16 彼らが風呂で見たものは
ずっと書きたかったお風呂回。いてもたっても居られず深夜の投稿です。
今回ギルドホームを再建するに当たって、俺が唯一つけた注文がある。ベルケーアのトキワにも、前までのギルドホームにも無かったもの。
風呂だ。
「うぉー......やっぱり風呂は最高だな。命の洗濯とはよく言ったものだ......」
木でできた巨大な浴槽に、並々とお湯が張られている。スーパー銭湯の風呂一つ分くらいの大きさの浴槽が二つ並び、湯気を蓄えている。
「おっと、なかなか熱いな。うおぉ、これはなかなか......悪くないな、風呂と言うものも」
風呂は初めてだと言う十兵衛も満足しているようだ。湯船のヘリに腕を掛けてくつろぐ様子は、どうみてもヤクザにしか見えない。墨が入ってないのが不思議なくらいだ。
「それにしてもこのような巨大な浴槽、王侯貴族くらいしか入ることなど無いのでは無いでしょうか。それをギルドの風呂場にしてしまうなんて......」
そう恐縮しながら風呂に入ってきたのはヴァイスだ。ちなみにここは男湯、もちろん女湯と男湯は分けてある。あっちの仕切りの向こうが女湯になっているはずだ。
「まあそんな硬いことは良いじゃねえか。かーっ! こんなでけえ風呂に毎日タダで入れるなんてうらやましいぜー!」
なぜかギルドメンバーじゃないのにしれっと風呂に居るギルバート。最近ずっとこちらのギルドに入り浸っている気がするな。
「それで?女湯はどっちだ?」
おっと、一番最初に言い出したのはギルバートだったか。かく言う俺も、誰かが言い出すのを待ってたみたいな節があるからな。
「あっちだ。行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
なんだよヴァイス。今更良い子ぶっても遅いぜ。止められたって俺達は止まらんよ。
「僕も行きます」
話が分かるじゃないか。
十兵衛は興味が無い様で、湯船に座りながらこちらを咎める様な目で見ているが、止めるつもりは無いようだ。
俺の掴んだ情報では、今風呂に居るのはカブ子、ミア、トゥール、エアリスさん、クラリス、フラムの七人だ。
まずは壁に耳を当てて、様子を伺っていく。
「うわー。すげえ! でけえ!」
おっと、相変わらず語彙力の足りてねえこのこの感じはフラムか。お子様には興味が無い。次だ。
あれ、冷静に考えたら全員お子様体型じゃないか?もしこれで俺達が覗きをしたことがばれたらまたロリコン扱いされるんじゃ......
そう考えると、急激にやる気が失われてきた。
おっと、ヴァイスが更に壁に近づいた。こいつまさかそっちの人間だったのか!?
「うわっエアリス! なんでタオルを巻いてないんですか!」
これはミアの声か。
「いえ、別に隠すようなものでは無いので......」
「いえ、まあそうですが......それにしても、貴方着やせするタイプだったんですね」
なんと、エアリスさん隠れ巨乳説浮上か!
そんな会話を聞き、更に壁に耳を押し付け始めたのはギルバートだ。
(おい、あれアンタの友達の嫁だろうが!)
(だからいいんじゃねえかよ。エアリスは俺らの世代の冒険者の中で一番人気だったんだぜ。それがあんな強面野郎に取られちまってよぉ、くー!)
悔しそうに拳を握るギルバート。こいつも大概だな。
「フラム、浴槽で泳ぐのはマナー違反です。それとミア、タオルは浴槽に入れないように」
なんかマナーにうるさい奴が一人いるな、カブ子か。
(それで? アサギはどの娘が本命なんだ?)
(あ? 別にそんなんねえよ)
(嘘こけ! あんな美少女達と旅をしててそんな訳ねえだろうが!)
(そうですよ! ハーレムじゃないですか! 男の夢ですよ! あ、でもフラムちゃんは駄目ですよ。彼女は僕らのアイドルなんですから)
うるさい黙ってろロリコン!
(あーもう我慢できねえ! 上るぞ!)
マジかこいつ! 遂に実行しやがった。イマイチ乗り気じゃないが、乗りかかった船だ。俺も最後まで見届けなくては。
三人で、風呂の隅に積んであった風呂桶をピラミッド状に並べていく。即席の階段。漫画とかじゃあ使い古された手だが、まさか自分でやるときが来るとは思ってなかったな。
よし。これで三人分のスペースが確保できた。
(行くぞ!)
(おう!)
(了解!)
桶の山を崩さないよう慎重に上る、そして遂に、俺達は山の頂上にたどり着き、まだ見ぬ景色をその目に収めた!
「あ゛らぁ? みんなしてどうしたのかしらぁ? まさかアタシの事を覗きに来てくれたのかしらぁ?」
見えてきたのは、筋肉隆々のオカマ。爆裂混沌破壊姫ジェニーがあられもない姿でストレッチをしていた。
勢いよく覗き込んだせいで、見えてはいけないものがバッチリ見えてしまった。その後のことは、よく覚えていない。後で聞いた話では、俺達三人は風呂で気絶して十兵衛に運ばれて来たそうだ。
sideカブ子
「おや、男湯の方で何か大きな音がしましたね」
「何かあったんでしょうか?」
ミアさんのいうように、男湯で何かがあったのでしょうか。まあ男湯と女湯の間にはジェニーさんとその同士専用のオカマ湯なるものがあるらしいので、間違っても覗きなどは起きないでしょうが。
マスターはその場のノリで覗きに加担するどころか、率先してやりそうです。おおよそジェニーさんを覗いてしまい卒倒したとかではないでしょうか。
それにしても、大きなお風呂は気持ちが良いですね。これまではあまりお風呂に入ることはできず、水浴びで済ますことが多かったので新鮮です。
「カブ子さんってスタイル良いですよね~」
鼻先から上だけを水面に出したミアさんがそろそろと寄ってきました。そうでしょうかね。個人的にはもっとメリハリの効いた体つきにしたかったのですが、なぜかこのような絶壁ボディになってしまった事が悔やまれます。
「いえ、ミアさん......は......いえ、何でも無いです」
「なんでそんな可哀想なものを見る目をするんですか! わ、私はエルフですから、成長が遅いのも仕方が無いんです!」
「いえ、エンシェントエルフ様も私達エルフと同じように20歳くらいまでは人と同じように成長しますから......守人様は......いえ、何でも無いです」
「そこまで言ったら最後まで言ったのも同じでしょうが! ええ、どうせ私は発育が悪いですよ!」
そういいながら立ち上がるミアさん。まあ、好みは人それぞれですから。
おっと、立ち上がったことで色々見えてはいけない部分が丸見えですよ。
「何ですか? カブ子さん?」
「いえ、そこはそうなっているんだなあと」
「ひっ!」
急いで身体を隠して湯の中に沈んでいきましたね。
さて、そろそろあがりましょうか。湯上りにはやはり冷たく冷やしたビールが欲しいですね。
その後、彼らは記憶をなくした状態で発見されたのであった......