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閑話 梅干し

本日四話目です

「アサギー、そんな所で何をしてんだ?」


 その日も、俺は特に冒険者として活動すること無く、ギルドホームでゴロゴロしていた。この新しくなった巨人の弓のギルドホーム。三階はギルドのロビーや装備置き場になっていて、四階が一般ギルドメンバー達の部屋、そして五階がエアリスさんやクラリスなど、幹部メンバーの部屋になっている。


 その五階に俺たちの部屋もあるのだが、五階部分は半分近くがベランダになっている。屋上テラス、といった感じだろうか。


 そこで俺は、ある作業を行っていた。


「先週食材屋のおばちゃんが来てな、こいつを大量に置いてってくれたんだよ」


 俺は一度部屋に戻り、まだ調理をしていない物を取り出してきてフラムに手渡す。


「なんだこれ、なんかの木の実か? 食べれるのかこれ?」


「これは梅っつってな。まあ木の実の一種だな。このまま食べても身体に悪いし、普通に不味いぞ」


 そういいながら、塩漬けにした梅の実を、天日干し様のざるの上に並べていく。


「こうやって塩漬けにしてから数日間干してやると、中の毒素が抜けて食べられるようになる」


 樽の中に梅と塩を交互に入れ、上から重石を置いて数日間。そうしてやると、梅酢が上がってくる。


 梅干を作る際に一番気をつけなくてはいけないのがカビだ。この塩漬けの際に容器に菌が付いていると、あっという間にカビが生え、駄目になってしまう。


 元の世界では、丁寧に洗って焼酎で除菌、なんて事をしなくてはいけないが、今回はミアの魔法で一発だった。なんでもリフレッシュなる汚れや菌を一発で綺麗にする魔法があるらしい。この間チョコレートを作ったときも思ったが、魔法って便利だわ。


 フランにも手伝ってもらって、大量の梅を並べていく。


「なあ、これってドンぐらいここに置いとくんだ? 半日くらい?」


「三、四日だな」


「なげーな」


 最近、というかこの街に来てから雨が降った記憶も無いから大丈夫だろう。この辺りは乾燥地帯なのだろうか。







 そうして四日後、無事雨が降ることも無く梅干が完成した。天気予報なんて無いからな。夜寝ている間に雨が降ったらと思うと気が気じゃ無かったわ。


「これが梅干しってやつか。一個食べてもいいか?」


「ああ、いいぞ」


 フランは梅干しが気になっていたようで、昨日からずっと「なあそろそろいいんじゃねえの?」とそわそわしていた。


 今日も朝の訓練が終わり、梅干しを回収すると告げると、アタシも行く! と付いてきた。


 そんなフランが、梅干しを一つつまんで口に入れる。


「おおーーーー! これ思ってたより酸っぺーな! でも美味い! アタシこれ好きかも」


 フランにはあらかじめ梅干しが酸っぱい事を伝えてあるので、テンプレの様に驚くことは無い。好き嫌いは分かれると思ったのだが、フランは梅干しが気にいったようだ。


 うん、そういうテンプレは、なにやら先ほどからこちらにじりじりと近づいてくるあの腹ペコエルフにこなしてもらうか。


 ミアにちょいちょいと手招きをする。というかこいつは何処からかぎつけてきたんだ。匂いなんてしないはずだが。


「アサギさん、なんですかこれ? 赤くて美味しそうですね。何かのフルーツでしょうか?」


 俺の言葉を待たずに一つ口へ。案の状悶絶していた。期待を裏切らないエルフだ。









 その夜、ギルドの晩飯で梅干しを披露することにしてみた。メニューはシンプルな梅干しのおにぎり、それからささみの梅和え、長芋の梅おかか和えなどなど。


 評判としては、やっぱり好き嫌いが分かれるな、という感じだ。特に冒険者の男連中はあまり好きでは無いようで、普通に作った肉料理にばかり手が伸びる。


 対照的に女性陣には好評だ。皆してわいわいと楽しんでいる。女性組みに声をかけようと頑張っている男ども、ここは合コンの会場じゃないぞ。まあ頑張れ。


「マスター」


 カブ子か。こいつが日本酒もどきを片手にちびちびと食べているのは梅水晶。本来はサメの軟骨と梅肉を和えたものだが、流石に手に入らないので鳥の軟骨で代用した。これが置いてある居酒屋は大体良い店だ。勝手な思い込みだけれど。


「素晴らしい出来栄えだと賞賛します」


 こいつから料理の感想が出てくるなんて珍しいな。ああ、そうか、そういう事か。


 俺はキッチンから、梅の詰まっているボトルを取り出すと、カブ子に手渡した。


「流石です。作っていると思っていましたよ」


 まあ一応梅酒も造ってはあるのだが......熟成期間がたったの二週間じゃほとんど普通の酒と変わらないと思うが。


「これはこれで味がある物なのですよ」


 俺にはよく分からないな。


 こうしていると、元の世界で梅干しを作っていた頃を思い出すな。ウチのジジイがよく作っていたな。


 そういえば、その頃は親父とか幼馴染とかも居た気がする。うん、徐々にだが記憶の穴が埋まっていく感じがあるな。


 まあ今は深く考える必要は無いか。

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