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6 鴨鍋の調べ

土曜の更新ですが盲腸で入院することになって出来ませんでした。

ですが入院中にストックがたまったのでしばらく毎日更新しようと思います。

 憎憎しげにこちらを睨んでいた月下の連中をスルーして。巨人の弓のギルドに帰ってきた。それにしても当初は様子見の予定だったのに、ついつい参加してしまったな。どうもああいうのを目にすると押さえが利かなくなっていかん。


 トゥールはでかい魔法をぶっ放して満足したようでご機嫌だ。俺の周りを楽しそうにふわふわと飛び回っている。気楽でいいな。


 と、ギルドまで帰ってきたのは良いが、なんだか騒がしいな。


 ギルドの両開きのドアを開けると、中は喧々諤々、大騒ぎといった様子だ。どうやら十兵衛の一行が到着したようだ。


「たでーまー。」


「ただいまですー。」


「アサギさん!どういうことですか!様子見だけだと言っていたじゃないですか!なんでそれが数百単位で殲滅することになってるんですか!?」


 おーおーヒートアップしてるな。というか何でクラリスがもうそのことを知ってるんだ?


 と思って見渡してみると、監査官ヴィーラが既にこちらへ来ているようだ。いやいや、来ている様だ、じゃ無い。俺は真っ直ぐ、しかも屋根伝いに風魔法で飛んできたんだぞ?なんで俺より早く来てるんだよ。まあいいけど。


「むしゃくしゃしてやりました。反省も後悔もしていません。」


「むしゃくしゃ、って。もういいです。」


 もういいのか。クラリスはそれだけ言うと、監察官ヴィーラとなにやら手続きがあるらしく、奥へと引っ込んでしまった。いや、この状況を説明してくれよ。


 辺りを見渡してみれば、子供があちらこちらでうろうろしてる。十兵衛はどこ行った。


「アサギ殿、私ならここだ。」


 二階から十兵衛が降りてきた。そうか、ギルマスのエアリスさんに挨拶していたのか。


「おう、やっときたか。まあ俺たちも今日来たところなんだけどな。」


「今日?何故そんなに時間がかかったのだ。私たちも急いだとはいえ徒歩でここまで来させてもらったのだが。」


「いや、まあいいじゃねえか。そんな事よりも、子供たちとお前の部屋割りは決めたか?」


 三階の三部屋はこいつらに使わせる予定だからな。


「ああ、男部屋と女部屋と私の部屋で分けさせて貰った。私の部屋など要らないと言ったのだが、ミア殿から大黒柱は一部屋使うべきだと言われてな。」


 ミアも良いこと言うじゃねえか。まあその内人数が増えても一部屋余ってるくらいじゃ意味無いからな。


 で、そのミアと言えば、奥のテーブルで突っ伏している。カブ子も椅子で力なくうなだれてるな。


「どうしたお前ら、呪いの治療ってのはそんなに消耗するもんなのか?」


 こちらを見ることさえしないな。そうとう消耗したのだろう。これは労ってやらねば。

 と、たまにはこの二人がしっかりとした所を見せたと思ったのだが...


「お腹が空きました...」


「酒が無くなりました...」


 ああ、やっぱりこいつらはこいつらだわ。




「まあ先ずは飯にするか。クラリス!食料とかってどのくらいある?」


 ヴィーラとの話を終えて戻ってきたクラリスに聞いてみると、どうやら親子二人が食べる分の食料しか残ってないようだ。買出しに行かんといけないな。


 カブ子とミアに頼んで...いや、あれはもう動けそうに無いな。机の上に突っ伏して二人ともピクリともしない。ただの屍の様だ。


「ウィーッス。アサギー!居るか?遊びに来たぞー。」


 また人が増えたな。今度は誰だ?


 ドアから入ってきたのは例の鎧男ことギルバート。そういやおっさんと知り合いだって言ってたな。どうりでこの場所を知ってるはずだ。


「どうした?何か用か?」


「おいおいそんな寂しい事言うなよー。俺とお前の仲だろう?」


 どんな仲だ。まだ出会って数時間の仲だぞ。


「まあいいじゃねえか。珠には嬢ちゃんやエアリスの様子でも、って思ってよ。ついでにアサギと酒でも飲もうと思って来たんだわ。ほれ、これ土産なー。」


 ギルバートが手に持ってるのは、酒瓶と...なんだ?やたらでかい鳥のようだ。形的には鴨、が近いか。


「こいつはエスケープバードっつってな。まあ魔物の一種だ。名前の通り逃げ足が速くて狩るのは大変なんだが、これがまた美味いんだわ。たまたま伝手で手に入ってな。どうせだからお前らと食おうと思って持ってきたんだわ。」


 なるほど。そりゃありがたい。この大きさならこの人数が居ても量は足りるだろう。


「それにしても...ずいぶんと賑やかになったな。つーか子供ばっかじゃねえか。いつからここは孤児院になったんだよ。」


 ずいぶんと様変わりした巨人の弓の事情をギルバートに説明し、ついでに十兵衛も紹介しておく。


「それじゃあ俺は料理の準備すっから、クラリス!ちょっと買出し頼めるか?それと十兵衛、お前はクラリスの護衛な。」


 てきぱきと段取りを決め、調理場へと向かう。ギルバートは酒と聞きつけて復活したカブ子と先に飲み始めている。


 全長一メートルはありそうな巨大鳥のエスケープバードを、サクサクと解体していく。でかくても身体の作りは他の鳥とあまり変わらない。骨も中はスカスカだ。これでどうやってこの巨体を支えているのか甚だ疑問だが、まあここはファンタジーだし、の一言で納得しておこう。


 解体を終え、部位ごとにバラしては見た。一切れ焼いて食べてみたが、見た目どうり鴨に近い野趣溢れる味わいだ。それなら鍋にでもするか。


 クラリスに買ってきてもらう食材のメモを渡す。ギルバートとカブ子を見ると結構なペースで飲んでいるようなので、追加の酒も頼んでおく。俺の財布を丸ごと渡すと、クラリスは恐縮していたが、今の俺は魔族討伐の報酬やら何やらで割と金持ちだ、気にするなと言っておく。


 買出し組みが帰ってくるまで、鴨の下処理をして待つ。鴨は日本ではジビエの一種として親しまれている食材だが、牛や豚などと違って臭みが強い。まあ熊や猪ほどではないけどな。


 まずは鶏がらをまとめて煮込み、鴨の鶏がらスープを作る。鴨の臭みを弱めるために残っていたネギを頭ごと入れる。平行して、通常の出汁も仕込んでいくか。幸いギルドの食料庫にはきのこ類と鰹節に似た節類が残っていた。十分だろう。


 買出し組みを待つついでにつまみを何品かそろえておくか。鴨鍋には主に胸肉を使うので、そのほかのささみや手羽を使って簡単なつまみを作る。


 ささみはさっと湯通しして、五ミリ幅で千切りにしていく。ごま油に似た香味油と、しょうゆ、出汁、砂糖をあわせた即席のめんつゆで和える。先にめんつゆと和えないと油に弾かれてささみがつゆを吸わなくなってしまうので注意だな。

 軽く揉みこんで、味がなじんだら円形に盛り付けて中心に卵黄、その上にごまと刻みネギをまぶせば鴨ささみのユッケの完成だ。


 手羽は手羽先と手羽元に分ける。手羽先は皮がパリパリになるまで焼いて、しょうゆ、砂糖、酒、それから唐辛子(こちらも唐辛子に似た食材、森に居る魔物らしい。)で作った甘辛のたれで味付けする。


 手羽元は煮込みだ。醤油、蜂蜜、レモンを加えてことことと煮込む。日本だと鴨は鴨南蛮そばとか鴨鍋が食べられている程度で、日常的に食べる物ではないが、欧米とかだと結構家庭で食べられてたりするらしい。鴨のコンフィとかが有名だな。まあコンフィがどういう意味か知らないけど。


 そんな感じで仕込みを進めていると、強烈な視線を感じる。このギルドのキッチンはオープンカウンターになっているので、ギルドの方から見えるのだ。まあこの視線はミアだな。後ろを見返してみれば、物凄い眼力でこちらを見ている。


(早く食べたい早く早く早く)


 念が伝わってくる。このまま放置しておいても良いのだが、可哀想なので煮込みをさらに盛り付けて出してやる。

 

「おかわり。」


 皿を出して数秒。魔術師の様に皿が空になった。ソースの一滴もついていない。皿の上には肉のひとかけらもついていない綺麗な骨が数本残されているだけだ。


 その光景に唖然とする。そんな俺に構いもせずミアはおかわりをよこせと言う視線をひたすらに投げてくる。もうしゃべれよ。







 そんなこんなで、クラリスと十兵衛も帰ってきて食材も揃い、料理の準備も整った。二人は子供たちも買い出しにつれてったようで、男の子たちは荷物もちをしたようだ。


 というか監査官ヴィーラがまだ居るな。というかカブ子とギルバートと一緒になって酒盛りをしてる。あんた仕事はどうした。


「本日の業務はここで終了ですので。」


 ああ、さいで。


「そういやミア、頼んでたアレはできてるのか?」


「もちろんです、これをご覧下さい!」


 ミアの差し出してきたのは二つの大きな土鍋。鴨鍋はやっぱり土鍋じゃないとな。ミアには先に飯を与える代わりに土魔法で土鍋を作ってもらった。ディティールはカブ子んから伝えてもらったので形もばっちりだ。


 土鍋を最初に使う才は、目止めといってひび割れなどを防止するために、片栗粉を使ったり、おかゆを炊いたりしなきゃいけないのだが、今回の土鍋は土魔法で作ってある。土さえあれば直ぐに作れるので使い捨てだ。魔法様様だな。


「よーしお前ら、出来たぞー。席に着けー。」


 熱々の土鍋を、机へと運ぶ。子供が十人に、俺、ミア、カブ子、クラリス、ギルバート、十兵衛、ヴィーラの全部で十八人。一応多人数が使うことを想定してあるギルドホールとはいえ、かなり手狭だな。エアリスさんは呪いの治療で消耗して今は眠っているらしく、今回は不参加だ。あとで何か消化に良いものでも作ろう。


「こっちが普通の鴨鍋、こっちがすき焼きだな。食材はまだまだあるからどんどん食べて良いぞ。」


 個人的には鴨のすき焼きが好きだ。今回は割り下に赤ワインを使ったので少し洋風の味付けになっている。


 毎回恒例のいただきますの説明も忘れない。ここは譲れない。


「「「いただきます!」」」


 我先にと鍋へと手を伸ばしていく面々。俺も鴨鍋を堪能するとしよう。鴨鍋の具は白菜に長ネギ、きのこ類。どれも良い具合に火が通っている。息を吹きかけて熱を冷まし、それでも熱々の具を口に入れる。


「うん、良い味だ。」


 自画自賛にはなるが良い出来だ。くたっとした白菜は、合わせ出しと鴨の出汁を吸い、芳醇な味わい。鴨から出た油が鍋にコクと甘みを与えている。


 周りを見てみれば、皆鍋に心を奪われている。少年少女よ、泣くな。


「なんという優しい味わいだ。アサギ殿は料理も達者なのだな...」


 十兵衛も満足のようだ。


「マスター。この小鉢は何ですか?」


「ああ、それは右から柚子胡椒、山椒味噌、柚子ぽんだ。お好みで味を変えて楽しんでくれ。」


 さっそくどいつも薬味の小鉢に手を出してるな。


「この柚子胡椒ってやつは良いな。さっぱりした風味にぴりりとアクセントが効いてる。こりゃ酒が進むぜ。」


「山椒味噌も味ががらりと変わって良いですね。」


 と言うのはギルバートとクラリス。どうやら口にあったようだ。


 子供達と争うように鍋を食べてるのはミアだな。おかわりはあるって言ったのに、あいかわらず食い意地の張り方が一級品だ。


 ヴィーラは黙々と鍋、酒、鍋、酒と食べ、飲んでいる。意外とこいつも満腹キャラだったのか。

 


 何回追加で食材を投入したのか分からないが、食材も残り少なくなってきたな。子供達とミアは、何も無理して食べなくても、という勢いで食べていたが、子供達はもう満腹の様だ。そこまで体格の変わらないミアが未だに変わらないペースで食べているのはもはや異常な光景だな。


「そういえばアサギさん。何で討伐に参加することにしたんですか?今日は様子見だって言ってたじゃないですか。」


「いやー。俺もそのつもりだったんだが、月下の連中を見て気が変わってな。ちょっと嫌な事思い出してむしゃくしゃしたから全部掻っ攫ってやろうと思って。」


「嫌な事...ですか?」


 ネットゲームの事だ。


「いやまあ、何でもないさ。」


「それにしてもアサギの魔法はすげーなあおい。月下の連中のあの唖然とした面よ!嬢ちゃんにも見せてやりたかったぜ。」


「まあアレは俺というかトゥールがすげえだけなんだけどな。」


 今日はトゥールが大活躍だったな。それにしてもあそこまでの魔法が使えるとか、流石は精霊、魔法に特化した種族だ。人間に処理できる様な魔法じゃ無かった。


「それにしても月下の連中には困ったもんだぜ。おかげでウチの稼ぎも減る一方だわ。」


「ギルバートのところも引き抜きが来たのか?」


 巨人の槌、だったか。


「いや、ウチは生産系の職人が主体だからな。職人を引き抜いても月下には工房が無えから引き抜きはこなかったぜ。とはいえ討伐であそこまで占有されちゃあ戦闘系の稼ぎがな。」


「確かに、健全な状況であるとは言いがたいですね。」


「ヴィーラか。監査官としても今の状況はよろしく思えないって訳か。」


「ええ、一つのギルドに力が集中していると言うことは、街の防衛をそのギルドに頼っているということです。ましてやギルドは王国の下についているわけではないですから、もし反乱などされればこの街はひとたまりもありません。」


 そうだよな。一見平和なこの街も、月下の動き次第ではどうなるかわかんないんだよな。


「話は変わるが、アサギ、お前の獲物なんだが、ちょっと見せてもらってもいいか?」


「ああ、別に構わないが。」


 二階の俺の部屋においてあるトンファーを持ってきて、ギルバートに渡す。こいつに何の用だ?


「ああ、やっぱりな。これはエヴァが作ったもんだろう?」


「そうだが、何で分かったんだ?」


 ぱっと見ただの鉄の棒だぞこんなもん。


「いやー昔からあいつはこういうのが得意でよ。ただの土くれから鉄の武器をささっと作る土魔法ってやつがな。あいつの作ったモンは無骨で飾り気なんて欠片も無いが、硬さだけは普通に作った鉄を遥かに越えている。持ってみりゃ分かる。普通の鉄よりも何倍も重いからな。」


 確かにこのトンファーめちゃくちゃ重いんだよな。


「あいつの冒険者時代のふたつ名は知ってるか?」


「ああ、ギルドで聞いた事がある。たしか爆砕、だったか?物騒な名前だよな。」


「あいつとは昔パーティーを組んでたんだけどよ、とある任務のときに魔物の大量発生に出くわしてな。生き残るために必死に戦ってる途中にあいつの獲物が根元からぽっきり逝っちまってな。俺も大怪我で動けなかったし、エアリスも魔力切れでああ、こりゃ死んだなと思ったわけだ。そんな時あいつがあの土魔法で地面から馬鹿でかい鉄棒を取り出して暴れ初めてな。地面を爆発させるように叩きつけては魔物を倒し、ってのを繰り返した訳だ。それを駆けつけてきた他の冒険者が見ていたらしくてな。そっからあいつは爆砕、なんて呼ばれるようになった訳よ。」


 へー。あのおっさんにそんな所があったなんてな。というかギルバートっておっさんとエアリスさんとパーティー組んでたのか。


「話は戻すけどよ。そりゃあいつが即席で作ったもんだろう?作りは無骨だし使いづらいだろう、ウチにくりゃあ手直ししてやるぜ。有料でな。」


「なんだよ、結局はセールスの話かよ。」


「まあ友達価格で安くしとくぜ。まあ気が向いたらウチのギルドまで来てくれや。」


 まあ、気が向いたらな。




  

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