前さんには夢を叶えてもらったからの。感謝しても仕切れんわ。何かあったら力になるぞ」


 おっさんは、今後も飛行機の製作を続けていくようだ。夢は飛行機で世界漫遊だと。


「この方角に真っ直ぐ行けば、トロスヴァイケへの街道が見えてくるはずじゃ。世界樹の方角だから、そう迷うことも無いじゃろう」


「ああ、ありがとな」


 そう迷うことも無いじゃろう、のところで俺以外の全員が不安そうな顔をしたが、流石に真っ直ぐ進む事は出来るだろ。まあ最近は俺も少し方向感覚がおかしいのではないかと自覚し始めているところだ。


 ミアとおっさんは、固く握手を交わしている。同士ってのは中々出会えるものじゃない、どんな趣味でもな。大事にしたほうがいい。


「それじゃあ、そろそろ行くか」


 それぞれカブ子に乗り込み、出発する。


 ミラーから後ろを覗いてみれば、小さくなっていくおっさんが、いつまでも手を振り続けて居るのが見えた。


 俺はじゃあな、とクラクションを一回、高く響かせた。









 その数時間後、また新たなおっさんに会うことになるとは、その時の俺は考えてもいなかったな。

おじさん、空を舞う。


という訳で、次のおじさんへと続いていきます。ここまでご覧頂真に感謝です。


できれば評価つけてくれたら嬉しいなー、なんて(チラッチラ

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