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12 囚われのアサギとショッピングする女性陣

 あの深夜の激闘から、約半日が経過した。


 あの後、ヴィーラが連れてきた王国の憲兵達によって、襲撃に参加していた月下の冒険者達は悉くが捕縛され、牢に入る事になった。彼らは冒険者資格を剥奪の上、数年は牢に入ることになるのだという。


 かくいう俺が今どこにいるのかというと、俺もまた、牢に入っていた。





「おいヴィーラ!何で俺まで牢屋に入れられてるんだよ!」


 昨日の深夜、冒険者達を牢に連れて行くのに同行して欲しいと言われた俺は、ヴィーラに連れられて、街の中心付近にある王国の管理する建物へと来ていた。


 ここで待っていて欲しい、といい通されたのは地下にある一室。少しおかしいと思いながらも入ってみると、後ろから聞こえてきたのはガチャリという鍵を掛ける音。


「アサギさん。今だから言えることですが、実は防衛時の魔法攻撃に許可無く参加するのは立派な禁止行為なのです。罰則は一日の禁固刑なので大人しくそこでゆっくりしていてください。」


「はあ?んな事聞いてねえぞ!つうかお前も作戦聞いただろうが!何でその時言わなかったんだよ!」


 作戦決行前にヴィーラには今回の作戦について全てを知らせた。その中には防衛時に好き放題やって月下の連中を煽ることも含まれていた筈だ。


「ええ、ですがミアさんにお伝えした所、「全て計画したアサギさんの責任にして押し付けちゃいましょう。」ということでしたので。」


 あのクソロリエルフが.....帰ったら覚えてろよ。









 ぞぞぞ、っと背筋を撫でるような悪寒がしました。恐らくアサギさんが今頃激怒しているのでしょうか。


 だって仕方が無いじゃないですか、私だってアレが犯罪行為になるだなんてのを知ったのは城壁に行く直前だったんですから。


 まあ深く考えるのはよしましょう、アサギさんには、帰ってきたときに誠心誠意謝りましょう。少し上目使いで見上げるといいと、先ほどカブ子さんが言っていたので、試してみるとしましょうか。


 それにしても、あの激闘から一晩。あんなことがあったとは思えないほど街はいつもどうり平穏ですね。現在私とカブ子さんは、クラリスとフラムちゃんを連れて、お買い物に出てきています。


「それにしてもよー。アサギはすげーよな。アタシと会ってたった一日ちょっとだぜ。あんな思いつき見たいな作戦で月下の奴らを簡単に蹴散らしちまうんだもんなー。」


「ええ、とても驚きました。こんなにあっさりと巨人の弓が救われてしまうだなんて。月下も解散して、十兵衛さんという強力な冒険者も加入して...これは本当に色仕掛けでもして残ってもらうことも考えた方が良いのでしょうか...?」


 確かに、アサギさんは難しいことを簡単にやってのけているように見えますね。そのほとんどが思いつきと勢いでやっている感じは否めませんが。


「実際勢いでやっていますからね。そのノリだけでやったことが何でだか上手く行ってしまう。そういう星の下に生まれてきた方ですから。」


 カブ子さんはそういいますが、あの咄嗟の思い付きを現実味のある行動に変えてしまうのが、アサギさんの才能なのでしょうか。






「それにしても、本当にこんな所に服屋なんてあるんですか?完全に通りからは外れてしまっていますが...」


 そう今日の目的は、フラムちゃんの服を買うことなんです。幸いお金は沢山ありますからね。


「ええ、ここに知り合いの冒険者が開いた店があるんです。なんでも店主が認めた人にしか服を売りたくないとかで、通りではなくこの場所に店を構えたらしいですよ。」


 クラリスの知り合いですか。それなら安心してよさそうですね。


 それから一本小道を抜けると、目の前にはその店と思しき建物が目に入って来ました。


「ジェニーのラブリーファッションショップ...ですか...」


 訂正します。全く安心できません。







 店の中に入ってみると、概観から受けた衝撃とは裏腹に、中は簡素なたたずまいでした。それにしても...


「本当にここは服屋なんですか?見たところ服の類は一着も見当たらないんですが。」


 見たところ、カウンターがあるだけの簡素な店内です。とても何かを取り扱っているお店には見えませんね。


 そんな店内を見て、挙動不審に陥っていた私の前に、さらなる衝撃が襲い掛かってきたのです。


「あらぁ?お客さんかしらぁ?」


 絶句。店の置くから現れた店主であろう人間は、あろう事かチューブトップにホットパンツといういでたちで私達の前に現れたのです。


 これが綺麗なお姉さんとかなら良かったでしょう。しかしこの店主、どう見てもマッチョなおじさんです。


「お久しぶりです、ジェニーさん。」


 そんな半裸マッチョの化け物に、普通に挨拶をしていくクラリス。カブ子さんもフラムちゃんもさほど動揺していないようです。この状況に衝撃を受けているのが私だけ、ということに眩暈がしてきました。


 いや、フラムちゃんは違うようです。白目を剥いて気絶しています。


「あらぁ?クラリスじゃ無いの。おひさー。」

 

 裏声で「おひさー。」と身体をくねらせながらこちらへ向かってくるジェニーさん。ぶっちゃけ早くもここから逃げ出したい気持ちで一杯です。


「あらあらあら!可愛い娘がこんなに沢山!これはお姉さんも張り切っちゃうわよー。アタシはジェニー。ここの店主のラブリーエンジェル=ジェニーよぉ。よろしくねぇ。」


 バチコン!と音が出そうなほど強烈なウィンクです。もはやどこから突っ込めば良いのか分かりません。助けてくださいアサギさん。


「どうも、カブ子と申します。」


 なんで普通に挨拶しちゃってるんですかカブ子さん!この人ツッコミする責任を放り投げやがりました!


 と、ともかく私も自己紹介です。


「み、ミアといいます。こちらの子はフラムちゃんです。」


「カブ子ちゃんにミアちゃん、フラムちゃんねえ。フラムちゃんは人見知りなのかしら?さっきから一言も喋らないわねぇ。」


 いえ、アナタの見た目に衝撃を受けて気絶しているだけです。








 私の人生の中で、トップに躍り出るほどの衝撃的な出会いでした。ともかく強烈なジェニーさんでしたが、そのファッションセンスは素晴らしく、私達を見ただけでそれぞれに似合う服を見繕ってくれました。


 カブ子さんは、出来る女風のパンツスタイル。キッチリとした襟付きのシャツニ、群青色のカーディガンがよく似合っています。手首に巻かれたリボンがアクセントになっていますね。


 気絶していたフラムちゃんも、衝撃から立ち直ると瞬く間に着替えさせられていました。チューブトップにジーンズ素材のポットパンツ。丈の短い長袖のパーカーと腰に巻かれたポーチが、活発な彼女によく似合っています。


 私のこれは...なんでしょうか?今までに見たことの無い服ですね。チェック柄のスカートに、襟付きのシャツ。首下のリボンが可愛いですね。


「こ...これは...!?」


 なぜだかカブ子さんが戦慄しています。何かあったのでしょうか?


「あら、アナタこの服を知っているのかしら?」


「ええ、これはセーラー服。圧倒的戦闘力を誇る地球の最終兵器(リーサルウエポン)です。まさか、こんなところで...」


 うええ!?なんでそんな物騒な響きの服を着せられてるんですか私は!


「まあ実際はただの制服ですが。それにしても褐色エルフにセーラー服とは...これはなかなかどうしてすばらしい破壊力です。」


「これは過去の勇者が着ていた服なのよお。なんでもジョシコーセイとかいうジョブの人は皆この服を着ているらしいわあ。」


 カブ子さんが何を言っているのかは全く分かりませんが、なるほど、勇者の装備なのですね。






「そういえば、クラリスは新しい服は買わないのですか?今ならアサギさんの財布からお金が出てきますよ。」


「え、いえ。私はもう沢山服はありますので...それにしても良いんですか?勝手にアサギさんのお金を使ってしまって?」


「問題ないでしょう。マスターはお金に関しては無頓着です。恐らく今自分

が幾ら持っているのかも把握して無いでしょうし。」


 アサギさんも自由に使って良いと言っていましたしね。それじゃあ服も変えたことですし、今日はアサギさんが帰ってこないので、エアリスと十兵衛さんや子供達を誘ってパーッと外食にでも行きましょうか。














 ミア達が楽しんでいる間。当のアサギはといえば、牢の中で退屈をもてあましていた。


「それにしても納得いかねぇ...」


「まあまあ、仕方ないじゃない。ヴィーラちゃんも監査官として誰かが牢に入ってくれないと示しがつかないんだからさ。」


「まあ話し相手を用意してくれたのはありがたいけどよ...」


 今現在俺が会話している相手は、この街に来たときに門で出会ったケインズだ。今俺が入っている牢屋はごくごく軽犯罪を犯した者用の牢屋で、通常見張り等はついていないらしいが、ヴィーラが気を使って話し相手を用意してくれた。


「それにしても、アサギ君は凄いね。この街に来てたった一週間で、魔族から街を救っちゃった訳だから。」


「いやまあたまたまだけどな。オルコスが魔族だなんてことは全然知らなかったし、ただかかる火の粉をはらっただけなんだよな。」


 それでも、いろんな懸念が一気に無くなったのは気持ちの良いことだ。これからは月下のことを気にせずに防衛に参加できるし、エアリスさんの呪いもオルコスが犯人だったことが分かったしな。


「それにしても暇だな。つうか煙草が吸いたいわ。」


「煙草か...ちょっと待っててね。」


 そういうと、よっこいしょ、とおっさん臭い掛け声を上げて立ち上がると、どこかへと出かけていくケインズ。


「うい、しょっと。」


 簡素なベットの上に丸められていた毛布を広げ、その上に横になる。硬いベットだが、まあ地べたに寝かされるよりはマシか。


 それにしても、なんだかどこへ行っても騒動に巻き込まれている気がするな。そういう星の下って言やカッコイイけども巻き込まれ体質って言うと途端にかっこ悪くなるよな。


 そんな愚にもつかない考え事をしていると、ケインズが何かを片手に帰ってきた。手に持っているのは、木箱...か?


「いやー、待たせたね。ほら、僕らが出会った時にいた髭面の男が居ただろう?そのガリルが煙草を吸ってるのを思い出してね。まあ彼曰く珍しいタイプの煙草だから口に合うかどうか分からないけど、少し貰ってきたよ。」


 やばいケインズが良い奴過ぎて泣ける。


 ケインズから手渡された木箱を開けてみると、そこには懐かしいものが入っていた。


「紙巻...紙巻煙草だ...」


 涙が出そうだ。紙巻煙草。日本で煙草を吸っている人間のほとんどはこの紙巻煙草だ。流石にフィルターはついていないが、それでも、こいつに出会えた事を神に感謝したい。


「そ、そこまで感動することなのかい...?」


 ケインズが軽く引いている。


「まるで、生き別れた実の兄弟と二十年ぶりに再会したかのような気分だ...」


「え...?」


 ケインズがドン引きしている。


 そうはいっても、ここで出会えた軌跡に感謝したい。まさか人生で、牢屋に入ってよかったと思う日が来るとは思ってなかったな。

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