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13 突然巨大ギルドになりました

本日2話目の投稿です

「おらぁっ!!」


 鉄の塊をぶつけ合う音が、ギルド巨人の弓の裏庭に響く。少女の両の手の短剣から放たれる刺突が、男の首元を狙うが、体捌きであっさりと回避され、男の回し蹴りを受ける。


「だー!ちくしょう!マジでどうなってんだアンタの反射神経。」


「てめえの攻撃が真っ直ぐすぎるんだよ。そんなんで俺に当たるわけねえだろ。」


 現在俺ことアサギは、フラムを一端の冒険者にするために訓練をしている。本人も戦うことは嫌いじゃないようで、そこそこ楽しそうに訓練を受けている。


 あの魔族との戦いから二日。ようやく出所してきた俺は、巨人の弓のギルドホームに帰ってきていた。まあ帰って来たときにはミアに思いっきりアイアンクローをかましてやった。本来紙巻煙草に出会えたので俺を嵌めたことはチャラにしてやろうと思っていたのだが、なぜかセーラー服を着て俺の腕にまとわりつき、上目遣いで謝ってきたのを見て無性にイラっとしたからだ。


「しゃー、もう一本!」


 それにしても、フラムの筋は悪くない。出会った時から分かっていたが、その体捌きのセンスは一級品だ。先ほどの俺の回し蹴りも、自ら吹っ飛ぶことでその威力を最小限に留め、しっかり二本足で着地していた。


 現状フラムは、その身軽さと素早さを生かして、短剣の二刀流をメインの戦闘スタイルにしている。それとなくトンファーも勧めてみたのだが、「え、ダサいじゃん。」と一蹴された。解せぬ。


「アサギさーん。そろそろ朝ごはんにしませんかー?」


 隣で見ていたミアから声がかかる。確かにもうそんな時間ではあるのだが、こいつから言われるとどうしてもミアの腹が減っているだけのような気がするな。


「よし、フラム。最後の一本な。」


「よっしゃ、行くぜ!」












「だーちくしょう!一本も当たんなかったぜ!」


「フラムちゃん、口に物を入れて喋るのは行儀が悪いですよ。」


 というミアも口に物を入れて喋っているけどな。


「んで、何でヴィーラがここにいるんだよ。」


 巨人の弓のメンバーは、全員そろって朝ごはんを取る。まあこの間までは机が足らなかったが、誰かがどこからか調達してきたようだ。手狭ではあるが、これはこれでいいか。


 とまあ何時もどおり、一階に集まって皆で朝食を取っていたのだが、何故だかヴィーラがしれっと一緒に朝食を取っている。


「いえ、月下の件でいろいろと報告に来たのですが、丁度朝食の時間だったようなのでご相伴にあずかりましょうかと。」


 こいつ。絶対この時間を見計らって来たよな。だってまだ朝の7時だぞ。役所仕事にしても早すぎるだろうが。






「それでは、お話させていただきましょう。先日の件ですが、月下は構成員の不祥事の数々が発覚、結果として解散が妥当、ということになりました。」


「まあそりゃそうだろうな。つってもギルドマスターが不在で責任を取る人間が居ないってのは面倒だな。」


「ええ。月下ギルドマスター、オルコス=リーディアが魔族だった事は私自ら確認しています。月下は解散し、その資産が差し押さえとなりました。今回の功労者である巨人の弓に対しては、迷惑料等々として、月下の資産の半分が与えられることになりました。」


「し、資産の半分!?」


 おっと、クラリスが食いついたな。


「計上された月下の資産は、土地、建物あわせて約金貨6400枚に成りました。よってその半分、金貨3200枚が巨人の弓の取り分となります。」


 金貨一枚が大体5万くらいだから...大体一億六千万円か。


 いきなり舞い込んできた大金の話に、クラリスが目を回している。今まで貧乏生活をしてきたクラリスは、どうやら桁の違う金額が入ってくることを処理できなかったようだ。


「それでですが、現金でのお支払いか、それとも現物、この場合土地と建物でのお支払いか。どちらにいたしましょうか?」


 あー、あの馬鹿でかい屋敷を貰うって言う選択も出来るのか。とはいえクラリスが守りたかったのは巨人の弓のギルドであると同時に、この場所でもあるんだよな。


「おーい、クラリス。戻って来い。」


 揺さぶってみるが、一向に大金ショックから帰ってこないクラリス。チョップをかまして無理やり戻そうかとも思ったが、振りかぶった瞬間にミアが「うわぁ...」みたいな顔をしたので辞めた。


「エアリスさん、どうする?」


 この件に関しては俺達に丸投げしていたエアリスさんだが、クラリスが戻ってこない以上ギルマスに判断を投げるしか無い。


「現金で良いのではないでしょうか?」


「んじゃ現金で。」


「それでは現金でお支払いさせていただく方向で進めさせていただきますね。物品の処分等もありますので、少し日にちを頂くことになりますがご了承下さい。」


 そこまでを矢継ぎ早に済ますと、直ぐに席を立つヴィーラ。マジでこいつ飯を食ったら後は用はねえといわんばかりだな。


「あ、それと、本日から来客が増えると思いますので、アサギ氏とエアリス氏、並びにクラリス氏はあまり外出しないようにお願いしますね。」


 なんか意味深な言葉を残して帰っていったヴィーラ。つうかあいつ、人のこと氏づけで呼ぶのかよ。












 ヴィーラの言葉どうり、その日の昼過ぎに来客があった。


 コンコン、とギルドのドアが鳴り、来客を告げる。はいはいと出迎え、ドアを開けた先に立っていたのは、見たことの無い男女の三人組みと、複数の子供達だ。


「すまない。アサギ=ミシマという冒険者はここにいるだろうか。」


 先頭に立っている男は、どうやら俺を探しているようだ。


「アサギなら俺だが、何の様だ?」


 そう言うと、突然男達はその場に跪き、頭を下げ始めた。おい一体どうした!?


「貴殿がアサギ殿か。貴殿感謝を。本当にありがとう。」


 涙を流し、頭を垂れる彼ら。事情が全く掴めない。一向に頭を上げない彼らをどうにか立たせ、ギルドの中に入れる。一緒についてきた子供達も同様だ。




「すまない、路上で取り乱してしまった。先ずは自己紹介を。私の名前はヴァイス。この二人はヨシュアとケイ。私達は元月下の冒険者だ。」


 話を聞いてみると、彼らは先日の襲撃には参加していなかった冒険者らしい。そういやヴィーラがなんか言ってたな。


 先日、俺達のギルドを襲撃した冒険者達は、その全てがオルコスに心酔した冒険者達だったらしい。オルコスは、ああいった夜襲等には必ず自分に忠誠を誓った冒険者、手駒だけを使っていたらしい。


 今ここにいる彼らは、無理やり月下へと引きずりこまれた冒険者達だ。


「アタシ達は、ここにいる子供達を人質に取られ、無理やり月下の冒険者としてこき使われていたんだ。」


「俺達は元々皆同じギルドの出身でな。そこのギルドマスターは孤児院の経営もしていて、俺達は皆そこで育ったんだ。」


 そう話す、ケイとヨシュア。


 どうやら、半年ほど前オルコスが月下のギルドマスターになった頃、突然孤児院の経営が悪化したそうだ。時を同じくして、ギルドマスターが病死。その時手を差し伸べてきたのがオルコスだった様だ。


「私達は、オルコスの手を取ってしまった。それからは、まるで地獄のような毎日だった。」


 オルコスは、そのまま彼らのギルドを吸収し、彼らは冒険者として、子供達は奴隷としてこき使われるようになった。劣悪な環境で、碌に給金も出されないまま、最前線で盾代わり、囮代わりとして使い潰されたようだ。


「今考えば、あの時経営が悪化したのも、オルコスの手によるものだったのかもしれない。ギルマスが死んだのも、もしかしたら...」


 まあ十中八九、オルコスの呪いだろうな。


「このまま使い潰されて、死んでいくのだろうと思った。そんな中、突然ギルドが解散したという報が王国の監査官によってもたらされた。よく聞いてみると、アサギ=ミシマという冒険者が、魔族であったオルコスを倒し、月下を壊滅させたというではないか。」


 それだけ聞くと、まるでヒーローだな、アサギ=ミシマ。


「しかも、行き場の無い者達を巨人の弓で引き取るという話を聞いた。正に貴殿は我らの救世主、神の使いだ。」


 ん?なんか話の方向がおかしくなってきたぞ?


「アサギさん、そんな事言ったんですか?」

 

 ちょっと待て......あー、あれか。


「言ったわ。牢屋の中でケインズとガリルと飲んでるときにヴィーラが来て、ノリで言ったわ。」


「なんで捕まってる人間が宴会することになるのか甚だ疑問ですねー。」


 まあ色々あってな。


「という訳だ、クラリス、なんかこいつら引き取ることになっちゃったから、よろしく。」


「え?何がどうなっているのかさっぱり...」


 説明はミアに丸投げし、ヴァイスとの話に戻る。


「まあという訳で、お前らを引き取ることに関しては問題は無いんだが、如何せんここはこんな感じの一軒屋だ。お前達を住まわせてやる場所が無い。つー訳で暫くは元月下のギルドホームで生活してくれ。生活費は出すから。」


「本当に、良いのか?」


「ああ、金はあるし人はどれだけ居ても良い。それに子供ならもう大量に抱えているからな、今更増えた所で問題ない。」


 問題なくは無いけれど、ここは見栄を張って大物面しておこう。


「ありがとう...本当にありがとう......」


 だから泣くなって。






 とりあえずヴァイス達を帰した後も、同じような冒険者達が続々と訪れた。その中で、帰るギルドが有る者はそのまま古巣に返し、帰るギルドの無い者は巨人の弓で引き取ることになった。


 とりあえずヴィーラを呼び出し、こちらの受け入れ準備が出来るまで、それらの冒険者達が元月下のギルドホームで生活できるように許可を取った。


 その際に、月下の連中がスラム等から浚ってきた女子供が行き場を無くして困っているという話を聞いたので、毒を食らわば皿までと、纏めて巨人の弓で引き取ることにした。


 そんな訳で、巨人の弓は一日にして巨大ギルドへと変貌したのである。以下がその内訳だ。


・冒険者 67人

・スラム等から浚われて来た女性達 17人

・同様に浚われて来た子供達 39人


 合計113人が増加した。元々居た俺達を含めても120人に上る巨大ギルドになってしまった訳だ。とにかく住まわせる場所が無いが、金なら腐るほどある。先ずはギルドホームの増設かな。

次回は明日更新予定です。明日の投稿とその後3話の閑話(多分お菓子作りの話とお風呂回)を挟んで第2章のクライマックスの話へと向かって行きます。

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