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2 変幻協奏曲

第二話です。

「おい、この世界のオークは喋るのか?」


「いや、そんな事は聞いたことありません!」


 そうはいっても目の前のオークは喋ってるしな。


「すまないが、私の話を聞いてもらってもよいだろうか。」


「ああ、すまんな。所でお前さんはオークで間違い無いんだよな?」


 ただの豚顔の人間って線は...いやなさそうだけども。


「ああ、私はオークで間違いない。なんの因果か、こうして人の言葉を扱うようになったただのオークだ。」


 オークなのにその辺の人間より紳士的な喋り方をするな。こいつが村から子供を攫ってるとは到底思えないが...


「それで、話ってのはなんだ?俺たちは一応子供が攫われているという村から頼まれてお前さんの討伐に来たんだが、どうもアンタがそんな悪い魔物には見えない。訳を聞かせてもらえるんだろうか?」


「ちょ、ちょっとアサギさん!?相手はオーク、魔物ですよ?どうしてそんな冷静に話なんてしてるんですか?」


「いやだって普通に話が通じるし、俺的にはコイツの方があの村の連中より信用できそうな気がするし。」


「気がするって...」


「まあ、マスターはこういう方ですから。」


 カブ子の言葉に隣でミアが肩を落としているのが見える。


「相談は終わっただろうか、すまないがついて来てもらっていいだろうか?」


 言うなり洞窟の中へと戻っていくオーク。俺もそれに倣いついていく。まあ流石に不用意だとは思うが、まあ最悪戦闘になっても数の上ではこちらが有利だ。さらに狭い洞窟という俺たちに有利な場所でわざわざ襲い掛かってくるとは思えない。


 洞窟の中は、意外にも生活感が漂っている。木を切って作ったであろう机と椅子。ぼんやりと辺りを照らしているのはたいまつの明かりだ。


 その机の前まで歩いていったオークは、椅子を引き、俺たちに座るように促した。なんか細かいところまで紳士っぽいな。ミアが戸惑ってるのが機から見て分かる。


「すまないな。小汚いところですまないが掛けてくれ。」


「ああ、悪いな。」


 俺に続いて、ミア、カブ子も腰掛ける。トゥールは相変わらず俺の胸ポケットの中だ。


「それで、子供達の無事だけ確認させて貰いたいんだが。」


「ああ、そうだな。まず信用してもらうにはそこからだな。」


 そこでオークは手をたたき、洞窟のさらに奥へと声をかけた。


「皆、出てきてくれ。この人たちは大丈夫だ!」


 その声を合図に、洞窟の奥の扉が開き、子供たちがぞろぞろと姿を現す。ざっと十人くらいか。どの子も薄汚れているが、傷はなさそうだな。


「この子達は、あの村で奴隷の様に扱われていた。君たちも見ただろう?あの村では子供たちに畑を耕させ、大人たちは日々を怠惰に暮らしている。」


 それで昼間なのにやけに外に出ている人間が少なかった訳か。


「私がこちらの森に来たのは数ヶ月前のことでな。そのときに村の様子を少し伺ったのだが、その様子はひどい物だった。子供達は痩せこけ、棒のような体で必死に畑を耕していたよ。」


「そんな...」


 ミアが息を呑む。道理であいつらからはいい感じがしなかった訳だ。


「ある日、一人の子供が村から逃げ出してな。とはいっても碌に体力も残っておらず、村の直ぐ近くで倒れていた。それをたまたま保護して話を聞いてな。」


「それで、アンタは村から子供たちを攫って...いや救出してたって訳か。」


「ああ、そういうことになる。彼らを村に戻しても、またあの奴隷のような生活に戻るだけだ、どうにか見逃して欲しいというのが私の話だ。」


 なるほどな。なんだこいつめっちゃ言い奴じゃねえか。


「二つほど聞きたい事があるんだが。」


「ああ、何でも答えよう。」


「ここに何度か冒険者が来たはずだが、そいつらにはこの話をしたのか?」


「いや、彼らは私を見るなり攻撃してきた。まあたいしたレベルではなかったので追い払っておいたが。いや今回は驚いたよ。君たちの様な強者がやって来るなど予想もつかなかった。」


「見ただけで分かるものなのか?」


「ああ、これでも剣の腕には自身があってな。特に君は立ち振る舞いにあまりに隙が無さ過ぎる。たとえ一体一だろうとも君に攻撃を当てるイメージが全く出来なかった。」


 そこまで差があるようには思えないが...まあたしかに俺は人間との戦闘経験が少ない分そういうのは不得手なんだよな。


「なるほどな。それで二つ目なんだが、この後どうするつもりだ?このまま洞窟にこもっているわけにはいかないだろう?」


「いや、すまない。今後の事は目処もついていない。他の街につれて行こうにも私はオークだ。門前払いどころか直ぐに討伐されてしまうだろう。それで子供たちが保護されればいいが、運が悪ければそのまま本当に奴隷行きだ。一応裏に簡単な畑があるし、狩りの知識もあるので食べていくことは出来るのだが...」


 劣悪、とまではいかないが、ここはそこまで人が生きていくのに準じた環境じゃないもんな。それにしてもこのオーク、頭が回る。実に面白い。そういえば、蒼真に貰ったやつが丁度よく使えそうだ。こいつにやるのも一興だな。


 えーとあれはどこに入れたんだったか...そうだ、バイト着に包んでバッグの底だ。


 ごそごそと探し物をしだした俺をいぶかしむ面々、どうやらカブ子は俺の意図に気づいた用で、やれやれとアメリカ人ばりの大げさなジャスチャーをしている。


「それなら、これをやる。」


 バイト着ごと取り出してオークに手渡す。縞々の布を丁寧に受け取り、中身を慎重に確認するオーク。中を見たとたん表情が変わったな。表情の分かり辛いオークだが、分厚い肉に覆われた両の目が見開かれたのが分かる。


「これは...技能核(スキル・オーブ)か!」


「おお、知ってんのか。これは変幻自在(メタモルフォーゼ)って技能が入ってるらしい。どうせ俺が持ってても使わないし、お前にやるよ。」


 ぶっちゃけ持ってたことすら忘れてたしな。


「そんな...こんな高価な物を貰うわけには...」


「いいからとっとけって。」


 高価つっても売るわけにもいかんし持ってても使わないからな。


「何故、初めて会った魔物風情に...」


 やたら恐縮してるオークだ。理由なんて一つしかないだろうに。


「そんなの俺がお前を気に入ったからに決まっているだろう。」


「な...!?」


 目を見開き驚くオーク。何を驚いているんだか。誰かに何かをする理由なんて気に入ったか面白いか位しかないだろうに。


「まあマスターはこういう方なので、諦めて受け取ったほうが良いですよ。」


 衝撃からか硬直しているオークだったが、やがて諦めたように手を出し、俺の差し出したオーブを受け取った。


「かたじけない、ええと、名前を伺ってもよろしいだろうか?」


「ああ、名乗って無かったな。俺はアサギだ。こっちの黒髪がカブ子、こっちの幼女がミア、この精霊がトゥールだ。」


 幼女扱いしたことで、ミアが抗議の目を向けてくる。いやだって見た目は完全に幼女じゃんか。


「アサギ殿...か。この恩義は決して忘れない。感謝する。」


 恩義...ねえ...なんか武士みたいな奴だな。




 とにかく先ずはこの技能核って奴を使ってみることにした。蒼真いわく飲み込めば良いらしいな。


「という訳で、一気に飲み込んでしまえ。」


「ああ。」


 オークは口に技能核を飲み込む。俺にとっては手のひら大のオーブだが、身体の大きなオークにとってはちょっとした飴玉程度の大きさだ。


「これは...ふむ。これが固有技能というやつか。少し使ってみようか。」


 オークが少し力を入れると、カブ子が変身するときのような光がオークを包み込む。相変わらずの安っぽい演出が終わると、そこには人間と変わらない姿形のオークが立っていた...のだが...


「豚顔だな。」


「豚顔ですね。」


「ほぼオークです。」


 俺、ミア、カブ子の順に呟く。一応人間の顔なのだが、限りなく豚顔だ。悪徳商人にしか見えない。右目の傷跡は消えないようで、いかにも悪役といった雰囲気が拭えない。


「ふむ、なるべく人間の整った容姿をイメージしてみたのだが...」


「いや、人間基準だと限りなく不細工だな。」


「そうか、イマイチ人間の美醜の基準が分からなくてな。」


 別に豚顔でもいいっちゃいいのだが。いやちょっと待てよ。こいつはこれから町に行く訳だ。子供を養うために冒険者になるのが一番簡単な選択肢だろうな。


 こいつは単機で冒険者を簡単に追い返すような実力者だ。直ぐにその力を示し名を上げるだろう。その新進気鋭の冒険者が豚顔ってのはとても面白くないな。うん面白くない。


 という訳で、俺とミアで指示を出しつつオークの顔を整えていく。


「まず鼻がよくねえな。もっとこうシャープな感じで。」


「ふむ。こういう感じか?」


「あーそうそうそんな感じ。」


「アゴのラインがよくないですね。」


 二人であーだこーだ良いながら改造していく。カブ子は興味が無いようで、どこから取り出したのか隅っこでちびちび酒を飲んでいる。トゥールは子供たちと遊んでいるようだ。


「そうそう、んで髭をこうアゴのラインに沿ってだな...」


 悪ノリを含めつつ、ミアと二人でどんどん指示を出していく。ずいぶん良い感じになってきた。


 結果的には、ハリウッド俳優、それもかなり濃い形の俳優に近くなった。というかほぼラ○ボーだ。仕上げに、オークっぽい肥満体系を、がっちり筋肉質の体に変えて、完成だな。 


「おお、これはかなり良いんじゃないか?」


「ええ、会心の出来ですね。」


 俺たち二人の指導班は、満足げにオークを見る。これなら町に行っても大丈夫だろう。この見た目なら子供をつれていても変なのに絡まれることも無い。若干職質されそうな雰囲気だけども。




「それで、アサギ殿はこれからどうするのだ?」


「あー、俺たちはマルセルっていう町に向かうつもりだ。ちょっと用事があってな。そうだ、お前も向かうと良い。城塞都市っていう名前だけあって魔物の襲撃が絶えないらしいから、冒険者になれば仕事にあぶれる事はないと思う。」


「ふむ、そうか。ならば私もそこへ向かうとしよう。子供たちに説明するのと、旅立ちの準備があるから私たちは後から向かわせてもらうとしよう。」


 まあ俺たちはカブ子がいるから移動速度は速い。先に向かわせてもらうとしよう。


「それで、だな。すまないがもう一つ頼みごとをしたいのだが...」


 申し訳なさそうなオーク。


「なんだ?」


「私に名前をつけて欲しいのだ。」


 また名づけターンか。なんか名無しの面白そうな奴に出会う確立が高いな。

アサギは基本的にノリと勢いだけで行動していますね。

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