14 出会いのケミストリー
ちょっと短め。早くもアサギさんがアレに出会います
トンテンカン、と木槌を叩く音が響き渡る。
あれから三日、巨人の弓ギルドホーム増設計画は、思ったより順調に進んでいる。周囲の建物は全て取り崩され、広がる空き地には既に土台が組みあがり、足場は既に完成している。
幸いにして、ここらは商店が立ち並ぶちょっとした商店街だったので、立ち退き交渉はスムーズにいった。
というのも、彼らには新しく完成するこのギルドホームの一階を、商店部分として提供すると約束してあるのだ。完成予想図としては、一階に商店街が入っている共同住宅だろうか。
「アサギ殿!」
「おおヴァイスか。どうした?」
何より建設が予定より早く進んでいる要因として、冒険者達が建設を手伝ってくれているというのがでかい。新しく巨人の弓に加入する冒険者達はもちろん、ギルバートの巨人の槌のメンバーや、同じく月下に苦しんでいたギルドの皆さんも協力してくれている。
「いや、森の精霊というギルドというエルフを主体にしているギルドがあるのだが、そこの代表者達が守人様に合わせて欲しいと言ってきているのだが...なんの事か分かるだろうか?」
守人様?ああ、ミアの事か。
「それならミアの事だな。今買いだしに行っているからもう少し後に来てくれと伝えてくれ。」
「ああ、了解した。」
そのまま駆け出していくヴァイス。あいつあんな老け顔で喋り方もジジ臭いのに俺より年下の19歳なんだよな。人は見かけじゃ分かんないな。
それにしても、こうしていると自分が冒険者じゃなくて工事現場の監督なんじゃないかって気がしてくるな。実際の現場監督は別に居るんだけど。
「おーい、アサギー。」
そうこう言っていたら本物の現場監督が来たな。
ドスドスと音を立てながら駆け寄ってくる男。そうギルバートだ。
この男、巨人の弓のギルドホームを立て直すことをどこからか嗅ぎ付けたのか、その日のうちにやってきて自分が建築全般を取り仕切ると申し出てきた。
どうやら巨人の槌というギルドは、所属する冒険者の半分以上が技術職のメンバーらしく、建築も取り扱っているようだ。
「おう、お疲れ。進捗はどんなもんだ?」
「ああ、今日中に足場は組みあがって建設に入れそうだ。それにしても、冒険者がタダで使えるってのは良いな。あいつらは足場から落ちたところでかすり傷で済むからな。安全に気を使わなくていい分早く作業が進むぜ。」
確かにそれはこちらの世界の利点かもな。
「それにしてもとんでもない規模のギルドホームだな。完成すればこの街で最大のギルドホームになるぜ。」
「まあなんか知らんがやたら人数が集まっちまってな。まあ金も有り余ってるしいいだろう。」
「違げえねえ。」
「それにしても、あそこに強烈な奴が居るんだが...」
先ほどから俺の視界に強烈な人物がちらちら入ってくるんだよな。遠めに見ても分かる。女物の服を身にまとったマッチョが、木材を片手に飛び回っているのが。
「ああ、あいつはジェニーって奴でな。昔エヴァンス達と一緒に冒険者やっていた奴だ。最近はここらで服屋の経営をやってるって聞いたな。」
へー、あのエヴァさんの昔の仲間か...っと目が合った。うわ、ウィンクしてきた。
ジェニーは俺と目が会うと、その手に持っていた木材を地面に置き、物凄いスピードでこちらに向かってきた。それにしても強烈な格好してるな。チューブトップにホットパンツとか。日本のTVに出てるオネエ連中もここまで奇抜な格好している人なんて...いるにはいるか。
「あらあ?ギルじゃないのー。おひさー。」
掛け声と共に、またバチンと音が出るようなウィンク。その人差し指を振るのをやめろ、見たことある。
「相変わらずすげえ格好してるな。それにしてもどうしてお前がここにいるんだ?」
「クラリスちゃんから聞いたのよー。アタシのお店も月下には度々嫌がらせを受けていたからねえ。お手伝いしちゃおうかなってね。」
そしてまたバチコンウィンク。キャラが濃すぎるぞこの世界。
「あら?あらあらあら!アナタがアサギちゃんねえ?アタシはジェニー。ラブリーエンジェル=ジェニーよお。よろしく末永くお願いねえ。」
ツッコミどころが多すぎて処理しきれねえ。とりあえず芸名だって事だけは分かった。
「あ、ああ。アサギ=ミシマだ。よろしく頼む。」
「それにしても、ミアちゃん達から聞いてた通りのイケメンじゃなーい。しかも食べごろの推定21歳。んー!いいわねえ。」
やばいマジで突っ込みきれない。推定21歳ってなんだ?エスパーか!つうかこいつあれだ。ガチの奴だ!
「あ、ああ。ミアの事は知ってるんだな。」
「えー。この間アタシの店に服を買いに来てくれたのよー。どうだった?可愛かったでしょう?ぺろりとイきたくなったでしょう?」
あいつに余計なこと吹き込んだのはお前か!つうか近い近い近い!顔を近づけるな!
「それじゃあ、アタシはお手伝いに戻るわねー。アサギちゃんも良かったら今度ウチの店に来てちょうだい。ビッシリコーデしてあげるわぁ。隅から隅までねえ。」
そういうと、またもや猛スピードで元の場所に戻っていった。何でだか戦場から生き残ったかのような達成感があるな。
「気をつけろよ。あいつに食われて変わっちまった冒険者達を俺は何人も見てきたからな。」
疲れたようなギルバートのアドバイスも、俺の尻をひやりとさせた。