23 旅立ちと別れと新たなる形態
5連続投稿第二段です。
あの戦いから一ヶ月ほどが経った。その間、俺は静養と称してごろごろしたり、休養と称してごろごろしたりしていた。
「アサギさん......もはや職業とか関係なく無職じゃないですか」
「はっ!」
そうだ、俺は無職になりたくないから旅をしているんだった。ついついここのギルドの居心地が良すぎて長居してしまった。
「それで、次は何処へ行くんだ?」
「それを決めるのはマスターだと思いますが」
「だらだらしすぎて性根まで駄目人間になりつつありますね」
駄目人間言うな。まあ確かにこのままじゃ駄目だ。しゃんとしよう。
そんなやり取りをしていると、クラリスが奥から地図を抱えて来た。なんだ、準備万端じゃないか。
机の上に広げられた大きな羊皮紙の地図を指差して、クラリスが話す。
「私達の今居るマルセルがここ、ベルケーアがここになります」
なるほど。
「頷いていますが、マスターって地図読めないんじゃ無かったでしたっけ?」
うっ。痛いところをついてくる。何を隠そう、俺は地図が読めない。だからといって方向音痴ではないぞ。しっかり毎回目的地には着いてるからな。
「毎回迷っている時点で方向音痴なのは確定だと思いますが、頑なに認めようとしませんねえ」
「うるさいよ。地図なんて読めなくても生活できるし」
「はいはい、そこらへんにしといて下さい。アサギさん、今私が指差しているのが今居るところです。そしてこれが魔物の森です、ここまでは大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、それで、上はどっちだ?」
おっと、周りの奴らの目が残念な人を見る目に変わった。何かおかしなことを言ったか?
「この超絶方向音痴は放っておきましょうか。なぜ弓での狙撃は出来るのにここまで空間把握能力が欠けているのでしょうか」
そ、そこまで言わなくても。
「あ、アサギさんに分かるように説明しますね。ここから行ける町は三種類。一つはコロシアムのある町、闘技都市コロッセオ。二つ目は、ベルケーアと同じような、流通に重きを置いた交易都市ビリリア」
コロシアムか、ちょっと興味があるかもな。
「そして三つ目が、巨大なカジノを中心とした賭博都市、トロスヴァイケです」
「そこで」
俺は即答した。
「え?」
「そこに行こう」
いいじゃないか賭博都市。カジノに行きたい。とても行きたい。
「あー、マスターはギャンブル大好き星人ですから。というかこの男、酒に煙草にギャンブルと、基本的な駄目人間要素がしっかりそろっていますね」
「基本的には働くことも嫌いですからねー」
さっきから駄目駄目言いすぎだぞお前ら。良いじゃないかギャンブルが隙だって。
「まあ私達のリーダーはアサギさんですから、いいんじゃないでしょうか」
「ええ、そうですね。幸いお金は余っていますから、少し遊ぶくらいなら良いんじゃないでしょうか」
この街では三人も魔族を倒したからな。まあ二人の方の報酬は冒険者全員で等分になったが、それでも俺たちは今かなり金持ちだ。
「じゃあ、決定だな。次の目的地は賭博都市、トロスヴァイケだ!」
なんだか俺だけ盛り上がってるような気がするが、気にしないでおこう。
そして出発の日、ギルドを出て城壁へと向かう。一度城壁の上に立ち、マルコシアスと戦った平原を臨む。流浪の魔王、マルコシアス=ディルムナハト。あいつとはまたどっかで戦うことになるのだろう。
そんな事を考えながら、城壁の外へと続く階段を下っていく。カブ子とミア、そしてトゥールと続く。
階段を下りれば、そこはもう町の外、この町ともお別れか。
「おい! アサギ!」
この声は......ギルバートか?
階段を下り、視界が開ける。門の前には、無数の人々が集まっていた。
「よう、見送りに来てやったぜ」
「ああ、悪いな。それにしてもこいつら......」
「この町の冒険者総出だぜ、他にも町の奴らとかな。皆お前には感謝してるんだぜ」
それは、なんというか、むずがゆいな。
「アサギさん」
クラリスか。
「ああ、世話になったな」
「いえ、アサギさんにはお世話になってばかりで......本当になんとお礼を言って良いか?」
「また色仕掛けとかは勘弁してくれよ」
「ええ、とりあえず今はアサギさんの現地妻ポジションで満足しておきます」
おいおい。
他にも巨人の弓のメンバーからは、ボスー!元気でねーという声があちらこちらからかけられる。なんか気づいたらボスって呼ばれるようになってたんだよな。
「アサギさん達の部屋は残しておきますから、いつでも帰ってきてください。暖かいお風呂を沸かして待っていますから」
「ああ、また来るよ」
隣でミアが「なんという現地妻力!」と驚いている。なんか昔の少女マンガみたいな顔になってるな。
その後も、エアリスさんや十兵衛、ヴィーラ、ケインズとガリルと、この街で世話になった奴らと言葉を交わす。服屋のジェニーも来ていたな。相変わらず強力なインパクトだった。
そういや、フラムが何処にも居ないな。
そんな事を考えながら辺りを見渡してると......居た。
赤い髪の少女が、人ごみを抜けてこっちに走ってくるのが見えた。
「アサギ!」
あの時の様な燃える瞳で此方を見つめてくる。
「アタシも連れてってくれ!」
「いいよ」
「アンタが駄目って言っても着いてくからな! アタシを拾ったのはアンタなんだから責任を......っていいのか?」
「ああ、別に断る理由も無いしな」
フラムが着いて来たいというのであれば、別に良いだろう。
「あーでもカブ子に乗り切れなくなるな」
「フフフ、その点は心配ございませんよ」
なんだ、流石に三人乗りは厳しくないか。ベトナムのニュースとかで珠に見るけれども。
「まあ見ていて下さいよ。――変身ッ!」
またしても香ばしいポーズをとって光に包まれるカブ子。腕を回してポージングをとるが、あれはバッタのライダーのポーズか。お前はバイクの方じゃねえか。
いつにも増して安っぽく見える光が収まり、スーパーカブになったカブ子が姿を現す。なんだ、横に見慣れないものが付いてるな。
「カブ子withサイドカーです!」
よく見れば、確かにサイドカーだ。タイヤの付いた二人乗り用の座席が堂々と鎮座している。しかしスーパーカブにサイドカーなんてあったか?
「私のオリジナルデザインです」
ああ、どうりで......
「だせぇな」
「ダサいですね」
「ちょっとこれに乗るのはハズいかもな」
「です!」
「ちょ、ちょっと皆さん!?」
カブ子の芸術センスが壊滅的な事が明らかになったが、まあ一応はフラムも乗れるようになったな。
見送りに来てくれた皆に別れを告げ、カブ子に乗り込む。サイドカーが二人乗りなので、ミアとフラムはそっちに乗るようだ。
トゥールがメーターの上に立ち、仁王立ちで地平線を望む。やはりお気に入りはその位置のようだ。
「出発です!」
ギアを一速に入れ、アクセルを回す。この世界に似合わないエンジン音が響き、車体が加速していく。
「よし、目指すは賭博都市トロスヴァイケだ!」
そのまま加速し、地平線を進む。
「アサギさん、だからこっちじゃないですって!」
ミアの声が、荒野に響き渡った。
――賭博都市トロスヴァイケ
「んで、ソーマ。この後どうするつもりだ?」
「えーと、まずは聞き込みからですかね?」
「そんな悠長な、時間がそれほど残されているわけじゃないんだぞ」
「とはいっても、僕らの中にあれが得意な人間がいない以上はどうしようも無いですよ。何か良い方法を探さないと......」
「とにかく、早く取り戻さないと手遅れになってしまう」
勇者パーティがその町に滞在していることなど全く予期すらしていないアサギ一行。その町で、またしても厄介ごとに巻き込まれることになるとは、彼らはまだ、知らない。
ここまでご覧頂きありがとうございました。というわけで、フランがパーティに加入しました。パーティーの平均年齢がどんどん下がってきてますね。
三章に入る前に、二章の閑話が数話入ります。
その後、次の町までのちょっとした短編「三人のおじさん」編を挟んで三章「賭博都市トロスヴァイケ~賭博黙示録アサギ~」が始まります。どうぞお付き合い下さい。




