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19 失っていた物と、手に入れたもの

日刊ランキングに乗った勢いで連続投稿、本日4話目です。

「ふむ、予定ではグランドフィナーレを見届ける予定でここに来たのだがねぇ。まあ自分で書いた脚本じゃ無いからどうでも良いといえばいいのだがねぇ、どう思う? 黒騎士クン?」


 ざわざわと、俺の中の危険を告げるセンサーが反応するのを感じる。


 飄々と芝居がかった口調で隣の全身鎧の男に話しかける奇術師然とした男とは対照的に、黒い鎧の男は微動だにしない。


「まあ返事が返ってこないのは分かっていた事だけども、それでも僕にだって寂しいという感情はあるのだがねぇ......ん? おやおやおやおや! この舞台の出演者かい? 所謂冒険者、という奴だろうかねぇ」


 またも芝居がかった仕草で此方を振り向く男。


「お前は、一体何者だ」


「ふむ、ありきたり過ぎて舞台役者としては落第点も良いところだが......まあ、君達の言うところの魔人とやつに当たるのかねぇ」


 その言葉に、即座に戦闘態勢に入るカブ子と十兵衛。魔人がそちらの方に視線をやったかと思えば、その直後、爆音と砂煙が上がり、カブ子と十兵衛が地面に倒れ伏していた。


「カブ子! 十兵衛!」


 残念だが返事は無い。死んではいないようだが、一瞬で意識を刈り取られた様だ。


「人の舞台に土足で上がるのは好きでは無いのだが。殺気を向けられてはねぇ」


 その黒い燕尾服に土ぼこり一つ付けることなく、息一つ荒げることなく元の位置に戻って見せた魔人が呟く。


「フラム、二人を引きずって今すぐここから離脱しろ」


 呆然とその場に立ち尽くしていたフラムに、この場から離れるように指示を出す。


「でも「いいから早く行け!」


 怒鳴るようにそう言うと、フラムは指示どうり、意識の無い二人を引きずって城壁へと向かう。


「随分優しい事だねぇ。ただあんなにのんびりと動けない二人を運んでいたんじゃ捕まえてくれと言っているようなもんじゃ無いかねぇ」


 まあ、フラムの力じゃどう頑張っても歩く様なスピードしか出ないしな。


 俺はトンファーを構え直し、魔人と相対する。


「おやおやおや! 先ほどお仲間がやられたのを見ていなかったのかい? 自分で言うのはなんだがねぇ、僕はなかなか強いよ?」


 そういうないなや、先ほど同様に超高速で此方に向かってくる魔人。


 高速で振るわれるその手刀を、持ち替えたトンファーで受ける。虚をつかれたような魔人の懐に、身体を捻り回し蹴りを打ち込む。


「チッ。流石に当たりゃしねえか」


 当たる瞬間、バックステップで綺麗に避けられた。まあ元々当たるとは思っちゃ居なかったが。


 こいつは明らかに、この世界に来てから出会った中で最強の敵だ。それもずば抜けて強い。流石に後ろに人を抱えて戦えるような相手じゃ無い。


「おやおやおやおや! まさか今のに反応できるだなんてねぇ」


 未だにこの奇術師然とした魔人は余裕のようだ。ただ不気味なのはその後ろに立つ鎧の男。先ほどから微動だにしない。


「おや、僕の前に立っているのに余所見、かい!?」


 またもや高速機動。圧倒的なスピードで繰り出されるその体術を、紙一重のところで裁いていく。全身の感覚を総動員し、奴の繰り出す行動に対し、的確に対処していく。


 右から襲い来る手刀に対し、トンファーでその肘を跳ね上げて妨害する。そのがら空きになった脇腹に膝蹴りを叩き込もうとするが、直ぐに身を引き体制を立て直した魔人の行動を見て、直ぐに動作を辞め、次の攻撃に備える。


「フフフ、フフ、ハハハハハハ! まさか人間にもここまで使える人間が残っているとは! いやいやなんという偶然。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ!」


 なんだ? 急に笑い始めたぞ?


「いやいや、少し死んでしまった彼らに生きていた意味を与えてやろうと思っただけなのだが、もうそんな事はどうでもよくなってしまったよ。ああ、黒騎士クン、君はもう帰って良いよ。ここから先はただの趣味の領分だからねぇ」


 そういうと、黒騎士と呼ばれていた鎧の男は瞬く間にどこかへと去っていった。


「おいアンタ。アンタ一体何をしに来たんだ? 俺たちを殺して町を占領するために来たんじゃないのかよ」


 そう声をかけると、魔人は少し考えるような素振りを見せた後、こう答えた。


「いやいや、ここにはただ仕事の帰りに寄っただけさ。どうやら面白い見世物が見れるらしいと来ては見たのだが、まさか破綻した舞台を見せられるとは思わなかったねぇ」


 なんだ、こいつとあいつらは別個か。


「ただ......君と言う人間に出会えた事には感謝しているよぉ」


 急にぞわっと背筋をなでる様な悪寒が走った。なんだ、急にこいつから感じる圧が上がった......?


「先ほどは雑な自己紹介をしたことを詫びよう。僕の名はマルコシアス=ディルムナハト! 魔界を統べる王の一人にして、最強の魔人の内の一人! さあ人間の冒険者よ、君の力を僕に見せてくれたまえ!」


 どうやら俺は、とんでもない存在と出会ってしまったようだ。










 打ち合いは続く。とはいえ、マルコシアスの猛攻を、ひたすら俺が捌いているだけなのだが。


「なかなかどうして、やるではないか冒険者よ! 少し、スピードを上げてみようか!」


 クソ、ここからまだ上がるのかよ! 宣言通り速度を上げてきたマルコシアスの攻撃を、どうにかこうにか防いでいく。防戦一方も良いところだ。魔法を詠唱する暇も無い!


 このままじゃジリ貧でやられる......そんな思考が脳を掠めた。その一瞬、奴の攻撃から意識を逸らしてしまった。


 高速で襲い来るマルコシアスの蹴りを捌き損ねた俺は、その蹴りをモロに受け吹っ飛ばされる。


「この程度......か。やはり人間など勇者でもなければこんなものか」


 奴が何かを言っているが、地面に叩きつけられた衝撃で何を言っているのか全く分からない。


 それにしても、こんなまともに攻撃を受けたのは久しぶりだ。この世界に来てからは始めてだし、元の世界に居た時だって......


 最後にこんな風に地面に這い蹲ったのはいつだっただろうか。ああ、最後に親父と......親父? 


 全く覚えの無い、だが自分の記憶だと分かる映像が、頭の中を駆け巡る。ああ、まただ、あの夢と同じだ。俺の欠けた記憶の一部が頭を巡る。











「だー! また負けた!」


「なーっはっはっはは! この俺に勝とうなんて10年は早えぞ!」


「あー! その微妙にリアルな年数がマジで腹立つ!」


 そうだ、俺は爺さんと二人で暮らしてたんじゃ無かった。親父も一緒に暮らしてたんだ。


「あーくん。無茶だよ。僕たちまだ10歳なのに大人に勝とうだなんて......」


 こいつは、誰だっけ。ああそうか、あの夢に出てきた......


「――は気が小せえなあ、そんなだからまだアサギからすら一本も取れないんだぞ」


「だって、あーくん強いし、それに僕はあんまり戦うのとか好きじゃないし......」


「――の男がそんな事言ってんじゃねえよ、全くよお」


 名前のところは聞き取れない。たぶん、幼馴染ってやつだろうか。


「それにしてもアサギ、また戦闘中に余計な事考えてただろう。いつも言っているだろう、戦闘中は無心、ただ己の感覚に身を任せることこそが――」


「あー分かってるって」


「全くお前は、お前は――様の力を一番強く引いてるんだ。本気になれば俺だって......」


 なんなんだ? 俺が居たのはただの田舎じゃなかったのか?


 景色が薄れ、記憶の影が薄れていく。


 声が聞こえる。


(無理に思い出す必要はありません――今は、必要な事だけを取り戻して――)


 どこかで聞いた様な声を遠くに聞きながら、意識が現実へと戻っていく。







「ふむ、まだ立ち上がるか......君では僕に勝てないとはっきり分かったと思うのだがねぇ」


 マルコシアスの呆れた様な声が聞こえる。


「まあ、知らなきゃいけない事もある様だし、守りたいものも出来ちまったし、それに......」


 まだダメージが残っているのか、頭がしっかりと働かない。それでも俺の心の深い部分が、立ち上がれと言っている。


 無心、己の感覚に身を任せる。親父の言葉がフラッシュバックする。余計な情報を排除し、今はただこの魔人を倒すことだけを頭に残す。


「なんだ? っ......まさか......これは!?」


 頭を空っぽにしてみれば、自分の奥底に眠る未知の力を感じる。今は何でもいい! ただこいつをぶっ飛ばせるのであればなりふり構っていられるか!


 意識してみれば、力は身体を巡り、過去最高の状態へと肉体を昇華させていく。


「それに、負けっぱなしってのは趣味じゃ無えんだ!!」


 渦巻く力を爆発させ、俺は魔人(マルコシアス)に突っ込んだ。 



アサギ、覚醒。


次回、第二章クライマックス。

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