18 奇術師と黒騎士
本日三話目の投稿です。
さて、見る限りかなり魔物の数も減ってきたな。ここらで一回城壁の上まで戻ってみるか。
「うっすお疲れ、様子はどうだ?」
ミアやトゥールが待機している場所に行き、何か変わった事は無いか聞いておく。
「いえ、怪我をする方も少なく、今の所私の仕事は全く無いと言って良いですね。おかげ様で魔力も粗方回復しましたし」
今回ミアは、数少ない回復魔法の使い手として、後方での待機を命じられている。
「それで、暇だから昼ごはんにしていた、と」
この野郎。人が一生懸命前線で血肉に塗れて戦っている間優雅にランチとしゃれ込んでいやがった。
「いや、そんなに怒らないで下さいよ。ほら! アサギさんの世界にもこういう言葉があるじゃ無いですか。「腹が減っては戦は出来ぬ。ならば戦の途中でもお腹が減ったらご飯にしよう」って!」
後半部分完全オリジナルじゃねえか。
まあいい、この欠食エルフは放っておこう。
「トゥール、ちょっといいか?」
「はいです?」
俺の魔力も徐々にだが回復してきているので、トゥールに広域探査魔法を使ってもらう。
「えーとですねー。奥のほうからすごいのがいっぱい来てるです!」
マジかよ。これで終わりじゃ無かったのか!
「ヴィーラ! 第二陣が来る! トゥール、その中に強そうなのはいるか?」
「ちょっと強いのがけっこういっぱいと、けっこう強いのが二つあるです」
トゥールのちょっと強いはキュクロプスとかだから、冒険者達でも十分対処できるか。ただけっこう強いが心配だな。
トゥールが過去、けっこう強いと称したのはただの一回、十兵衛の時だけだ。つまり第二陣には十兵衛クラスが少なくとも二体は居るという訳か。
「ヴィーラ! 一旦あそこの群れは魔法使い連中に任せた方がいい。近接連中に第二陣を向かい撃たせろ!」
「了解です」
そういうと、ヴィーラは手元から何か魔道具らしきモノを取り出すと、それに向かって声を出した。
「緊急! 魔物の第二陣が迫っています。近接武器の方々は、現在の持ち場を放棄して、第二陣へ当たって下さい! 残党の殲滅は、魔法使いが担当します!」
大きく拡声されたヴィーラの声が、戦場に響き渡る。あれは拡声器の魔道具だったのか。
野太い声で、戦場から返事が返ってくる。奴らもまだまだ元気だな。俺も第二陣に当たるか。
「だー、ちくしょう。このレベルになってくると一撃じゃ落とせねえ!」
現在俺の前に立っているのは、ゴブリンの上位種のゴブリンジェネラルだ。ゴブリンより一回りも二回りも大きく、それに剣を使ってくる。耐久力もなかなかで、流石に一撃では沈める事が出来ない。
一旦ジェネラルの攻撃を回避するために身を引く。しかし、俺を倒すために剣を振りかぶったジェネラルが、そのまま硬直し、地面に倒れる。
「へっへー。アタシもなかなかやるだろう?」
「フラムか!」
お前も居たのかよ。どうやらフラムがジェネラルの背後から忍び寄り、その頚動脈を掻っ切ったようだ。やるようになったじゃねえか。
んじゃ、と手を振ってまたどこかへと走り去っていこうとするフラムの襟元を掴み、この場に引き止める。
「うぇ! な、何だよ!」
「お前は俺の目の届く場所に居ろ」
「何だよ! 子供扱いすんなよな!」
「そういう訳じゃねえよ。ただこの戦場、やべえ奴が二体ほど居る。今はまだ最奥から出てこねえが、あれは危険だ。頼むから俺のそばに居てくれ」
十兵衛やカブ子なら自分の身は守れるが、フラムはまだ心配だ。
「というか俺の攻撃じゃ効率が悪すぎる。俺がひきつけて、お前が倒す。その方が効率も良いしな」
ここは適当な理由でもつけておくか。
「んー。分かった」
若干不服そうだが、まあ納得はしてくれた様だな。
「それじゃ、付いて来いよ!」
「っしゃー!」
フラムと合流してから、敵を屠るペースは上がったが、如何せん敵の数が多すぎる。それにしても第二陣は、第一陣とは様子が違うような気がする。
魔物たちの動きに若干だが統制を感じる。現に、少なくない冒険者が怪我を負い、後ろに下がっている。
「チッ。割と不味い状況かも知れねえな」
「何がだ?」
「若干押され始めてる。一旦カブ子と十兵衛と合流しよう」
あいつらは、っと。丁度中央の一番敵が密集しているエリアに居るな。
ささっと回りに群がる魔物を倒して、あいつらの元へと向かう。
「十兵衛」
「ふんっ! 何だ、アサギ殿か。何かあったのか?」
丁度キュクロプスを切り倒していた十兵衛に声をかける。
「ああ、なんか妙だと思わないか?」
「それは私も感じていた。魔物達に何かしらの命令系統があるように感じる。ただの魔物にしては統制が取れすぎている」
十兵衛も感じていたか。
「恐らくこの氾濫を人為的に起こした者がこの奥に居ると見て良いだろう。私のカンも、この奥に強敵の存在を知らせている」
「すげーなお前のカン。さっきトゥールに探知してもらったが、一番奥に二体、そこそこやばいのが居る。たぶん両方ともお前クラスだ」
「ふむ、確かにそれは不味いな。このままじりじりと追い込まれるのも面白くない、か」
「ああ、いっちょ突っ込んでその二体をぶっ飛ばしてこようと思うんだが、少しの間、ここは任せても大丈夫か?」
「ああ、問題ない。存分に暴れてくるといい」
なんと頼りになる男だろうか。
「フラム、お前はここで十兵衛と一緒に防衛だ」
「りょーかい。一緒に行きたいって言っても駄目だって言うんだろ?」
「ああ、相手は十兵衛クラスだ。今のお前じゃ歯が立たない」
少しつまらなそうなフラムだが、ここは我慢してくれ。
「カブ子、お前は付いて来い」
「了解です」
「それじゃあ行くぞ!」
俺の声を合図に、俺とカブ子が飛び出す。この群れを相手に迂回策は取れない。中央突破で一気に最奥まで突き進む!
「我らが大将の為に、道を空けてもらおうか! 威風咆哮!!」
十兵衛の口から放たれた空を裂くような咆哮が、そのまま衝撃波となって俺達の前に立ちはだかろうとする魔物達を、悉く吹き飛ばす。
それにしても、いつの間に大将に担ぎ上げられてたんだ俺は。
目の前に開けた道を、カブ子と共に疾駆する。飛び出してくる魔物を、時にカブ子の剣が切り飛ばし、時に俺の風魔法で吹き飛ばす。必要最低限、邪魔な敵だけを倒し、後は無視だ!
「へえ、ここまでたどり着く人間が居るなんてね」
「ああ、それにしてもオルコスは何をやっているんだ、そろそろ頃合ではないのか」
なるほどね。漆黒の肌に同色の翼。ここに来てまたしても魔人か。
「まあここでこいつらを始末してしまえば、後は押しつぶすだけだよ、兄さん」
「そうだな、弟よ」
よく似た風貌の二人、兄弟か? それにしても、魔人が指揮を執っていた訳か。となるとこの氾濫もこいつらが起こしたモノだと見て間違いないだろう。なんて迷惑な話だ。
俺は静かにトンファーを構える。隣ではカブ子が剣を八双に構える。
「なんだかこいつらやる気みたいだよ兄さん」
「ふん、たかだか下等種風情が。我ら魔の者に戦いを挑むとは。いいだろう、ひと思いにひねり潰してやろうか」
結論から言う。こいつら超弱かった。
「なんだこいつら、口ほどにも無えじゃねえか」
「まあ身体能力はさすが魔人、といったところでしたが、戦闘に関しては素人もいいところでしたね」
最初の攻防で、こいつらが戦いの素人だということが分かった。後は一撃を貰わないように丁寧に攻めて、無傷でこいつらの魔核を破壊することに成功した。
「くっ......下等種風情が......オルコスは、何をやって......」
それだけ言うと、魔人の兄弟は塵となって消えた。そういやあったときもオルコスがどうとか言ってたな。
そうか、オルコスが月下に冒険者を集めていたのはこの時の為だったのかもしれないな。
どうせ月下に集めた冒険者達を洗脳でもして、魔物の防衛をしている俺たちを後ろから挟撃でもするつもりだったのだろう。奇しくも俺たちは、その二面作戦をたまたま潰した結果になった訳か。
あたりを見渡してみれば、指揮系統を失った魔物達は、転々バラバラに逃げ出そうとしている。わざわざ追撃する必要は無いだろう。一先ずこれで、今回の防衛は終了したわけだ。
「流石はアサギ殿。お見事と云わざるを得ないな」
「いや、思ったより敵がしょぼかっただけだ。あれならフラムでも楽勝だったな」
「マジかよ」
そういや最近フラムがマジ、というフレーズを多用するようになってきた。完全に俺の口癖が移ってるな。
「んじゃあささっと残党を殲滅して帰るとするか。早く風呂に入りたいぜー」
フラムは完全に終了モードだ。確かに俺も皆も全身血まみれだ。早く風呂に入りたい......って、この感じは!
一瞬にして、辺りの空気が変わった。別に音が無くなった訳でも無いのに、戦場の騒音が聞こえなくなった。
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには先ほどまで無かった人影が二つ。
探知なんて使わなくても分かる! こいつらはヤバイ!
「ふむ。どうやら計画は破綻してしまったようだねぇ。実に美しくない光景だねぇ」
奇術師の様な衣装に身を包んだ男と、黒い鎧で全身を覆った男が、そこに立っていた。
第二章も佳境です。次の投稿は明日夕方予定です。
わずか数行で退場してしまった兄弟魔人、ぶっちゃけ名前すら考えていません笑




