15 ギルドが完成しました
建設開始から二十日ほどが経過した。その間何をしていたかといえば、実はほとんど何もしていないと言っていい。
確かに、何度か魔物の襲来はあった。しかし俺は最初の一回しか参加していない。
まあ簡単に言うと、またしてもノリで大魔法ぶっ放して魔物を蹴散らし、他のギルドのみならず巨人の弓のギルドメンバーからも大顰蹙を買ってしまったのだ。今回は流石に反省した。
という訳で、ウチのギルドからは十兵衛とカブ子、それから新規加入の冒険者達が今日も防衛に参加している。よっぽどやばい群れが来ない限り俺は参加しないで良いそうだ。
あの魔物を蹴散らした時の十兵衛の寂しそうな顔が忘れられない。奴も戦いたかったのだろう。本当に反省した。
それからフラムも防衛に参加するようになった。あいつも俺との訓練でだいぶ戦えるようになったからな。とはいえ不安なので、カブ子にフォローは頼んであるが。
「建物もほとんど完成してきましたねー」
「ああ、早ければ明日にでも宿を引き払えるな」
今日は工事自体は行われていない。大多数の冒険者は防衛の方に向かっているからな。ちなみにミアも防衛の方には参加していない。何でも面倒だからだそうだ。
「おっきいですねー。お城みたいです!」
トゥールは何が楽しいのか、俺が建築現場に向かうときは必ずついてくる。
確かにでかい。ちょっと調子に乗りすぎた感が否めない。
俺達の目の前に立とうとしているのは、正に馬鹿でかい城だ。1階には商店が入る予定なので、大きく開けた造りになり、二階までが吹き抜けになっている。俺の知らない間に二階には飲食店が多数入ることになっていた。
なんだか本当に大型ショッピングモールみたいになってきたな。
巨人の弓のギルドホームになるのは三階から上、3、4、5階だ。五階建ての建物なんてこの世界に来て初めて見たぞ。ギルバートの奴気合入りすぎだろ。
とまあそんな感じで暇を潰しながらギルドホームの完成を待つこと更に二日。ついに建物が完成した。暇すぎて宿の一部屋がトーテムポールまみれになってしまった。
「おおアサギ! 来たか! やけに早かったな。それにしても、その鉄の塊は一体なんだ?」
宿屋でゆっくりしていたところ、建物が完成したと言う報告が入ったので、いち早く駆けつけるためにカブ子に乗ってギルドホームまで来た。道中かなり奇異の目で見られたが気にしないでおこう。
「これはカブ子だ」
俺がカブ子から降りると、例のごとく安っぽい光に包まれて、いつもの人型カブ子が姿を現す。
「うおっ!? こりゃ一体どうなってるんだ?」
面倒なのでカブ子の固有技能だと言うことにしておいた。というか冷静になるとパーティーの女性メンバーを足にしてるって考えると鬼畜だな、アサギ=ミシマ。
目の前を見てみれば、一昨日来た時とは違い、外壁に色が付き、入り口には巨人の弓を現す弓のエンブレムが掛かっている。
「それにしてもたかだか一ヶ月弱でよくこれだけのモノを作り上げたもんだ」
「ああ、それに関しちゃ俺も同意見だ。つってもこれはジェニーが居てこそって所もあるんだけどな」
「はあ? あのオカマが何だって?」
「ああ、あいつは土魔法のスペシャリストなんだよ。あいつが一日で土台を作り上げちまったからな。それにあの化け物は一人で10人分仕事をこなすからな。あいつ一人で工程が10日は縮まったぜ」
まじかよ。出来るオカマ、ラブリーエンジェル=ジェニー。恐ろしいオカマだ。後で礼を言っとこう。
「ちなみにあいつの冒険者時代の二つ名は爆裂混沌破壊姫だ。完全にゲテモノだが本人は姫扱いされて喜んでいた」
まじかよ。二つ名なのにめちゃくちゃ呼びづらいな。
現在、三階部分のギルドホールに巨人の弓のメンバーがまるっと全員集まっている。思えばしっかりとした顔合わせはこれが初めてだな。
壇上にはエアリスが立ち、冒険者やその他の面々が期待の表情でそっちを見ている。まずはギルドマスターの挨拶、という流れのはずだったのだが、エアリスさんがクラリスに全てをぶん投げて姿を晦ましたため、嫌がるクラリスを引きずってきてここに立たせている。
「み、皆さんこんにちは! 巨人の弓の副ギルドマスターのクラリスでひゅ!」
沈黙。壮大に噛んだな。
だがさすが我らが巨人の弓メンバー。誰一人として噛んだクラリスを笑わない。唯一人を除いて。
「ぶっ。し、しっかり噛みやがった。たっはははは、あー腹痛い、マジかよ」
すまない。俺だけ笑いを堪えられなかった。だって皆大爆笑すると思ったんだもの。
隣ではクラリスが顔を真っ赤にしながら此方を睨んでいる。悪かったって。いや本当に。
「さすがマスター。空気を読まずに壇上での羞恥プレイの強要。素晴らしいドSっぷりです」
お前は俺をどこへ向かわせたいんだ。というかここはフォローしてくれよ。
「いや、すまない。続けてくれ」
「もう、アサギさんは......えーと、ようやく我が巨人の弓のギルドホームが完成しました。これからはここが皆さんの家になります。これから皆で、このギルドを盛り立てて行きましょう!」
クラリスの演説を、まばらな拍手が迎える。
「普通だったな」
「普通だな」
「普通でしたね」
上から俺、フラム、ミアの辛辣な評価がクラリスに突き刺さる。
「普通で悪かったですね! 台本も作ってないのに気の利いたことなんて言えるわけないじゃないですか」
「まあそう怒るなって。良い演説だったぞ、無難な」
「だ・か・ら! 最後の一言で何で煽るんですか!」
だってほら、クラリスっていじって面白くなるタイプだし。おっと、今度は俺の番だな。
俺が壇上へ上がると、気を利かせたトゥールが拡声の魔法を使ってくれる。ちなみにクラリスは一生懸命声を張っていた。
「あー。俺がアサギ、アサギ=ミシマだ。大体皆知っていると思うが、よろしく頼む。今日は俺が料理を作らせて貰った。皆思う存分飲んで騒いでくれ、以上」
駄目だ、クラリスのことバカにできねえ。
「普通でしたね」
「ひでえな」
「普通だな」
ちなみに上からクラリス、フラム、十兵衛だ。十兵衛にも言われてしまった。
「クラスの委員長を押し付けられたコミュ障の演説みたいでしたね」
うるさいよカブ子。もうほっといてくれ。
そんなこんなでぐだぐだな始まり方をした宴会も、それなりに盛り上がっている。先ほどからひっきりなしに俺の元にはギルドメンバーが訪れている。
中でも一番俺に感謝を伝えてくるのは月下に捕まっていた女性陣だ。彼女体はよっぽど酷い扱いを受けていたようで、口々に俺に感謝を述べていった。
「それにしても、なんか俺の方にばっか人が集まってきてるな」
「そりゃもちろん。このギルドにこれだけ沢山の人が集まっているのはアサギさんが原因ですから」
まあそりゃそうか......ってミアか。びっくりしたわ。
独り言に返事が返って来た時ほどびっくりする瞬間は無いと思う。
「そういやお前が飯を前にがっついてないのは珍しいな」
「いえ、ある程度はもういただきましたよ。ただ私は気づいてしまったのです。あの品々はアサギさんの本気料理では無いと」
「まあ確かに量を作ることを優先したからな」
「私のおなかはアサギさんの愛のこもった本気料理に慣れてしまったのようで、愛を少ししか感じない今日の料理はほどほどでやめて置くことにしました」
何を言ってるんだこいつは。毎日の暴食で頭に変な影響でも出てきたのか?
「そ、その可哀想な人を見る目は辞めて下さいよ。まあ今までキチンとした食事を取れていない人たちも沢山居るようなのであまり食べ過ぎるのは遠慮しただけです。もちろん美味しかったですよ」
あ、そうなんだ。なんだ、ミアも意外としっかり考えているんだな。
「という訳で夜中にお腹が減りそうなので何か夜食を作って欲しいなーなんて」
ちょっと見直した俺の気持ちを返して欲しいわ。やっぱりこいつは欠食エルフだな。
次は、ずっとやりたかったお風呂会です。




