閑話 野営地にて
これで本日五話目です。
城塞都市マルセルを出発してから半日。夜になり、俺たちは広い荒野のど真ん中でキャンプを張っていた。
「というかフラム。なんでお前ついてこようと思ったんだ?」
焚き火に木の枝を投げ込みながら、フラムに聞く。ちょっと疑問だったんだよな。俺たちの旅なんて特に目的も無い、ただの観光みたいなものだってのに。
「あー、まあ、そうだな。あの魔人と戦った時、アタシってばさっぱり役に立たなかった。それに月下の件だって、アタシにはなんも出来なくて、結局アサギが全部なんとかしちまっただろ?」
「まあ、成り行き的にな」
「そん時思ったんだよ。結局弱い奴ってのはさ、自由に生きることも出来ないんだなって。アタシを育てた爺さんも言ってたんだ。生きたいなら強くなれってさ」
スラムに居た頃の事を思い出したのか、フラムの顔に影が落ちる。一旦あたりは静寂に包まれ、焚き火から上がるパチパチという音だけが響く。
「アサギを見てて思ったんだ。この人についていけばきっとアタシは強くなれる。実際アサギと訓練するようになって、アタシは少しだけど強くなった」
「まあ、そうだな。お前は元々良い才能を持っていた。強い奴と訓練していけば、きっともっと強くなれる」
それだけだったら、別に俺じゃなくてもいいと思うが。あそこのギルドにいたって、十兵衛とか、強い奴はいっぱいいる。
「それだけじゃ無い。思ったんだ。アサギと戦って、アサギの戦いを見て、きっとアタシの戦い方の完成形がこれなんだって。よくわかんねえけど、十兵衛や、他の奴らの戦い方を見てるときとは違った。なんつーか、身体が沸き立つっつーかなんつーか」
確かに、フラムの言うことは最もだ。俺もフラムも、力は他の冒険者より弱い。持つ武器は小柄故のスピード、そして技術。
自分の完成形、それに自力でたどり着いたフラムのポテンシャルの高さには驚かされたな。
「まあ、俺でよければ幾らでも稽古はつけてやる。ただ一つだけ言っておく。お前の完成系は俺じゃない。俺だってまだまだ強くなるし、お前ももっと上に行ける。それだけは忘れんな」
「おう」
「それじゃあ早速アタシと戦ってくれよ!」
何言ってんだお前は。
「何言ってんだお前は」
あ、声に出てたわ。
「カブ子とミア、それにトゥールも寝てるんだぞ。それに音で魔物が寄ってきたらどうすんだよ」
「そん時は倒せば良くね?」
「まあそんなんだが、面倒だろ」
「はあ」
まあ模擬戦とか鍛錬は嫌いじゃないが、時と場所は選びたいな。
「まあいいや、つーかちょっと聞きたい事があんだけどさ」
「何だ?」
「アサギ達ってどういう関係なんだ?」
テントのほうを振り返って言うフラム。
「どういう関係って言われてもな。まあ一緒に旅をする仲間だろ」
「へー。どっちかと付き合ってるとかそういうのはねーのか」
何を言い出すんだ。つーかこいつもそういうのに興味があるのか。
切り株に腰掛けながら、足をパタパタと動かしながら、焚き火から上る煙を眺めているフラム。出会った時は狂犬みたいだったが、こいつも随分余裕が出てきたようだ。
「ミアはあんな感じだし、カブ子はなあ、トゥールはもちろん違うとして、何か違うっつーか、ぶっちゃけ俺がそういうことにあんまり興味を持てないだけかも知れねーけど」
「興味が持てねーって、アンタもいい年じゃねーか。アンタ位の歳だったら大体結婚して子供とか居るんじゃねーの?」
いい年って、グサッと来たわ。
「俺の居た世界じゃ普通だぞ。結婚なんて25でも早いくらいだ」
「うわ、マジかよ! そういやアサギって異世界人だったんだよな。忘れてたわ」
それにしても、見張りってのは暇だな。まあ前とは違って一人じゃ無い分良いけども。
というかこのだだっ広い荒野に魔物なんて居るのかね。見渡す限り何も無いが。
「なあ、フラム。トンファーを使ってみる気は......」
「無いな。まあこの間のを見てちょっとカッコイイかなーとは思ったけど。やっぱりアタシはコイツが良いわ」
隣に置いてあるふたつのナイフをぽんぽんと叩きながら、そういうフラム。隙あらばトンファーを薦めてはいるが、まったく効果は無い様だ。
「何でそんなにそれに拘るんだよ。アサギなら剣とか使っても強いだろ。トンファーじゃ攻撃力も低いじゃんか。なんでそれに拘るんだよ?」
「え、だってカッコイイじゃん」
「え?」
「え?」
かっこよくないか? トンファー。
怪訝そうな顔を見せてくるフラムを見るに、そんな事は毛ほども思ってなさそうだ。
「それに、さ。剣ってのは刃こぼれもするし、血がついたら切れ味が悪くなるだろ? その点トンファーなら壊れない限り無限に戦い続けられるだろう」
「その発想でその武器を使ってるあたり、アサギも戦闘狂の感じあるよな」
「まあな。戦うのは好きだしな」
そんな話をしていると、テントの方からごそごそと音がした。おっと、そろそろ見張りの交代の時間か。
隣に置いていたトンファーをちらりと見ると。幾重にも刻まれた傷が、焚き火の明かりに照らされて輝いていた。こいつと一緒に色んな戦いを潜り抜けてきた。作ってくれたおっさんには感謝が尽きない。
トンファーを持ち上げ、くるりと回して腰のホルスターにしまう。その光景を見ていたフラムが、まねをしようとして失敗している。鞘に入ってたから良いけど危ないぞ。
そんなフラムを見ながら、出てきたカブ子に軽く言葉をかけてテントに入る。
明日はどんな一日になるだろうか。
ここまでご覧下さりありがとうございました。これにて第二章、閑話も含めて終了です。
活動報告にて、今後の予定を書いてありますので、よろしければご覧ください。
おとといのことですが、皆さんのおかげで一瞬ですが日刊ランキングに乗ることができました。本当にありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。




