22 魔人ってなんなのさ
本日、怒涛の5話連続投稿。その一話目です。
次回で二章が終わるといいましたが、終わりませんでした。
あの後、煙草を一本吸い終わった後で案の定気絶した俺。
目覚めると、そこは巨人の弓のギルドホーム、そのロビーのソファーだった。
身体を起こそうと力を入れるが、全くと言って良いほど力が入らない。例の謎の力の反動か何かだろうか。
「あ、アサギさん、目が覚めましたか?」
「......なんで俺はお前に膝枕をされているんだ?」
目が覚めて、最初に目に入ってきたのは、真上にあるミアの顔だった。
「いえ、なんとなく、そういう気分だったので」
どういう気分だ。
「......身体を起こしてくれると助かるんだけど」
そう呟くも、ミアは無反応だ。
「......」
「......」
二人して無言の時間が続く。決して居心地が悪いわけではないが、ギルドのメンバーにでも見られたら恥ずかしいんだけども。
「今は皆さん後処理に走っているので暫く誰も帰ってきませんよ」
おっと、思っていたことが顔に出ていたようだ。
まあ、たまには良いか。
暫くの間、また無言の時間が続く。その間、俺は先ほどの戦いを思い返していた。
「魔界を統べる王、奴はそう言ってた」
マルコシアス=ディルムナハト。魔界を統べる王の一人。最強の魔人の一人。つまるところあんなのがまだ居るってことだよな。
「魔王、ですか......名前は言っていましたか?」
「ああ、マルコシアス=ディルムナハト。そう名乗った」
俺がそう言った途端、ミアの表情が固まった。
「マルコシアス......流浪の王、ですか......文献で見たことがあります」
「魔王ってのは何人も居るものなのか?」
「そういえば、アサギさんに魔人に関する説明はしたことが無かったですね」
良い機会です、と呟いて、ミアが俺の体を起こす。どこから取り出したのか、前に見た三角メガネをスチャっとかけると、俺の前に腰を下ろした。それ必要か?
「そもそも魔人は、こことは異なる世界に住んでいます。異世界と言っても、アサギさん達が住んでいたような完全な異世界では無く、この世界と隣あわせになったすごく近い異世界です。私達は、この世界を魔界、と呼んでいます」
異世界に近いとか遠いとかあるのか。
「魔界は資源に乏しく、生物が生きるのに適さない土地。そのため、魔界に住む魔人は常日頃から此方の世界を狙っています」
なるほど。魔人は異世界人という訳か。
「ただ近いとはいえ、簡単に世界を超えるような事は出来ません。しかし、10年周期で私達の世界と魔界、この二つが非常に近くなる時期が来ます。この時期には魔人たちがこの世界に渡ることが出来てしまいます。その季節を、魔人の季節と言います」
そのまんまかよ。もっとなんか無かったのか。
「もちろん魔人はこの世界にとっては侵略者です。そのため、この世界には女神様たちによって結界が張られています。そのため無制限に魔人が此方にわたってくることはありません」
女神ねえ。ソーマの仲間のシュヴィアがその一人だったか。
「しかしその結界も完全なものではなく、魔人たちはその隙間をこじ開けてやってくるのです。勇者の役割は、この季節の間、この世界を魔人の脅威から守ることですね」
「なるほどねぇ。勇者って言うからには魔王を倒して終わり、とかそういう感じだと思ってたわ」
「魔王、といっても向こうには沢山の魔王が居ますから。あ、魔王というのは魔界で沢山の魔人を配下にしている王様の事をそう呼びます。ですが......」
「ですが?」
「例外があります。魔界で強大な、それも飛びぬけた力を持つものもまた、魔王と呼ばれます。マルコシアス=ディルムナハトは、ただ一人の配下も持たずに魔王と呼ばれています。その為つけられた二つ名が、流浪の王。という訳です」
なるほどね。確かにあいつは配下とか持たなそうだもんな。ん?ちょっと待てよ?
「あいつはなんか他の奴に従ってるっぽかったぞ?」
「それが問題なんです」
そこで一旦席を立つミア。厨房へと足を運び、二つのティーカップを持って帰ってきた。
「どうぞ」
「ああ、サンキュー」
「話を戻しましょう。魔王が何者かに従っている、という事実は、魔神が復活しているかも知れない、という事実を示しています」
「魔神?」
「その名の通り、魔界の神ですね。ずっと昔に此方の世界の神々によって封印されたと言う話が残っています」
魔神、ねえ。また面倒そうなのが出てきたもんだ。
「まあ魔神に関してはそこまで気にしなくてもいいんですが」
「何でだ? 神って言うからには復活したらやばいんじゃないのか?」
「魔神はこの世界の結界の隙間を通り抜ける事が出来ないんです。その身に宿す力が大きすぎるらしいですよ」
らしい、って。なんだかあんまり安心できないが、一先ずは頭の隅っこに置いておくくらいで良いのか。
それにしても、何となくこの世界の仕組みが分かってきたな。魔人ってのは異世界からの侵略者で、ソーマ、というかこの世界の連中は一定期間魔人から世界を守っていれば良いのか。
なんかクリア条件付のゲームみたいだな。
「おっと。なんとか身体が動かせるようになってきたな」
ぐいぐいと四肢を動かしてほぐしていく。よし、これなら日常生活はなんとかなるか。
目の前でミアが複雑な表情をしている。何か聞きたいことでもあるのだろうか。
「なんだ、腹でも減ったのか?」
「私をなんだと思ってるんですか。そんなにいつも食べ物のことばかり考えているように見えてるんですか」
「見えてるけど。まあそんなことよりなんだ、聞きたい事があるなら言ってみろよ」
見えてるけど、の部分で「え? マジで」見たいな顔をしてたミアだが、逆に思われてないと思っていたのであれば大した奴だ。
「あの......いや、その......」
「なんだよ」
何故か言いよどんでいるミア。やがて深呼吸して、真っ直ぐに此方を見据えると口を開く。
「アサギさんは、一体何者なんですか?」
「何者、か」
「いえ、べ、別にそんなに深い意味じゃなくてですねー。だってその、あの力とか、普通は魔王と互角に渡り合う人間なんて普通いないわけでして、あの」
普通普通言いすぎだろ。俺がそこまで普通じゃ無いって事か。......まあ普通じゃ無いな。
「まあ、その答えは俺にも分からない、って所だな」
「分からない、ですか?」
「ああ、どうも俺には欠けてる記憶がありすぎるみたいでな。この世界に来るまでは違和感無く生きてきたが、最近色々と断片的に思い出してきた。ただ、まあ俺にも分からないことが多すぎるから、今はそういうもんだと思っていてくれ」
「はあ。まあアサギさんはアサギさんですし良いですが......思い出したら話してくれるとありがたいです」
「ああ、ミアは仲間だからな。すぐに話すさ」
そろそろ良いかな。他の連中も流石に帰ってくるだろう。身体の調子も戻ってきたようだし、晩飯の準備でもするか。
最後に身体を伸ばし、ソファーから立ち上がる。
食材は......まあ何かしら残っているだろう。
アサギの出て行ったロビーに、ミアの呟きが響く。
「仲間......ですか。アサギさんがそういうことに無頓着なのも、記憶の影響なんでしょうかねー」
そう呟くと、味見と証したつまみ食いをするために、キッチンへと向かっていった。
次回で本当に二章が最終回です。